two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

フェレールというベンチマークから見る錦織圭の急速な成長(2015全豪4R)

1/26 現地16:15~(日本時間14:15~)

Grand Slam 2000 Australian Open

4R

[5]Kei Nishikori 6-3 6-3 6-3 [9]David Ferrer

10度目の対戦。もはや恒例となったこのカードは、錦織にとって同一選手との初めての10度目の対戦です(記憶違いがなければ)。

本当は事前専用記事を用意する予定でしたが、外出の準備があったためできませんでした。そこに書くはずだったことを書きます。

フェレールとの過去9回の対戦は錦織にとってすべて意味のあるものでした。

1度目の対戦は08年全米オープンデルレイビーチで優勝して100位台に上がってきた当時の「有望な若手」に過ぎなかった錦織はフェレールに対して2セットを先取。

その後はフェレールに押されるものの第5セットで息を吹き返し、フルセットで勝利。ジェームズ・ブレークに続いてトップ10を撃破し、錦織ここにありを印象付ける、デルレイの優勝がフロックでなかったことを証明する勝利でした。

2度目は2011年楽天OP。ギルバートコーチのテニスが実を結ぼうとしていたこの時期、フェレールに完敗します。

私はこのころは追っかけではなかったのですが、当時は08年のこともありショックな結果だったと聞いています。

3度目は2012年ロンドン五輪。1セット目の完璧なテニスで、2012年全豪8強以来の復活を遂げ、最後は代名詞であるブレークしての「QMK」で試合を決めたゲームでした。

4度目は2013年全豪4回戦。2年連続のベスト8と意気込み、2勝1敗もあっていけるだろうと思っていたのですが、フェレールにいいようにやられ、悔しい敗戦を喫しました。

5度目は2013年マイアミ。またしてもいいようにやられて敗戦。上位シードに勝てない…そんな時期が続きました。

メンフィスの500で勝った後だけにこれも悔しい敗戦でした。

そして、ここから錦織圭の進化が始まります。

2014年は4度の対戦がありました。

6度目は2014年マイアミ。1年前に負けたこの地で行われたのは壮絶な泥試合でした。

お互いにミスを重ね、苦しい状況で迎えたファイナルセットのタイブレーク。何度も「終わった」と思った中、4本のマッチポイントをしのいで錦織が最初のマッチポイントをものにして、ここから「メンタルモンスター」が誕生していきました。

7度目は2014年マドリード。前のロペス戦でトップ10入りを果たした勢いは止まらず、フェレールのホームであるスペイン+クレーという悪条件に加え、自らの体も悲鳴を上げる中、マッチポイントを取り切れなかった第2セットという絶望から再び戻り、3時間近い死闘を制して錦織がマスターズ初の決勝を決めました。

8度目は2014年パリ。勝てばファイナル進出が決まる錦織。勝てば望みをつなぐことができるフェレール

どちらにとっても負けられない戦い。試合のレビューはこちらです。

ミスが重なる中、第2セットのタイブレーク0-4からカムバック。著者に胃痛を引き起こすほどの大熱戦を制し、最後はフェレールの足を止めて体力勝ち。初めてのツアーファイナルズを決める2014年屈指の名勝負でした。

9度目は2014年ファイナル。パリで退けたはずのフェレールがラオニッチの代役として出場。

この時は運命を感じざるを得ませんでした。

フェレールのいきなりの試合を感じさせないファイトに苦しみますが、第3セットで誰もが驚くスーパーゾーンテニスを披露。力の差を見せつけてファイナル準決勝進出を決めました。

その時のレビューはこちらです。

特に2014年はフェレールに対する勝利が必ず大きな意味を持つ勝利となっていますし、負けた試合もターニングポイントとなりうる試合でした。

10度目の対戦、もはやファンとしても恒例のカードになった組み合わせですが、6年半も前から戦い続けるこのカードは錦織にとっての一つのベンチマークの意味合いを持つ相手でした。

特に最初の対戦はまだランクもてんで違う2人の対戦。世界のテニスファンからはいくら注目の若手だからとはいえ、それこそ今大会フェデラーがセッピに負けたような番狂わせの意味合いしか持ちませんでした。

ところが錦織はランキングを上げ、いつしかすぐ目の上のチャレンジャーとして戦うようになりました。ランキングを上げつつあった2度目の対戦、そしてトップ20に入った3~5度目の対戦はすぐ上のトップ10選手との対戦としての意味合いを持ちました。

まず驚くべきはこのすべての対戦でフェレールはトップ10に居続けているということです。つまり世界のトップを維持し続けている、本当の意味でのトップ選手であるということです。

ナダルの欠場などで運よく3位に上がった時期があるとはいえ、5~8位付近をキープし続けているフェレールとの対戦はそれだけでベンチマークの役割があります。

トップ選手にどれだけ戦えるのか?その答えを特にここ3年ほど見せてくれるのがこのカードです。

能書きが長くなりましたが、実はこの9戦を1つにまとめる方法が2つ、2つにまとめる方法が2つあるということから本題に入っていきましょう。

2つにまとめる方法の1つは「勝ちと負け」ですが、実はそれだけの意味ではありません。もう1つあります

実はこのカード、錦織が勝つときはすべてフルセット、フェレールが勝つときはすべてストレート勝ちだったのです。

特に3敗の内容は完敗と言わざるを得ない内容が続いており、6勝はグランドスラム1試合で3-2、あとの5試合はすべて2-1です。

ではここから1つにまとめる方法です。まずこれまでの2つからはっきり言えることがあります。

「錦織にとって楽な試合」は実は1試合も存在していなかったということです。

怒涛の巻き返しを受けた08年全米、第2セットに反撃してきた12年ロンドン五輪、マッチポイントを4度も握られた14年マイアミ、地獄のファイナルセットへといざなわれた14年マドリード、ウィナーが取れない中ラリー戦に持ち込まれ、あと3ポイントで負けまで追い込まれた14年パリ、1セットを先取されあとがなくなった14年ファイナル。

どれも安心して見れるゲームではなかったです。だからこそ勝った時嬉しかったですが、これから世界ナンバー1やグランドスラム制覇を目指す若者にとって、これが続いている間はだめなのです。

私はもちろん今日の試合、負ける可能性も十分に考えていましたが、なんとか勝つと思っていました。

強がっているわけではありません。根拠はシモン戦です。

あの試合もフェレールは走っていました。しかし終盤は疲れていましたし、ヘロヘロになったシモンに対して決めきれず、3度のサービング・フォー・ザ・マッチを落とすというフェレールらしからぬ試合を見せ、3時間半もかかりました。

もちろんフェレールは体力お化けであることは知っています。一昨日の試合がなかったかのようにプレーしてくることはわかっていましたし、実際そうでした。

ですがやはり3時間半戦っているという事実は厳然と存在しているのも事実。加えて1回戦2回戦も4セットでの勝ち。普段よりはフィジカルにも影響が出るという予想はしていました。

特に最近は錦織の粘り勝ちが続いていたので、5セットまで行けばフィジカルが強くなった錦織は1週目で温存していたのもあってフェレールを振り切れる、そういう読みはありました。

だからこそ、私が静かに注目していたのは「フェレールとどういう差をつけて勝つのか」ということです。

つまりこれまでの9度の試合と同じポケットにこの試合を収めてしまうのか、はたまた別の「蹂躙する」というポケットに収めるのか。

結果はご存じの通り、初めての蹂躙。あのフェレールを圧倒し、完勝を見せました。

さて、あともう一つ9試合を一つにまとめる方法があると言いました。

それは「格」です。

私は格上格下という表現が嫌いですが、この9試合がベンチマークとして存在し続けた理由はフェレールが常に格上の立場にあったということです。

ちょっと待て、9試合目のファイナルは逆だったろとツッコミが入るところですが、私はまだあの段階では逆転していなかったと思っています。

その前のパリでもし負けていたら…むしろラオニッチの代役として出場してフェレールと対戦していたのは錦織だったかもしれないんです。

ましてやファイナルは初めて。まだチャレンジャーの域を抜けていなかったと思っています。

しかし今回は違いました。シモン戦後のフェレールの事前インタビューからです。

「きょうのようにやれば勝てるチャンスはある。攻撃的にならないといけない」(スポニチアネックスさんからの記事原文ママ

「勝てるチャンスはある」

ニュアンスにもよるので断定はできませんが、50%を切っていることを暗に認めるような発言です。ベストのプレーができないと勝てない。

対等か、格上相手にしか使わない言葉です。

ファイナルでも4強に入り、今大会もしっかり勝ち続けている錦織に対して苦しみながらなんとか上がってきた下位シード選手。

事実を振り返ってみてももうフェレールはれっきとした「チャレンジャー」であり、そのフェレールを跳ね返した試合でもあるのです。

試合は最終ゲームしか見れていないので多くの方の実況や戦況分析を参考にすると、錦織の攻撃力が完全にフェレールの守備を突破した、というゲームだったようです(あとで録画放送とかあったら見て加筆するかもしれません)。

スタッツにはっきり表れています。

まず、さんざん言っているウィナー+アンフォースドエラーの数、いわゆる主導権の支配率を見てみると錦織のウィナー43、アンフォースドエラー44で87に対して、フェレールのウィナー14、アンフォースドエラー44で58。

いかにフェレールが守勢に回らされたかがわかります。

しかも耐え切れずにミスを連発。ミスがウィナーを30本も上回っています。

これだけの高い攻撃性を維持しながら、ウィナーとミス本数を同数に錦織は抑えました。

ブレークされた1ゲームでミス10本したようなので、全体としてはそのゲームを除けばかなり有利に試合を進めていたことは明らかです。

しかもフェレールに、あれだけ守備のいいフェレールにここまでミスをさせたのはほぼウィナーを取ったに等しいと思います。

スタッツだけでもこの試合を見ずともとてつもない試合だったことはわかります。ああ、見たかったなあ…

まあいつもよりはフェレールが走れてなかったとは聞きますが、それでもこれまでの9試合とは全く別の意味でも勝利です。

格上として、チャレンジャーを見事に撃退するその姿は紛れもなくトップ5です。

さて、ここまであえて触れませんでした。実は対フェレール、錦織の勝ち試合に限って言えばもう一つすべてを1つにまとめる方法があります。

そう、錦織の「勝ったその後」です。

08全米→デルポトロに完敗、体力も切れる

12ロンドン→デルポトロにまたも完敗

14マイアミ→フェデラーに勝つも、次戦を棄権

14マドリードナダルを蹂躙するも、あと一歩届かず棄権負け

14パリ→ジョコビッチ相手に意地を見せるも、明らかにフィジカルが不調

14ファイナル→アジアからの疲れがピーク、ジョコビッチ戦は戦えていたとはいえ負け

実は必ず体力切れかフィジカルに不調が出ています。

そう、10度目のこの対戦、ベンチマークとしての最後の役割があります。

フェレールへの勝利は通過点になるのか、到着点になるのか」

これを超えたとき、錦織圭はまた一歩前に進みます。

そしてそれが、この全豪であって、テニス界きってのアイアンマン、スタン・バブリンカに勝てることで証明されることを信じて。