フェデラーを相手に証明すべき「最強の挑戦者」の力(2014ツアーファイナルズ2日目)
「Gentleman Warrior」
また錦織圭が新しい異名を獲得しました。
今回のツアーファイナルズ初出場組で最上位、死のB組にありながら大会前から突破の可能性を十分に見込まれていた錦織圭に公式から「Gentleman Warrior」(紳士の戦士)という単語がよく使われるようになっています。ツイッターのハッシュタグにもなっています。
その錦織、次戦はフェデラーです。
ここで過去4試合を振り返りましょう。いずれも錦織にとって大きな意味のある試合でした。
この前の試合でジョコビッチに勝った錦織。直前の上海では4強に入り日本人最高位を更新したばかりの勢いのある錦織がフェデラーに挑む構図になりました。
当時ジョコビッチが無敵状態であり、フェデラーはややもすると5位陥落もあるような厳しい位置にいました。
相手が手負いだったとはいえジョコビッチを破った錦織、もしかするともしかするのでは?初対戦ならではの期待もありました。
しかし結果は、王者の地元で惨敗。1-6、3-6のスコアはその後4試合を含めても最も差のついた試合でした。
原因はフェデラーではありません。錦織にとってあこがれの存在だったフェデラー。胸を借りる気持ちで挑んでしまい、持ち味を発揮することができませんでした。
この1か月でツォンガ、ベルディヒ、ジョコビッチに勝っていた錦織にとって何もできなかったこの試合は自信の喪失につながりました。
そんな時当時の錦織にアドバイスしたのが今のコーチ、マイケル・チャンです。
「相手をリスペクトしてはいけない、コートに入ったら自分が勝つと思え」
そしてここから錦織は少しずつ地力を上げ、トップ20の常連に位置するようになります。
2013 マドリード 3R 錦織
フェデラーとの2度目の対戦はクレーでの試合。しかし当時のフェデラーは2012年ウィンブルドン優勝などもあって2位。
ところがフェデラーはこの辺りから成績下降期に入り、ご存知の方も多いように昨年はファイナルにギリギリで滑り込む試合となりました。
錦織に地力がついたこと、フェデラーに臆さずに立ち向かえたこと、そしてクレーとの戦いを徐々に身につけつつあったこと…
これらがすべて結実して、憧れのフェデラーから初勝利を得ました。
2014 マイアミ Q 錦織
フェレール戦の3時間越えの死闘を抜けてきた錦織にとってフェデラーはあまりにも脅威でした。
当時のフェデラーはドバイ優勝、インディアンウェルズ準優勝と勢いに乗り、今年のナンバー1争いに向け最高のスタートを切っていた時期でした。
3試合戦いぬいてサービスポイントの失点はわずか18。こんなフェデラーに勝てるとは私も思っていませんでした。
しかし錦織はブレークされながらもあのフェデラーのサーブから複数ブレークに成功し、第2セットの1ブレークダウンから大逆転勝利を収めます。
それまでサーブに何の不安もなかったフェデラーが終盤には焦りを感じるほど、錦織のリターンが冴えまくっていました。
この試合後フェデラーから再び「トップ10に行ける数少ない選手の一人」とお墨付きをいただき、その言葉はわずか2か月後に実現されます。
2014 ハレ S フェデラー
フェデラーから全サーフェスでの勝利という大記録に挑んだ錦織でしたが、ハレのセンターコートのはげた芝、足元を取られるフットワークの難しさ、このような条件ではやはり芝に慣れている王者フェデラーの番でした。
結果的には3-6 6(4)-7と接戦でしたが、それ以上に差を感じる試合でした。
さてこの4試合を踏まえて私はフェデラー対策をこう考えます。
1stサーブ60%以上で、サービスではフリーポイントを毎ゲーム1本必ず作る
これです。実はこの前半部分は松岡修造さんも同じことをおっしゃっています。
錦織ですが、ストロークとリターンに関しては悪くないと思います。マレーの球速はあまりなかったですが、少なくともパリよりはアジャストしている気がします。マイアミでもブレークしてますし、高速クレーのマドリードではブレーク合戦。ですからサービスキープが美しいフェデラーですが、一切ブレークできないということはないと思います。
だからこそ錦織が必要なのがサービスキープです。
ラオニッチ戦、フェデラーは第1セットでリターンポイントの確率が50%です。あのラオニッチが50%しか取れませんでした。
フェデラーに速いだけのサーブは意味がありません。ブロックリターンの名手ですから。ですから錦織としてはプレッシャーのかかる2ndサーブにはできる限り持ち込みたくないです。
マレー戦での嫌なDFもあることですし、悪循環は避けたいです。
だからこそマレー戦でトータル46%しかなかった1stサーブの確率を上げること、ここにつきます。1stさえ入ればマレー戦では71%ポイントにしてるわけですからかなり気持ち良くプレーできるでしょう。
そしてもう一つ重要になってくるのはフリーポイントです。
フリーポイントはサービスエース/リターンが返らない/リターンが甘すぎて100%次で決められる のどれか、サーブのみでポイントが取れるポイントのことを指します。
まともにラリーすると錦織でも厳しい時間帯が出てきます。フェデラーはそれを見逃してくれません。そうならないためにもサーブから押していける展開にしたいですね。
勝率は?と言われたら30%と答えます。それほど今のフェデラーは強敵。ラオニッチを一蹴したあたりやはりファイナルでは優勝6回のこの人なんです。
もしそれでもフェデラーに勝つようなことがあれば…ただの「gentleman warrior」ではないですね。今大会の大番狂わせを起こす主役になるでしょう。
さて前の記事のコメントでラウンドロビン通過条件についての話がありました。
もう一度おさらいしておくと、通過する選手の決め方は
①勝ち星の多い選手
②2人が同点の場合、その直接対決の勝者
③3人が同点の場合
・3試合のセット率 それでも決まらない場合
・3試合のゲーム率
です。さてここでグループBの組み合わせを確認すると
錦織○ マレー×
フェデラー○ ラオニッチ×
錦織? フェデラー?
マレー? ラオニッチ?
となります。
一つみなさんが気になっていることがあるかもと思いました。これだけドル箱の大会ならなぜ先に6日間のラウンドロビンの日程を決めないのか。
そりゃそうですね。初戦の勝者が決まるまで各選手にとっての2試合目の組み合わせが決められないのであれば、2日間しかカード判明後の余裕がありません。
ですがこうすることによって大きなメリットがあります。
もし錦織×ラオニッチと、マレー×フェデラーにしてしまったら、高確率で錦織、フェデラーが勝ちそうですよね。半分の半分の25パーセントより確率が高いです。すると順位がこうなります。
フェデラー 2-0 次錦織
錦織 2-0 次フェデラー
マレー 0-2 次ラオニッチ
ラオニッチ 0-2 次マレー
すると対戦カードを見ると分かる通り、フェデラーと錦織の通過が決定し、マレーラオニッチ戦は完全な消化試合になります。
数万円も払って消化試合を見たくないですよね。この組み合わせだとこういうことが起こりえます。
ですが今日の試合の組み合わせにすることで、100%2勝0敗が1人、1勝2敗が2人、0勝2敗が1人になります。頭で考えてみてください。
するとどうでしょう、2勝0敗の人が次戦1勝1敗の人に当たった場合、例えば第3戦が1勝1敗の人が2人とも勝ち、2勝0敗の人が負ければセット率勝負になるので、2勝0敗の人も手を抜けなくなります。
逆に0勝2敗の人にとって見れば、もし1勝1敗の人との対戦ならその対決に勝って、2勝0敗の人が1勝1敗の人に勝ってくれれば3人が1勝2敗で並び、自分が勝ちあがれる可能性が残ります。
つまり実際の例で考えると、仮に錦織とラオニッチが勝った場合を考えます。
2試合目終了時
錦織 2-0
フェデラー 1-1
ラオニッチ 1-1
マレー 0-2
ところが第3戦のカードから
錦織 2-1 ラオニッチに敗戦
フェデラー 2-1 マレーに勝利
ラオニッチ 2-1 錦織に勝利
マレー 0-3 フェデラーに敗戦
ですから錦織がセット率で敗れる可能性も残っているわけです。
というわけで今日、マレー×ラオニッチ戦まで終わった地点での錦織の通過決定条件は
①錦織がフェデラーに勝つ+マレーがラオニッチに勝つ
これは第2試合を終わった地点でこうなります。
錦織 2-0
フェデラー 1-1
マレー 1-1
ラオニッチ 0-2
ところがです、フェデラーとマレーは直接対決なので二人とも2-1になることはありませんので、錦織の勝敗に関わらず2位以上が確定です(この場合ルールにより1位も確定します)
②錦織がフェデラーに勝つ+ラオニッチがマレーに勝つ(詳細条件あり)
これは
錦織 2-1 ラオニッチに敗戦
フェデラー 2-1 マレーに勝利
ラオニッチ 2-1 錦織に勝利
マレー 0-3 フェデラーに敗戦
このパターンの時にセット率がどうなるかです。
錦織2-0フェデラー ラオニッチ2-0マレーの時、最後にラオニッチとフェデラーがストレート勝ちするとセット率は4/6=66%で並ぶので、これはゲーム率の勝負になりますので決定にはなりません。
錦織2-0フェデラー ラオニッチ2-1マレーの時、ラオニッチがストレート勝ちしても4-3、一方の錦織は4-2になるのでこの場合でも通過決定です。
錦織2-1フェデラーの時は、決定にはなりません(議論省略)
まとめると、今日の試合が終わった地点での錦織の通過条件は
フェデラーに勝ち、マレーが勝つ場合(1位も確定)
フェデラーに2-0で勝ち、ラオニッチが2-1で勝つ場合
のどちらかが成り立てば2位以上が確定します。
さてグループAですが意外な結果になりました。
ベルディヒが絶不調です。なにをやってもだめという感じで、またバブリンカがほとんどミスしてくれなかったのでミス待ちもできず、6-1、6-1でバブリンカが勝ちました。
そしてジョコビッチ×チリッチは、チリッチの強打が精度を欠き、ブレークに成功した第2セット第4ゲーム以外は全く歯が立ちませんでした。こちらも6-1、6-1と大差でした。
この結果ランキングはこうなりました。
1 ジョコビッチ 10210 A 1-0
2 フェデラー 8900 B 1-0
3 ナダル 6835
4 バブリンカ 5095 A 1-0
5 錦織圭 4825 B 1-0
6 マレー 4475 B 0-1
7 ベルディヒ 4465 A 0-1
8 ラオニッチ 4440 B 0-1
9 チリッチ 4150 A 0-1
10 フェレール 4045
6位以下と2勝分の差をつけました。これは大きいです。5位以上キープが現実味を帯びてきました。
一方4位バブリンカとは差が縮まりませんでした。なんとか抜いておきたいところです。
さあ、いよいよ試合が始まります。大番狂わせを起こしに「Gentleman Warrior」が再び出番です。
※眠すぎて更新遅れました。体ボロボロです…