two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

イズナーに勝つ方法を考える~マイアミQFプレビュー~

こんにちは。

結局QFのボトムハーフ2試合は予想通りマレーとベルディヒが勝ち上がりました。

しかし1セットを先取したティエムの頑張りは賞賛されるべき素晴らしい戦いでした。もともとクレーの方が得意な選手なので来月からは台風の目になるかもしれません。楽しみです。

あとマレーが若干肩を気にしたという情報をちらほら聞いているのですが、読者さんで詳しい方がいましたらコメント欄で教えてください。

ベルディヒも決してよくはなかったのですが要所をまとめてモナコにストレート勝ち。モナコは終盤ガス欠気味でした。こういうところで1試合多いノーシード勢は不利ですね。モナコはシングルスだけで5試合目でした。

さて今日はQFのプレビューです。高まっている方も多いのではないでしょうか。錦織×イズナー戦、ランキング以上に簡単に行かないからこそイズナー対策を私なりにいろいろ考えてみました。

まずはジョコビッチ×フェレール戦。対戦成績はジョコビッチから見て13勝5敗と見た目上かなり戦えているように見えますが実はジョコビッチが7連勝中。最後に負けたのは2011年の試合過多でケガ気味ガス欠状態のファイナルでの試合なので、それを除けば2010年から無敗です。ジョコビッチ有利は間違いないでしょうがこの試合は簡単にはいかないと思います。

ジョコビッチは何度も伝えてきているように今大会決して好調とは言い難いです。あと一歩で負ける可能性もあった試合を地力でなんとか突破してきている印象があります。

それに対してフェレールは充実した勝ち上がり。シモン戦ではタイブレークを突破した後は粘り勝ちでベーグル。なかなかできることではありません。

ジョコビッチは昨年IW~マイアミで2大会連続優勝しているとはいえ、IWは早期敗退して今大会も省エネで勝ち上がってきているフェレールに対して持久戦を申し込まれるとかなり厄介です。フェレールならやってしまいそうで怖いです。

なおこの勝者が錦織×イズナーの勝者と「翌日のナイトセッションに」(これは一般的なスケジューリングを考えると確定しています)準決勝を戦います。そういった意味でも大注目の一戦です。

試合開始は8時予定。錦織戦の寸評を書いた惰性で私は見れる…はず。

そして注目の一戦、錦織×イズナー戦です。

初対戦ということでイズナーを軽く紹介しましょう。一応以前の閑話球題シリーズではこんな感じで紹介しました。

身長2m8cmから打ち下ろされる剛球(あえてこう表現します)でエースを量産。典型的ビッグサーバーの選手です。

ラオニッチと比較すると単純なサーブの破壊力ではラオニッチを上回るものの、サービスキープに向けた総合力ではラオニッチの方が一枚上手かと思います。

エース本数、キープ率ではカルロビッチに次ぎツアー2位をずっとキープし続けていました(ラオニッチが台頭してからは2位だったり3位だったり)。

ただラオニッチの方がもっと怖いという印象があります。というのもイズナーはビッグサーバー選手にありがちなストローク力がない選手だからです。サービスキープはラオニッチよりも上の時もありますがブレーク力に関しては圧倒的にラオニッチより劣ります。これは断言できます。

ここでイズナーの今シーズンの成績を見てみましょう。いつもの公式からの抜粋です。

http://www.atpworldtour.com/Tennis/Players/Top-Players/John-Isner.aspx?t=pa

7-6、6-7の多いこと。イズナーはキープ率96%という意味の分からない数字をたたき出していますが、一方でブレーク率8%と10%を切ってきます。

ラオニッチはキープ率94%、ブレーク率11%でそんなに変わらないじゃないかと言われそうですが、8%と11%は3%しか違わないのではなく、約50%も違うのです。

その証拠にイズナーがブレークしてタイブレーク以外で取ったセットは13。タイブレークで取ったセットは8で実に40%近くがタイブレークで取ったセットです。

ちなみに錦織が今シーズンタイブレーク以外で取ったセットは43。タイブレークで取ったセットは6です。12%くらいですかね。

つまりイズナーとの対戦はタイブレークは必至で、言うなればブリスベンラオニッチ戦のようなじりじりした展開になる確率がきわめて高いということです。

ただ繰り返すようにラオニッチ戦の時よりはサービスキープが楽になるものと予想されます。一方でリターンゲームはさらに難易度が上がります。そこでこの試合をサービスとリターンの2つに分けて試合の見所を解説していくことにします。

そこでヒントになってくるのは以前紹介した閑話休題シリーズでの全仏OPイズナー×ロブレド戦のゲームプランの話です。

http://www.plus-blog.sportsnavi.com/twosetdown/article/48

というか読んでて思ったけど、当時の私も「ほとんどキープするしブレークできない、タイブレークに持ち込みやすい(持ち込まれやすい)選手なのです。」って言ってて相変わらずだなあと思いました、イズナーが。

サービスゲーム錦織圭がすべきこと

まずはサービスゲームから。イズナーのストロークはツアーレベルではかなり劣っている方だと思います。

昨日はイズナー視点で試合を見ていたのでなぜリターンを返したのにそこでミスするのか…という場面が多く目立ちました。

正直ゴフィン戦のストロークができていれば何の心配もないわけですが、後述の理由により真面目にキープする方法を考えます。

①フリーポイントを増やす

イズナーがいくらストロークが…と言ったところでツアーレベルで戦えているからには最低限のストロークがあります。

特にまれに見せる長身を生かしたダイナミックなフォアハンドには注意しないといけません。精度はそれとしても一球で決めてきます。まずはフリーポイントを増やし、ストローク戦を減らす工夫が必要です。

ただイズナーはラオニッチのサーブもしっかりリターンしていたので、その辺は注意が必要かもしれません。

これと同時に、1stの確率を上げたいですね。

②走らせる

簡単です、このダイナミックなフォアハンドを打たせないためには前後左右に走らせることです。

幸い大型選手の典型的なパターンであるフットワークの弱さは狙い目です。また昨日の終盤戦は息切れもあってサービスキープに集中するためにあえてリターンゲームで深追いしない選択を取ってきました。

左右に振っていけば自然にイズナーはミスしてくれます。これで錦織と言わずゴフィンのようなストロークでもあればイズナーは最強なんですが、なかなかそう全部揃わないのがテニスなんですね…

③深いボールを送る

大型選手の2つ目の弱点です。足元のボールの処理が体が大きい分どうしても劣ってしまいます。

左右に振るだけでなく深いボールを送ることでミスやチャンスボールを増やすことができます。

④ミスの減少

結局は一番これが大事なのですが、じり貧ラリーになっても続けた方が対イズナーにおいては賢明です。そこまでラリーで追い込まれる感覚を受けることは少ないはずです。イージーミス2本で0-30というシチュエーションは絶対に避けたいですね。

実に平凡な事ばかりですが、しかしこれが後になって効いてきます。なぜか。タイブレークは別物だからです、それはあとで解説するとして、サービスゲームでイズナーの体力を削ることはとても重要で、試合を決めるファクターになる可能性もあります。

よくサーブ打つだけなら体力いらないじゃんずるいと言われますが、サーブはテニスのすべてのショットの中で最も全身を使い疲れるショットです。

同じ地点でずっとストローク練習するよりもサーブ打ち続けるほうが疲れます。なのでサービスゲームでイズナーの体力を使うような振り回しはかなり有効で、次のゲームの1stの入りを悪くする効果もあります。

・リターンゲームで錦織がすべきこと

①場所は構うな、とにかくコートにリターンする

まずはリターンしないと話になりません。ですが錦織のリターンはうまいのでついつい狙いすぎてしまうことがあります。

ですがイズナーに関してはリターンさえ返してしまえばあとはラリーでしっかり優位に立ってポイントが稼げるので、リスクを負ったリターンというよりはいわゆるブロックリターンでいいので確実に相手に3球目以降を打たせるような戦略が必要と思います。

結果的に3球目強打で決められるラオニッチ戦のようなパターンが増えることになりますが、しかしこれは一定確率でチャンスボールをミスしてくれることもありますので結果的にそっちのほうがいい結果に結び付けやすいかなと思います。

セカンドの跳ねるサーブの対処

次の動画をご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=N1zHdYzBLGY

2013パリMSでのイズナー×ジョコビッチですが、何このセカンドサーブ、しかもBPで…

イズナーのスピンサーブ、キックサーブ系のこのセカンドサーブはかなり厄介です。ジョコビッチよりも錦織の方が身長が低いのでさらに取りにくくなります。

これに対して錦織はどう対策を取るのか?答えは二通りあると思います。

A.ベースラインよりも前で跳ね際を叩く

B.ものすごく下がってナダルみたいな感じでリターンする

一長一短あるこの二つの選択肢をどう使い分けるかだと思います。

まずAはしっかりリターンできた場合リターンエースか崩せる確率がきわめて高いです。サーブを打ったばかりなので構える体制に入っていないのとそもそもそんなリターンはあまりイズナーも受けたことがないので対応に遅れます。しかも前に出ているのでチャンスボールに対する対応も早くでき、ネットを取ることだって可能かもしれません。

しかしデメリットとしては近づいている分だけ反応時間の勝負になるので、バウンド地点との対応が合わないとキック系のサーブでも取れなかったりするのと(動画のジョコビッチみたいになります)、ダブル1st系の速いサーブに対して対応できない可能性があるという点です。リスクはありますが非常にアグレッシブな戦法です。

一方Bはディフェンシブな戦法です。IWでナダルがラオニッチにやったようにバウンド後遅くなり、しかもいったん最高点を迎えてから落ちてきたところを落ち着いて確実にリターンする方法です。

ダブル1stなどにも対応できる可能性が広まり、リターン返球自体はこの方が多くできるでしょうが、単純に守備範囲が広がるのでワイドへのサーブでコートの隅に追いやられたり、あるいはダブル1stをコーナーに打たれたら時にはノータッチになってしまいます。

そして下がった状態からスタートするので、少しでもリターンが甘いとイズナーがネットに出てきます。その姿はさながら壁が突進してくるような感覚でしょう。ロブも効きにくいですしプレースタイル通りネットプレーもイズナーは得意です。

錦織としてはこの作戦を取るなら確実にコートの深くかコースを付いてリターンし、イズナーに3球目を強く打たせずに自分が4球目を打つまでに陣地回復をしないといけません。

これはイズナーがどんなサーブをどのように配球してくるかにもよりますし錦織のリターンの精度にもよります。

正直Aで返せるならAの方が私はいいと思います。Aでキレのあるリターンさえ打てればイズナーは2ndだと失点するので1stサーブにプレッシャーがかかります。

タイブレークで錦織がすべきこと

第1セット第2セットで1ブレークずつ取って2ブレークで試合を決めるのが理想ですが、おそらくそれは難しいでしょうし、それができるならたぶんマイアミ優勝するのでタイブレークはやってくるものと思っています。

そしてサービスゲーム、リターンゲームではそれぞれ2ポイント離すことが目標。いくら失点してもゲームさえキープできれば同じですがタイブレークではそうはいきません。

単純な話ですがオールラブゲームキープするA選手と苦しみながらキープするB選手が「そのままの流れで」タイブレークに臨めばA選手が取るのが通常です。

ですが「そのままの流れで」としたようにイズナーはタイブレークで戦術を変えてきます。

第1セットイズナー、第2セットイズナー、第3セットラオニッチ。これはタイブレークにもつれるまでにどちらが総ポイントを多く取ったかという昨日の試合のデータです。

驚くべきことに実際にセットを取った順はラオニッチ、イズナー、イズナー。こういうことが簡単に起きてしまうのがタイブレークで、ピンチをしのいできた選手がタイブレークを取ってしまうことはよくありがちなことです。

イズナーの昨日の第3セットはまさにそんな感じでした。体力切れもあってリターンゲームでは流し、自らのサービスキープのみに集中。タイブレークに入った途端死んだふり戦法をしていたかのように最後の力を振り絞ってフットワーク全開でラオニッチから2ミニブレークを奪って勝ちました。

おそらく錦織戦でも同じことをしてきます。そのためにタイブレークでやるべきことは「戦略の変更」です。

リターンポイントでは取れるか取れないか、それが重要になってきます。全体として確率を上げることよりも1ポイントのきらめくようなプレーの方が重要視されてきます。将棋で例えると駒得が優先される序盤から、攻めが通るかどうか、大駒を捨てることもいとわない終盤へと価値観が変わっていく、そんな感じです。

タイブレークのリターンポイントでは私はそれまでどうだったかにかかわらずAの方法で行ってほしいと思います。なんなら1stサーブのリターンは2択でどっちか山を張ってもいいくらいだと思います。リターンさえまともに返せればこっちのものです。

またイズナーはここが勝負と見て全力で来るので、サービスゲームで振り回し体力を削っておくことが重要で、サービスゲームでそどのようにポイントを取っておくかによって布石を打ち、タイブレークではサービスポイントで厳しさを失っていいのでノーミスで切り抜けることが重要です。ロペス戦のようなことをしていれば負けます、それは先に断言しておきます。まあここ3戦を見る限りはその可能性は低そうですが、何らかのプレッシャーで自分を見失ってしまうこともあるのでそれは試合になってみないとわかりません。前みたいに戦略を間違えたり無駄なプレッシャーから自滅することだってないわけではないのです。

ただ大事なことを言えば、タイブレークがサービスポイントを失わなければ必ず落とさないというルールは平等です。

6ポイントもあれば錦織であれば1つのミニブレークは期待しても間違いないので、サービスポイントが特に重要になってきます。錦織だって、サービスポイントを落とさなければタイブレークを落とすことはないのです。

とにかく確実にすべきことはゴフィン戦のようなミスの少ない洗練されたプレーです。まずはブレーク、ミニブレークをされないこと。話はそれからです。

繰り返しますがロペス戦のようなミスでの自滅をやれば簡単に負ける相手です。今大会ノーブレークできているイズナーは危険です。ディミトロフ→ラオニッチと28ゲーム連続キープしているイズナーは危険です。

見ている側はじりじりする試合になることは間違いないですが、そのじりじりにやられればビッグサーバーの思うつぼ。愚直に戦っていくしかないのです。でも最後に言いたい。ここで勝てば360pのディフェンドで忘れられてそうな「save 1500」プロジェクト達成にも光が見えてくる、苦しい場面だが絶対に勝ってほしい。