もう一つの復活ののろし、上がる(2015バルセロナ2R)
4/21 現地15:40~(日本時間翌日22:40~)
ATP500 Barcelona Open Banc Sabadell
2R
[1]Kei Nishikori 6-3 6-4 Teymuraz Gabashvili
この試合の前日に行われた報道陣用のプレイベントに錦織は参加していました。ミニラリーを披露しました。
昨シーズンのこのイベントの参加者はナダルとフェレール。当時の第1、第2シードでした。そして同じようなミニラリー。
衝撃の優勝から1年、ナダル、フェレールを差し置いて第1シードとして戻ってきた錦織がこのプレイベントに参加するのはランキングという側面から見れば当たり前のことなのですが、ナダルと一緒にトップ選手としてミニラリーをしている映像は1年前を知っているからこそ不思議な感覚に陥ります。
試合の方は第1シードの貫録を見せた余裕の勝利と言ったところでしょう。
スコアこそ6-3、6-4と1ブレークずつでしたがそれ以上の差を感じる試合でした。
第1セット、錦織が先にサーブから始まりました。トスでどっちが勝ったか把握していませんが、サーブスタートはいいんじゃないかと思って見ていました。
1ポイント目、実はこれでかなり勝利を確信しました。左右へのゆさぶりからコートの中に入り完璧なウィナー。2014年のクレーシーズンで何度も見た気持ちの良い攻撃。これから始まったことで本人もそして見ている側も落ち着けた幕開けでした。
マイアミから2週間、しっかりクレーコートでのテニスを思い出せている、キャリアでもベストに近いシリーズだったこのテニスが復活したことは価値のあることです。
2ポイント目も似たような形でポイントを取り、難なくキープ。次のゲームへ向かいます。
次にポイントになってくるのはマイアミで最後に苦しんだリターン。でしたがここはガバシビリに助けられる形になり、1stがほとんど入らない中でブレークに成功。ここで取れないと結構嫌だなと思っていたので欲しい時に必要なブレーク。この2ゲームで安心しました。
攻撃面ではフォアハンドが冴えました。いい時はもう少し深いボールを打っていましたが、まだ初戦ですし何より今日のガバシビリ相手では威力、コースともに十分でしょう。ナダルフェレールだとこれではまずいかもしれませんが、しばらくの間はこれで問題ないと思います。
クレーコートのテニスの難しさはいかにオープンスペースを作り相手を少しずつ崩していくか。ですが錦織は前に出て早く仕掛けることでそれをいとも簡単にやってのけます。気が付けばガバシビリは走らされ、オープンコート、もしくは時々カバーしようと走り込んでくる逆を突く形で次々とウィナーを量産していきます。
一方気になったのはバックハンドクロスのミスです。DTLはしっかり決まっていたように思いますが展開を作っていくつなぎのラリーで自分からミスする場面が出ていました。ここは改善したいところです。
そしてこの試合唯一のピンチ、第7ゲームです。
このゲームに関してはガバシビリのいいポイントにネットインと流れが悪いゲームで30-40を迎えました。
錦織に関しては何も悪くなかったのですが、カウント上はBPなわけで、ここをどうするのか。
そこで見せたのがセカンドでの虚を突いたサービスエース。回り込んでリターンエースを打とうとしていたガバシビリをあざ笑うかのようにセンターに打ち込みました。
ガバシビリの戦略はここまでセカンドサーブからポイントが取れていない以上リスクを取って攻めるしかない、こういう心理がありました。
30-40とカウント上はチャンスでしたが、こういう場面はこの試合2度と回ってこないかもしれない(実際回ってこない)という中普通に打ち合っても取れる可能性は薄い。なのでセカンドを叩こうという心理になるのです。
ここをしのいだ錦織は次の2本でいつもの走らせる展開からポイント。全くプレーを変えることなくキープに成功しました。
昨シーズンのクレーでのプレーはあまりにもブレーク力が高かったため、まれにサービスゲームで油断することや中だるみしてセットを落とすことがありましたが、今日はその芽もしっかりと摘み取りました。
第2セットでのブレークした第5ゲームについても少し触れておきましょう。
ここまでガバシビリも錦織のサービスゲームではなにもできないにしてもサービスゲームはきっちりキープしていました。
気が付けば2-2。あとにサーブする錦織のほうがややプレッシャーがかかり始める場面。ブレークされる気配がないとはいえあまり気持ちのいいものではありません。そろそろブレークが欲しい時間帯でした。
オープニングをしっかり取って0-15。次は自分の展開でもったいないミスをしてしまい15-15。しかしガバシビリはプレッシャーを感じていました。
このポイントに来るまで1stセットで50%台だったガバシビリの1stサーブは70%を超えるようになり、1stサーブのリターンに苦しんでいた錦織からポイントを取る場面が続いていました。
しかしここにきてガバシビリの1stサーブは全く入らなくなります。
これは一見すると矛盾したような構図なのですが、サーブを入れさえすればいいと思えば思うほど入らなくなってくるのです。
テニスをやったことがあるとわかると思うのですが、プロであってもこういう場面はあります。錦織からくる見えないプレッシャーに負けてしまい、セカンドを叩かれてブレークされてしまうのです。
事実15-30からのリターンエース級の強烈なフォアリターンは完全に狙い澄まされたショットでした。
ああいうのを打たれるとますます1stを入れなければとなり悪循環に陥ってしまいます。
ガバシビリ側の心理に立つとすごく分かる第5ゲームの崩れ方でした。
結果6-3、6-4で勝利ですが何度も言うように1ブレーク差以上の圧倒的な勝利だったと思います。
ガバシビリは前日の勝利から勢いそのままに全力でぶつかってきました。相手は第1シード。負けても当たり前で、とにかく真っ向からぶつかっていけばいいのです。
それに対して錦織はしっかり受けました。時にガバシビリの強打がはまり部分的にはやられていますが、1ブレークしてオールキープという結果が物語るように総合力で勝てばいいという言葉がそのまま当てはまるような試合でした。
スタッツを見るとそれがよく分かってきます。
Former Champ #Nishikori in fine form as he takes 1st set 6-3 in a little over half hour over #Gabashvili #Barcelona pic.twitter.com/a1K8ljgqie— TennisTV (@TennisTV) 2015, 4月 21
Impressive tennis from #Nishikori who finishes it with an ace to defeat #Gabashvili in straight sets. #Barcelona pic.twitter.com/Um5MpqJJd9— TennisTV (@TennisTV) 2015, 4月 21
上が第1セット、下が最終スタッツです。
際立つのは2ndサーブからのポイント獲得率が途中まで100%。ガバシビリがリターンエースを打った第2セットを加えても90%という高い数字です。
あのセカンドサーブからの攻撃力が高いと言われるフェデラーでも昨シーズン平均で60%超えないくらいですので、これがいかに凄かったかは言うまでもないでしょう。
加えて1st59%も悪くない数字です。もっといいに越したことはないと思うのですが、何より効果的なサーブからの攻撃という目に見えない形でのエース級のポイントがあったのでこちらもOKです。
そしてウィナー22、UE12という数字は圧巻です。ラリーが続きやすいクレーコートでは他サーフェスに比べ相対的にUEが増えます。ウィナー/UEが五分でもかなりいいスタッツであることが多いこのサーフェスでダブルスコアです。いかに攻撃力がすさまじく、かつミスが少なかったかが分かります。このミスのほとんどはバックハンドのミスですので、ここを改善していくとさらによくなっていくのではないでしょうか。
そしてもう一つ課題を挙げるとすれば1stサーブのリターンです。20%台はさみしいですね。クレーですし返しやすくなるので30%は越えてきたいところです。
ただこれもあまり心配はしていなくて、ガバシビリの決め球になった時に無理に追っていない感が強かったので(けがではありません)明日以降また取り戻してくれると思います。単純な当たりの悪いリターンは多かったのでそっちを気を付けてほしいです。
今触れたガバシビリの決め球になった時に無理に追っていないという話ですが、テニスの一般的な勝ち方である「1ブレークして、自分はオールキープ」という基本中の基本を徹底した勝ち方だったと思います。1ブレークした後はラリーで逆を突かれたりガバシビリがチャンスボールになった時、もっとフットワークをがんばれば拾えるかもしれないボールを見逃していました。
つまり無理をする必要がなくなったのです。サービスゲームで実に80%のポイント獲得率だった錦織にとって無理に2ブレーク目を追ってどこか体を悪くするリスクを考えれば無理なんて必要ない。まして500の初戦です。
去年は初戦から飛ばしに飛ばしまくっていたので最後にあの臀部のけがが待っていました。
SFあたりからはもう少し拾っていくでしょうが、フィジカル改造もしていますし、地力がついたのでアーリーラウンドで無理をする必要がなくなり後に貯金しておくことで、本当にけがと無縁の選手になりつつあると感じました。
その証拠にロングラリー、デュースが少なかったため従来クレーでこのスコアだと1時間半近くかかるはずの試合が1時間7分で終わっています。1ポイント当たりの時間も30秒台とかなり速いです(クレーだと1分を超えることもあります)。
スコア以上にすっきりする、納得できる、そして先に期待が持てる試合だったように思います。
3回戦はドルゴポロフが棄権したのでソウザとヒラルドの勝者になります。ソウザだと初対戦ですね。昨年決勝のリマッチでも大歓迎です。今日の第1試合後に対戦相手が決まります。おそらくトップハーフの方が進行が速いので、明日のセンター第1試合か第2試合ではないでしょうか。
バルセロナ大会の方はいよいよ本格的スタート。ナダルは相手の棄権負けで体力を消費していないアルマグロとの対戦。ここでどんなプレーを見せてくれるのかが大会を占う材料になりそうです。そのほか昨日2回戦を戦っていない12人が2回戦を戦います。