トンネルの入り口か、出口か(2015東京SF)
10/10 14:00~
ATP500 Rakuten Japan Open Tennis Championship
SF
[2]Kei Nishikori 6-1 4-6 2-6 Benoit Paire
なぜか今日は私の気持ちの中にぐっと来てしまう試合でした。
1stセットを取って負けた試合がブリスベンラオニッチ戦以来だから?たぶん違うと思います。
ペールに連敗したから?それも違うと思います。
たぶん今私が漠然と抱いているのが、今日の試合が明確な「頭打ち」を感じさせる試合だったからではないでしょうか。
今日はだいぶ悲観的なので他の皆さんの切り替えコメントに癒されています。
さて、この試合を振り返るために少し私の昔の記事を読み返してみました。そして、書くことが決まりました。
全米ペール戦敗戦の意味合い
全米ペール戦戦術面分析
やっぱり間違っていませんでした。セカンドサーブのリターン、ここに勝敗の分かれ目があったということです。
リターンをきっちり返してラリー戦に持ち込むとペールがミスを続け、0-40とします。なんだ、やっぱりそうか。と私は思っていました。
以前から「5割を超えるか超えないか、それが問題だ」と私はテニスの勝ち方について語っています。
ペールがミスをしてくれる以上、仮にペールにいい時間帯が存在してもペールの悪い時間帯が存在すればいいのです。そしてその悪い時間帯で叩いて1ブレークさえしてしまえば勝てる。非常に簡単な方法です。
ずっと5割で安定される方が(これでも数字上はブレークチャンスはやってきますが)厄介なくらいです。
この場面、なんら錦織は戦術を変える必要性はない、3ポイントもあればラリーでポイントが1つくらいは取れるし普通にブレークできるはずでした。
しかりここで錦織のプレーには嫌な焦りが見えました。リターンでも無理な強打を試みるなど4位の選手としては不思議なくらい落ち着きのない感じでプレーが進行していきます。
結果ペールにキープされ、試合は一気に悪い展開になっていきます。
これが2015全米当時の第1セットに対する私の評価です。そしてこれは今日の第2セットにも一部の文章を書きかえるだけで同じことが成立していたのではないでしょうか。
試合を振り返っていきましょう。
第1セットは錦織の独壇場でした。
理由は簡単です。まず錦織は開幕からずっと1stサーブを入れ続け、一方のペールは2ndになることが多かったからです。
ある意味当然ともいえるブレークからスタートし、3-0とします。
この頃の錦織のストロークにはキレと伸びがありました。深いボールが鋭く突き刺さり、ペールはどうすることもできません。
さらに錦織はプレビューで解説したような左右への打ち分けがうまくできたことで、ペールに的を絞らさせず、またバックハンドでの効果的なショットをほとんど打たせない展開に持ち込みました。
どうしようもなくなったペールは散漫なプレーも目立ち、あっさりと2ブレーク目を献上。1stセットは6-1で錦織が取ります。
ただあまりにもさくさく取りすぎているのと、前提として錦織の1stサーブが相当入っているということがあったので、第2セット立ち上がりでそれがどう動くか、それ次第ではもつれるだろうなという認識でした。ただ注意したいのは「もつれる」のであって、負ける感触はまだこの地点ではありませんでした。
第2セット冒頭、嫌な予感がしました。
ペールはちょっと展開を変えてきました。やや下がったのに加えてループボールを多用するようになりました。明らかに、早い打ち合いで決めていた錦織のペースを嫌ってのことだと思います。
これがはまり、極端にウィナー獲得率が下がり、錦織のミスが目立つようになりました。
そうすると一気に流れはイーブンになります。さらに錦織はリターンミスが目立つようになり、ブレークチャンスが掴めなくなります。
そして問題の第7ゲームです。
あのゲームの流れを覚えている方はどれくらいいるでしょうか?
錦織が0-30としたあとの2本はともにセカンドサーブ。そしてともに狙いに行った結果のリターンミスです。
この地点でペールはまだストローク戦で錦織を上回っていることはありませんでした。言い方は悪くなりますが相手のミスを待つラリーにしておけば少なくとも1本は取れたのではないでしょうか。
私はtwosetdownのブログを始めてからはずっと守ってくれとしか錦織に言ってない気がします。私がディフェンシブテニス論者なのは認めるところです。自分のリアルのプレースタイルもいわゆる「シコラー」だし、そういうのでポイントを落としてもあまり文句を言わない(観戦、自分のプレー両方)人です。
ただそれを差し置いても最近の錦織はリスクにあったポイントの取り方をしていないように感じます。
あれだけの強引なリターンを打つなら、少なくともあと20%はそういった場面でポイントが取れないと意味がないと思います。
あの場面、軽率な30-30に戻してしまった場面からもつれてしまい、結果的に5回のBPを落としペールにキープされます。
5回のBPについてもう一つだけ言いたいことがありますが、それはあとで。
結果的にこのキープで試合は終わってしまったのかもしれません。ここでペールは全く別人のプレーになりました。
そのあとのペールについてはハードヒットがことごとく決まり、サーブもよかった。つけ入る隙はあったかもしれませんが、発動する確率が低いことを考えれば出てしまってからの対処、というよりは出してしまったことへの責任を考えるほうが敗因分析として妥当でしょう。
では敗因を細かい要素に分けて考えましょう。何となく考えていたものを整理していたら面白いものが見えてきました。
1つ目のBP セカンドリターンミス
2つ目のBP エース
3つ目のBP サーブ&ボレー
4つ目のBP サーブ&ボレー
5つ目のBP ロングラリーでとんでもない疑問符
私が考えたいのは太字の2ポイントです。2~4本目のBPはどうしようもないと思います。サーブ&ボレーはリスクがあります。リターンうまく打たれたら即終了なのでこれはペールを褒めるしかないと思いますしいい1stサーブでした。
まず1本目は再三再四言っているリターンミスです。ここでは絶対に必要なかった。結果5BPと言えどもチャンスは実質2回しかなかったのです。
そして問題の5本目。さらに分解していきましょう。
1stサーブでは確かサーブ&ボレーを試みていたように思います。しかしフォルトでセカンドへ。ほっとしました。
セカンドのラリーは続きましたが、ここで錦織はバッククロスのラリーを続け、フォアハンドに強いボールを回すことはありませんでした。
そして最後に中途半端なボールをフォアクロスに送ったボールが力なくアウト。このセットの最後のBPになってしまいました。
10球以上続いたラリーで錦織はこの日一番消極的だったように思います。
私はこの試合の感想にメンタルを持ち出したくありません。メンタルが弱いというのは確率的に圧倒的に高い何かで信じられないUEをぽろぽろとして負けることだと思っています。圧倒的に高い何かというのはSFMの40-15とか、サービスラインより前に落ちた打ちごろの叩くだけのボールをネットにかけたりとかそういうのです。
錦織もやってるっちゃやってますが、私的にはあれはセーフの部類です。
では何が問題か、というとそこで私は「頭のメンタル」という概念を持ち出します。
この場面、錦織は自分にとって最もポイントが取りやすいと思っているバッククロスのラリーを選択しました。
サーブ&ボレーを決められ、次にBPがいつ来るかわからない、錦織が難しい状況に立たされていたのは容易に想像できます。
そこで錦織は安易な選択をしてしまったのです。自分が信じられる方法でポイントを取りに行った。
そりゃそうじゃないか、自分のテニスをすることがこういう相手には大事だ、いつもTSDが言っているそのものじゃないか、と言いたいところですが、バックハンドが得意なペールに対してその選択は適切なのでしょうか。そう考えると答えは違います。
この試合の展開は錦織のラリーの組み立てによるものが大きかったのです。
第2セット途中からバッククロスのラリーが増えました。おそらくその狙いはペールにフォアを意識させたところで今度はバックに集めてミスを量産させ、完全に翼をもごうというものだったと推察しています。
ただ結果的にペールは踏ん張ってあの場面を迎えていました。そこで錦織のする選択は本当にバックハンドのクロスラリーだったのか?違うと思います。その日最も取れているポイントの形こそが、最善の選択だったのです。
この類の選択はバッククロスラリーの問題だけではありません。
錦織からは常々「攻め急ぎすぎた」というコメントをよく聞き、「攻めが足りなかった」というコメントは私が聞く限り耳にしたことがありません。
ではなぜ攻め急いでしまうのか?ここからは私の推測ですが「楽になりたいから」なのではないでしょうか。
セカンドサーブのリターンを1球で決める、バッククロスラリーで展開を作らずに実質的にミス待ちをしてしまう。
ビッグサーブを持たない錦織は普段からフリーポイントの重要性を語っています。
結果的にサーブがない以上、そのほかの要素で楽にポイントを取る方法を模索していて、その現在の答えがそういったプレーなのではないでしょうか。
ただそれは現状リスクに見合っていません。錦織は「急ぎたくて回り道」をしているのです。
いつも言っていますがBPこそ我慢のプレーなのです。「急がば回れ」、この精神が必要なのです。
上位の選手のBPを取る時のイメージってなんかとりあえずラリーをつないで結果的に相手が耐え切れずミスするか本当に確実に決めれるチャンスボールをものにするかで、セカンドサーブのリターンを隅に決めるようなポイントなんて数えるほどしか思いつかないのではないでしょうか。
少々話が大きくなりましたが、前回にしても今回にしても、そして今年の多くの試合に見られるのがこういう「目先の利益というメンタル的な楽観視に捉われて、結果的に思考回路の部分で効率として悪いプレーを選択している」という事象を私は「頭のメンタル」の問題としています。
もう繰り返すまでもないと思いますが、すでに錦織は51勝。昨年の54勝更新は間違いないでしょう。そして勝率も8割。棄権や離脱も2回だけ。トップ10を1年キープし、500を2つ含む3回の優勝。今週だって結果的には3勝1敗です。ファイナルも99.5%大丈夫です。
何かが変わったわけではないのです。「頭打ち」と最初に公言しましたが、それはここ半年ほどの停滞した敗戦を見て思うことです。
少なくとも、こういう敗戦は繰り返してほしくない。こういう意味では私は今回の敗戦は相当ショックでした。この停滞の原因になっていることを克服できなければ、本当にここで止まってしまうかもしれません。
しかし何かが変わるわけではありません。妙な煮え切らない感情と戦っているにすぎないのです。いつも通り、これからも応援するでしょう。
とにかく今はこの「頭のメンタル」の問題をうまく克服してほしいと思っています。
トンネルの出口はすぐそこかもしれないし、入り口に入ったばかりかもしれません。
ある意味トップ選手になるための最後の関門なのかもしれません。2012年ごろのセカンドサーブの脆弱さ、パワータイプに押し切られる敗戦とはやや違った意味での敗戦。確実にステップアップし、問題は複雑になっています。
今私たちは「急な上り坂を登ったあと平坦な道を進むと下っているように見える錯覚」の中にいるのだと思います。
気づいたでしょうか。この記事の文章には「下降」というニュアンスの文字を一言も書いていません。
これがすべてです。幸運にも上海はすぐそこです。明日会場に行かれる方には単複とも最高の声援で選手たちを鼓舞していただければと思いますが、私は一足先に海の向こうへ飛びたいと思います。それでは。