GRACIAS FERRU
おそらく、グランドスラムで一度も勝てなかった選手の中で、史上最高の選手の一人だろう。通算700勝、最終戦7回出場、デ杯3回優勝、10大会連続GSベスト8以上。長期離脱も少なく、長期にわたって上位に君臨した。
BIG4がいなければ、当然グランドスラムで複数回勝っていたような実力の持ち主だった。GS無冠、マスターズ1勝という選手は他にもたくさんいるが、彼は唯一無二の存在だ。
錦織と戦った14試合は、未だに全て試合内容まで詳細に思い出すことができる。詳細に思い出せる選手は他にはBIG4くらいだろうか。そんな選手は、もう今後出てくることはないだろう。
錦織のキャリア初期から、重要な場面での対戦が多く、私も様々なブログを載せている。この機会にまとめておく。
私としても、会心の出来と言える記事はフェレール戦に多かったと思う。
試合の分析をするにあたっても、ストローカー同士、そしてお互いの特徴をよく熟知しているからこそいい文章が書けたためだと思っている。
彼のプレーは、フェデラーのような鮮やかさ、ナダルのような圧倒的な支配力、ジョコビッチのような正確無比さ、マレーのようなインテリジェンス、そんな卓越した才能に裏打ちされたものではない。天授の才能たちの前に、鍛錬を積んで立ち向かった。あえて天才という言葉を使うなら、努力の天才だった。だからこそ、人の心を打ったのだと思う。
そういう意味で、引退興行で再三使われたGraciasという言葉は彼らしい。よくやった、お疲れさまでしたとは違って「ありがとう」で締められている。
私たちテニスファン、そしてフェレールを取り巻く現場の関係者からの彼への感謝の気持ち。それを集約したものがこの「Gracias」に他ならない。
5年前に突如ツアーに現れた新星、アレキサンダー・ズベレフをハンブルグ準決勝で倒したのがフェレールだった。それから5年、フェレールは最終戦争いの常連から脱落。ズベレフは押しも押されもせぬATPの看板選手になった。立場は逆転した。このズベレフが引退試合のカードになったのは、何の偶然だろうか。
最後のポイントの前、ズベレフは観客を鼓舞した。地鳴りのような大声援がフェレールを後押しし、そしてあっけなく試合は終わった。あんなに粘り強かった男が、最後は押し寄せるネクストジェネレーションの波の前に散った。時代は、先に進もうとしている。
これから先、BIG4とそれを取り巻く世代の選手たちは、一気に引退ラッシュになるだろう。ピークを過ぎつつある選手たちはたくさんいる。高齢化の影響があるとはいえ、避けられないことだ。これから5年は大変革の時期になるだろう。フェレールの引退が、その皮切りとなることは間違いない。
ありがとう、ダビド・フェレール。
またコートで、レジェンドとして会う日まで、しばしのさよならを。