two-set-down新章

two-set-down新章

スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

7年前と同じ死闘!もう一夜続く錦織劇場!(2015メンフィスSF)

2/14 現地19:00~(日本時間翌日10:00~)

ATP250 Memphis Open

SF

[1]Kei Nishikori 5-7 7-6(5) 7-6(5) Sam Querrey

まだ錦織圭という名前を私も知らなかった7年前、同じアメリカ、同じ準決勝、同じ対戦カード。

その時歴史が変わろうとしていました。

ただ違ったのはその時の立ち位置と試合会場です。

7年前のデルレイビーチ、ISシリーズ(現在のATP250に相当)初めての決勝をかけて戦ったのが当時18歳の錦織圭と、20歳のクエリー。斬新な若手同士の準決勝を接戦で制したのが錦織でした。

この試合が錦織圭の逆転劇の原点でもあります。

ファイナルセットのタイブレーク、6-3。3つのマッチポイントを先に握ったのはクエリーでした。しかしここを6-6までしのぎ、7-6と再度クエリーがリードするもここから3本連取。複数のミニブレークを含みメンタルの強さをビッグマッチで見せた最初の試合でした。

あれから7年。クエリーは一時10位台まで上がりUSオープンシリーズチャレンジで優勝する経験もしました。

錦織はケガで出遅れたこともありしばらくはクエリーに先行される形に。2012年についに追いついたものの悔しい敗戦が2つ続き気が付けば一時は1勝3敗。今でこそデルポトロ、ナダルらの名前が上がりますが当時苦手選手の部類に入っていました。

2014年にワシントンで対戦した時は雪辱を果たしましたがフルセット、最後まで苦しむ展開でした。まだ苦手選手を脱却できていない、そんな印象もありました。

この試合が簡単ではないことはわかっていました。そして事実その通りになりました。

イズナー戦で少しだけ見たクエリーの印象はストロークがフィットしている印象でした。バックハンドのDTLが決まる決まる。イズナーはストロークは弱いですがそれにしても危険な武器だと思っていました。

第1セット、錦織はここ3試合では最もいい立ち上がりを見せました。しっかりとしたストロークが戻ってきました。行けるのでは?そう思っていましたが今日は流れがつかめない。

カウントが有利になると途端に過去2試合の錦織が帰ってくる。雑なミス。謎の展開。もどかしい試合が続きます。逆にクエリーのサーブでチャンスをつかんでもそこからが雑。クエリーもサーブでしのぐ。ただしDFは連発していましたしそこで錦織にチャンスが来かけることはよくありました。

第1セットはクエリー若干有利で進みながら、どちらにもブレークのチャンスがあるように思っていましたがオールキープ。いつ動いてもおかしくない。その最初をつかんだのがクエリーでした。

第12ゲーム。結局最後は錦織のミスでした。今大会を象徴するかのようなセットの落とし方。これでは相当危ない。クエリーは見逃してくれない。そう思いました。

たまたまいろいろ調べているとこないだ私が書いた「錦織圭ファンは試合のせいでメンタルが強くなってくる」という言葉が各所で引用されていることを知りました。

おそらく錦織圭を2014年から知った方にとってはこれは驚きだったと思います。世界5位ならさくっと勝って当然でしょう、と普通は思うでしょうから。私も昔はそう思っていました。

ですが閑話休題シリーズで負け試合でも大概は45%以上ポイントを取っているという話をしたように、実際のテニスとはよっぽど実力差があって蹂躙しない限り総ポイントで大差がつくことはありません。そして試合の中でも流れは行ったり来たりするのが現実です。

しかし最後に勝つのは上位。上位だから勝つとも言えますし、勝ち方を知っているからとも言えます。

そして錦織圭はその勝つための「嗅覚」みたいなものがずば抜けている選手でもあります。テニスを真剣に見ている人ですら驚くような逆転劇は、私たち普通の人にはわからない勝つための匂いを察知しているからだと思うのです。

ちなみに私は勝つのかなあと思っても毎回ひやひやしますよ。追い込まれているのは事実ですから。いつまでたっても胃は痛いし心拍数は上がります。内心はがたがたですがその代わり最後の1球がコートに落ちるまで応援を諦めないことにしています。

それは事実そうやって錦織が勝ってきたというのを何度も見てきているからです。

今日だって諦めたくなるポイントはいくらでもありました。ファイナルセット1-3、1ブレークダウンって普通に考えて厳しいですからね(あの瞬間にブックメーカーのオッズが全部ひっくり返りました)。

でも諦めない。そうすると錦織は勝つ。今日もそうでした。

第2セット、クエリーの猛攻は止まりません。強烈なサーブが次々と決まり、完全にノーチャンスのゲームも出てきます。

一方錦織は苦しい展開。前半はチャンスがありましたが後半はノーチャンス。ここまで一度もブレークできずフラストレーションがたまる展開になります。

原因はストロークです。精度も問題ですが、その影響か別の原因か速いボールが打てずにクエリーにしっかり打点に入り込まれ、強打を許す展開になってしまったからです。

なぜ速いストロークが打てないのかはまあいろいろな原因があるでしょうが、高速サーフェスになっている今年のメンフィスでこれは致命的。またクエリーのサーブと強打の精度がよくこれでは厳しい戦いになるのは当たり前。これだけでも負けてもおかしくない内容でした。

またストレートの本数も少なく、クエリーにコースを読まれる結果になりました。

勝負はタイブレークに突入。セット後半はお互い早いカウントでのキープが続く淡白な展開。その流れを反映するようにお互いオールキープが続きます。

といっても心臓ばくばくものでした。というのもクエリーのギャンブルショットはある程度の確率で入ってくる。一方クエリーのサーブは手を付けられないほどになっていました。クエリーがリターンから一発強打を決め込んでその1ミニブレークを守りさえすれば勝てるからです。

しかしここで錦織はしっかり作戦を取りました。最近の錦織になかった守備的な相手のミスを待つテニスです。

これはもともと2011年にコーチとして指導を受けたブラッド・ギルバートの考えである「ウィニング・アグリー」(winning ugly)、「醜く勝て」というものです。

テニスは自分のミスが0本なら理論上1セット失うのに24本、試合に負けるためには相手に48本ウィナーを取られないといけないがそれは普通ありえない。

つまりミスせず、相手のミスや自分が確実に100%展開できるまで待てというものです。

結果これがはまりラリー戦を制す錦織。そしてタイブレーク6-5からのクエリーのサーブ、ついに扉を開きました。虎の子の1本を最初で最後、確保して追いつきました。

信じられません。この地点まででノーブレーク。ミスも多かった。しかししっかりと先を見据えプレーのオプションを変えることで1-1に持って行った。この地点ですでに並の選手ではありません。

この第2セットを見て正直勝ったと思いました。クエリーにはこれ以上対抗する策はない。サーブと強打を打ち込み続けるしかない。しかも普通はこのランクの選手でもぼちぼちプレーレベルが落ちてくる時間帯。大丈夫だと思いました。

しかしクエリーはしぶとかった。第3セットに入っても勢いは落ちません。

錦織はプレーレベルが少しずつ上がり、足の豆の治療を受けながらもしっかりとやるべきことをやっていました。そう、1-1の40-0、3つのゲームポイントまでは。

幾度のゲームポイントを雑なプレーで取れずクエリーにブレークを許し、一気に試合の流れはクエリーに傾きます。この場面で、勝ちが見えてきたこの場面で再び崖の下に叩き落されます。

続くサーブをクエリーは難なくキープ。1-3。残されたブレークチャンスはあと3回。

ここからが錦織劇場inメンフィス第3幕の開演でした。

続くサービスゲームをラブゲームでキープ。第6ゲームでした。

厳しいクエリーのサーブに錦織が食らいつき、何とか返します。

クエリーは攻めます。しかし錦織の猛烈なディフェンス、プレッシャーに負けて打ち込めるボールを次々とミス。錦織がブレークバックに成功し、試合を五分に戻します。

その後はキープが続き第12ゲーム。我慢が出来なくなったクエリーが2つのマッチポイントを握られます。QMK(急にマッチポイントが来た)です。

普通ならここで勝つのですがクエリーがここで我を取り戻しサーブを次々と決め錦織はノーチャンス。タイブレークに突入します。

タイブレークはまさかのブレーク合戦。2-4とすべてのリターンポイントを制し、初のサービス側のポイントをエースで決めたクエリーがリード。追い込まれた状態で折り返します。

ここで私は無念の外出。当然負けを覚悟しました。でももちろん諦めることはありませんでしたし、実は一つだけ勝てる不確実な根拠がありました。

実は錦織はマッチポイントを握った試合ではここ2年半無敗なんです。

これは驚きのデータです。テニスツアーを見ていると1週間に1回くらいはマッチポイントからの逆転勝ちがありますし、錦織は例えば2014マイアミフェレール戦や、2013パリツォンガ戦など幾度となくマッチポイントから逆転勝ちしています。もちろん2008デルレイ、クエリー戦も含まれます。

そんな中2年半マッチポイントを握ったら無敗なのは驚きです。この間には第2セットのマッチポイントから3時間近い死闘にもつれ込んだ2014マドリードフェレール戦など、もつれにもつれた試合はいくつかありますがすべて勝っています。

ちなみにこの間にマッチポイントを握った試合はクエリー戦まで含めて103試合(数え間違いがなければ、当然棄権勝ちは除く)。当たり前のように見えて凄いことです。

たったこれだけですが私は非常に心強い材料だと思っています。マッチポイントまで来てやっと試合は半分という格言もあるのですが、錦織の場合そこでほぼ試合終了なのです。

タイブレーク2-4でも何か起きないか。第2セットのタイブレークと違いリターンポイントも取れているのでそんな気持ちで外出しましたが、結果その通りになったようです。

最後はクエリーがダブルフォルトしたように、クエリーはかなりメンタル的に厳しい試合だったと思います。第2セットのタイブレーク5-5の地点であと2ポイントだったわけですし、その後2つのマッチポイントを止めたわけですし。

そんな中勝つための嗅覚で難局を乗り切った錦織。メンフィス劇場はもう1日延長するようです。

さて次戦はアンダーソンに決まりました。

ヤング戦では苦しみましたが確実に勝ってきています。唯一錦織にとって有利なのはアンダーソンが4連戦になることですが、ここ2試合の錦織の疲労度から言えばあまり意味はないでしょう。

それほどに錦織は疲弊しています。今日のWOWOWの坂本さんの解説で興味深い発言がありました。

「あえて厳しい追い込みをして疲弊した状態でメンフィスに入っている」

坂本さんは本人の発言通り錦織陣営について日本で最も詳しい解説者だと思います。信頼できるこの情報筋からの驚きの発言が意味するものはこの大会が昨年と同様に優勝することではないことを示しています。そう、新しい錦織圭として優勝するための大会だということです。

この大会の想定はおそらくサーフェスこそ違えど春のクレーシーズンなのだと思います。

春のクレーシーズンは錦織にとって活躍の絶好のチャンス。しかし故障で後半満足な結果が得られませんでした。

クレーはラリー勝負、体力勝負になります。フェレールナダルらのようにスタミナ、加えて長い試合を戦い抜く「フィジカル体力」とでも呼ぶべきものが必要になってきます。

今大会はまさに疲労しきった状況からどこまで戦えるか。泥臭くどこまで勝ちをもぎ取れるか。そこに主眼があるのだと、優勝が目的ではないのだと思いました(もちろんその最終目標が4つすべて勝つ、優勝することに他ならないのですが)。

そういった意味ではここまではなんのメディカルタイムアウトも取らず、たくさん追い込んだからこその代償である足の豆の治療のみ。つまりミッションを完璧にこなしながらかつ劇場型勝利を次々と成し遂げている。

とんでもないですね、ほんと。

アンダーソン対策ですがとにかく接戦に持ち込むことだと思います。こういってしまうと申し訳ないのですが本当にメンタルの弱い選手です。これまでアカプルコトロントでのディミトロフ戦で連続自滅(調べていただけるとわかると思います)。そのほか準優勝も多く、最後の一押しが足りないというのが正直な印象です。

さすがにサーブを中心に勢いで押し切られるとノンプレッシャーですから押し切られますが、今日の強靭なメンタルがあれば大丈夫かなあと思います。

ちなみに明日の決勝はアジアNO.1×アフリカNO.1の対決です。それ以上話は広がりませんが。

明日が待ち遠しいです。まあ負けたとしても仕方ないと思います。どこまでタンクが残ってるか、そして足の豆がどうなっているかはわからないですから。気楽に見ようとは思っています。

ちなみに明日勝つとインディアンウェルズ直前まで錦織の5位キープが確定します。これはラオニッチやバブリンカ、ベルディヒがいかなる成績を出してもです。ほんとは試算表も出そうと思ったけどもう余裕ない。疲れました。

ロッテルダムの決勝は体力が残ってれば見ます。合わせて記事にするかもしれません。それでは。