two-set-down新章

two-set-down新章

スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

オフシリーズ・閑話球題 ⑱テニスの「数字」その4 サービスキープをスタッツから考える

こんばんは。

今日は大みそか。2本立てでお送りします。

まずはスタッツのお話の2回目です。

突然ですがテニスは欠陥競技だというジョークめいた話があります。

なぜなら誰も取ることができないサーブを打ち続けることができれば、絶対に負けることがないからです(笑)

考えてみれば分かりますがサービスゲームをブレークされなければタイブレークに持ち込めます。それかグランドスラムのファイナルセットなら無限地獄です。

タイブレークだとしてもサーブポイントは確実に半分ありますので、1ポイントも落とさなければタイブレークを落とすこともありません。

以上よりサービスだけで決まる欠陥競技だ、というジョークです。

現実にはそんなことはあり得ません。屋外ならば風、インドアなら照明や屋根との距離感の影響で同じサーブを再現することは不可能ですし、そもそもばくち打ちすればいつかは当たるでしょう。

しかしそれをリアルな範囲で極限まで突き詰めたのがビッグサーバーという勝ち方、哲学です。

このジョークめいた考えもいざ現実に実行されると非常に厄介です。何せブレークするにはそのサーブの脅威から貯金2(前回参照)を作り出さないといけないからです。

このビッグサーバーの典型がカルロビッチという選手です。

申し訳ありませんが本当にサーブのみです。少しボレーもうまいですがロペスやスタコフスキーといったボレー主戦の選手でもありません。単に身長を生かしてプレッシャーをかけに行っているだけです。

しかしこういった選手でも全盛期近いフェデラーに勝つことができました(08年シンシナティ)。

この試合でのカルロビッチのリターンポイント獲得率は17%。前回示したように30%以下は相当重たいというスタッツの話からも分かる通り、ほとんどポイントが取れていません。しかしタイブレーク2本でフルセットの末、ノーブレークで(重要)フェデラーを破ってしまいました。

こういうことができてしまうとこういう勝ち方のほうが楽なようにも見えますが、現実にはそういう相手でもなんとか1ブレークしちゃえばいいわけです。

では結局ブレークのしやすさってなんなのだろうか?ブレークされないほうがいいのか、ブレークするほうを磨くほうがいいのか?と訳が分からなくなってきます。

そこで今回もてっとり早く確率からいろんな部分を吟味していきましょう。

単純なモデルを考えます。

非常にありえない仮定ですが、選手Aがサービスゲームのすべてのカウントで同じ確率pでポイントが取れるとしましょう。

ここでいうpは0~1の値を取ります。さあ、ここから数学Aの内容の始まりです。

まあ受験生はこんなところ見ていないとは思いますが(笑)センター試験も近いです、頭の体操がてら復習しましょう。pが0.6なら60%、0.7なら70%などという感じです。

さてこの時、Aがサービスゲームを取る確率はいくらでしょうか?

①ラブゲームで取る確率は、p^4です。

②40-15からとる確率は、p^3×(1-p)×4C1×pです。

まず、40-15(Aが3ポイント、相手が1ポイント取る)になる確率はp^3×(1-p)で、これは○○○×、○○×○、○×○○、×○○○の4通り(これをてっとり早く4C1通り)、そのあと最後の決めるポイントでpをかけます。

③40-30から取る確率は、p^3×(1-p)^2×5C2×pです。

④デュースになる確率は、p^3×(1-p)^3×6C3です。

Cは組み合わせのコンビネーションの数のことです。大人の方は昔やりましたよね…

さて、相手がそれぞれのカウントでゲームを取る確率は割愛します。このようにして、簡単な計算でいろんな確率を計算することができます。

すると、p=0.50(50%)では、①で6.25%、②で12.5%、③で15.625%、④は31.25%となります。

デュース後の確率についてはどうすんねんという感じですが、このケースは5割なので、その後取れる確率は④の半分でしょう。

すると①+②+③+(④の取れる部分)=50%となります。

当たり前ですよね。どこでも5割なんだからそれがいくつ重なっても5割です。計算するよりも感覚的に分かるところです。

ところが、です。ここからが面白いところです。

p=0.6(60%)では①=12.96%、②=20.736%、③=20.736%で、④は27.648%、このうち取れる確率は19.14%。なんとゲーム獲得率が約73.6%となってしまいます!!

p=0.7(70%)では①=24.01%、②=28.812%、③=21.609%で、④は18.522%、このうち取れる確率は15.65%、ゲーム獲得率が約90.1%になってしまいます!!!

前回確率は5割に収束する方向に強いと書きましたが、今回は逆です。

少しでもより多くなるほうのファクターに向かうほうがだんだんその可能性が大きくなっていくのです。

では実際のプロ選手はどんなふうにサービスポイントを取っているのか?より具体的に見ていきましょう。

サービススタッツとして私たちに示されるデータとして

A.1stサーブ確率

B.1stサーブが入った時のポイント獲得率(1st serve points won)

C.2ndサーブが入った時のポイント獲得率(2nd serve points won)

があります。場所によったらサービスゲームのポイント獲得率(service game points won)がそのまま出ている場合もあります。

service game points wonが出ている場合はそこからその選手の大体のサービスキープ率を計算することができます。プロ選手だと8~9割の間に収まっています。

仮にservice game points wonがなくても、A~Cの数字を使えば計算することができます。

結局、1stサーブから取ったポイントと2ndサーブから取ったポイントを足し算すればいいので、

service game points won=A×B+(1-A)×C

というのが答えになります。A×Bはわかりますね。1stサーブから得られるポイント獲得率です。1-Aというのは2ndサーブになる確率です。厳密にはダブルフォルトの分を計算しないといけない(Cは「2ndサーブが入った時」ですからね)のですが今回は無視できるものとしましょう。

さてここからは実際に錦織圭のデータを参照してみましょう。

2014年のデータは公式にのっています。

錦織はA=60%、B=73%、C=54%です。

ちなみにBはビッグサーバーで80%を超えてくるくらい、Cはだいたい55%前後であまり差はありません。

ここから計算される錦織のservice game points wonは0.6×0.73+(1-0.6)×0.54=65.4%となり、ここからさっきのモデルを用いて「推定キープ率」を計算すると83.6%、これは実際の錦織のキープ率84%とほぼ一致しています。

また都合のいいデータを…と言われそうですが、これは錦織のようなビッグサーバーでない選手も、カルロビッチのようなビッグサーバーでも適用できます。

実際カルロビッチは2014年のデータで計算すると74.1%のservice game points wonから、「推定キープ率」は94.2%となり、これは実際のキープ率93%とほぼ一致しています。

するとこう考えることもできます。AとBとCの組み合わせを変えることでキープ率を上げることができるということです。

単純にキープ率を上げるには、目先の1ポイントよりもこれらの指標を上げることが大事ということになってきます。

現在錦織がセカンドサーブ改造中と聞いています。ダブルフォルトの減少による単純な増加も望めますが、何よりフェデラーのようにセカンドからも攻撃でき、Cを上げることができれば確率も上がってきます。ちなみにフェデラーのCはトップ50でトップの58%です。

本来セカンドサーブはサーブの優位性がほぼなくなり(若干残りますが)、純粋なラリーで五分の勝負になるのですが、この数字はおかしいですね…

この戦略は間違ってないと思いますが、私自身はAの向上に努めてほしいと思います。

実は錦織の1stサーブ60%はかなり低く、たとえばトップ3はジョコビッチ64%、フェデラー67%、ナダル70%(!!)となっています。

仮にBやCを上げなくともAを60→65%にするだけで、錦織の「推定キープ率」は83.6%から85.1%へと上昇します。

リターンゲーム取得率はツアーでも5指に入ってくる数字(28%)なので、これでキープ率が上がれば鬼に金棒です。

さてキープ率が低くてもこのようにリターンゲーム取得率を上げればいいわけで、結局テニスの勝ち方はサーブから流れを作る人と、リターン、ブレークから流れを作る人に分かれますし、選手はその両方を高めていきます。

しかし一口にA、B、Cを高めるといってもそれは単なる結果を足し合わせた数字にすぎません。

現実的にはこれらを上げるために、サービスキープといってもフェデラーのように2ndで攻めれる人もいれば、とにかくビッグサーブを叩き込む人もおり、ロペスなどのようにボレーに出る人もいる。

リターンゲームのラリーも粘り強いストロークの人から攻撃性のある人まで様々で、結局サーブ、リターンの2つから切り崩すための答えが一通りではないことが分かります。

これこそがテニスが「コート上のチェス」といわれる所以であり、様々なプレースタイルを生む理由になっているのです。

次回はより実践的に確率やいろんなことを考えていきましょう。それでは。