two-set-down新章

two-set-down新章

スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

その時、新しいテニスがコートに降りた(2016マドリードQF)

5/6 現地14:30~(日本時間21:30~)

Masters1000 Madrid Mutua Madrid Open

QF

[6]Kei Nishikori 6(6)-7 7-6(1) 6-3 Nick Kyrgios

最初に断言しましょう。

私はかれこれ200試合くらい錦織圭の試合を見てきました。

最も両者がハイレベルな試合であったことは、間違いないと思います。

キリオスのプレーがすごすぎた?

予兆はありました。

かなり危険な相手と言っていいでしょう。マイアミでも煽りましたが個人的にはそのとき以上です。

上位選手を次々となぎ倒して初優勝したマルセイユの時を彷彿とさせています。

油断は禁物。

本人もわかっているでしょうが、かなりタイトな試合が予想されます。

何をどう見てもクレーのサーブスタッツでない異次元の数字が3試合並んでいました。

今週のクエバスは好調で、要所をサーブでしのいでいた中そこからキリオスが逆転勝ちしています。

ワウリンカの負けもワウリンカはBPを与えない素晴らしいサービスゲームでしたが、キリオスが高いレベルで上回っただけ。

マルセイユの時のキリオスは全試合ストレート勝ち。タイブレークは1回しかなく、ポスピシル、ガバシビリ、ガスケ、ベルディヒ、チリッチに5連勝しての優勝。

決勝を見ましたが、チリッチはノーチャンスでした。トップ5、いやそれ以上のテニスでした。

そのテニスが帰ってきた。

だからこそ、昨日のブログの最後はいやに弱気でした。

「今日勝つといろいろ大きい…なんとか勝ってほしい…」

実はこの地点で、ノーチャンスの負けを覚悟していました。

試合は思わぬ展開から始まります。

キリオスの止まらないサーブはわかっていました。織り込み済みでしたが、錦織のサーブがそれと同等の効果を発揮しました。

そしてやってくれました。トスで勝った錦織は先にサーブを選択しました。(実況ツイートでミスしましたがテレビ実況も間違えてませんでしたっけ…小音量で聞いてたのであれなんですが…)

これは大きかったです。ビッグサーバー相手には先サーブ、それ以外にはブレークしやすいので後サーブを提案している私としては、非常にうれしかったですし、1セット目はそこでかなり助けられていた面があったと思います(反面、タイブレークを落としたあとの第2セットはきつかったですが)。

この結果、いいサーブを決めて次のリターンゲームに入るといういいリズムを作ることができました。

しかし複数来たBPではキリオスのプレーが上回りました。

4ゲーム目ではまだサーブにアジャストできていない中迎えたBPでしたがサーブで止められました。

6ゲーム目ではラブゲームキープされながらもすべてを返球し、錦織らしくセットの半分を使ってリターンを合わせてきました。

そして迎えた8ゲーム目。悔いるとすればここでしょうか。

ロングラリーの中最後は普通のフォアクロスをネット。ディフェンスで2回拾っているのもあって、ポイントにできていれば結果は大きく違ったでしょう。

その後もお互いサーバー側が有利の展開は変わらず、1stセットはタイブレークにもつれます。

ここで悔しかったのは終盤の2つのミニブレークではありません。なんといっても1-0からの2ポイントです。

この2ポイントは形も悪くなく、1stサーブをきっちり返してラリーになっていただけにもったいなかった。

このうちどちらか1つでも取り、2ミニブレークアップにしておけば取れたのではないかなと思います。

本人はここの場面を「消極的だった」とコメントしていました。

確かにどっちつかずのミスが出ていましたね。攻めてのミスではなくつなぎのショット、展開でのミス。

タイトな場面でしたが、もったいなかったです。

5-3からドロップをキリオスがショートクロスで返した場面はキリオスを褒めるしかありません。

そんなにドロップの軌道は悪いわけではなかったんですが、予測とその後の対応がよかった。

こういうポイントはタイブレーク12ポイントもやっていれば1つは出るので、だからこそセーフティーリードの2ミニブレークがほしかったですね。

結果的にキリオスは少し前の記事で書いた、自動SPを握る展開になりました。終盤厳しい後サーブをきっちりキープできたご褒美です。

1つ目の自動SPは錦織の前後左右に揺さぶるうまいラリーで取れましたが、エンドを代えて次のポイントでは強烈なリターン。この後勝負の分かれ目として書くキリオスのギャンブルプレーにやられた形で差し込まれた錦織がフレームショット。次のサーブを入れられて1セット目を惜しくも6-7で落とします。

展開としては複数のゲームで錦織がBPを掴み、全体としても錦織が押していただけにもったいないセットでした。

それもそのはず、サーブポイントでは錦織81%。リターンポイントでは23%。

おかしいな、足して2で割ると52%、勝っているじゃないかと言われそうですが第1セットの総得点率は49%。

総得点はキリオス41-錦織39。タイブレークで辛くも取るセットではこういうことが起こります。結局タイブレークでのわずか数ポイントの差。これだけです。

ただ、キリオスのプレーははまっていました。

正直錦織のリターン力がなければ第1セットですらもっとノーチャンスだったと思います。

あのクオリティーのサーブを80%も入れられた中よくチャンスをつかむまでに至ったと考えるほうが自然でしょう。

悲観はしていませんでしたが、マルセイユのことを考えるとキリオスは落ちてこない。その確信がありました。

しかし第2セット、開幕からいきなり動いたのは錦織でした。

これは錦織にできてほかの選手がほとんどできない技なのですが

・重要な場面を辛くも落とす

・次のセット相手のサーブから

この場面でブレーク獲得に至る確率が異常に高いのが錦織です。

普通は気落ちして相手サーブをあっさりと落としビハインドの後サーブをスタートするというのが定番なのですが、錦織はそうではない。

最初の1stサーブをリターンしてポイントにすると、次はセカンドサーブを隅にリターンエース。1本サーブでしのがれるもラリーでポイントを取って15-40。この試合30-40のBPは2回ありましたが初のダブルBPとなります。

しかしこのBPは1本目、キリオスにうまく攻めきられて落とすと次はわずかにリターンがアウト。あっという間に吐き出してしまったブレークチャンスは第3セットまで訪れなくなりました。

錦織はここで珍しくボールをコート壁に強く打ちました。

おそらく本気で狙っていたのでしょう、このゲームを。

このBPをしのいだキリオスは完全に勢いに乗りました。

それまでリターンを多く返していた錦織が一気にサービスポイントを与えるようになり、錦織は常に後サーブのプレッシャーを背負い続けます。

危ないゲームは?と言われたら正直サービスゲーム6つすべてだったように思います。

第1セットで錦織がやったようにキープしてからリターンゲームに楽に入っていく。

キリオスはギャンブルショットをたくさん打ってきました。これが非常に脅威でした。

何せ失うものはない。リードしていながらも、最初の対戦で6-1とリードしてから自力で押し切られた経験から、セットを取っても守りに入らず、むしろ自分の置かれた状況を理解して最適なプレーをしていたように思います。

何回もギャンブルショットを打てばミスも出ますが入る時もある。その入る時をたった一つ掴めば…おそらく結果はキリオスのストレート勝ちだったでしょう。

しかし錦織は15-30などの苦しいカウントでもブレークポイントを与えませんでした。

ブレークではありません。ブレークポイントを与えなかったのです。

キリオスのギャンブルショットは脅威でした。一発でもそれがBPで入ってしまえば…おそらく前日のクエバスのように負けていたのではと思います。

だからこそブレークをさせないのは前提として、できる限りブレークポイントを迎えないことがこの試合最も大事なポイントでした。

私はここで気になりました。BPを与えなかったプレーとはなんだったのか?

この文章を書いているこの地点ではまだ答えを知りません。録画をもう一度見ました。

ここでBPP(ブレークポイントポイント)という、失点すればBPに至る「BPの前ポイント」を定義します。

錦織は第2セット、BPPをなんと11回迎えていました。なお第1セットは0回です。

これが第1セットは行けてる空気がして、第2セットは絶望的な空気がしていた理由です。

ではその11ポイントをどうやってしのいだのか?

G2 15-30 1〇 ボディーに深いサーブ、返ったチャンスボールを叩きこむ。

G2 30-30 1〇 ワイドに深いサーブ、キリオスギャンブルリターンもネット。

G4 30-30 2〇 セカンドボディー。かなり浅く正直叩かれてインでもおかしくなかったがリターンオーバー。

G6 30-30 1〇 キリオスにうまく返されるもバック深くに集め最後はフォアコースカバーの逆。

G6 40-40 1〇 キリオスギャンブルリターン入る!しかし神ディフェンス2つで粘り勝ち。

G8 15-30 1〇 センターに入れたサーブを強打されるがネット。ギャンブルリターン失敗。

G8 30-30 1〇 キリオスフレームショット。力が入ったか。

G8 40-40 1〇 ボディー深くにいいサーブ。抑えきれずリターンミス。

G12 15-30 2〇 キリオスふかしてイージーミス。この試合最も悔いるところか。

G12 30-30 1〇 そこそこの1stサーブをネットにリターンミス。

G12 40-40 1〇 ワイドに回転をかけた深いサーブ。リターンミス。

驚くべきは1stサーブの確率。9/11で82%です。

そして内容。深いサーブがたくさん入っています。さらにリターンミスが6つです。

もう一つ最初のポイントは実質サービスポイントなので、ラリーに持ち込まれたのは4つ。その結果はキリオスのUEが3つ。キリオスのFEは1つ(G6 30-30の逆付きを拾えたがミスしたもの)。

まあ恣意的なデータの取り方なのかもしれませんが、私はこの試合の勝因をまずここに見い出します。

結局、このBPPで錦織がしたプレーは1stを入れ手堅くポイントを取ることです。そしてラリーになっても無理な攻めをしなかった。

力んでミス、と書きましたがこのラリーに全体的に言えることはキリオスはポイントがとりたくてギャンブルプレーというか、強打を多めに取っていました・

それが機能したからこその15-30などのカウントなのですが、これを大事なポイントで許さなかった。機能したのは6ゲーム目の30-30とデュースのポイントですが、これも神ディフェンスでしのいで気がつけばしっかりポイントを取っていました。

BPで一発でやられる可能性はおそらくBPを迎えれば迎えるほどあったと思います。

それを未然に防ぎ2セット目をタイブレークに持ち込めた。これが大きかった。

ただそれでもタイブレークで押し切られる可能性は容易に考えられました。予防線と言ってしまえばそれまでですが私はこう表現しました。

予告タイブレで落とした場合よほどのことがない限り何の悲観もしません— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月6日

こういうの言っちゃいけないけど無理ゲーすぎるw アンタッチャブルw— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月6日

いやーこれほとんどのテニス選手がぼろ負けしますよ… 錦織が強いからこれだけ競った試合になってる— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月6日

キリオスは落ちない自分で何とかするしかない彼はトップ10、その上に行く実力だから— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月6日

もうOKですあとは野となれ山となれ— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月6日

2セット序盤から終盤にかけての一連の言葉はすべて本心です。

仮にあの内容で負けても批判するつもりは一切なかったです。錦織のいいテニスをキリオスが上回った、それだけだったからです。

そしてタイブレークに突入し、「あとは野となれ山となれ」、運命のタイブレークに賭けました。

1ポイント目。驚きました。

ワイドへのサーブに飛びつき、少しキリオスが浮いたボールを見逃さずにフォアに回り込みます。

そして執拗なバックハンド、深いコースへのループボールの配球。耐え切れずキリオスがミス。

どこかで見た…そうです、ガスケ戦です。

ガスケ戦で機能した自信のある戦術をこの大事な1ポイント目で披露。高い実施。

行ける、行けるぞ…

次のポイント。リターンが浮いてから逆クロスのフォアDTL。さっきのポイントが効いているのでキリオス満足に返せずミス。

このDTLは試合中盤でミスして不利なカウントにしてしまっていただけによく打ち切りました。

次のポイント。ミニブレークダウンしているキリオスは攻めてきました。正しい選択です。本当に強かった。

しかし錦織、下がってのプレーですべてディフェンスしきると勝負に行ったキリオスのフォアが大きくオーバー。

そして3-0で迎えた次のポイント。セカンドサーブのリターンを下がってとんでもないループボールを送ります。

これをふかしてしまったキリオス。それを見てすかさずフォアクロスに回転のかかった「追い込む」ボールを打ち返ってきたボールをドライブボレー。

この4ポイント。ミスする場面なんてたくさんあります。

何度ドライブボレーをふかしたか。何度同じところに送っていくボールをミスしたか。

しかしタイブレークのこの場面、セット全体として耐えていたはずの錦織は完璧にギアを上げました。

ゾーンではないと思います。自然な形でギアアップしていきました。

そしてあっという間に3連取。ポイントは錦織。

今期タイブレークで8勝1敗だった錦織、連敗は許しませんでした。9勝2敗です。

ファイナルセット、ギアを自然にあげた錦織は一気に勝負を決めに行きます。

1ゲーム目、バック逆クロスでのドロップショット。解説不可能です。誰か教えてください。

2ゲーム目は落としてしまうものの、このゲームのキリオスの1stサーブは50%。タイブレークでも実は50%(2/4)で、徐々に落ちてきていました。

マイアミの時でもあったように、勝負どころ、終盤での1stサーブの入りはキリオスの課題です。

流れはすでに錦織でした。そして難なくキープした後の第4ゲームです。

セカンドサーブが増えてきたキリオス。それに対し錦織はしっかりとラリーで応戦します。

1本目はセカンドサーブ深かったもののそれに対し深いリターン。キリオスが珍しくフォアでミス。

2本目は展開の起点になっていたフォア逆クロス徹底攻撃。これもキリオスのミスを誘います。

3本目はエース級でやむなし。4本目はビハインドのカウントで勝負に行ったフォアDTLをキリオスがミス。久しぶりのBPです。

BP1本目は不運でした。リプレイポイントからのサービスポイント。

しかし次のBPでした。あまり使っていなかったワイドのサーブを読んで完璧なリターン。キリオスが焦ってミスをしてこの試合28ゲーム目で初のブレークです。

イズナー戦でもそうでしたが、1stサーブの読みが本当に素晴らしい。BPをセカンドサーブで取るよりも1stサーブのほうが取れているんじゃないかと錯覚するほどです。

ただここでゲーム差が開いてしまった影響か少しずつ錦織になかったミスが出始めます。

タイトな試合から一つブレークが開くと緊張の糸が解け展開が変わる。錦織に限らず即ブレークバックがよく起きやすい理由です。

さらに6ゲーム目をキリオスに粘られてキープされたことで次のゲームピンチが来ました。

しかしこのBPでも落ち着いていました。ワイドへオンラインのサーブでサービスポイント。BPPで見せてきたデュースサイドでのキリオスのリターンミス誘い。

次のポイントはラリーになったものの錦織無理をせずキリオスがミス。このポイントのキリオスはもったいなかった。

3つ目のBPは本当に丁寧だった。ラインきわどいところを突くよりもコース重視の選択でした。

他のラリーと比較してそんなに厳しいコースには打っていませんが、徐々に崩してバックDTL。このDTLもそんなに隅ではなく安全に回転をかけて入れています。

最終ゲームもちょっともたつきましたが、デュースからキリオスが深いボールをミスして錦織は助かりました。

最後はこの試合を象徴するバックDTLで試合終了。熱戦に終止符を打ちました。

1ブレークが遠い厳しい戦いでした。

さて、熱戦を振り返ってこの試合のポイントをいくつか挙げていきましょう。

えっまだやるんすか?いやいや行きますよ。カナダマレー戦でもうこんな長い記事は書かないと言いました。あれは嘘だ。

いい試合があったら長くなっていくのは仕方ないです。

長い文章を書けばいい記事かというとそんなことは絶対にないですし実際冗長に感じます。

私自身もあの時懲りてやめようと努力してたんですが、ですがもう少しだけお付き合いください。

実はキリオスはサーブだけだった?

意外なことが見えてくるのが次の試合スタッツです。

.@keinishikori needed 2hr 38 to get past #Kyrgios. Plays Djokovic or Raonic on Sat. https://t.co/kRsZ9udpkC #MMOPEN pic.twitter.com/6mkH6EUFaL— TennisTV (@TennisTV) 2016年5月6日

まず、錦織のウィナーがUEを上回っていることが衝撃でなりませんが、実はそこではありません。

キリオスのウィナー34-UE50です。

まあUEのほうがかなり多いよなーとなります。実はそれだけではありません。

皆さんご存知でしょうか。スタッツのウィナーは、エース本数も含んでいます。

正しい定義かどうかはわかりませんが、ウィナーは「コートにボールが落ち、それをラケットで拾うことができなかった」というものだと解釈しています。

つまり、サービスエースもコートにボールが落ちてラケットで拾うことができなかったのでウィナーになります。

ビッグサーバーのスタッツを見ていて「これだけエース取っていてこれだけウィナー取っていたら勝てない」という話をよく聞きますが違います。それだとエースを二重にカウントしてしまっています。

さてここで昨日のキリオス。ストロークウィナーはW34-エース18=16本以下ということになります。

16本以下としているのはボレーウィナー、スマッシュウィナーなどがあるからです。

つまり、42-5=37本以下のストロークウィナーを取った錦織に対しキリオスのストロークウィナー16本以下は実に半分。

驚くべきことにキリオスがあれだけ強打しながら、ラリー戦でのウィナーは錦織が自分の半分以下に抑え込んでいました。

これがどれだけ驚異的か。ほとんどの時間帯で、ラリー戦は完璧に支配していたと言っていいでしょう。

しかもUEの差。これにより、さらに差は開いています。

つまり、試合全体を通して錦織はリターンさえ返せばチャンスが作れるはずでした。

キリオスのサーブの進化

私はIPTLでキリオスのサーブを見てきました。クイックモーションから軌道が読みにくいいいサーブでした。

ただこの試合、怖かったのは配球のうまさ。

基本的には錦織はワイドを多めにケアしていました。そんなにセンターにエースを打たれなくても…というくらい第2セットは打たれまくりました。

ただそこでセンターに張り始めるとワイドにも打つ。このあたりキリオスがうまく、捉えたかに見えた1セット目中盤をしのぎ切るとそこからは完全にリターン側はノーチャンスでした。

キリオスのよかった1つの選択

ギャンブルプレーを試合の中盤見せてきました。1stセットを取ってなおこの選択をしてきたことは脅威です。

若手選手がBPやSP、MPを取り切れない試合が続いています。ティエム、ズベレフ、コリッチ…

守備的に行ってしまえば、少しの焦りを見せれば、上位はそれを見逃してくれません。

それと対照的にキリオスは攻めました。非常に怖かったし、2セット目の猛攻は見事でした。

結果的に勝つことはできなかったですが、彼の選択は決して間違ってなかったと思います。

あと2、3本要所でギャンブルショットを入れることができれば…今日ジョコビッチと試合をしていたのはキリオスだったでしょう。

キリオスのもったいなかった2つの選択

もったいなかった選択もありました。

まず、錦織が攻めた時、チャンスボールに対するキリオスの処理です。

これはリプレーなどを見るとわかるのですが、錦織が打ち出す2テンポ前くらいにキリオスは動き始めます。

この結果、脚力のあるキリオスはコースさえ読めれていれば完璧に追いついてポイントが取れるのですが、残念ながら錦織はしっかりキリオスを見てコース選択をしているので、すべて錦織が逆を突きウィナーになります。

同様のことは通常のラリーにも言えます。

キリオスはフットワークがいいので逆コースでもカバーできるのですが、その分動きだしにわかりやすさがあり、これと錦織の逆を突く技術のうまさ+逆を突きたがる性格が相まって逆を突くようなポイントがたくさん決まりました。

もちろんオープンコート側に錦織が決めるポイントもあったのですが、早く追いつきすぎてしまうカバーのケースでも空きコース側をケアする確率がキリオスは相当高いような気がします。統計取ってないですが、錦織のバックDTLのうまさもありますが単純にキリオスの読みが外れているケースも多々あったように思います。

そしてもう一つの選択が終盤のセカンドサーブです。

終盤のキリオスはセカンドサーブが増えただけでなく、セカンドでスピンサーブしか打っていませんでした。

そして錦織はこれに対応しました。下がってリターンを返し、そのリターンが深い。特に多かったのがキリオスのバックハンド深いコースに送ってチャンスボールを作る形。ブレークしたファイナルセット4ゲーム目がまさにそれでした。

なぜキリオスはこの選択をしたのか?キリオスには得意のダブル1stサーブがあるのにです。

理由は2つ考えています。

①普通に1stサーブの確率が悪いのでDF率が上がるのを避けるため

②錦織を警戒して

いつもの本質的には②なんじゃないかという話です。

①はセカンドでポイントが取れなかった以上、ラリーのUEがDFに変わるだけで、それでも1stサーブを入れてそこだけでもポイント取ったほうがよかったような気がします。私ならダブル1st打っていたかなあ。

では②はなんだったのか。これはマイアミでも書いたのですが、錦織のリターンをキリオスは相当警戒し、リスペクトしていると思っています。

そして前回のマイアミ。4ブレークを許したキリオスですが、実はそのうち2つのブレークはDFで献上しています。

ファイナルセットの場面、キリオスはこの時と同じ見えないプレッシャーを感じていたのでは?というのが私の仮説です。

そして手持ちの状況から、キックするサーブでリターンエースを防ぎつつ、スピンサーブを打つことで確実にDFを回避しに行った。

ただその選択が結果的には裏目でした。ブレークされたゲームはセカンドサーブ3本をすべて錦織が取りました。

錦織のリターンが素晴らしかったとはいえ、置きに行ったセカンドサーブが敗着の一つになりました。

錦織圭の「ジョコビッチ化」

ファイナルセット3-1、ブレークアップした錦織の1ポイント目でした。

バックハンドでクロスに返したあと、キリオスがやや読みを外す格好でバックハンドの厳しいコースに返しました。

次の瞬間です。

空中に飛んだ錦織は体勢を大きく崩しながらも体幹だけはコントロールし、作った打点の面を崩さずにバックDTL。

意味が分かりませんでした。

これをできる人はツアーにもう一人しかいません。ジョコビッチです。

ジョコビッチは全豪OPでよくものすごい体勢のバックハンドを打って、その写真がメディアに載ります。

これらが恐ろしいのが、ディフェンスショットのはずなのにオフェンスショットなのです。

それだけではありません。キリオスの豪打を幾度となくかわし、ラリーの中で気がつけばオフェンスに転じ、キリオスを振り回しているのです。

簡単に書いていますが、フォアのフラットショットの威力はツアーで片手に入るキリオスです。

そしてこのラリーでじわりじわりと攻守を入れ替え、ディフェンスから主導権を握るプレーはジョコビッチそのものです。

新時代のクレーテニスの幕開け

衝撃です。あんなに打ち合うクレーテニスを私は見たことがありません。

マドリードサーフェスも影響していることはありますが、左右にウィナーが量産され、ものすごい精度でセンターとワイドにエースが量産される試合。リターナーも悪くないのに、です。

昔のクレーは後ろで打ちあってストロークの技術の比べあい、ミスショットの時に前に出て強打する、ドロップショットの多様など頭を使いながらじっくりやることが多かったのですが、この試合は違います。

激しい打ち合いの中で攻守の入れ替えもある。エース量産。

ディフェンスにクレー要素のある、ハードコートの試合でした。

錦織圭のクレー躍進の理由、それは長らく前に出てボールを打ち抜くアーリーヒッティングだと言われていました。

対策されました。多くの選手が攻める姿勢をクレーコートで見せています。

しかし昨日はどうだったでしょう。錦織がとった戦術はディフェンスから転じてのオフェンス。

それまでの間、錦織は下がっていました。

実は2週間前、奇妙だと思ったことがありました。

ナダル戦での話です。

錦織はナダルのエッグボールに下げさせられました。かなり後ろから猛烈な強打。

そんなの続くわけないと私が評した理由です。なぜ持ち味の前で捉えるテニスをしなかったのか、ナダルの時間を奪わなかったのか。

しかしそれが最後まで通った。

そして今日。キリオスのほうがむしろ前で打っていたんじゃないかというような試合内容。

ここで新しい仮説が出てきました。

――― 錦織圭、新クレーテニスの完成 ―――

攻めに特化した2014年、見事にマスターズ決勝に進みました。

今年は違います。攻めだけではなく守りです。下がりながらでもベースライン遥か後ろからオフェンスできるし、さらに驚異的なディフェンスからジョコビッチのように攻守転換してウィナーが取れる。

一段も二段も進化したテニスを見せているのかもしれません。

そしてそのテニスに真っ向から攻撃的テニスで勝負したキリオス。

両者を称える言葉がいくつあっても足りません。

テニスはまた、私たちの知らない一歩先に進んだのかもしれません。