two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

調子は上向きではあるが、まだ足りなかった(2019マドリード2R、3R)(途中原稿)

※これは途中の原稿ですが、ローマの試合前にアップしておくべきであろうという判断により、特別に公開しています。逆に普段こんな感じで書いてるんだなあという雰囲気も感じ取っていただければと思います。

 

 

 

なるほどなあ、という試合後の感覚でした。

 

  

まずは2回戦から順に試合を振り返っていきましょう。勝ち試合ですが、この試合に今回のワウリンカ戦、ないし全体俯瞰として重要なヒントが隠れていました。

 

初戦のデリエン戦ですが、試合序盤はデリエンが対応できていませんでした。一方的に錦織が攻撃を行い、特に問題ないので自由自在に決まりました。錦織にとっては大会初戦ということもあって、たまに入ったデリエンの強打は追わずにスルー。余力を残しながらプレーを行い、色々と試した結果のミスが少々目立ちましたが問題なく5-1まで進み、25分ほどであっという間にセットポイントを迎えました。ここまでは、よくある展開でした。

しかし一つ問題が起きたのがセットポイントでした。2本凌いだところでデリエンに勢いが出ました。続くゲームをブレークすると、さらに2度目のSFSまでもブレーク。この頃には、デリエンは別人のようになっていました。強打を次々と通し、錦織に攻撃させません。

ただデリエンにも色気が出ました。完全に流れはデリエンといった感じの5-5で迎えた第11ゲームは少し意識が入ったのかミスが出ました。錦織が良くなったというよりは、デリエンが悪くなったことでブレークが転がり込んできました。そのあとのSFSはきっちり決めて1stセット先取。見た目以上にデリエンにとっては痛い1stセットとなりました。

 

2セット目も錦織の耐え時が続きました。序盤はデリエンの方がペースを掴み、錦織の方がキープに苦しみます。

 

この試合はデリエンの猛攻によって色々とかき消されがちですが、スタッツを見ると何が起きたのかがよくわかります。

写真スクショ

7-5,7-5というスコアだと接戦なのでそこまでスタッツ差がはっきりすることはないのですが、表のように錦織のサービスポイントwonが60%なのに対して、デリエンのサービスポイントwonは52%と、デリエンはほぼ半分しか取れていません。サービスポイントの獲得率が8%も違っていたのです。

じゃあなぜ接戦になったのか?ここまで溜める必要もないのですが、錦織のBP5/24に集約されます。

錦織のリターンポイントwonは引き算して48%ですから、いかにこのコンバージョンが悪かったかは言うまでもありません。つまり、この試合を簡単に総括すると、確かにデリエンがすごかったが、実はスコアの見た目や体感よりは錦織のゲーム支配度は本来高いはずだった。大事なポイントでの精度、これに尽きる、となります。

では大事なポイントの精度はそんなにまずかったのか?という話ですが、実はまずかったのです。

普通はこんなにBPが多くなることがないので、逆にそれを活かして内訳をまとめてみました。

 

内訳(ポイント全部巻き戻して追うのがつらかった…まだやってないですが、要旨は下の通りです)

 

 

はい、もう言いたいことは出てるわけですが、リターンミスです。デリエンが1stサーブ確率重視だったのも相まって、このリターンミスは終始なくならなかったです。

実はこの症状に近いものが別の大会で出ていました。モンテカルロのエルベール戦です。

あの試合はちょうど今回とほぼ逆の4-6,5-7で敗れた試合でしたが、あの試合は勝てる試合だったと思っています。その証拠に、0-40を2回迎えていて、それを逃した理由がセカンドサーブのリターンミスにありました(それ以外にもサービスラインより前からのチャンスボールのミスもありました)。ブレークされたゲーム以外ではほぼ錦織の方が試合を有利に進めていました。あの試合も大事なポイントで攻守とも取り切れず接戦を落としたゲームでした。

 

そこで試合途中に思い返したのがこのチャートでした。

 

 

Tennistvで見ていたのですが、おそらく全ての放送媒体に載ったものと思われます。

クレーシーズンに入ってから、錦織のBPコンバージョンがかなり悪くなっているよ、という数字です。

2018年の標本数は16試合。クレーでジョコビッチと2回、ズベレフ、ティームと1回やるなど相手も結構厳しいものだった結果、この数字になっています。

それに対して、今年はまだ上位ランカーはメドベデフくらいにしか当たってなかったところのこの数字です。たかが10%、されど10%。そして、驚くべきはこれが発表された瞬間の画面。まだ試合の序盤。これから幾度となくBPを逃す前の瞬間の数字です。つまり、今現在の数字はこれより悪くなっています。この画像は、これから起こることの暗示だったのです。*1

 

 

 

簡単な話、昨日のあのワウリンカから1ブレークしかされなかったというのはものすごくポジティブな数字です。ブレークしやすいしされやすいクレーですからね。かつワウリンカは2ndサーブでは極端に下がってリターンし、ストローク戦に持ち込んで勝負することで有名な選手です。そして何度もストローク戦に持ち込まれながらここまで錦織が凌いでいるということは、2セット1ブレークは全く問題ない数字と言っていいでしょう。

ではどこに問題があったのか?と振り返ると、やはりここになってきます。ブレークポイントです。

 

 

そこで本人のコメントを聞きました。すると、納得のいくコメントをしていました。

 

 ここにGAORA

 

自分を信じられればよくなってくる(原文ママ

はい、そういうことです。

これ、少し前に不振の原因を探った記事で少し近いことを書いていたのを覚えているでしょうか?

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さて長々と語ってきましたが、要するに今の錦織の不調原因はここです。 適切なプレー選択ができない状況にある。その結果、いつもなら取れている接戦のゲームを簡単に落とす。 これを不調という2文字で片付けることは簡単ですが、もう少し踏み込んでみたいことがあります。

(中略)

しかし、ストレスなくテニスをすること、というのが実は錦織圭が勝つために最も必要なことなのではないか?というのが最近の私の持論です。 そして、それができない。手首の問題が残り続ければ気になってしまいます。

2度の大けがをして復帰してきている錦織にとって、そして30歳手前のキャリアを考えると最大の敵が長期離脱であることは言うまでもないですし、それを無視してプレーをしてほしいと願うことは無理な願いです。大けがをすることがどれだけ恐怖なことかは本人にしかわかりません。ですから、そこまで求めることはできません。 だからこそ、この悪循環を抜けるためには手首の改善、これしかないと思っています。

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どうやら手首が原因ではなさそうですが、こういった何か煮え切らない感情、全ての感情を正のベクトルに持っていけない状態を脱却できていないことが不調の原因である、そしてそれがプレーにつながり、結果として負けてしまうということは、あの当時から一貫しています。

 

 

テニス観戦とはとても難しいもので、一打一打から1つのポイントが形成され、そのプレーは時々刻々と変化し、その過程でゲーム、セット、試合が積み重なり、さらに試合ごとに対戦相手やサーフェス、環境が変わります。

本格的にツアーを追い始めて7年、私もいまだ毎回正しい答えを出せている自信がありません。しかし一方で、特に近年必ず守るルールを決めています。それは「木も見つつ、森も見る。そんな分析でありたい」というものです。

これはどういうことなのかというと、例えば試合が終わった後に「ミスが多かった」という感想を見たとします。そのミスの原因はどこにあるのか?というのを試合のプレー選択やカウントの状況などから探っていくことが「木を見る分析」になります。要するに細部を考えて判断するというものです。一方で、ミスの割合を試合間で照らし合わせたり、数か月間のプレーに共通する項を探したりすることが「森を見る分析」になります。

今回のケースで言うとプレー単品の問題点を探る、試合を掘っている部分が「木を見る分析」であるのに対し、BPコンバージョンに関する最近の傾向を広く見ることが「森を見る分析」です。

どちらに寄りすぎてもいけないのです。どっちも見ないと、その真実は見えてこないのがテニスです。

 

 

長々と書きましたが、復調気味であるというのは事実です。復調気味でなければ、バルセロナ以降の結果にはなっていません、昨日のような試合やメドベデフ戦のような試合すらできないはずですから。あのプレーができているなら大丈夫だと思います。

あとは本人談にあるように、いつ自信が持てるようになるのかだと思います。

そう思って2018年を振り返ると、ちょっと気になることがありました。年度末にあった各種インタビューなどで「本当に自信が持てたのは全米でベスト4に入ってから」という趣旨の発言をしていることです。

確かに全米ベスト4以降、一度もベスト8を外さずに勝ち上がり続け怒涛のまくり上げでファイナル進出。あの時の錦織は神がかっていました。

しかし裏を返せば、チリッチ、ズベレフを連続で倒したあのモンテカルロの頃はまだそうではなかったということです。そんな中勝ち上がり、少し自信が持てたようです。

いよいよウィンブルドン 錦織圭選手 単独インタビュー | SPORTS STORY | NHK

今も同様に、テニスのレベルは戻ってきています。去年のモンテカルロのように結果さえ出れば、必ずプラスに向かっていくと信じています。ラッキーがあっても構わないのです。あとはそのワンパンチがどの大会で出るかだと思っています。手首が問題でないのならば、少しずつトンネルの出口は見えてきているのではないでしょうか。

*1:言うまでもないですが、tennistvは客観的な事実を示しただけです。なんなら当時私は実況でそこに触れて、今回は一発でブレークしたからよかったですねと言った後からあんな展開に…