two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

鉄壁守備のフェレール、ついにリベンジ成功(2015アカプルコF)

2/27 現地21:00~(日本時間翌日12:00~)

ATP500 Abierto Mexicano telcel

Championship

[1]Kei Nishikori 3-6 5-7 [2]David Ferrer

11度目、アカプルコ

何から書けばいいのかわかりません。

ただ一言言えるなら、フェレール、あっぱれ。

今日勝つことはお互いにとって当たり前ではなかったと思います。

錦織にとってこの勝利はいろいろな意味を持っていました。

クアラルンプール→東京に続く2大会連続優勝。初のATP500での第1シードでの優勝。

フェレールにとってみれば5連敗中、全豪を除きすべて接戦を落としての敗戦。

サーフェスがハードに変わったとはいえクレー時代に3度優勝。優勝スピーチでも言っていたように第2の故郷でもあるスペイン語圏の準ホーム。

意味があり、そしてプレッシャーもある中で行われたのはいつも通りの泥仕合でした。

フェレール戦においてストレート負けは負けた4敗の共通点でもありますが、最も泥仕合感の強い試合でした。

フルセットでないので微妙なところですが、初めてフェレールは接戦をものにした試合だったように思います。

2週連続優勝、既に10試合目。フェレールの体力切れは容易に想像されがちですが、リオでは意外と試合時間がかかってなかったですし、何より昨日の準決勝、最後がダブルベーグル(6-0,6-0)になってしまったことで実は試合時間としては錦織の方が長くかかっていました。

体力切れはあまり期待できないと思ってみていましたがその通りになりました。実際はフェレールも少し落ちていたようにも感じますが、錦織も落ちかけていたのであまり変わりはありませんでした。

さらに影響したのはアカプルコの遅いサーフェスです。

全豪の時はウィナーのボールがすっと流れていくようなボールが多かったのを覚えているでしょうか?全豪は最近コートを塗り替えたので速いコートになったようです。

それに対して今日のアカプルコは「ずんっ」という音を入れたくなるようなボールのバウンドだったことに気づいていたでしょうか。進行方向の速度が失われるために相対的に上下向きの速度が速く見えるために視覚的にそう感じやすくなるからです。

このサーフェスフェレールの守備とうまく噛みあいました。何度もウィナー級のボールが拾われ、結果的に錦織のミスが目立つ形になりました。

全豪の場合ですとバウンド後も速度を失わないのでウィナーになっていたであろうボールがかなり拾われていました。全豪の快勝はサーフェスの影響も少しありました。

あとブレークが多かったのも間接的ですがこの影響があると思います。リターンのうまい二人ですので普段の試合からブレーク合戦になることは多いのですが、それにしても多すぎですし、お互いの1st points wonが50%付近をうろちょろというのはこういうことなのだと思います。

そしてそれでも錦織は打ち続ければ打開できたのかもしれません。それは全豪で証明されています。鉄壁守備でも力で突破することができた初めての試合は私の錦織×フェレール戦の考えを大きく変える(ほかの方も大きく見方が変わったでしょう)ものでした。

しかし今日はミスが多すぎた。ミス3本ウィナー2本では負ける。その1本がウィナーに変わればあっという間に勝ちに変わる。それがテニスです。

錦織も目が覚めるようなボールをたくさん打っていました。やはり来週から4位の選手だ、と思えるようなプレーは随所にありました。

ですがそれが4割か、6割かでいえば今日の試合は4割か、それ以下だったということです。

そして興味深かったのはフェレールの戦術です。ミスが少ないのはもちろんですがしっかり攻撃に行く場面もありました。

特にブレークを許してしまった後のリターンゲームのポイントでのオフェンスは驚くべきものでした。

テニスはブレークしたばかりは試合が動いている状況。なんでもそうですがゲームが動いた後というのは比較的動き続けるものです。

今日は試合の終盤がブレーク合戦になっていましたが、お互いにリターナー側がしっかり切り替えてやるべきプレーをやっていた印象があります。

あとはサーブでボディを狙ってくる場面が増えたということです。今日は特に第1セットでフェレールのサーブのコースの打ち分けがはまってブレークポイントを止めることができました。

もし明日職場や学校で「フェレールに負けるなんて錦織どうしたの?」というような人があれば次のデータを示して説明してほしいです。

実はフェレールは昨年のパリから今日の勝ちを入れて20勝3敗。8割5分を超える勝率でとんでもない成績で勝っていることがわかります。

トップ10すれすれまで落ち込んでしまったことからフェレール終わったという見方も出てきている最近ですが、まだまだその力は健在ですし、錦織に5連敗していなかったらそれだけで獲得ポイントは5000を超えてきていたはずです。実はフェレールは何ら変わっていません。ただ錦織と当たるというドロー運がなかっただけなのです。

そしてもうお気づきかもしれませんが、この20勝3敗の「3敗」は、パリQF、ツアーファイナルズラウンドロビン、全豪OPでそのすべての相手は錦織圭です。

お分かりいただけたでしょうか。フェレールは年末から絶好調でした。たまたま接戦を錦織が制していたからこうなっていますが、こんな位置にいる選手ではないですし、今最も当たりたくない選手の一人でした。

あと5連敗がトップ10選手同士の対戦成績であることはまれです。本来トップ10選手同士は勝ったり負けたりするもの。いつかはこういう日が来ることは覚悟していました。

メディアは格上格下の表現が大好きです。ですがこのレベルのランク差に格上格下は存在しません。その日にいいテニスをした選手が勝ち、それが今日はフェレールだったということです。

今日のフェレールは勝者に値する価値のある素晴らしいテニスでした。逆の立場に立ってみれば、あれだけ攻撃性がありウィナーも決められた錦織に対して粘りで勝った。フェレールファンであれば今シーズンのベストマッチに近い内容でした。

私感ですが私のテニスの目標はフェレールです。どんなに振り回されても諦めず、最後にはポイントを取る。ビッグサーブもないし、上背もない。

身長が錦織やフェレールに近いこともありますが同じような体をしている選手が世界を相手に粘り強く戦う姿は模範であり、尊敬しています。錦織、フェデラーに次いで私の好きな選手です。

相手が錦織でなければ大絶賛していたであろう試合でした。そしていちテニスファンとしてはこれだけクオリティの高くいい試合をしてくれたことに感謝しかありません。

錦織ファンとしては悔しいですが、前を向いていける試合です。なに、トップ10に負けることはざら。相手がフェデラーだとはいえ、ジョコビッチだってドバイで負けました。そんなものです。今シーズンの錦織はいまだトップ10以下に13連勝中。無敗です。何の問題もありません。それだけ勝っていればランキングが8位くらいになることはあっても、トップ10以下に落ちることは絶対にありません。

これでおそらくマレーがデ杯を2勝して来週には5位に戻ってインディアンウェルズを迎えることになると思います。いや今のマレーだと…いやなんでもないです。

最後に。最近いろいろなネットでのコメントなどを見て、そしてやっくんさんの素晴らしいブログ記事に感化され、私もどうしても言いたいことがあったのであえて負けた、「叩き」が出るであろうこのタイミングで書かせていただきます。

今の錦織は2013年に似てると思います。周りからの期待が。

当時錦織はメディアに初めて大きく取り上げられた時期でした。フェデラーマドリードで勝ち、全仏もナダルに負けるまで4回戦に進み躍進。このペースなら夏にトップ10。テニスの試合結果も取り上げられずにランキングの報道ばかりが先行する時期。

当時ブログを書き始めた私もドライに判断して「このペースで勝ち進めば」8月にはトップ10入りだとしましたし、ワシントンが始まるまではそう思っていました。

そこからの圧倒的な成績不振はご存知の方も多いでしょう。全米で1回戦でエバンズに力なく負けたとき、ここが終着点なのかと思いました。まだ時間はあるだろうけど、ここから取り戻すにはポイントの積み重ね的にも2年はかかるのでは。そんな風に思っていました。

その2年後、いや、1年後。想像を超えるペースで錦織は勝ち続け、マイアミ、バルセロナマドリード。あれだけ震える試合をしながらもメディアはほぼノータッチ。気が付けばトップ10。そしてあの全米。

ここでついに流れが変わりました。周りからの期待値が先行するようになったのがこのあたりからです。

今のところ錦織はありえないようなメディアや周囲の高い期待に応え続け、信じられないスピードで階段を駆け上がって、気が付けば世界の「トップ4」(ビッグ4ではない)になってしまいました。

きっと今日の敗戦に満足できない人がたくさんいることは容易に想像できます。わかってます。悔しいことは私だって悔しいです。

ですがここまで何の落ち込みもなく勝ち続けていることがそもそも異常です。それこそビッグ4がそれぞれ出てきたときに酷似するくらい急速なスピードです。去年のこの時期、メンフィス500を失った錦織のランキングは21位でした。

そこから52週間で4位です。もはやファンでありながら引いてます。その強さに。

期待したい気持ちはわかりますし、もちろん他の選手や運にも左右されるでしょうが、私も錦織圭はいずれマスターズ、グランドスラムを取ると信じて疑いません。ナンバー1になれる可能性だって否定しません(ナンバー1に関してはいまだこの言葉のニュアンスであることには注意してください)。

ですがそれが明日である保証なんてどこにもないのです。

フェデラー1強、ナダルがやっと出てきたフェデラー全盛期ですら一番いい時でも1年に4敗しています。ライバルが少なかったとはいえテニス史上最高の1年の1つに数えられる2005年や2006年フェデラーでこれです。去年のジョコビッチは9敗しています。

テニスに限らずトーナメント形式のスポーツはすべてそうですが、優勝しなければ必ずどこかで負けます。

これから錦織圭や、他のテニス選手を応援するにあたって気を付けてほしいのはこの事実です(錦織以外の選手のファンになっていただいても全然OKです。テニスというスポーツを好きになってくれたら私は嬉しいです。それこそ今日のフェレールは憎いほど強かったし粘りがすごかった。こういう試合を見てファンになってくれたらきっとフェレールも嬉しいと思います)。

負けることを躊躇してはいけません。全部勝つのは漫画の世界。もちろんそんなシンデレラストーリーを夢見ることを諦めてはいけませんし、今日も私はマッチポイントのボールがアウトになるまで諦めませんでしたが、それと同時に現実を受け入れる必要性もあります。

今日も負けは負けですが、第2セット0-3、2ブレークダウンの地点で誰もが投げるところから4-4。さらに4-5から起死回生のブレーク。見どころはたくさんありましたしポジティブに捉えられる要素はあります。

長く書きましたが今日は負けた。そういうことです。すぐそこにはインディアンウェルズ、マイアミが迫っています。

勝つことを期待するのはもちろんです。しかし相手がいいこともある。それこそ今日のフェレールみたいに。あるいは全豪のバブリンカみたいに。

もっとつらい時期もあった。このアカプルコでは錦織はマッチポイントを握りながら逆転負けを喫した場所です。

あの負けを知っているからこそ、今日の負けを受け入れられる。

そして悔しいと思ったからこそ、次の応援の原動力に変えられるし、勝った時に心から喜べるのではないでしょうか。

錦織圭を応援している身としてではなく、すべてのスポーツを応援している身として、僭越ながらファンの精神論みたいなことを書かせていただきました。

負けることを躊躇してはならない。

これが私の言いたいことです。負けた後に議論するのはその次を見据えているからで、単に批判する、「叩く」に向かってしまうのは違うことだと思います。建設的な議論が行われることはいいことです。それは次に勝ってほしいと思っているからこそ生まれる感情だからです。

どうしても最後に書かせてください。

フェレール、本当におめでとう。テニスファンとしてこのタフな2週連続優勝を心から祝福します。