two-set-down新章

two-set-down新章

スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

ナダルは本当に戻ってこれるのか?

こんばんは。

間もなく錦織戦が始まるというのに更新です。

今日は大波乱の一日でした。

まずはバブリンカがマナリノに敗戦しました。マナリノ、実は初めてプレーを見ましたがストロークがいい選手ですね。レフティから繰り出されるフォアハンドは威力というよりはキレがある感じでした。

ただバブリンカのミスが多かったのは事実です。悪い時のバブリンカです。

トップ10選手は不調でも何とか試合をやりくりすることが多いですが、バブリンカの場合は割と無抵抗に負けてしまうので、今日はこんなところだったということでしょう。

そしてベルディヒトミッチに4MPを握られますが何とか振り切って勝利。第2セット0-4、2-5からのカムバック。さすがですが、プレーに精彩を欠いているという指摘もあり、今後も勝ち上がっていけるかは正直不透明です。IWからずっと足の調子がよくないようです。

そして最大の波乱はナダル敗戦です。

いろいろ意見はあると思います。ナダルは大会前練習中に転倒。確かに足が万全でなかったのかもしれません。ただこのベルダスコ戦、実は今後のナダルの成績を決めるかもしれない重要なファクターを見つけることができました。

ベルダスコの紹介はこないだしたばかりなのでいいでしょう。レフティ、クレーコーター、強力なフォアハンドを持っていて、こういってしまうと失礼ですがナダルの下位互換ともいえるタイプの選手です。私はこのベルダスコに敗れてしまったことが何よりの衝撃でした。

錦織×ベルダスコ戦の内容を見ているとベルダスコのけが(?)もあり、1セットしか好調な状態が持続していませんでした。ベテラン選手、また30位付近の選手にありがちな「局所的にはトップ10レベルのプレーができるが、持続できない」という典型的なパターンにはまった試合でした。

なので万一ナダルが1セット落とすことになっても確実に下位互換のベルダスコ相手に3セットでは勝てるという見通しでした。

クレーコーターが揃ったナダル山の序盤戦、普通に戦っていれば負ける理由は見当たらず、これこそが私がドロー解説で「しっかりナダルが力を出せばその次の同胞[29]ベルダスコ、そして[23]ガルシア=ロペスあたりも大丈夫だと思います。」とした理由です。

試合を振り返ってみると、第1セットは途中から録画で見ましたが、なんと3-4からナダルがDFでサービスを落としベルダスコのSFS(サービング・フォー・ザ・セット)。しかしここでナダルが踏ん張り4-5に。これで逆転すればナダルという場面でなんとまたブレークを許してしまい第1セットを落とします。終盤の要所で犯した珍しいフレームショットのミスが嫌な雲行きを暗示しました。

第2セットは先にブレークピンチを背負ったもののそれをしのぐと、安定しないベルダスコのプレーにつけこみ2つのブレークに成功。この調子で行けば勝てる…そう思いました。完全に錦織×ベルダスコ戦と同じ展開だからです。

第3セット、最初のベルダスコのサービスゲームでブレークチャンス2本。ここを取れば試合はほぼ決まっていたと思われた流れの中で取り切れず、ベルダスコが2-1と結果的に連続キープ。嫌な空気が漂います。

第2セットで落ちてしまったベルダスコのプレーは元に戻りつつあり、攻撃的なフォアハンドが帰ってきました。こうなると打ち合いでもナダルが普通にポイントを取られる場面が出てきます。そしてついに起きてしまいました。

第4ゲーム、ベルダスコのフォアウィナーが4本決まりブレークに成功。このゲームのベルダスコは神がかっていましたが、チャンスボールに近いボールを与えてしまったのはナダルです(あとで重要)。

その後はブレークポイントも握ることができずなすすべなく敗戦。終盤にはMPのブレークポイントも握られ、第2セットの4ゲーム連取以外は内容が乏しい敗戦になってしまいました。

見ている方もショックな試合でした。

確かにベルダスコはうまかったしフォアがよく決まっていた。しかし初対戦からナダルが13連勝していたように決して苦手な相手ではないですし、むしろお得意様だったと思います(13勝1敗)。ナダルが最近負けだすまでフェレールにほぼ無敗だったのと同様にクレーコーター、スペイン人選手、こういったあたりの最高峰にいるナダルはほとんどそういった下位互換に当たるタイプの選手に負けません。

もちろんマイアミはハードコートです、分かっています。ですが様々な事情を勘案してもこれをたまたまだったという風に処理できないのです。

ナダルはもう終わった」

この言葉はナダルが全仏を取り始めてしばらくしてからクレーシーズン以外に負けが混みだしたときによく言われました。

確かにクレー以外のナダルの成績はNO.1選手というよりは普通のトップ10選手の成績くらいです。連続優勝しちゃうような強さはクレー以外ではまあたまにしか見れませんし、それでもクレーでほぼ無敗だから3度も年間1位になれました。

ただジョコビッチが全米前のMS2連戦で連続早期敗退したようにずっとテニスをしていればそういう時期は必ずやってきます。

そういう負けの込んだ時期に終末論めいたものが出るのはある意味その選手が評価されているから、優勝できないだけで文句を言われるからという有名税的なものでもあります。

そうしてクレーシーズン以外に負けが混んでも、09年に全仏を落としその後離脱した以外はクレーで勝ち続け「やっぱりそんなわけないですよねー」と毎年言い続けて5年以上経ちました。

ただそうしていくうちに少しずつ「もう終わった」と言い始める基準が少しずつ緩くなってきているのです。今回の「終わった」議論は相当現実味を帯びたものになるのでは?というのが私の現段階の考えです。

まず、春の北米マスターズシリーズナダルは比較的得意なシリーズにしていました。

IWは跳ねるサーフェスが味方しているのか3度の優勝経験があり、トップ選手になった06年以降では06年から13年まで8年連続ベスト4以上。昨年はドルゴポロフに敗れ衝撃が走りましたが、今回もラオニッチにQFで敗戦。これはその14年に次ぐ2番目の悪い成績です。

そしてマイアミ。マイアミは04年に当時1位だったフェデラーに初対戦初勝利。その名前を世界にアピールした思い出の大会。優勝こそないものの決勝進出は3回、加えて06年に晩年のモヤに敗れた以外は4R以下での敗退なし。つまりIW→マイアミで2大会連続SF以上に進めなかったのは05年に全仏を取って以降で初めてのことです。

私は1大会だけで物事を決めるようなことはしません。以前から言っているようにテニスは紙一重のスポーツ。ラオニッチ戦では3MPを握っていたように何が試合を決めるかなんてわかりません。

だからこそ今回は深刻なのです。1月からナダルは3か月終わって、250のクレーで1勝しただけでそれ以外は決勝にすら進んでいないのです。

そしてTSDレーティングをIW終了後の数字に変えたところ驚きのデータが出ました。

1ジョコ19-2 6-1 13-1(1-2-6-4)ドーハQ 全豪W ドバイF デ杯1勝 IWW

5フェデ16-2 4-1 12-1(2-4-4-2)ブリスベンW 全豪3R ドバイW IWF

4フェレ19-2 2-1 17-1(3-2-8-4)ドーハW 全豪4R リオW アカプルコW IW3R

2マレー16-4 1-2 15-2(4-4-5-2)全豪F ロッテルダム2R ドバイ2R デ杯2勝 IWS

3バブリ15-3 3-1 12-2(2-3-3-4)チェンナイW 全豪S ロッテルダムW マルセイユQ IW2R

錦織圭18-4 2-3 16-1(2-5-6-3)ブリスベンS 全豪Q メンフィスW アカプルコF デ杯2勝 IW4R

6ベルデ19-5 1-5 18-0(3-5-8-2)ドーハF 全豪S ロッテルダムF ドバイS IWQ

8ラオニ15-6 2-5 13-1(2-4-6-1)ブリスベンF 全豪Q ロッテルダムS マルセイユ2R デ杯1勝 IWS

ナダル14-4 0-2 14-2(3-2-5-4)ドーハ1R 全豪Q リオS ブエノスアイレスW IWQ

ご覧ください。どの観点から見てもナダルは文句なく9位になってしまいます(名前の左の数字はレースランキングで、列挙した順がTSDレーティングの順位、3~7位付近は正直突っ込みどころ満載ですがまあ勘弁してください、今日重要なのはそこではありません)。

正直負け数が多いとはいえ、内容だけから見ればトミッチ(19-6、1-3)とあまり変わりありません。今のナダルはトップ5から陥落するかもな…と思っていた初期のナダル終わった論などとうに超え、トップ10陥落すらあり得るような内容でそれが3か月も続いてしまっているのです。

では今のナダルは何が問題なのか?それをいろいろ考えているとおもしろいことが分かってきました。

ラオニッチ戦、ベルダスコ戦に共通する項は「勝負所でウィナーを決められまくった」ということです。ファイナルセットのブレークされたゲームの話です。

ラオニッチ戦の寸評はこちらで少ししていますのでどうぞ。

ポイントはウィナーを決められているということです。一見どうしようもないじゃないかと言われそうですが、まずこういうことが今までのナダルではなかったということです。

ナダルは5-5とかから7-5にする確率が本当に高い選手です。最近広まっている言葉を使えば「ギアを上げる」ことによってです。逆にそういったセットを落とすことはまれです。

例えば0-30になってしまうことくらいは誰でもあります。しかし勝負所でそこから踏ん張れるか。ここがトップ選手とそうでない選手との違いです。

ここの所のナダルはこういった場面での踏ん張り、逆にチャンスでのミス(ラオニッチ戦のリターンミスなど)が多く目立ちます。

ベルダスコ戦では実はブレークポイントはベルダスコよりも多く得ていましたが、そこから生かせなかったのです。

そしてウィナーを何本も決められる理由を考えてみました。すると今日の結論であるとある事実に当たりました。

公式ライブストリーミング、TennisTVさんのツイートです。公式スタッツをよく載せてくれます。

Comparing Rafa #Nadal's forehand placement Sets 1 + 2. #MiamiOpen #tennis pic.twitter.com/w4dlDdDkHg— TennisTV (@TennisTV) 2015, 3月 29

ナダルのフォアハンドのショットが落ちた位置です。

図を見ると第2セットの方が第1セットよりも明らかに深くなっているのがわかりますね。

ナダルがなぜ強いのか?もちろん驚異的なディフェンス力はもちろんですが私はフォアハンドにあると思っています。

ナダルは自分で「全ストロークのうちフォアが70%になっているときは勝てているとき」(ラケットの試合データ解析装置の時のインタビューより)というくらいフォアが生命線です。

なぜフォアが生命線なのか?広角に打てるのはもちろん、いわゆる「エッグボール」と呼ばれる強い回転のかかったボールがナダルの強みです。

強く跳ねたボールは選手の肩口まで跳ね、次の攻撃を封じます。

テニスをやっている方ないとわかりにくいのですが、高い打点のボールは入ることができれば強打を打てますが、単純に高く跳ねるようなスピンボールはものすごく処理が難しいのです。特にバックハンドは力が入りにくい位置に跳ねるので厄介です。

ところが、です。第1セットを見ればわかるのですがずいぶんと浅い位置でバウンドしているのがわかります。

こうなるとスピンボールは一転して特にスピードボールでもない打ちごろの高い打点になってしまいます。

武器になるはずのナダルのフォアハンドがチャンスボールと化してしまうのです。

それをもう一つ裏付けるスタッツが最終スタッツのこちらです。

#MiamiOpen match stats: Fernando #Verdasco v Rafa #Nadal. #tennis pic.twitter.com/nkypmBHfca— TennisTV (@TennisTV) 2015, 3月 29

5~9本のラリーでのポイント数で39対20とダブルスコア。テニスで20ポイントも差がつくような指標はかなり強いです。

つまりラリーに入ってポイントがあまり取れていないのです。ラリーに入って取れないというのはナダルにとってはかなり厳しいです。

クレーに入ってもこれが改善されないと少しナダルのディフェンスが強くなるだけであまり状況は変わりません。

結論からすると、プレーレベルを戻せないと相当やばいという印象を受けます。

全仏までの厳しいポイントのディフェンドについてはマイアミ後にランキング予測で詳しくやります。

さて、錦織戦が始まりました。切り替えていこうと思います。それでは。