4通りの違う道のりで辿り着いた、同じ頂点(2016メンフィス回顧)
2/10 現地19:30~(日本時間翌日10:30~)
ATP250 Memphis Open
2R
[1]Kei Nishikori 6-2 7-5 Ryan Harrison
2/12 現地19:30~(日本時間翌日10:30~)
ATP250 Memphis Open
QF
[1]Kei Nishikori 6-2 6-4 Mikhail Kukushkin
2/13 現地19:30~(日本時間翌日10:30~)
ATP250 Memphis Open
SF
[1]Kei Nishikori 3-6 6-3 6-3 [4]Sam Querrey
2/14 現地15:00~(日本時間翌日6:00~)
ATP250 Memphis Open
Championship
[1]Kei Nishikori 6-4 6-4 [WC]Taylor Fritz(youngest ATP tour Finalist since 2008)
「メンフィスは、錦織のためにあるのか!!」
まさにそんな感じの一週間でした。
第2シードが30位のジョンソン。第8シードに至っては79位のDzumuhur。対抗する選手がいない状態、3年前までATP500だった大会のたった一人のトップ選手としての重圧。押しも押されぬたった一人の優勝候補の期待に応える優勝です。
大会前の錦織圭の優勝オッズは1.5倍程度。ブックメーカーの判断する優勝確率は約60%。少ないように見えますが1試合当たりに換算すると90%の勝率を求められており、全く向かうところ敵なしという全世界の見方でした。
大会は序盤から荒れました。シード選手にシードの実力がない選手も多かったことで大荒れ。第2シードのジョンソンがフリッツに敗れると、あっという間にクエリー以外のシードは敗れていきます。
そんな中、水曜日に満を持して登場した錦織は初戦を切り抜けます。
ハリソンは昨シーズンのこの時期かなり状態を上げており、フェレールに肉薄するなどいいテニスをしており錦織もフルセットになる苦しい試合をしました。
1年後の今回の対戦は序盤から錦織がしっかりと主導権を握ります。
特に状態がいいという感じではありませんでしたが、それでもしっかりとゲームコントロールし、ハリソンに隙を与えません。
SFMとなった第10ゲームではやっとハリソンのプレーがはまりはじめ、一方錦織はやや落ち気味だった時間帯でした。
それでも取るべきでしたが、落としてしまったのは仕方ありません。
むしろすごかったのはその次のゲーム、ハリソンは勢いをつけ1stサーブを次々と入れますがポイントは錦織。なんとあっという間にブレークバックしました。ハリソンが上がってきた中で、その上を簡単に超えていきました。
トミッチ戦ではやらかしてしまった錦織でしたが、今シーズンのそのほかの試合はこういう目に見えないゲームマネジメントが光っています。戦局判断を間違えることが減ってきました。
ジョコビッチの前で崩れてしまったのは課題ですが、少なくとも下位相手にどういうテニスをすれば安定して勝てるか、ということはかなりはっきりと感覚を掴んできたのかなと思います。
続くククシュキン戦ではしっかりとやるべきプレーをやりました。
クドラが来ていた場合2回目の対戦。おそらくツアー初シードで危険な存在というところだったのですが、何度も対戦しすべて内容よく勝っているククシュキンが来たのは幸運でした。
ククシュキンは自分のテニスであるハードヒットのテニスをやってきました。
部分的には通じていましたし、試合全体のレベルも高かったように思いますが、しかしここでも錦織がしっかりとゲームコントロールしました。
特にククシュキンの強打に対してのスライスカットのディフェンスショットが光りました。これで攻撃を無効化し、ククシュキンにさらなるリスクを負わせる展開へと持ち込みウィナーとUEの割合を悪くさせました。
さらにサーブは好調。要所をきっちりと切り抜け結果的にはブレークされずに試合を終えました。
セット序盤でBPが取れず、自らもBPを背負い込むなどやや不安もあるところでしたが、傷口を広げずに勝ちました。
こういうのは言い出すときりがないです。少なくとも勝ってる限りは問題ない、かつストレート勝ちなわけですから何ら文句のつけようのない勝利でした。
準決勝のクエリー戦、すでにこの地点でベランキスかフリッツの決勝が確定しており、事実上の決勝戦という見方が強かったです。実際私も足元をすくわれるならここだろうという感覚がありました。
錦織は決勝勝率がかなり高いので…
クエリーは過去勝ち越しているものの、ランキングが逆転してからも負けることもあり、何かと手を焼いている試合が多いため、決勝戦のような感覚で臨んでいました。
特にクエリーのサーブがいい日が多いですね。ビッグサーバーは比較的苦にしない錦織ですが、対戦成績を踏まえるとクエリーは苦手なのかもしれません。
試合はその通りの展開になりました。
QFの西岡戦で悪いなりにツアー常連の力を見せて省エネで勝ったクエリーは前日とは違う勢いで錦織を攻めます。
錦織にありがちな1stセットのリターンが合わないという現象も重なり、リターンゲームはチャンスなく試合が続いていきます。
ブレークを許した第4ゲームはボレーミスが痛恨でした。
他は仕方ない面もあったので、結局この1本のミスが第1セット最後までのしかかります。
第6ゲームでも0-40のピンチを背負い、クエリーはどんどんストロークから押していく展開を作りました。
正直、ここをブレークされると第1セットを1-6で落とし、立て直す時間を得られないまま第2セットに行ってストレート負けがあったと思います。個人的に勝負はこのゲームでした。
このゲームではクエリーのUEもあったものの、やっとサーブをきっちりと入れ、1ブレーク差でついていきます。
その後は少しずつサービスゲームの内容がよくなるものの、リターンでチャンスを掴めず3-6で1stセットを落とします。
スタッツをチェックすると1stサーブのリターンでほとんどポイントが取れない状態でした。
こういう日のクエリーは仕方ないので、2ndでいかにラリーにつなげ、ポイントを取り切るかが勝負です。
第2セットに入って錦織は戦術を変えます。
ラリーでフォアの強打を受けていた錦織はバックハンドへの配球を増やします。
最初からバックハンドもあまりミスしてくれていなかったのできついことには変わりありませんでしたが、少なくともクエリーが思い切ってフォアで打ち込むケースが減りました。
この我慢のラリーを続けているうちにクエリーが少しずつ落ちていきました。
正直、クエリーの最初のプレーが続いていればこんなランキングにはいません。ツアーで初戦負けが多いのがこの辺りのランキングの選手。もちろんビッグサーバーなので当たる時はこうなりますが、それでもなかなか勝つことができないからこその位置です。
クエリーは無理をしてバックの打ち合いから回り込みフォアに出たりしますが、ラリーの配球がいいのでなかなかうまく切り返せず、フォアでもミスが出ます。
こうして耐え切れなくなったクエリーはDFで錦織にサービスゲームを献上。続くゲームで錦織はラブゲームキープ。一気に流れは錦織に傾きます。
依然としてクエリーはサーブは好調でした。さらにセット終盤に向けてストロークも戻してきて薄氷の2ndセット獲得。再び5分の振り出しに戻った形でファイナルセットに突入します。
クエリーとのファイナルセットは勝てる印象がありましたが、しかし現実の試合はそんな簡単ではありませんでした。
1ブレークしたとはいえ依然1stサーブではリターンポイントをほとんど得ることができず、2ndが固まらないとブレークは厳しいことは変わりありませんでした。
そして第4ゲーム。錦織はその固まったセカンドサーブを見逃しませんでした。ラリーからはしっかりと得点に結び付けてのブレーク。
15-40からのデュースサイドでの2ndサーブのリターンミスはよくなかったですが、3回目のBPとなったアドサイドからのリターンでは繋ぐリターンでラリーに持ち込み、取りました。
この判断が非常によかったです。1stのエース級で2本目のBPを止められているので、ここを落とすと取れていなかった可能性もあります。
この後は淡白な展開が続き、第8ゲームで錦織はブレークバックのピンチを迎えますが、サーブの配球がよくしっかりと止めました。
第9ゲームはうまくいろいろな要素が絡み合ってチャンスが来ました。
サーブで2本止めたクエリーは見事でしたが3本目はありませんでした。ボディに食い込むセカンドサーブをフォアストレートで打ち抜きリターンエース。熱戦に終止符を打ちました。
地味にこの日のホットショットだと思う。体勢的にものすごい難しかったんですが…いい集中でした。
決勝の対戦相手ですがテイラー・フリッツになりました。
フリッツはジョンソンに勝った勢いそのままの決勝進出。18歳での決勝進出は奇しくも錦織以来8年ぶりという快挙です。
10代決勝進出・優勝については以下のサイトでまとまっています。
フリッツについては高確率で将来が確約されていると言っていいと思います。
もちろん勝ち上がりは物足りないところはあります。ジョンソンを破った後はチャレンジャーに近いようなドローで、まだその実力を推し量るには早いです。
試合は若手らしくとにかく自分のテニスを貫き、押していきました。
サーブがすでにツアーレベルに到達しており、さらに速い展開でのラリーにうまさがありました。
フォアバック共にストロークスピードがあり、コース変更が相当うまいと感じました。
100位以下にいるにはもったいない選手です。早くランキングを実力に見合った位置まで上げてほしいですね。
ストロークで押し込み、さらにその精度が異常だったフリッツに対し錦織はあっという間に3ゲームを立て続けに落とします。
これはやや仕方なかったかと思います。フリッツは5試合目。ましてや手の内を隠す必要もなく攻めていく立場。あのクオリティーで攻めていけば錦織が、というわけではなく誰でも落としてしまうでしょう(ジョコビッチを引き合いに出すのはNGです(笑))
しかし錦織は動じませんでした。ベストなプレーからは遠かったはずなのにあっという間に2ブレーク。1stセットを取りました。
いやほんとにどうして取れたんだろうというくらいフリッツが押していました。やりたいことをやっていたように感じました。しかし結果はタイブレークにももつれず錦織が取った第1セットなのです。
これで安心しました。フリッツは逆転勝ちもしていますが、錦織はしっかりと今日のそこまでよくない状態でも勝てるイメージを持てていたのではと思います。
第2セットでは第1ゲームに3BPのチャンスで仕留めきれず、逆にBPを背負い込むなど苦しい場面もありましたが総合力で主導権を渡しません。BPのピンチをしのいだ次の第5ゲーム、フォアハンドが火を噴きBPで隅に決まる爽快なウィナー。このセットでもしっかりと手綱を握り続けます。
最後はリターンゲームのMPで、それまでとはうってかわってディフェンシブなラリーをするフリッツの18歳らしからぬ粘りに会いますが、サービスゲームで全くポイントを与えず、MPでは8年前のデルレイ決勝で見せたエア・ケイで締めました。
奇しくも8年前、最高4位のジェームズ・ブレークを破って18歳でツアー優勝した錦織。今度はそのジェームズ・ブレークの立場になりましたが、歴史は繰り返しませんでした。
メンフィスは大会のレベルが正直低く、素直に喜ぶのは難しいですが、しかしそれを差し置いても4連覇は大偉業です。
同じ時期に行われる同じ大会、毎年メンバーも変わる中
・ケガをしない
・思わぬ相手の猛攻をしのぎ切る
・ビッグサーバーに耐える(特にメンフィスはこの傾向が強いですね)
・決勝まで来る相手に4連勝する
これだけのことをしないと勝てません。
250や500で数多くの大会連覇を達成しているフェレールですら成し遂げていない偉業であることが、何よりの証明でしょう。
思えば同じメンフィスと言えども4年とも全く違う大会の勝ち上がりでした。
2013年は2012楽天以降の好調を維持し、「リターンの錦織」がチリッチを相手に快勝し、難敵ロペスにも勝ちました。
半年で2つの500優勝。トップ10挑戦の足掛かりを作りました。
2014年は自身初の大会連覇をかけて臨み、他の選手が倒れる中順調に下位選手を退け、ランキングを戻している途中の苦手意識のあったカルロビッチからタイブレーク7-0。ブレークを与えずサービス改造の最初の一歩を刻みました。チャンコーチになってからの最初の優勝大会でもありました。
2015年は「負けない錦織圭」の劇場4幕でした。
このマッチレポートは残っていますのでみなさん過去記事をご覧ください。3試合連続1セットダウンから、大会中にトレーニングを厳しく課すという条件下でアンダーソンを破って優勝。
そして今年。誰もが優勝を期待する中、自身に重なる若手の挑戦を跳ね除けました。
250pの獲得、まるで当たり前のようですが意味のある優勝でした。
ブリスベンとは違い「取れる250」です。5連覇への挑戦は置いておいて(スピーチで「next year」の単語を使わなかったような気がするのが気になる…)、シーズン序盤の軌道調整には完璧な優勝でした。
これで錦織は現在655p。昨年と違う結果はブリスベン1R分の45pです。
どうですか、負けないんです。主要大会で勝ち、さらに下の大会でもそこそこ勝っていれば大きく道を間違えることはありません。
次は来週のアカプルコ。フェレールが不調の中3週連続で入るため、第2シードとはいえ優勝候補筆頭という意見が大半だと思います。
もちろん好調ティエム、トミッチ、さらに今日敗れたとはいえついにデルポトロも戻ってきました。すべてが簡単ではないでしょう。
しかしメンフィスのテニスができていれば、これは「状態が完璧でないのに」という意味を含んでいますが、簡単に負けることはないでしょう。なんとか昨年の300pをキープできれば、春のマスターズは加点のチャンスです。
みなさん覚えていますでしょうか。昨年2月19日に提唱した「save 1500」プロジェクトを。
錦織はここからマドリードまで勝ち続けました。そして不可能に見えた1500pのディフェンドを実質達成しました。
さらにローマと全仏を合わせて2000p。そうです、1年間たったからにはもう一度やってくるのです。
2016年の錦織圭は、アカプルコ~IW~マイアミ~(モンテカルロ+)バルセロナ~マドリード~ローマ~全仏までの7大会、そのうち加算義務大会5つという厳しい時期、「save 2000」プロジェクト、新始動です。
非常に難題です。2000p、今の錦織の実力をもってしてもキープできるか怪しいです。
しかしです、昨年「安定感・負けない錦織圭」を実現し続けたこの時期の失効をカバーすれば、いよいよ夏のシリーズに以降のボーナスステージが待っています。
ここからの約3か月間は正念場です。
あえて11勝目という偉大な業績を目の前にして言いましょう。
トップへ向かうスタートラインに立ったにすぎません。
ここからが、本当の正念場です。