two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

銀世界に落とした、大粒の涙(2018デビスカップ1R)その1

勝てるという、確信があった。

 

2018年、国別対抗戦デビスカップ(以下デ杯)。日本の優勝の足掛かりとなる一戦、ワールドグループ1回戦、イタリア戦を前にした私は自信のさらに向こう、確信に満ちていた。

 

錦織圭のキャリアを語るにあたって、全米オープンやワールドツアーファイナルズ(現・日東ATPファイナルズ)、オリンピックでの実績はもちろんだが、デ杯での成績も同列に語られてほしいというのが私の願いだった。

事実、BIG4は時間こそかかったものの、全員がデ杯の優勝を経験した。また、ベルディヒ、ツォンガ、デルポトロといったトップ10在位の長い選手もほとんどが優勝を経験し、28歳以降の選手で優勝経験がないトップ選手は錦織とチリッチくらいだ。しかも、チリッチは準優勝を経験し、今年は優勝に手が届くかもしれない。片や錦織はベスト8が1回だけ。奇妙なほどにこの成績は低い。

 

そうなってしまった原因ははっきりしている。ここで改めてデ杯での勝ち方を考えてみよう。

デ杯のルールはシングルス4試合、ダブルス1試合。先に3勝したほうが勝利となる。

対戦方法は

第1ラバー A国シングルス1番手×B国シングルス2番手

第2ラバー A国シングルス2番手×B国シングルス1番手

第3ラバー A国ダブルス×B国ダブルス

第4ラバー A国シングルス1番手×B国シングルス1番手

第5ラバー A国シングルス2番手×B国シングルス2番手

※第1ラバーと第2ラバーの順番は抽選

 

さて、このようなルールで片方の国が勝つ方法は何があるだろうか?

基本となる考え方として、シングルス1番手のエースが2勝することを軸とするものがある。この2勝を確実に取って、他で残り1つを取る。残り1つの取り方は2通り。ダブルスで取るか、シングルス2番手対決に勝つ。

ダブルスにシングルスで出場した選手が出ても構わないので、エース錦織を軸とした日本チームの勝ち方は次の3通り

①錦織がダブルスにも出場して、3連勝する

②明確なダブルス専門のペアが誕生し、ダブルスで勝つ

③2番手シングルス選手が成長する

 

2017年前半までは、このどれも難しかった。

デ杯は5セットマッチ。グランドスラムであれば中1日で進行するところを、シングルスーダブルスーシングルスと3日連続で試合をするのは酷だ。①のパターンで勝ったこともあるが、毎回これを錦織にやらせるには無理がある。そして長らく日本デ杯のウィークポイントであった、ダブルス専門、2番手シングルスの不在。2勝まではできてもあと1勝が遠い、そんな状況が続いた。

 

この試合の結果と、ここまでに至る6年間のもう少し詳細な背景、言うなれば「表の要素」については、以前私がNumberに寄稿したこちらの記事を参考にされたい。https://number.bunshun.jp/articles/-/829851

 

2017年後半、事態は一変した。シングルス2番手候補としての杉田、ダニエル、西岡の成長。救世主として現れたダブルスの名手マクラクラン。一気に日本は勝てるチームへと成熟した。3勝目がどこからでも狙えるチームになった。

 

ここからはNumberに書いてないことである。

私は、デ杯を優勝するために必要なことが3点あると思っている。

 

1つ目が、シードの確保。

16チームで行われるワールドグループのトーナメント。シードは8本ある。これは、16ドローなら4シードが普通な他のテニスのトーナメントとは違う。ノーシードならば初戦は必ず格上。逆に言えば、シードになれば初戦は必ず格下相手になる。

シード国にはフランス、スペイン、アメリカといったテニス強豪国が名を連ねる。ベストメンバーで日本が戦っても、完敗するような相手国もいる。

そして、現行制度ではワールドグループの勝利ポイントは大きく、1度勝てば翌年は高確率でシード、ベスト4以上に行けば、それだけで2~3年シードが取れることもある。

まずこのシードを獲得することが、日本の優勝確率を大きく上げることにつながる。

 

2つ目が、戦力の厚み。

先ほど3勝するために、という話をしたが、現実的には毎回きわどく3勝を狙うようなチームは負ける。相手は同じように勝ち方を考えているし、自国の選手が常にベストな状態であるとは限らないからだ。

目安として、ベストメンバーでない状態でワールドグループ1回戦を戦い、フルメンバーの国相手に勝ち上がれるレベルというのが一つの基準になってくると私は考えている。

今回のイタリア戦は、まさにそんな状況だった。日本は復帰途中の錦織、西岡を欠いた。一方イタリアはベストメンバー。ただ相手を眺めると、勝つことは決して不可能ではないと思っていた。今回日本のエースとなった杉田はトップ50(当時)。1番手で50位以内の選手を揃えられる国も限られている中、日本には錦織だけじゃない、2人目がいる。チャンスはあった。

 

3つ目が、運。

最後に運かよ、というツッコミを食らいそうだが、デ杯には運の要素は確実にある。

そもそもホーム&アウェー方式なんて不平等もいいところだし、サーフェス選択、相手国選手を自国の僻地へ移動させることもできる。また、ケガでトップ選手が欠場することも多く、せっかく快進撃を続けても一人欠けたら一気にチームが弱体化することもあり、そんな相手に当たれば楽に勝てることもある。

今回の日本には、運も向いていたと思う。シード国の中では比較的力の落ちるイタリア、さらに暑い国の選手と2月の雪国での対戦、インドアハード。日本のホームを生かした条件作りもできていた。

 

そしてもう一つ、優勝とは関係ないファクターがあった。それは私がデ杯を現地で見たタイ(1つの対戦カードのこと)では3戦全勝だったこと。

勝つことは簡単ではないタイばかりだった。

2013年9月は直前に錦織が全米初戦敗退。エースの不調という最悪の状態だったが添田の奮闘、エース錦織貫禄の復活で辛くも3-2でコロンビアを下した。

2016年9月は直前の全米で相手国のマルチェンコがベスト16。さらに五輪全米と蓄積疲労のたまっていた錦織がシングルスを回避。条件は厳しかったが酷暑の大阪で粘り勝ちを見せた日本が初日で流れを作り、ウクライナの初めてのワールドグループ入りを阻んだ。

2017年9月は、入れ替え戦で最も当たりたくない強豪国ブラジルとの対戦。シングルストップ100複数、ダブルスはグランドスラム優勝経験のあるメンバー。厳しい戦況だったが、杉田の奮起で結果を掴んだ。

 

しかも今回は初めてとなる3日連続、タイすべての日程に参戦。

勝つために、盛岡まで行く。その強い気持ちと、勝てるという、確信があった。

2月2日。思い出の詰まった東北へと向かった。