two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

コートが「速い」「遅い」って何?~サーフェスの本当の「違い」

こんにちは。

昨日のコメントで読者のまめのきさんが面白い質問をしてくださったので、今日はこの内容で書いていきたいと思います。

昨日コメントにも書きましたが舌足らずだったので説明すると、ファイナル、デ杯が終わればテニス界は1か月程度のオフシーズンに入ります。

他のスポーツについてもあれば更新していこうとは思いますが、まあ1か月の休息を補うネタとしては圧倒的に不足しているのも事実です。そこでその間は来シーズンからテニスを本格的に観戦する人に、知っておいて損はない知識や考え方を説明していく企画でやっていきたいと思います。

今日はその企画に入りそうな内容、コートサーフェスの速さの話です。

テニス観戦を始めた初期の人は「クレーが遅い、ハードが速い、芝がその中間」といったような言葉を聞いたことがあるかもしれません。※コメント欄での指摘の結果、芝>ハード>クレーのほうが主流のようです。訂正します。

確かに1文で説明するには適当な言葉ですが、本当に詳しく考えると誤っている部分は多々あります。

そもそもなぜ「速いコート」「遅いコート」が存在するのでしょうか?

ここからは物理の時間です。文系の方にもわかりやすいようには書いたつもりです。

事例では分かりやすいのでサーブの話で進めていますが、基本的にはストロークでも一緒の話です。

試合でよくサーブの球速が出ますよね。ラオニッチは最近230kmも出てて、もはや引きます(笑)

ではその230kmは何の数字でしょうか?

これは「初速」です。打ち出した瞬間の速さです。

ところがテニスはツーバウンドするまでがテニス。そのボールスピードは刻々と変わっていきます。つまりリターナーは230kmのボールをもろに受けているのではありません。

打ち出されたボールは万有引力に従って落ちていきますが、加えて空気抵抗の力が働きます。この地球にいる限り必ず働く2つの力しかありませんから、230kmとスピードガンで表示されるサーブを同じ向きに正確に打てば、どのサーフェスで打ってもバウンド前までは全く同じ軌道を生み出します。

そしてもう一つこう考えましょう、バウンドした後のボールの速さと向きが決まってしまえば、それはサーブの打ち出しと全く同じように条件を設定したことになるので、バウンドした後のボールは必ず同じ軌道を生み出します。

すると同じサーブを打っても速度と軌道が変わる理由はここしかありません。バウンドです。

バウンドする間しかボールは地面と接触しないのですから、当たり前と言われれば当たり前です。空中にいる間は万有引力と空気抵抗という決まった力しか働きません。

ではバウンドでスピードが変わる理由は?と聞かれるとこれは専門用語で申し訳ないのですが、「反発係数」が答えになります。

反発係数とは、物体がものに当たった時どれだけ速さを残せるかという数字で、0から1までの値を取ります。

分かりやすい例としては私はトランポリンを挙げます。トランポリンは(まあ若干体のばねを利用してますが)跳躍中は何も力を入れなくてもある程度跳ね続けられています。これが反発係数1に近い、速さを保存している状態です。

逆に砂浜でボールを落としてみましょう。ごくわずかに1~2回跳ねるか、下手をすればそのまま地面にくっついちゃうでしょう。

これが反発係数0に近い状態、速さを保存しない状態です。

さあここまでを理解したうえで次はコートの性質です。

テニスコートには以下のようなコートがあります。

ハードコート

芝コート(グラス)

クレーコート

これは地面を何が覆っているかによる大別です。

ハードコートはコンクリートのような硬い材質で覆われたコート、芝コートは言うまでもなく(普通は)天然芝が生えているコート、クレーコートは土で覆われているコート。ちなみに日本でよく見る芝コートは砂入りなので、グラスコートと分類してオムニコートと呼ばれています。

さて一口に土だのコンクリートだの言ってもそれだけで反発係数は決まりませんよね。それでは今日の結論です。

結局、コートの速さを決めるのはバウンドの性質で、それはコートの地面の材質によって大きく決まってくる。

決してクレーだから遅いというわけでもなく、ハードだから速いというわけでもないんですね。名前で決めているのではないんです。

もちろんクレーの一番速いコートとハードの一番遅いコートならハードの遅いコートのほうが相対的には速いです。

ですが選手側もクレー、ハード、グラスコートだと意識してプレーをするので、その中でも遅い速いの感じ方の差はあるようです。

ちなみにハードコートと一口にまとめますがこのようにメーカーさんが作っているのでわずかに材質などが違ってきます。

・リバウンドエース(旧全豪オープン

・デコターフ(有明コロシアム全米オープン

・プレキシペイブ(メンフィス)

これによっても少しずつバウンド後の軌道が違ったりするようです。いわゆる「高速ハード」「低速ハード」が生まれる原因の一つです。

さて最後に面白い話題から。芝コートは毎年生育や芝の種類で地面の状況が変わってくるので、こんなおもしろいことが起きるという動画です。

動画タイトル・なせフェデラーは2008年ウィンブルドン決勝で負けたか

同じような軌道で126マイル(約203km/h)のサーブを打ったフェデラー。ところが2003年と2008年では9マイル(約15km/h)も違う。これによってフェデラーのサーブが拾っていくスタイルのナダルに拾われた、フェデラー得意のサーブからの組み立てができなかったと言いたいようです。

こんなように同じコートであってもその時の状況によって速さは変わってきます。

最後に補足ですが、この文章の説明はコートの速さの違いの原因はコートでのバウンドによるものと説明しました。

これが感覚的に一番分かってもらいやすいからです。ですがなぜコートごとに反発係数が変わってしまうのか、例えばクレーで反発係数が異常に高いコートは作れないのかなどを聞かれても私は材料力学の専門家ではないので分かりません。日常の事例でほらこうなってるじゃんくらいしか言えません。

あとバウンドを決める要因は反発係数といいましたが、反発係数は正確にはボールとコートサーフェスとの相性によって決まるので、同じコートでも使うボールを変えるとこれもまた微妙に変わってきます。

ATPはいくつかの公認球を認めており、おそらくパリが遅い理由はコートの材質の問題よりはボールなのではと個人的には思っています(根拠はありませんが、HEAD製の問題になっているボールだからということに留めておきます)。

重要なのは決してバウンドのみによって決まっているわけではないということです(本文中で「のみ」といった単語は一切使ってないはずです)。それがあくまで主要な原因になっているということです。

あと文系の方はここから読まなくて結構ですが、理系の方にとってはあいまいにした説明だらけでかえって分かりにくかったと思います。

特にボールのスピン量は結構重要なファクターなので、本来こういうのを議論するのにカットしてはいけない部分だと思います。

しかしそれを説明しようと思うとバウンド時については慣性モーメントやらすべりの速度やら、そもそも空気中の軌道に関しては空気抵抗に関する流体力学といった大学物理を使わないと詳しく説明できないのでここではカットしています。

あと空気抵抗や重力は標高で微妙に変わりますが、それも考慮から外しました。

私的にはマドリードが高速クレーと呼ばれる理由は、マドリードの1000m近い標高によるものと思っています。

それから摩擦の問題や本来速度をボールの進行方向成分と鉛直方向成分に分けて考えたほうがいいのですが、文系の方の混乱を招くのでこれもカットしました。

カットだらけでバウンドの反発係数によって決まることに特化した文章になりましたが、理系の知識がおありの方は各自ご自分の知識とここの補足で補ってください。

さて今日はこの辺で。分かりにくいと思ったら遠慮なく質問してください。