この遠き死闘のその向こうに見える「栄光への階段」の一歩目(2016五輪QF)
8/12 現地15:15~(日本時間翌日3:15~)
QF
[4]Kei Nishikori 7-6(4) 4-6 7-6(6) [11]Gael Monfils
saves 3 match points
言葉が出てきません。
私も冷静でした。ここ最近試合途中でも動じなくなってきました。あのローマのファイナルセットのタイブレークですら、です。
しかし今日はファイナルセットタイブレークの6-6になった瞬間、手の震えが止まらなくなりました。
1セット目は想定していた展開とは違ったものになりました。
モンフィスは下がってプレーをしました。いつも通りのディフェンシブなプレーでしたが、その次の矢がなかった、という印象でした。
後ろからうまくつないでいくのですが、一定確率で(錦織が攻めているボールとは関係ない自発的な)ミスが出ると同時に、オフェンスに転じるラリーがほとんどありませんでした。
マイアミの時になぜあの接戦を生んだか?というと、ファイナルセット錦織が一旦リードした後に、確率を無視するようなモンフィスのフラットの強打が入り、そこでモンフィスが勢いづきました。
実はモンフィスのプレーのカギを握っているのはディフェンスではなくオフェンスなのでは?というのが最近の私の見解です。
オフェンスでいいプレーが出ることで乗って行ける。そのためにはもう少し早い段階で切り返しのカウンターであったりリスク無視の強打を混ぜていくべきだったかなと思います。
またマイアミでは好調だったセカンドサーブのアタックも3~4割程度しかコートに返っていない感じがしました。
普通にやっても5割程度セカンドサーブリターンからポイントが取れるのですから、明らかにこれは失敗です(と、モンフィスに対してコメントしていますが、時々錦織もこうなっているので本人に考えてほしいところです…)。
一方錦織は試合全体としてサーブ&リターンに苦しみます。
自らのサーブでは確率が悪く、リターンはモンフィスに毎ゲーム2~3ポイントのサービスポイントを許すような展開。
ラリーではかなり押していただけに、苦しいゲームが続くのは非常にもったいなかった。
象徴的なのが10ゲーム目でした。このゲームでは1stサーブが10本中3本しか入らず、BPでも2ndサーブを迎えました。
しかしこのロングラリーをフォアハンドをふかしてミスしてしまうと、最後も2ndサーブのリターンミス。もったいない形でのタイブレークとなり、また12ゲーム目はモンフィスが1stサーブを入れてラブゲームキープしたこともあり、一気に雲行きが怪しくなりました。
タイブレークは錦織の1ポイント目が大きかった。1セット目を象徴するようなモンフィスを先に動かして最後はウィナーを決めるポイント。ここをミニキープでスタートできたことで同じように入れました。
その後はお互いにリターンポイントも取りながら錦織から見て5-3へ。ここで錦織がDFを犯します。
やってしまいました。ここで6-3にできればかなりの確率でセットが取れる場面、一気にミニブレーク数で並ばれました。
実は「タイブレーク5-3リード側サーブ」という場面はこういう側面があります。
リードする側が取れば相手サーブ相手サーブ自サーブの3SP、ビハインド側が取れば相手サーブ相手サーブを連続で取れば、一気に相手のSPになります。
これで一気にわからなくなったと思ったこの次のポイント、モンフィスは2ndサーブでセンターにいい球速のサーブを打ち、錦織のリターンは浅くなりました。
しかし次のモンフィスのフォアハンドが力なくネット。これが1つ目の分岐点だったように感じます。
本当に何でもないボールでしたが、浅くなってバウンドが低かったこともありモンフィスが焦ってしまいました。
次のポイントも回転をかけたサーブを錦織がうまく返し最後はバックハンドの威力で押し込んでモンフィスがネット。1セット目は錦織が取りました。
全体的に錦織が押していた第1セット、3SPを10ゲーム目で逃してしまったことからもなんとしても取りたかった1stセットを取りました。
そして次のゲーム、いきなりモンフィスのサーブをブレーク、1-0とリードしますが、なんとここから二度30-0から(うち1つは40-0から)ブレークされてしまい、第2セットを落としました。
この2つのブレークはなぜ起きてしまったのか?ですが、私は特に1つ目のブレークがよくなかったと思っています。
30-0とリードしたところまでは展開も十分、このまま2-0にできるプレーをしていました。
しかし30-0でのドロップショット、この選択がよくなかった。
スローで見るとモンフィスは空きコートをカバーしようと、かなりドロップを打つ側のほうに走っていました。それにもかかわらず近いコースに打ってしまい、追いつかれました。
その後錦織は1stサーブが入らず、押していたはずなのに6度のデュースで根負けしてしまい、1-1となります。
同じ1-1でもキープキープで来る1-1と、ブレークブレークで来る1-1では後者の方が動きがあったので危険です。ましてモンフィスですから。ここでモンフィスは生き返りました。
次の3ゲーム目で錦織がチャンスを掴めなかったところで流れは一変。ここからはモンフィスのサービスゲームが安定します。
錦織はリターンとラリー両方いいゲームを作ることができず、ブレークできません。ややサーブが安定したことでキープはできますが、10ゲーム目はモンフィスのプレーが単純に上回りました。唯一悔いるのは40-15からのチャンスボールのミスでしたが、突如としてモンフィスのストロークスピードが上がり錦織は防戦一方。仕方なかったポイントも多数ありました。
ファイナルセット。前のセットから9連続ポイントとなりモンフィス1-0となった2ゲーム目、このゲームをキープしたことで何とかファイナルセットを勝負するセットにしていきました。
その後はモンフィスがサーブを中心に組み立て、錦織はBPも迎えることができません。
一方錦織はモンフィスの猛攻に合いますが、お互い疲れが出てきているのか、錦織にも拾いきれないミスが出るもののモンフィスもイージーミスが少しずつ出始め、何とかキープしてタイブレークに入ります。
そして、おそらく今シーズンのハイライトとして何度も語られるであろう「伝説のタイブレーク」が幕を開けます。
私は安易に持ち上げる単語を使いたくありません。当ブログで伝説という単語を使うことは非常にまれです。調べてみたら3件しかなく、パワースマッシュの話題とフェデラーとナダルのライバル関係、フェデラーの選手紹介で使っただけでした。
当ブログで初めて、錦織のことに関して「伝説」という単語を使います。それほどの、震えるタイブレークでした。
錦織、モンフィスともに疲れていました。お互いに守備範囲は序盤から比べると落ち、踏ん張れないようなポイントも出てきていました。
1本目、ロングラリーをモンフィスが取ります。
2本目、3本目は錦織のミス。どちらも踏ん張れていないためにボールをコントロールできないことによるミスでした。
そして4本目はエース級のサーブ。0-4となります。
この瞬間、私は次のつぶやきをしました。
0-4はまくれるぞ!!!!!!— twosetdown (@twosetdown) 2016年8月12日
実はこの趣旨の発言、一度目ではないのです。
フェレールにタイブレ0-4からまくった男だろ 信じてるぞ— twosetdown (@twosetdown) 2016年3月6日
0-4からまくった錦織を信じろ— twosetdown (@twosetdown) 2016年5月14日
デ杯、ローマSFでもつぶやいたこの言葉、その背景にはデ杯のツイートにあるように、2014パリMSのQF、フェレール相手に1セットダウンのタイブレーク0-4からまくった、その試合があります。
あの場面、錦織のキャリアでも有数の重要な試合であのまくり、挽回力。
そして相手のミスはあったもののミルマン戦で0-4からまくったばかり。
私にとって、このタイブレーク0-4は数奇な数字といってもいいのです。
またこの0-4の5ポイント目はモンフィスのサーブ。内容的にもここで1ミニブレーク返せば1ミニブレーク差。一気にわからなくなってきます。
逆にここを0-5にされればさすがに私も試合を投げます。思うに0-4のカウントは逆転する最後のチャンスのように思えるのです。
私もあの4ポイントの厳しい内容を見てなおこのツイートをしたのは、このポイントが運命を分ける、そんな気がしたからです。
ラストチャンスだ。
そしてそのラストチャンスも追い込まれて錦織はロブを上げました。本当に終わった。そう思いました。
しかしモンフィスのスマッシュを返すとそれがネットイン。ネットに出たモンフィスに対しパッシングか?と思ったタイミングでの絶妙のロブ。
ミルマン戦と同じ匂いがしました。0-4からナイスプレーで1本ミニブレークを返す。
何かが起こるかもしれない。そんな予感がふつふつと頭の中をよぎりました。
次の一本。モンフィスにバックハンドを意識させながら左右に振る展開でミス。序盤でラリーを支配できたいい形をここで出しました。
疲れていたように見えていたのはなんだったのか。高い精度、実施でモンフィスを振り回します。
そしてチェンジコート後の次のポイントでした。勝負に行ったモンフィスのセカンドアタックがネット。
序盤に書いたように今日を象徴する一本でした。これが決まっていれば結果論7-2で終わっていましたから。
ミニブレーク1本差で迎えたモンフィスのサーブでしたが、ここでエース級2本。6-3。再び絶体絶命です。
先ほど解説したように、「5-3リード側サーブ」をモンフィスは渾身のエースで切り抜けました。
ここで1本返さないと厳しいと思っていましたが、後がなくなりました。
3-6から迎えた錦織の2本はシンプルでした。サーブから崩していい形でのポイント。
特にフォアハンドのストレートで展開するパターン、MPで非常に勇気がいりましたがファイナルセット幾度とない苦しい場面でこれを取っていました。自信があったのだと思います。
そして5-6。モンフィスのダブル1stによるDFでしたが、私はこのモンフィスのDFは決して批判したくありません。勇気を持って踏み込んだ素晴らしい判断だったと思う。しかし結果がDFになっただけです。
ではなぜダブル1stを選択したのか?まだこの場面、冷静に判断していた私はあることに気が付いていました。
この試合、錦織がモンフィスに対してずっと前でリターンし続けていました。
正直リスクテイクとしてあっていないと感じるほどでした。リターンミスを毎ゲーム数本して、モンフィスを助けていました。セカンドもほぼ踏み込んで打つリターンでした。なぜそこまでする必要があったのか、と。
しかしこの場面でついに錦織は下がりました。しかも構えている位置を見ると、ワイドにやや隙があるような構え方に見えました(このあたりはやや主観入ってます)
ぜひ映像が残っている方は見てみてください。それまでとは異質なほどに後ろに構えています。
そしてモンフィスの1stサーブに対し、フォルトだったものの錦織はきっちり反応してフォルトだったので見送っています。
そしてセカンドサーブ。モンフィスは先ほどのリターンの構えを見て、錦織は返してラリーにつなげてくると判断してダブル1stを選択したのでは?と私は思いました。
これは仮説レベルで、モンフィスに聞いてみたいのですが聞けないので、仮説どまりです。
モンフィスにとっても4-0から6-5まで追いつかれ、4-3からの2ポイントを救った1stサーブも来ない。リードしているにもかかわらずかなり追い込まれていたと思います。その判断があのダブル1stでした。
6-6になり、ついに試合は2ポイント差がつく、たったそれだけで終わる場面へと変貌しました。
そう、この地点で両者のポイントは116対116。全くの五分でした。
次のポイント。モンフィスはディフェンシブなプレーを選択。これが命取りになりました。
先に仕掛けた錦織はドロップショット。モンフィスは拾ったものの十分な体勢で錦織がパッシング。狭いストレートコースを完ぺきに打ち抜き、モンフィスが返せませんでした。
最後はモンフィスがバックハンドをアウト。なんと5連続ポイントで大逆転。試合は終わりました。
信じられません。伝説のタイブレークだけを振り返ってもとんでもないプレーの応酬でした。
特にモンフィスが4-3から2本エース級を打ったところといい、最後まで力のこもった激闘でした。
勝因はなんでしょうか。0-4からの挽回は何度もありますが、体力も厳しい中精神力で乗り切り、実質的に失ってはいけないポイントを全く失わずにタイブレークを逆転した錦織が勝者にふさわしかった、ということでしょうか。
この熱戦を繰り広げた両者に敬意を表して終わりたいと思います。
これでベスト4が出揃いました。
ナダル、マレーのBIG4に対しデルポトロ、錦織の「ポストBIG4」が挑む形です。
ジョコビッチの敗退は残念でしたが、役者は揃った、というところでしょうか。
特に錦織はこの3人に対し合計して通算2勝19敗。苦手選手しか残っていません。
マレーは特にその一人でしょう。錦織の攻撃をうまくいなしてきます。
ではそのマレーにどうやって勝つのか?準決勝プレビューです。
マレーは今大会かなり疲れています。ジョンソン戦では6-0と第1セットを取りながらそこから大苦戦。一時はファイナルセット1ブレークダウンという場面に遭遇しました。
ジョンソンはフォアハンドで豪快に攻め、デルポトロがジョコビッチを倒した時のような感じでマレーを追い込んでいきました。
錦織に求められるのもそのプレーなのかな?と思います。
錦織も正直しんどいです。3時間近い激闘から24時間空かずに準決勝です。
これはマレーがミックスダブルスで残る可能性があったためで仕方ない決定です。マレーも錦織の激闘の裏でミックスの試合をやっていたので恨みっこなしです。
錦織は攻めに振ったほうが今回はやりやすいのかなと。一歩間違えるとUE連発なので難しいのですが。
またマレーはジョンソン戦で中盤戦であまり見れなかったUE連発という姿が見られました。
攻めていくことで引き出すのもそうですが、マレーの内容次第ではじり貧のラリーでもチャンスが見えてくるかもしれません。
ただ、マレーは錦織に対してきっちり戦術で対策してくる選手であり、また今大会錦織の1stサーブの確率が悪く、セカンドアタックしやすいという状況からも、勝率は10%程度とします。
辛くないですかと言われそうですが、勝率五分と語ったモンフィス戦はまさにそんな内容でした。
私は勝利に奢ることなく、厳しい時は厳しいと言ってきました。今回ももちろんです。
ただ、五輪に賭ける錦織の想い、十分に昨日見ました。私はもとから本人のインタビューの強い意志から推察して五輪出場肯定派でしたが、本当に出てよかったと思います。国民にこの激闘が伝わったと思います。いままでBIG4しか知らなかったような人にも今日のモンフィスのプレーは届いたと思います。ATPツアーは上位選手でもこんな死線を何度もくぐっているということも、少なからず伝わったと思います。
今日の勝利がどれだけ大きかったか。あまりテニスを見ない人の「接戦に弱い、メンタルが弱い、だからBIG4に負ける」という謎の理論もこれで打ち砕かれたことでしょう。
最後に、私が五輪に賭けていたもう一つの理由を少し話して終わりたいと思います。
そのキーワードは「4年前」です。
4年前、BIG4と呼ばれながら、他の3人に屈し続け悲願のGSを獲得できず、国民全体の期待を一身に背負っていた男…そうです、アンディー・マレーです。
マレーと錦織の境遇は似ているところもあると思います。
当時からマレーはMSでばんばん優勝していたところは違いますが、何度もGSのQF~SFでBIG4などに負け続け、自国に他に優勝できそうな選手は皆無。一人で期待を背負い続ける…
そんな境遇は、今の錦織にも重なります。
そのマレーが飛躍のきっかけをつかんだのが4年前、五輪でした。ジョコビッチ、フェデラーを倒して地元のウィンブルドンで金メダル。そして直後の全米で優勝。
錦織にも、このマレーの後を追ってほしい。
ドローが出る前からの率直な気持ちでした。
だからこそ、マレーとの対戦は必然なのかもしれません。
越えなければいけない壁。BIG4に勝ってメダルを掴むこと。
キャリアにおいても重要な転換点を迎えるかもしれない試合が幕を開けます。