錦織圭に対する「勝つための最適解」を見た(2016五輪SF)
8/13 現地12:00~(日本時間翌日0:00~)
SF
[4]Kei Nishikori 1-6 4-6 [2]Andy Murray
感じた絶望は、想像以上でした。
何をやっても勝てない、そんな感覚がありました。
しかしその絶望感の原因は何か?実は思っているより錦織自分自身にありました。
試合を通じて気になったポイントはありません。大局的な話をする方が理解しやすいと思います。
・マレーの1stサーブがよく入った
・錦織にリターンミスが多かった
・サーブはそこそこ入っているが、マレーがほぼリターンをメークし、ラリー戦になった
・ラリー戦では錦織の攻めのほうにリスクがあり、ほとんどの場面でじり貧だった
4つともすべて大事です。ここに凝縮されていると思います。
ではその4つのポイントを数字で振り返っていきます。
順番は前後しますが、まずラリーの内容です。
この試合、マレーはフラット系の強打を多用していました。これがうまかった。
このコートはためて強打を打つことが可能な遅めのハードコートです。
デルポトロの勝利や前日のジョンソン戦でマレー自身が受けたジョンソンのフォアからの猛攻を考えると、マレーは全部守っていては錦織に攻められたときに守勢に回り、最後まで決められるという可能性を強く考えたと思っています。
そうして出した結論が攻めるということです。
ただしマレーは無理をしていません。
映像を振り返るとわかりますが、クロスラリーの打ち合いで同じクロスに強打を打つ、打ち込まれたときにつなぐボールをゆるくする代わりに錦織のいないコースに打って時間を作るなど、リスクをあまり必要としないプレーを心掛けています。
一方錦織はクロスラリーの打ち合いからフォアストレートに強打したり、厳しいコースに打ったりして自分でUEを積み重ねています。
BIG4に対しUE連発では勝てないとプレビューで書きましたが、まさにその展開になりました。
ラリーの時にマレーは緩やかに攻めを加速させている印象なのに対し、錦織は一打目の攻めの配球に確実に崩そうという意識を振りすぎている印象があります。これではリスクを取った分ミスが出てしまいます。
これではじり貧なのです。ましてや疲れもあった場面で錦織が攻めの判断をしてしまったのは痛い。遅いコートなのですから、攻めは丁寧に行かないとUEの本数は勝手に増えていきます。
次に両者のリターンです。
この試合、マレーのエース本数が3本と言ったら結構驚く方もいるのではないでしょうか。しかし事実です。
私も倍の6本くらいはあるかなと思っていましたが、決してそんなことはありませんでした。
つまり錦織はラケットには触れているのです。ただそのリターンが返っていないことでゲームを苦しくしている。
そしてこの状態は、実はモンフィス戦からずっとでした。
当時のツイッター実況を振り返ってもさかんにリターンミスについて言及しています。
リターン返さないと何やっても勝てないよ…— twosetdown (@twosetdown) 2016年8月12日
リターンミス2本してどうやってブレークするんだよーマインドセットマインドセット— twosetdown (@twosetdown) 2016年8月12日
とにかくリターンミス毎ゲーム3本やってどうやってブレークするの— twosetdown (@twosetdown) 2016年8月12日
攻め自体は悪くなかったとにかくリターンミス減らして— twosetdown (@twosetdown) 2016年8月12日
何度も言及しているのには理由があります。
錦織はラリー戦でよほど調子が悪くなければほとんどの相手に5割以上ポイントを取ることができると思っています。
つまり2回そういうゲームを作れば絶対にブレークできるのです。
これがどんなにサービスゲームがひどくても、だいたいBIG4から1試合必ず1ブレーク以上してきた錦織のラリー力なのです。
気になったのでこの試合のリターンミスを錦織とマレー両方調べてみました。
1stリターンメーク 2ndリターンメーク トータルメーク率
錦織 24/38 8/12 32/50=64%
マレー 26/30 15/18 41/48=85%
なんと20%も違うのです。そして驚くべきは1stサーブ26/30=87%という返球率です。実は1stセットは1st/2nd合わせて20本すべてリターンをメークしています。
錦織も悪くはないのですが、マレーの1stサーブだけで14ポイント決まってしまっています。
もっと言うと、2ndリターンのミスも加えれば18ポイント、さらにDFも入れれば2ポイント加わって20ポイントです。
ただあのマレーが素晴らしいプレーでもリターンミスするようにミスはつきもの。全部なくせとは言いません。
しかしBIG4相手のマレーに対し、サーブを打てば36%もポイントを献上するようでは、マレーのサーブに全くプレッシャーがかかりません。
特に2ndサーブは本数が少なかったのもありますが、ポイント獲得率50%以上を目指したいのに8ポイントで6ポイント以上取らないといけません。さすがの錦織でもそんなのは無理で、事実2ndサーブリターンのポイント獲得率は5/12=42%です。逆に言えば、リターンメークさえすれば2ndからは5/8=63%取れているのです。いかにリターンミスがもったいないか。
事実、総ポイントは錦織39-61マレー。22ポイント差は大差のように見えますが、10ポイント自分のポイントに変えるだけでいいのです。そうすれば49-51となって途端に接戦。
つまり錦織は、リターンミスした18本のうち半分をメークに変え、そのうち半分取るだけで5本程度、さらにDFを2本なくし、そのプレーのうち1つ取ってもう1本、さらにマレーから2~3本リターンミスを引き出させていればそれだけで2本程度、計8本自分のポイントに変えて47-53まで持ってこれるのです。
ちょっとしたことで、接戦に持ち込めるのです。
いやあのマレーのサーブのリターンミスを半分にするのはTSDきついだろおいと、そんな突っ込みが飛んできそうですが、私が今回これを力説しているのには理由があります。
マレーのエースは、3本しかなかったということです。
マレーはBIG4の中でもサービスが速い方。独特のフォームから打ち下ろされる軌道はマレーにしか生み出せないもので、特にセンターのオンラインのサーブは唯一無二です。
そんなマレーがエースを量産しなかったこと。そして、リーチの短い錦織にラケット自体には多く当てられたこと。
この二つからあることに気が付きました。
マレーはコースを突かなかったということです。
つまり錦織のリターン力を見て、マレーは1stサーブさえ入れればある程度の確率でサービスポイントになることを理解し、確率重視で1stサーブを打つことを判断し、実行したのです。
事実錦織は「打点に入りながら、うまくリターンできない」類のミスが目立ちました。
ラオニッチとかに隅にエースを打たれるのは私も諦めますが、有効リターンできる範囲内に来ながらリターンメークできなかった、そんなミスがモンフィス戦から目立っていました。
一方のマレーは1stサーブをリターンし、五分のラリーにしてしまえばあとはこっちのものとばかりにリターンゲームをプレーしました。
この差です。そしてこれは錦織の調子云々を議論したいのではなく、恒常的な問題です。
BIG4と違うのはラリー力ではないのです。サービス&リターン力なのです。
これを裏付けるようなことは今年何度もありました。
今年対戦のないフェデラー以外のBIG4全員にこれをやられました。1stサーブの確率を高くし、錦織からフリーポイントを生み出すことでゲームの主導権を掴んでいます。
私も錦織も2ndサーブリターン力は高く評価していますが、正直1stサーブリターン力に関してはBIG4に遥かに劣っていると思っています。
BIG4も、そこを突いているのです。
15年WTFのフェデラー戦ではフェデラーの1stサーブが入らず、14年WTFと同じようにサーブから押し込めなかったことが接戦となった理由でした。
錦織はセカンドサーブが増えれば確実にブレークし、試合をかき乱してくる。
それがわかっているからこそBIG4は「テニスにおいて唯一自分でコントロールできるサーブ」で1stサーブから入れに行くことで、錦織のチャンスを奪っているのです。ストロークというお互いが噛みあって効果が出てくる不確実なものではなく、自分で確率とリスクを制御できるサーブで錦織を封じ込めたのです。なんとクレバーな戦術でしょうか。
見事としか言いようがありません。私が漠然と思っていた錦織圭ののびしろでありウィークポイントを、BIG4は何も言わずに露呈させました。
これこそがBIG4の本当の強さなのだと思います。
やられました。対錦織戦の倒し方の最適解を見てしまったようです。
これを実現できるのは調子のいい上位かBIG4しかいません。
心配することはありません。モンフィスにも勝ち切って、今シーズンはBIG4以外に大きな負けはほとんどありません。
ただ、ここからの一歩を超えるためにはいつも言っている基礎基本、ここです。
まさにその基礎基本であるサーブとリターンで攻略されました。
ビッグサーブを打てとは言いません。錦織には錦織の勝ち方があり、そのキーがリターンです。
そして今日のナダル戦でもナダルは同じことをしてくると思います。
ナダルはIW同様1stサーブの確率を上げてくるでしょう。3時間近い死闘のあとの3位決定戦。できる限りローコストでポイントがほしいはず。2ndからラリーをすれば危ない場面も出てきますから。
これに対し、錦織はとにかくサーブ&リターンのクオリティを上げて対処するしかありません。
ナダルのサーブのリターンもそうですが、自サーブからのサービスポイント獲得率にも注目。
負けてもなお同じ大会で試合ができる。五輪ならではのこの状況を生かし、マレー戦での反省を生かして、形に残るものを持ち帰ってほしいところです。
正直、昨日の疲れから言ってかなり厳しいことは間違いないですが、いい試合を期待しましょう。