two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

イズナーに勝つ方法はあったはずだろう(2015マイアミQF)

4/2 現地:30~(日本時間翌日6:30~)

Masters1000 Miami Miami Open presented by Itau

QF

[4]Kei Nishikori 4-6 3-6 [22]John Isner

新参の錦織ファンはこの試合を見て何を思いましたか?

ぜひこの場所でたくさんの議論が行われることを私は期待していますし、議論に参加したいと思います。

最近はニコニコ生放送で見ることが多いのですがコメントを読みながら見ているといろいろなことが分かります。

コメントしている人が最近テニスを見始めた人かそれとも通なのかはわかりませんが、最近は全体のテニスを見る目がすごく上がってきていると感じます。

「このプレーが持続できてたら24位にいない」

本当にその通りだと思いました。このプレーが24位のプレーなわけがありません。

いや、この書き方は語弊がありました。このプレーが平均値なら24位にはいないということですね。

メンフィスの時にクエリーに負けてしまったことを覚えているでしょうか?当時の記事が残っています。

こんなこともあるんです。でもその逆もあるんです。

トップ10選手ではバブリンカが最も振れ幅が大きい選手と言われます。はまれば誰も止められない。

今日のイズナーがいつもよりもよかったことは他のイズナーの試合を一度でも見たことがあれば誰もが納得するところだと思います。

もう一つ非常に刺激的でしかし納得できるコメントを見ました。

「全米のチリッチ戦みたい」

悔しいかな、私もそう思い始めていたころのコメントでした。

今日の試合はイズナーの狙い通りの試合でした。唯一のイズナーにとっての嬉しい誤算はストロークがよすぎたことです。

ワンチャンスをものにし、あとはサービスキープ。本来それを苦しい中やるのがリターナーの仕事ですが、ビッグサーバーのサーブがはまり相手にプレッシャーをかけ続ければこういうことは容易に起こります。

イズナーはサービスゲームでサーブだけでなくストロークのポイントが計算できるようになったことでのびのびサーブを打つことができました。完全にやりたい放題でした。

第1セットから少しずつ試合を振り返っていきましょう。

第1ゲーム、イズナーのサーブが炸裂。厳しい戦いになると思いました。

第2ゲーム、既に予兆はありました。イズナーがいきなり強打を2本決めたことです。それ以外を落ち着いて決めたためしっかりキープしましたが、40-30からのキープ以上に嫌な感覚を覚えました。

第3ゲーム、相変わらずサーブ好調。第4ゲームは落ち着いてキープ。このままついていけば…という感じはありました。

そして一つのポイントとなった第5ゲーム、ついにリターンが当たり始め、40-15からデュースに持ち込みます。

少しずつですが突破の可能性を感じていました。行けるのではないか。結果このゲームは落としますが、この頃は勝てる感覚を持っていました。

しかし一方で恐れていたことが起きました。リズムの崩壊です。

なぜゴフィン戦であそこまで素晴らしいラリーができたか?もちろんマイアミにしっかりアジャストしていたからですが、ゴフィンがストローカーだったからに他なりません。錦織はリターンから、ラリーから流れを作っていく選手です。

少し話は変わるように思いますが関係ある話です、パリのフェデラー×ラオニッチ戦について覚えている方がどこまでいるかわかりませんが、フェデラーはその前週のバーゼルで優勝、力はありましたし疲労も溜まっていませんでしたがラオニッチに押し込まれてストレート負けしました。フェデラーがラオニッチに初めて負けた試合です。

この試合の記事に私が今日の試合につながるヒントを残していました。

「正直あの確変状態は誰も止められないと思います。タイブレークにチャンスはあったかもしれませんが、フェデラーがリターンの影響で満足にストロークを打てず、結果ミスを誘発されました。

ビッグサーバーは相手にストロークを打たせないことでリズムを崩していく、そういう効果もあったのかと思いました。」

この最後の一文です、私はこの事実に気づいたときにビッグサーバーの新たな怖さを実感しました。あのフェデラーが、しかも直前までストロークは悪くなかったのになんでもないストロークでミス。なぜか、調子が悪いのか、違うんです。それこそがビッグサーバーの狙いだったのです。

プレッシャーのかかる自分のサービスゲームでしかストロークが打てないというのはフラストレーションがたまります。この第6ゲームあたりから少しずつ錦織にミスが増え、縮こまったようなストロークしか打てなくなってしまったこと…これは直接的な敗因ではないですが、その後の乱れに確実につながる間接的な敗因だったと思います。

第6、第8ゲームと苦しいゲームが続きましたが、結果的にこの試合の唯一のチャンスとなった第9ゲームでした。

0-30。イズナーのストロークが連続ミス。この頃にはストロークで押し始めていたイズナーがピンチを迎えます。

ここで何かしたかった。しかし、イズナーは何もさせてくれなかった…

唯一30-30からのセカンドサーブくらいがチャンスでしたが、プレビュー記事で説明したキックサーブがはまりました。結局4本でしっかり守られて5-4。嫌な流れでした。

そして問題の第10ゲーム。ですがちょっと待ってください、このゲームの錦織に問題があったとすれば…?イズナーが強打を決め続け、どうしようもなかったように思います。問題なのはこの状況を生み出してしまった第9ゲームなのです。

そもそも0-30でイズナーはプレッシャーを感じていなかった。ツアー屈指のリターナーである錦織であればこのポイントでたとえばセカンドサーブにさせるような強いプレッシャーを与えることができていたはずですが、特に第7ゲームではラブゲームキープ。リターンエースも打てず自らはしっかりラリーでポイントを取れている。イズナーにサーブで取らなければという一種の使命感のような感情を与えられなかったのです。

あれだけイズナーが強打を打っていればよほどタイブレークでメンタルを崩すような事象がない限り結果は変わらなかったと思います。遅かれ早かれああいうシーンはやってきたと思います。

その後はイズナーを勢いづかせ、ブレークポイントも握れずに敗戦。第1セット終盤~第2セット序盤というセットをまたぐ場面で崩れてしまったことが致命的でした。

さて、この試合は世界的に見ても「事故」の部類に分けられると思います。

確かに今日のイズナーはすごかった。私がブレークして勝てるビジョンを持っていたのは、まさに第9ゲームのようなシチュエーションで取り切るパターンが見えていたからです。プレッシャーをかけ1stをミスさせる。0-40か15-40にして心理的プレッシャーをかけ続け崩れるのを待つ。本来のイズナーの平均的なストローク力なら必ずこれで1度はブレークにつなげられるはずでした。ラリーに入れば8割はポイントが取れる算段でしたし、これは今日の試合だけを見ている人は同意しかねることは分かっていますが、他にイズナーの試合を見たことがある人なら納得されると思います。それこそが、確変すればここまで圧倒できるにもかかわらず彼が20位台に甘んじている理由だからです。

ところが、です。果たしてこの敗戦は「事故」なんでしょうか?私はそれは違うと思うんです。

ここからははっきり言って批判覚悟で書きます。私の持論みたいなものですがブログですのでその辺はご理解ください。

私は「プロツアーのテニスにおいては」基本的にすべての試合に勝つチャンスがあると思っています。

今日の試合ですら勝つチャンスはあったことを断定します。

何を言っているんだと言われそうですが、テニスという競技は少なくともプロツアーにおいては紙一重。だからこそこうしてイズナーがディミトロフ→ラオニッチ→錦織と3連勝できるわけで、常にきわどいところで戦っているのです。

何か一つを変えることができれば試合なんて簡単に結果がひっくり返ってしまう、トップ選手とそうでない選手の差は基本的には「継続性」「安定性」と、試合を乗り切る嗅覚です。

ここが「プロツアーのテニスにおいては」としたところです。この文言を入れないと「じゃあ休日テニスプレイヤーのTSDがフェデラーと試合して負けても自分の過失だと言えるのか、相手の方がうまかったと言えないのか」と言われますから。

今週はすでにナダル、バブリンカ、ラオニッチ、錦織が敗戦しています。特に「strong 9」としてすごい勢いで勝っている8人でさえ8シードを守れなかった選手は3人います。

そんな世界です。負けることは普通じゃないのですが、逆に言えば勝つチャンスは本来だれにだってどの試合にだって存在するものだと思っています。少なくともプロなら。

個人が相手の結果に左右されずに戦う系統の競技ならば相手がうまかったで終わってしまうのですが、基本的に一球一球サーブ以外は相手のショットが相互作用するのがテニス。私はこの観点から基本的に「プロツアーのテニスにおいては」基本的にすべての試合に勝つチャンスがあると思っています。

では錦織はこの試合何ができたはずなのか?何ができなかったからこうなってしまったのか?それを私なりに分析してみました。

①トスで勝ったのにリターンを取ってしまったミス

第9ゲーム→第10ゲームの流れを生んだのは錦織がトスに勝ってリターンを選択したからです。

リターンを選択する理由は納得できます。オープニングでキープのプレッシャーを受けずに好きなリターンから戦っていく。しかしビッグサーバーの、しかも初対戦のイズナーに対して結果論ではありますがこの選択は正しかったのでしょうか。いわゆる「QSK」(急にセットポイントが来たので)タイプで落とす未来がこの時よぎりました。嫌な予感になりました。後出しで言っているのではないですよ。

②単調なクロスラリーへのお付き合い

これも致命的だったと思います。効果的なバックハンドのDTLは1本あったかどうかですね。

ストロークで押されている理由の一つは待った状態でフォアを打たれたからです。

イズナーはオープンコートを作る代わりにフォアで打てる確率を増やすためにややバックハンド寄りに基本位置を取りながらラリーをしていました。

錦織がバックハンドを打ってもゴフィン戦レベルのキレがあればバックに配球できたんでしょうが、勢いで押されているのと精度を欠いていたのでそれができず単調なパターンに持ち込まれました。これに対して無策だったのが残念です。

フォアの順クロスでフォアDTLを思い期入り叩き込まれるパターンもありましたね。とにかくイズナーを走らせることをプレビューで書きましたが、もっと方法があったはずです。確かに今日のイズナーのフットワークはダブルス含めて5連戦とは思えなかったが。。。

③スライスを使わず真っ向勝負

②につながりますが、こういう相手のプレーに手が付けられなくなったときはとにかくラリースピードを変えることです。

一番早い方法はループボール系のスピンショットを混ぜることですが、どうも錦織のスピンボールはイズナーの打ちごろになってしまうようで、これは今後錦織の天敵になってしまう可能性すら見えましたが、それはまあ次回までに対策してもらうとして、もう一つスライスを打つのが有効です。

イズナーも足元のボールはそこまでウィナー取れてなかったので、こういった選択ができていれば歯車も狂っていたのではないでしょうか。

④リターン位置を変えず、ずっと前

正直リターンを後半で合わせてきたとはいえ、リターンエースは0本。たまにはプレビュー記事で書いた下がったリターンを選んでほしかったかなあと思います。

スタッツは裏切りません。その証拠を示してくれています。

イズナーのセカンドサーブpoints wonが81%となっています。

つまり錦織は19%しか取れていません。

ちなみにビッグサーバー相手と言っても錦織は50%近く2ndではポイントを取りますし、だからこそアンダーソンやラオニッチ、カルロビッチからブレークできるんです。

原因と考えているのはプレビューで紹介した跳ねるセカンドサーブです。

あれに対して有効な解決策は試合終了まで得られていませんでした。下がって打ってほしかった…

確かに下がって打っても今日は3球目で叩かれてたかもしれないんですけどね…

ちなみにこれと同じパターンで苦しむ相手がもう一人います。チリッチです。

チリッチはビッグサーバー分類はしませんが跳ねるセカンドサーブが厄介で、対戦成績で勝ち越しているとはいえ負けた試合の原因を探るとだいたいここにぶつかります。

「全米のチリッチ戦みたい」

皮肉ですね。全く意味が違うこんなところでも全米を思い出しました。

私のような素人でも4つ挙げられました。もっとテニスIQの高い人であればいろんな方法を提示できると思います。ぜひコメント欄にいろんな方法を提示していただけると嬉しいです。

無策で負けた。

私は確変状態で向かってくる選手に全部勝てとは言いません。頑張っても無理なときはあります。それがテニスです。

ですが今日はちょっとしたことで試合結果は負けたかもしれないことは認めるとしてもずいぶんと違う結果になっていたのではと思います。

すぐ下に8位9位までいるとはいえ5位の選手です。こういった勢いだけで押し切られる敗戦が続くのはそのランクにいる選手ではないということです。

今シーズン、正直言って錦織圭はスランプです。21勝5敗の選手に対して何を言うと言われそうですが、ここまでトップ5に勝っていないどころか、BIG4との対戦がないのです。

昨シーズンシードダウンに次ぐシードダウンを演出してきた、毎月のように信じられない結果を出してきたあの上昇曲線を考えるともはや上昇していないどころかかなり停滞、しかも下手をすれば下降と言われてもおかしくない成績です。事実今年まだ一度もシードの期待値越えをしていないのですから。

全力でかかってきてもそれを何とか押し切る。これができてこその5位だと思うのです。

これからトップ選手として定着していくための試練の時期に入ったと私は思っています。

イズナーに負けたからではなく、全米のチリッチ、全豪のバブリンカ、IWのロペス。こういった負けが続いているのです。調子のいい相手に対してメンタル的に追い込まれ自滅。しかも無策。

今年の負けは基本的に自滅か無策で説明できます。正直言ってかなりまずいです。

事故の1敗だったと割り切るためにも、今度こそ負けの理由をチームでしっかり議論してほしいところです。何が足りないのか、答えはあるはずです。ここが最高点なわけはないんです。もっと上が狙えるからこそ、真剣に向き合ってほしい。試合中に調子のいい相手に対してプレーを変えられず無策のまま負けるこのパターンを解消すること。そうすればさらに成績は安定するはずです。