two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

この1敗を「ただの1敗」にできるか(2016全仏4R)

5/29 現地16:30~(日本時間23:30~)

Grand Slam 2000 French Open

4R

[5]Kei Nishikori 4-6 2-6 6-4 2-6 [9]Richard Gasquet

痛い負けでした。

負け方の質がこれまでと違ったからです。

2月にクエリーに負けて以降、疑問の出る敗戦はありませんでした。いいテニスを発揮し、いい試合が行われたその結果での敗戦はどうしようもないです。

そういう敗戦が続いていたことは、地力の向上を予感させ、少なからず期待を高めていたと思います。

それが一瞬で崩れ去りました。

なぜこの試合がこれまでと違う敗戦になったのか?

試合は始めから少しこれまでの2戦と違う展開でした。

錦織のUEが目立ち、ガスケに先にブレークを許します。

しかしその後、すぐに取り返し、さらにブレーク。気がつけば4-2と、ミスが多かった内容としては意外なくらい先行していました。そしてデュースで雨による中断。

嫌な予感はありました。

リターンゲームから始めることが多い錦織にとって、この試合は先サーブスタートでただでさえいつもと違うリズムだったのかブレークされ、さらに中断後の再開は連続でポイントを落とせば即ブレークバック。

再開後、錦織のUE2本であっさりとブレークバックされ、4-3となります。

その後も全く勝負にならないラリーが続き、気がつけば6ゲーム連取となり1セットダウンの0-2。さらに流れは変わることなく、2セット目もあっさりと落とします。

3セット目は我慢してキープしていき、10ゲーム目にワンチャンスをものにしてブレークに成功しました。

しかし第4セットはガスケがもう一度吹っ切れていいストロークを披露。こうなってしまえば調子の悪かった錦織にはノーチャンス。試合は終わってしまいました。

試合を通じて特筆すべき流れを変える1ポイントはほとんどありませんでした。ガスケが終始ペースを掴んでいました。

3rdセットはワンチャンスを錦織がものにしましたが、ガスケが異常に落ちたわけでもありませんでしたし、ファイナルセットまで続くだろうと思っていました。錦織が上回るしかなかった。

しかし上回ることができませんでした。

調子が悪かった、中断による流れの変化、中断後ガスケがプレーを変えてきた

ということが多くのメディアや一般の方の敗因となっています。

確かにそうだと思います。特にガスケのコーチをしていたレジェンドコーチのブルゲラの洞察力には脱帽です。

初のGSベスト8に向け、気負いもあったガスケに対しいいアドバイスができたからこその、そこからのガスケでした。

本人のプレーも含め、ガスケのチームは勝利にふさわしかった。

一方錦織チームには策があったのか?ということが疑問となり、陣営批判を招いています。

これを私は奇妙だと思っています。陣営批判をしても意味はないからです。

その理由はこの後説明していきます。

軽視されている「マドリードの作戦が通用しなかったもう一つの理由」

同じクレーサーフェスである以上、マドリードやローマと同じ戦術でいけばいい

これが大方の論調であり、私もそうでした。

そしてその戦術とは、ガスケのバックハンドにスピンのかかった深いボールを集め、ガスケの効果的なバックハンドを封じ、必要に応じてフォアに展開するというものでした。

フォア攻めをすればいいという安直な考えの数段上を行く「効果的なボールを打たせなければいい」という高等な戦術でした。

今シーズンすべての相手に通用しているフォア逆クロスからのこのパターンがうまくはまった形が過去2回の勝利でした。

しかし雨の影響もあり球足が極端に遅くなりました。またガスケが下がったこともあって十分な体勢で打点も低いところからガスケのバックハンドを許し、過去6回の敗戦と同じパターンになりました。

このフォア逆クロスからの展開の破たんが一つの理由です。しかし錦織には「もう一つの防衛線」があったはずです。

そこが私が提唱したいもう一つの理由です。

万一ガスケにバックハンドDTLを打たれ崩されたとしても、クレーコートではこのパターンがあったはずです。

打たれても拾うことができる。

錦織は割り切っていました。

そしてバックのDTLを打たれても追いつき、そこからオープンコートのフォアクロスに打つことで一気にラリーの形勢を逆転させました。

試合を通じてバックハンド側同士のクロスラリーが多かったですよね。

錦織には意図があるとはいえなぜガスケは注文通りのラリーにお付き合いしたのか?

おそらく打てなかったんです。DTLを打ってもポイントにつながらない。

マドリードの試合後記事に書いたこれ。ガスケのバックDTL→錦織がフォアクロスで切り返す

このパターンがあったからこそガスケは仕掛ければ仕掛け返されることを恐れ、バッククロスでのラリーを選択しました。

しかしあの試合、ガスケはバックハンドウィナーに加え、バックハンドDTLで先に仕掛けて錦織を崩し、ネットに出てチャンスボールを決めるという形が多発していました。

なぜマドリードで実践できたことがより低速コートで、拾う確率が上がっているはずの全仏でできなくなってしまったのか?

この答えは2つあると思います。

①まだ片手バックのコースの読みがよくないため、前回と違い十分な体勢で打たれると1歩目が遅れる

②3回戦の疲労が抜けていない

いつも通りの本質は②にあるという話です。今回は①もそこそこありそうですが。

この試合の錦織はなぜか反応、フットワークが悪かった。

バッドコンディションなので足の動かし方、スライディングでの取り方とかがいつもと変わって来るとは思うんですが、それにしてもあまりよくなかったなと。

だから、実は3回戦があそこまでもつれていなければ、バックDTLを打たれても拾うことができ、そのまま主導権を入れ替えたラリーができたのかなと思います。

UE多発癖に見える「奇妙な傾向」

この試合を語るうえで外せない内容が「UEが多発し、それが最後まで変わることがなかったということです。

珍しく試合実況をしていた私のツイートがそれを物語っています。

G5 圭 1-4〇〇 FBO× BSOst 惜しい× DF〇 B宇宙 助かった× FSORVcr 致命的× FNERVcr 象徴的— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月29日

G6 ガ× FBO× 見てなかった×× FRTBO 〇〇〇 BstRVcr 今日一番〇 FBO 1球差 思いきりはよいガスケ〇〇〇 FRVcr 怖かった× BNEcr この場面で論外× BSOcr 惜しい— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月29日

昨日の実況、今分析作業してたら役に立った。3セット目の開始6ゲーム中、いわゆる「平行カウント」は4ゲーム。そしてそれを全て落としてる。— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月30日

ファイナルセット、錦織は30-30、デュースというカウント自体は結構迎えていました。

しかしです、なんと第5ゲームと第6ゲーム、2ポイント先に取ればゲームを取れるというこのカウントで、錦織は4本すべてUE、しかも致命的と書くほどのイージーミス。(×は錦織のUEという表記です、FEは××、ガスケウィナーは×××、錦織ウィナーが〇〇〇、ガスケFEが〇〇、ガスケUEが〇です)

これらの4本は打点に入り、コントロールできる状態で打ってのミスなので私はUE判定としました。

みなさん映像が残っていたらチェックしてほしいですがほとんどの方がUE判定になると思います。

これこそが致命的です。どのポイントでUEを出してももちろんいけませんが、要所のカウントでUEが頻発しているのですからそれは勝てません。負けるべくして負けたのはこういったところにあります。

さて、このようなUE多発の自滅負けに分類されるような試合は久しくありませんでした。

クエリー戦は意見が割れるところですが、そもそもサーブとリターンが壊滅状態でまた違った評価になります。

この試合のスタッツを見ていて、私はあることに気が付きました。

あー 全豪ジョコ戦ね なるほど考えてたらなんか見えてきたUE連発修正できない、たまにウィナー出るからスタッツが思っている以上に悪く見えない錦織W=錦織UE=相手W>>>>>>相手UE全く同じ構図だ— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月29日

攻めているのでウィナー自体はある程度出ているため、試合終了後のスタッツがそんなに悪く見えない。

実はガスケ戦、錦織のウィナー/UE(以下W/UE)は40/45。聞くとびっくりするのではないでしょうか。ウィナー40?そんなにあったか???そしてUEとそこまで変わらない…

この感覚に覚えがあると思ったら全豪ジョコビッチ戦でした。

  自分W/UE  相手W/UE

全豪 31/54 22/27

全仏 40/45 36/19

と思ってデータを調べてみたがちょっと毛色の違う試合だった…

ただ言えるのは、自分のほうがW/UEの割合が圧倒的に悪い。

特に最後までUEがなくならなかったのは非常に疑問でした。

考えてみましょう。

今シーズン数多くの挽回ゲームを生み出し、MPをしのぎ、勝負強さもBIG4には及ばないにしてもトップ10としては十分、修正力も身についてきたしセット内でまずくなってもしっかり即ブレークバックで修正したりしている錦織が、試合時間が長く修正する時間ならいくらでもあるはずの5セットマッチのGSで、最後まで修正できずに崩れる、これは実に奇妙なことです。

しかもこのケースが上位選手とのGSという対戦で2大会連続で続いたこと…実に奇妙です。

この原因を考えてみました。

ここでまず出てくるのはみなさんの多くがコメントを出している「GSで背負いすぎ」という意見です。

これは半分そうだと思います。やはりテニス選手にとって最高の名誉はGS。肩の力は入ります。

だけどそれだけではない、とも思います。

3セットマッチであれだけの挽回ゲームを見せる錦織なら、5セットマッチで上位選手相手にも挽回ゲームを見せたっていいじゃない。と思いますが現実はそうではない。

振り返ってみると錦織圭のGSでの挽回ゲームは、2セットダウンから巻き返したエブデン戦、ヒラルド戦くらいで、上位選手相手に挽回ゲームがほとんどありません。

あの全米OPは、ワウリンカ戦、ラオニッチ戦が1セットダウンだったくらいで、2セット目は取り返しています。

ここで気が付きました。

結局、上位選手同士のタイトなゲームでは、2セットダウン=負けということです。

歴史的に振り返っても、GSで2セットダウンから逆転勝ちした事例はほとんど見かけません。

もちろん今回の全仏であれば、マレー×ステパネクやダニエル×クリザンなど、2セットダウンからの逆転勝ちの試合があります。しかし、QF以上で高いランキングの選手同士の試合で、そんな試合が最後にあったのはいつでしょうか?ここ数年そんな試合はほとんどないのです。(14全米のフェデラー×モンフィス戦が思い出されましたが…)

これを裏付けるようなことが今回の全仏でも2回ありました。

QFのマレー×ガスケ戦、ガスケ1セットアップの後の第2セットもタイブレークに。

このタイブレークはプレーも素晴らしく、両者絶対に落とせない空気の中マレーが取って1セットオール。その後は力尽きたガスケに対しマレーが一方的に主導権を取りセットカウント3-1で勝利。

そして決勝です。キャリアGSを達成したジョコビッチも第2セットに賭けていました。

マレーは猛攻を仕掛け、初優勝のプレッシャーのかかるジョコビッチから1セット目を取り、第2セットも先にBPを握る。

しかしこのセットを取ったのはジョコビッチ。1ゲーム目をなんとかキープすると6-1でセットを取り、プレーレベルを取り戻し主導権を握りました。そのままセットカウント3-1で優勝。

マレーにしてもジョコビッチにしても、2セット目の重要性を理解していたからこその逆転勝ちなのでは、と思います。

翻ってこの日の錦織。インタビューを聞くと「自分のミスが多かった」と状況は把握しているものの、一方でWOWOWの中継では、試合後にフランスの新聞記事をフローラン・ダバディさんが取り上げ、新聞記事からの引用としてダンテ・チャン両コーチは辛抱強く戦うことをアドバイスしたにも関わらず、「それができなかった」とおっしゃっていました。

※コメント欄上で議論があり、錦織が意思として攻めのスタイルを気付いたか、コートコンディションの影響でディフェンシブなプレーをしたくてもすることができなかったかがわからない結論となりました(一般人が与えられた情報だけで知れる限界を超えてしまった)。なので、本文を訂正しました(2016.6.12 23:00ごろ)

さて最初に書いたようにここが私はコーチは関係なかったということを言った理由です。

ダンテ・チャンは正しい戦術を提案していました。雨で重いコートで不要に攻めて負けた選手、負けかけた選手は今大会他にもたくさんいます。

結局、テニスとは自分でしか未来を切り開けないものなのです。

どれだけ優秀な人が周りについても、本人のプレーのマインドセットが変わらなければ何も変わりません。(が、今回に関してはどうしようもなかった可能性もあります)

この攻めすぎて負けるパターン、自滅癖は以前から時折顔を見せます。

ではなぜこのパターンが繰り返されるのか?そしてこれが3セットマッチで出ず、5セットにばかり出る理由とは?

私なりの持論ですが、こんな仮説を出してみました。

負けに対するぎりぎりから発生される挽回力は、GSでは意味がない

実は錦織圭のMPからの逆転勝ちには驚くべき性質があります。

それは、ファイナルセットでのMPしのぎからの逆転勝ちは多い割に、セットを2つ以上取る必要がある相手MPからの逆転勝ちがないことです。

振り返ると、マドリードのキリオス戦も2セット目でMPは迎えていません。フォニーニ戦はファイナルセットのSFM。マイアミのモンフィス戦もファイナルセット自サーブの相手MP。イズナー戦もファイナルセット自サーブの相手MP。

歴史を見ても、セットカウント0-1相手MPや、セットカウント0-2or1-2の相手MPからまくった試合は長いファン歴ですが見たことがないです。

またここ最近の対BIG4との対戦を見ても、劣勢カウントからブレークして追いつく事例はありますが勝てません。

こういったことから、追いつくまでに近いカウントかつ負けが近い状態で挽回力が発生すれば勝てるものの、追いつくまでに遠いカウントから挽回力が発生しても、上位相手にはもう時すでに遅し、ということが起きているのではと思います。

小難しくなってきましたが、要するに、錦織のマインドセットとして、仮に1セット落としても自分の調子を上げることを優先し、攻めのテニスで調子を上げようとして、2セットダウンになって負けが近づいてきたあたりから挽回力を働かせるも時すでに遅し、というパターンがあるのではと思うのです。

2セット目、雨中断再開で流れが切れているとはいえ全くプレーのスタイルが変わりませんでした。

錦織が攻めるときはウィナーを量産し、自分のストロークからリズムを作ろうとする時です。

しかし雨で重いコート環境下でそれはうまくいかず2セットダウン。

デ杯マレー戦、去年のツォンガ戦、そして今回。3rdセットから少しずつ持ち直してきても結果は負け。

5セットマッチにおける1セットダウン後の2セット目の重要性を、錦織圭は理解していないのではないでしょうか。「落としてもまだ負けではない」ではないのです。

とにかくGSで負けたことは痛い。ポイント勘定では、GSのあるラウンドで1敗することは、MSの同一ラウンドで2敗することと同義です。

主要大会の連続ベスト8も止まりました。レースランキングの下には4強に入ったティエムがやってきました。

一気に正念場に引き戻されました。

この1敗を、ただの1敗にできるか。

けがで失速し、一気に苦しんだ昨年の二の舞は絶対に避けたいところです。

空気は悪くなってきました。同じ匂いも少し感じます。

ただし、今年の錦織圭は違う。

3~5月のこの言葉が真実になることを祈りましょう。