two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

オフシリーズ・閑話球題 ⑲テニスの「数字」その5 スタッツや確率からテニスを評価する具体的な事例その1

こんにちは。

昨日のウルトラマンDASH見ましたか。西岡のあのサーブです。

セカンドサーブで入れに行く、そして空中ターゲットに対して確実に微調整していく、さすがプロだと思いました。

さてテニスが頭を使うスポーツであることが昨日の西岡の例にしても分かったわけですが、今回は頭を使うテニスという部分をスタッツなどから分析していく具体的な実践例です。

全仏オープンのイズナー×ロブレドにおける「お互いの勝つための哲学」

さて、前回の確率の具体例をふまえた実際の試合での考え方が今年の全仏オープン3回戦、イズナー×ロブレドで見られました。

選手紹介で説明したとおり、イズナーはビッグサーバーで、サーブスタッツで常に上位に入ってくる選手です。一方のロブレドは回転をかけたボールをしっかりコートに沈め、時には攻めていくタフなストローカーで、典型的スペイン人クレーコーターです(ハードでも結果を出していますが)。

さてこの試合の両者はどういう作戦を立てるでしょうか?基本となるのは「イズナーのサービスキープ」です。

おなじみの2014年スタッツによると、イズナーのサービスキープ率は93%。カルロビッチと並びツアー1位です。

ところが、です。リターンゲーム取得率は9%。そう、ほとんどキープするしブレークできない、タイブレークに持ち込みやすい(持ち込まれやすい)選手なのです。

しかし今更イズナーがリターンやストロークをがんばることはできないので、結局イズナーにとってやるべきことは「サービスゲームではエースを中心にアグレッシブに行って、チャンスがあればブレークする」しかないのです。

一方のロブレド。何を考えるでしょうか?

イズナーのサービスでポイントが取られてしまうことはもはや仕様です。ですがその状況でブレークと自分のサービスゲームのキープが必要になってきます。

結局イズナーのサーブでポイントが取られる分、pを上げようと思うとその他の要素でポイントを稼ぐしかありません。

といっても破壊的なショットを持っているわけでもありません。そこでロブレドはミスをせず、イズナーにストロークで先にミスをさせる作戦に出るのです。

そりゃあイズナーだって一流のテニス選手ですが、しかしロブレドほどのストローカーとラリーをしてしまうとやはり先にミスが出てしまいます。

すると面白いスタッツが現れました。(以下左側のスタッツがイズナー、右側がロブレド)

結局試合は両者ブレークポイントを握るものの何とかキープする展開に。しかしその内容はイズナーがとにかくサーブでしのぎ、ロブレドはストロークでしのぐ展開。すると総ポイント87-92でロブレドがリードしているにもかかわらずイズナーが2セット連続タイブレークで取ってしまいました。しかも試合途中でのアンフォースドエラー(自発的ミス)が、35-4で圧倒的にイズナーのほうがミスっているにも関わらずです。

普通ミス4本と35本と聞くと明らかに35本のほうが負けているように感じますよね。

厳密にはフォースドエラー(攻め込まれたり1stのリターンなどによって強いられたミス)もあるので、もう少しロブレドはミスしていますが、だとしてもこの数字はやはり異常です。しかも総ポイントで5ポイントリードしてますからね。

ですがサーブを破れない、ブレークポイントをサーブでしのがれるそれだけでこの勝ちスタッツがまさかの負けスタッツに変わってしまったのです。

まあタイブレークを落としていたら全部話は変わっていたんですが、イズナーが取ったことで奇妙なスタッツが出来上がってしまったのです。

その後第3セットもタイブレークになりロブレドが取り返します。しかし第4セットの中盤でこの試合唯一のブレークをロブレドが許し、7-6(13)、7-6(3)、6(5)-7、7-5でイズナーが勝ちました。

非公式ですが最終スタッツは総ポイント160-163でロブレドが3ポイント多く、アンフォースドエラーは74-11で大差がついています。

これだけミスをしてもサーブさえオールキープしてタイブレークを取ってしまえば勝ってしまう、実際の試合がこれを説明したという例です。

ではロブレドは間違っていたかというと決してそうではありません。総ポイント323のうちアンフォースドエラーが11本、3%台です。普通なら余裕の勝ちスタッツです。決して悪いことはしていなかったと思います。

ブレークポイントを取りきれなかったことは悔いるべきでしょう(0/13)が、止めたイズナーを褒めるしかない試合です。

②0-30の精神論

前回使ったサービスキープの確率モデルを拡張しましょう。

0-30からキープできる確率はいくらくらいだと思いますか?

正解を書く前に、プレーヤーのメンタルを考えてみましょう。

平易なミス1本と相手がうまいウィナーを打ってきて0-30というありがちな状況を考えましょう。

状況は3-3(適当です)、先行される展開は嫌な場面です。なんとしてもキープしたい。

ところが自分は4ポイントが必要、相手はあと2ポイントでいい。結構追い込まれている感覚に陥ります。

こんなことを考える前の以前の私は5割以上はラブゲームで落としていました。どうしても雑なウィナーを取りに行くテニスをして、ミスを生んでしまうからです。

え、ちょっと待って、読者のみなさん、twosetdownは自分でもテニスしますよ。最近あんまりプレーしてないですけど。

このプレーヤー感覚はテニスをしているとわかる人もいるのではないでしょうか。私も感覚的に2割くらいしか取れないと思っていたので一か八かのアグレッシブすぎるギャンブルプレーに走りがちでした。

ところが正解は違います。p=0.6とサーブにそこまで自信のない方でも36.9%、p=0.65の場合47.7%とほぼ五割、ビッグサーバーのp=0.7の場合58.8%もキープできるんです。

この事実を知ってから私のテニスも変わりましたし、観戦時の0-30のとらえ方も変わりました。「このゲームはキープできるけど、途中経路がこうなっているだけだ」と。

実際そう思って0-30の事例を見ると、結構ブレークできてないんですよね。この辺はぜひ来週からのツアーで確認してもらえればですが、本当にこのあたりでやっと五分といった感じです。

また0-30になるということ自体を考えましょう。0-30になる確率は(1-p)^2です。

p=0.6程度なら16%。この数字はほぼ6分の1ですから実は1セットに1回くらいは普通に起こりうるということなんです。そう思うとそこまで怖くないカウントだということが分かります。まあ現実には手が震えるんですが。

こういう風にドライな評価をすると面白いことが見えてきたりします。

ちなみにさっきのtwosetdownのようなプレーをすると相手の思うつぼです。相手も精度の低いボールを打つ選手ならそうでもないのですが、私のもともとのプレースタイルのようにディフェンシブに戦う人であれば、勝手にプレッシャーを感じてミスってくれるようなプレッシャーに弱いtwosetdownのような相手は格好の餌食にできます。ラリーを続けているだけで勝手にミスってくれますからね。

結局、博打打ちすると普通は精度を欠きpを下げることになってしまうので、どんな時でも同じようにプレーすることが大事なんですね。

プロの試合を見てもブレークポイントやマッチポイントでも全然スタイルを変えないですよね。まれに奇をてらうことは読みを外させるために大事ですが、彼らはいつものプレーをすることが一番ポイントを取ることに直結するということをこういったデータうんぬんより経験で理解しているんだと思います。

でもブレークポイントで自分からドロップなんて私にはできない…そこが凡人とトップの差なんですよね。メンタルメンタル。

今日はのんびり箱根駅伝を見ています。あとで記事を書くかもしれません。

さて明日はブリスベン、チェンナイ、ドーハのドローが発表され次第解説です。しかし一番時差のあるドーハがいつ発表してくれるかが気がかりです…

閑話休題シリーズはオフシーズンも終わりですが、シドニー/オークランド/クーヨン(エキシビション)のweek2にも出張します。

次回もスタッツからの分析の具体的事例です。