two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

【現地リポート】デ杯入れ替え戦に行ってきました

9/17 13:30~

Davis Cup by BNP Paribas

World Group Play-off Japan(Home,[8]) vs Ukraine

Rubber 3

Kei Nishikori/Yuichi Sugita 6-3 6-0 6-3 Artem Smirnov/Sergiy Stakhovsky

Rubber 4

Taro Daniel 3-6 7-5 6-1 Artem Smirnov

Rubber 5

Yoshihito Nishioka 6-2 6-2 Danylo Kalenichenko

Japan 5-0 Ukraine

かれこれ錦織の公式戦を見に行くのは3年ぶり。3年前もデ杯でした。

エキシビションのIPTLでは見ましたが、公式戦となると話は別。いわゆる「覚醒後」の2014年以降では初観戦となりました。

公式戦でさかのぼれば、2012年デ杯1Rビーンズドーム以来4年半ぶり。待ちに待った関西凱旋です。

本当は3日とも観戦するはずでしたが、金曜日はどうしても無理だったので土日の観戦となりました。

初日はシングルス2試合。オーダーから意表を突いた展開となりました。

まず、日本チームは錦織をシングルスから外すという大英断に出ました。

理由は植田監督がのちに説明している通り疲れのたまった錦織を温存するため、ですが、戦略的に練られたオーダーだと感じました。

プレビューでも書いた通り、このオーダーはは錦織を温存できるだけでなく、ダニエル、西岡に任せられる、そういった意味合いもあります。

試合後のオンコートインタビューでは「正直自信はなかった」と語っていましたが、全く勝てない見込みなら組めないオーダーです。私が監督ならおそらく錦織に懇願していたと思います。また日曜日の松岡修造さんの一人しゃべりの枠でも「自分はこんなチャレンジなオーダーはできない」と修造さんが語っていました。

また、ウクライナのチームメンバーを見ると、今回のウクライナチームはかなりがたがたしているということが予想されました。

ドルゴポロフが不在になることは、ドルゴポロフがテニス協会と仲が悪いため予想されたことでしたが、ダブルス国内トップのモルチャノフもメンバーから外れ、代わりに入ったのはスミルノフとカレニチェンコという正直私ですらまったく名前を知らなかった選手でした。

ここで日本が負けるパターンを考えたいのですが、主に2つあると思っています。1つが日本のシングルス2番手が相手国に勝てず、ダブルスも落とす、これが最もあるパターンで、次が錦織に勝てるエース格の選手が登場し、普通に負ける、です。

前者は2015カナダ戦など多数で、後者は2016イギリス戦が具体例です。

一方、勝ちになるパターンのほとんどが、第5ラバーで勝つというもので、2015コロンビア戦、2013コロンビア戦です。

例外はダブルスで勝った2014カナダ戦です。錦織2勝+ダブルス1勝ですが、これは錦織がダブルスに出ているので特殊な例です。

こうして考えると、相手チームから見た日本チームに勝つ方法は、シングルス錦織以外の3ラバーを取り切る

というのがほとんどの国での最適解になります。

錦織に直接対決で勝てるのは、トップ10かそれに近い実力を持っている選手がいるイギリス、セルビア、スイス、フランス、チェコ、カナダなど限られた国です。少なくとも、入れ替え戦に大陸予選勝ちぬき側から出てくるような国でこれに該当する国はないと言っていいでしょう。

そこでウクライナのオーダーを日本が錦織を出した場合とそうでない場合で比較しながら見てみましょう。日本の2番手はダニエルにしましたが、西岡の可能性もあります。

  予想   現実  ウクライナのオーダー

1 錦織  ダニエル  スミルノフ

2ダニエル  西岡   マルチェンコ

3西岡杉田 錦織杉田 カレニチェンコ/スタコフスキー

4 錦織  ダニエル  マルチェンコ

5ダニエル  西岡   スミルノフ

どうでしょう。第1ラバー予想は錦織×スミルノフになっていますが、過去2敗しているとはいえここにスタコフスキーを投入しても、あまり結果が変わるとは思いにくいのは明らかです。

つまり、ウクライナはこの地点で、第1ラバーをいわゆる「捨て試合」にして、第5ラバーにスタコフスキーを投入してスタコフスキーの体力温存を図ったのでは?と思われます。

しかし現実は第1ラバーにダニエル。ウクライナから見るとシングルスは理論上どのラバーでも勝てるようになってきました。

そこでウクライナは作戦変更し、デ杯ではあまりない初日のオーダー変更に踏み切ったのです。

これはリスクがあります。ボレーのうまいスタコフスキーがダブルスから外れることは考えにくく、この地点でウクライナはベテランのスタコフスキーに5セット3連投という暴挙を課すことになりました。

しかしウクライナは初日に2-0にできる可能性がぐっと上がりました。私もオーダー変更を聞き、初日は2-0から0-2までありうると思いました。

その初日で流れを掴んだのは日本でした。

ダニエルは攻撃的なプレーが光り、特にスタコフスキーの横を抜くパッシングショットが冴えわたりました。

第1セットのSFSをブレークして追いつくと、タイブレークを取り切ってセット先取。

さらに第2セットでも勝負強さを見せ、連続でタイブレークを取って勝負あり。

初日はかんかん照りとなり、この時期の大阪としてはかなり暑い方でした。日本選手のほうが暑さには慣れているので(といってもダニエル西岡は日本を出ている期間が長いですが)ウクライナの選手には厳しかったかなと思います。

3セット目は一方的な展開となりダニエルが勝利。奇襲をしかけてきたウクライナの気持ちを折る大きな勝利でした。

これで勢いが付きました。続く西岡も全米ベスト16のマルチェンコ相手にいいテニスを披露します。

すると試合は持久戦の様相に。1セットずつを取り合うとお互いに運動量が落ちてきます。

マルチェンコも、全米から通算して5試合目の5セットマッチ。疲れもたまっていたようで我慢比べの展開となります。

4セット目はショートポイントで決めたいので前に出るしかなくなったマルチェンコから西岡がパッシングショットを連発。逆転で取り、3-1で2戦目も日本が制します。

初日のいい流れを引き継いだ2日目は、錦織と杉田の急造ダブルス。一方ウクライナも初結成となるスミルノフとスタコフスキーのペア。

試合序盤は、ウクライナの杉田を狙い撃ちするという戦略がはまり杉田に硬さが目立ちました。

こう書くと聞こえが悪いですが、シングルスプレイヤーが参戦し、ダブルススペシャリストや不得手な選手と混在することが多いデ杯ダブルスでは常套手段です。2014年カナダ戦では日本もダブルス名手のネスターではなくダンセビッチを集中的に狙いました。

しかしここで杉田が奮起しました。

この日の杉田は素晴らしいプレーが多かった。自分にボールが集まり、試合の成否が決まるプレッシャーを感じながらもいいプレーが長い時間続きました。

特にパッシングショットとショートクロスの精度がよかったです。

錦織はあまりボールが回ってこなかったこともあり、なかなかリズムをつかむことができずミスも目立ちましたが、要所ではリターンエースやバックDTLでのパッシングショットなど見せ場を作りました。

これに対し、ウクライナがあまりやることがなくなってしまい、途中一方的な展開で11ゲーム連取となる場面もありました。

最後は若干日本チームにもミスが目立ちもつれましたが、アドサイドで錦織がリターンを構えることで、重要なカウントでウクライナがプレッシャーを感じ(なぜアドサイドが大事なのかはバルセロナ決勝記事を参照)DFを犯すなどウクライナは終始苦しい展開でした。

最後は錦織がボディーへのサーブを決めウクライナがリターンミス。日本が4年連続のワールドグループ残留を決めました。

3日目が完全にデッドラバーになるのは、2014年ワールドグループQFのチェコ戦以来2年半ぶり。日本3-0でのデッドラバーは3年半ぶりで、入れ替え戦以上のグレードでは史上初となります(ワールドグループと地域ゾーンが明確に棲み分けされて以降の記録に限定する)。

記録づくめとなった快挙に、ちょっと振り回されたのは観客の方だったかもしれません。

席数が少なくチケットが高騰する中、錦織も出ず勝敗も決まった3日目になるというのは予想外でした。

錦織目当ての人には残念でしたが、しっかりコート上でインタビューに応じ、松岡修造さんが雨の間1時間以上トークでつないでくれたので楽しめたのではないでしょうか。

私も少しその時の実況を残していますので気になる方はツイッターを参照ください。

2時間半遅れで始まったデッドラバーはダニエル太郎と西岡良仁のシングルス。

京都チャレンジャーにはあまり顔を出さない二人なので、実は私は生で見るのは初だったりします。

ダニエルはこの日攻撃的なプレーが好調だったスミルノフにかなり苦しめられます。

ソックにも勝ったループボールを交えたダニエルの粘りのテニスでしたが、この日は雨が上がった後ということもありボールが重たく、高い打点で打たせることができず逆にスミルノフに叩かれてしまうような形になりました。

またリターンをうまく拾っていたのですが、スミルノフが左利きのサーブを生かし、アドサイドでワイドに逃げていくサーブを打って、これが序盤は全部決まっていました。外に追い出しての3球目攻撃もあって、ほとんどBPも握ることができない展開となりました。

転機となったのはダニエルがパッシングショットのチャレンジに成功した第2セット第7ゲームでした。

このあたりからダニエルの粘りが勝り始め、少しずつ流れが変わりました。

ブレークバックされたのは痛かったですが、きっちり12ゲーム目をブレークしてセットオールに。その後は耐え切れなくなったスミルノフが簡単なミスを積み重ね、ダニエルが逆転勝利。なんともダニエルらしい勝ち方でした。

西岡はカレニチェンコとの対戦。カレニチェンコはこれがデ杯初登場。

カレニチェンコはやや緊張もあったのがプレーが安定しませんでした。

一方西岡はフォアハンドに威力がありました。きっちり回転がかかっており、スピードもありました。終始ペースを作り、カレニチェンコを寄せ付けませんでした。

今回の勝利は記録づくめの勝利となりました。

・西岡は初のデ杯での勝利

・杉田は初のダブルスでの勝利

・初の4人全員が有効ラバーで勝利

入れ替え戦以上のグレードでは初の3-0決着

・錦織代表入り以降、入れ替え戦以上のグレードでは初の錦織1勝以下での勝利

・錦織代表入り以降、入れ替え戦以上のグレードでは初の錦織シングルス0勝でのチーム勝利

錦織以外で2勝、しかもシングルスでの勝利。

日本に新しい勝ちパターンができたこと、加えて急務の課題である日本シングルス2番手の成長。

これが結果となって表れた今回の勝利は日本テニス史に残る歴史的な勝利です。

今後ドロー運次第では、デ杯ベスト4も現実味を帯びてきたと感じます。

ここからは現地で思ったことなどです。

・修造さん、すごかった

さっきも少し書きましたが、3日目は11時開始の予定が雨が止まず、中止もあり得た中開始を待つことになりました。

この間は止み間に、コート上の水を抜くためにスタッフと綿貫陽介くん(ジュニアの有望株で、今回日本チームに帯同)が出てきては戻るといった状況で、再入場が可能なので結構な人が外に出ていたと思います。

そしてここで出てきたのが松岡修造さん。デ杯2日間を振り返り、雨を羨みんで自虐ネタを披露、客席にいた少年をコートに上げて夢を語らせるなど面白いトークを続けながらなんとかつなぎ、WOWOW実況の鍋島さんにバトンタッチするも結局コートの水抜きをWOWOWの電波に普通に乗せ(びっくりしました)、解説に戻りました。

キャラ上いろいろ言われますが、今のテニス業界でこれができるのは修造さんしかいません。

本人も「テニスを見なくても面白くなるような大会作りをしたい」とこの時のトークで言っていましたが、こういったMCによって試合待ちの退屈さを減らすことに成功していました。

率直に、すごかったです。

・植田監督、よく仕事している

五輪の時に日本チームに帯同し、選手の特徴を記録していると思われるノートを持参し試合中も記録。もしかしてこの人はすごい人なのでは?と思っていましたが、現地でその凄さを実感しました。

ダブルスの試合前、曇り空だったのが晴れ間が見え始めると、すぐに近くにいたコーチ(トーマス嶋田さんだったかな?)と空を見ながら会話を始めました。

実はダブルスの最初の8ゲームのうち7ゲームは、サーバー側ではなく太陽が目に入らない側のサイドのチームがゲームを獲得していたのですが、こういったことも視野に入れながら分析していたのかなと思います。日本チームは晴れ間に積極的にロブも上げていましたし。

また、とにかくポイント間のジェスチャーが大きかった。ウクライナの監督はほとんど座っていたのですが、リードしても全く勢いを変えることなく立ち上がって手を叩いていました。コートチェンジ中はマッサージもしていました。

あと、どのゲームだったか忘れたのですが、杉田サーブの15-30の時に「変化、つけよう」という声がはっきり聞こえました。

ポイント間はわーわーなっているのでコートレベルでないと聞こえないところも多いので、たぶん本当は各ポイント何かアドバイスしてるんだろうなと思いました。

・観客について

結構周りは初めて来た人も多い印象でした。

「なんでまっすぐ狙わないんだろう」→ダブルスの戦型です

「あの人(スタコフスキー)はなんでにらんでるんだろう」→錦織が前で取った時にタッチネットしたように見えたからです

など、結構初心者だなーって感じの人がいました。

でもいちいち直接言うのはあまりにも野暮だしよくないと思ったので、赤いレプリカ代表Tシャツで観戦玄人感を出しつつ、正しいマナーで応援してこういうのがスタンダードっぽいよということを背中で示しました。

初観戦で不快に思われたらよくないですからね。まずはその人にとって気持ち良い空間で見てもらう。本当は最初から学んだうえで来てほしいけど、全員がそれというのは無理なのはわかっているし、少しずつ分かってもらえればと。

今回は関西で久しぶりの公式戦、かつデ杯ということでいろいろと環境が特殊でした。いずれにしても今回いろいろと観客について議論するのは難しいのかなあと。

少なくとも、ウクライナの太鼓応援団の人に乗っかったり、実質エール交換みたいな感じで楽しくやっていたので、全体としていい空気が作れていたかなと思いました。

・綿貫陽介くん

今回はデ杯サポートメンバーに全米ジュニアシングルス4強の綿貫陽介くんが参加しました。

3日目はコートの水抜きを手伝うなど、およそ選手とは思えないこともしていました。

しかし練習ではボールを打ったり球拾いをしたり、フューチャーズを回っていたら決してできない経験をしたと思います。

まだまだ若いですが、修造さんの即席インタビューコーナーでは今後のことも語っていました。彼の将来のデ杯代表入りにも期待です。

さて、来年のワールドグループ16ヶ国が出揃いました。

シード国はアルゼンチン、クロアチア、イギリス、チェコ、スイス、フランス、ベルギー、セルビア

ノーシード国はオーストラリア、カナダ、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、スペイン、アメリカです。

シード国とノーシード国が1回戦を戦います。

日本から見た戦いやすさで言うと

フェデラーワウリンカ抜きスイス>マレー抜きイギリス>>ジョコビッチ抜きセルビア>>ベルギー>クロアチアチェコ>アルゼンチン>フェデラー抜きスイス>>イギリス>セルビア>>フランス>スイス

です。2番手シングルスが勝てるかどうかと、錦織が第4ラバーで勝てるかどうかで分類しました。

安定してきついのはフランス。どうあがいても2番手がトップ20クラスの選手で固めてくるので、今の日本チームでもきついでしょう。

スイスはフェデラーワウリンカが出てくれば厳しいんですが、果たして今回は出てくるのか…

アルゼンチンはデルポトロに加え2番手が強い。

楽だと言えるのはベルギー以下ですかね。ベルギーはゴフィンに次ぐ2番手が100位付近の選手なのに加えて、錦織がゴフィンに対し相性がよさそうなので。錦織2勝+第5ラバーで勝つという王道パターンが見えやすい。

あとはBIG4が出ない3か国のパターン。イギリスも次は日本ホームになるので、マレーが出ない可能性もあり、出なければ錦織の2勝が期待しやすいです。

デ杯入れ替え戦などの結果と来年の組み合わせ展望は、ドロー抽選がある木曜日以降に行います。