見えてきたジョコビッチ対策とナダル復活ののろし
こんにちは。
モンテカルロの決勝は思わぬ名勝負となりました。がその前にQFから振り返っていきます。
QFはベルディヒ×ラオニッチがラオニッチの試合途中棄権負け。満足にプレーできない状態で最後まで試合を終わらせることはできたのでしょうが、悪化する足に対してあまりにもメリットがなさすぎるので大事を取って試合を止めた形です。
またバルセロナの欠場も発表されました。マドリード以降の欠場は発表されていないので大きなけがにはならずに済んだのではと推測されます。けがの経過状況について詳しくわかる方はコメントで補足していただけるとありがたいです。
さらにモンフィス×ディミトロフはディミトロフの一方的なミスで、ジョコビッチ×チリッチはチリッチの自滅で特になにもなく終了。最終試合のナダル×フェレールを残すのみとなりました。
この試合、ナダルはイズナー戦、フェレールはシモン戦といずれもタイトな3回戦を前日に戦ったばかり。長いラリー戦、クレーコーター同士のフィジカルが問われるこの二人のマッチアップは予測不可能の幕開けとなりました。
第1セットからナダルがしっかりと押していく展開。フェレール相手にしっかりラリーを取り切りポイントを積み重ねていくナダルに脱帽しました。この地点で十分戻ってきている。いやもっと言えば、フェレールと戦う過程で忘れていたものを取り戻してきている、そんな感覚でした。
第2セットもナダルの2ブレークアップ。試合は決まったか、昨年の再現はないかに見えました。ところが流れが変わります。すぐにブレークバックすると5-4からのナダルのサービング・フォー・ザ・マッチを起死回生のブレークでしのぎ、さらにもう1ブレークして7-5と第2セットを奪い返します。
記録がないので分かりませんが、ナダルが2ブレークアップからセットを落とした試合を私は見たことがありません。衝撃でした。この時間帯フェレールはシモン戦の影響か足が悪そうでプレーに精彩を欠いていました。
しかしフェレールが恐ろしいのはここで一切諦めないこと。早仕掛けをするのではなく愚直にラリーをつなげていく。恐ろしい選手だと思いました。
結果第3セットでは力尽きた形で敗れましたが、ナダル、フェレールともにいいプレーでした。まさしくクレーコートのテニスとでも呼ぶべきラリー戦の応酬。見応えがありました。
翌日の準決勝。ベルディヒ×モンフィスはモンフィスが序盤完全に自滅してしまい、戻ってきたのが第2セット1ブレークダウンした直後。乗ってきた後のモンフィスはフェデラー、ディミトロフを破ってきたように誰にも止められません。シングルバックハンドでパッシングショットを決めたりジャンピングフォアハンドを叩きつけたりと盛り上げましたが、ベルディヒが丁寧にサービスキープを怠らず試合終了。結果的にはベルディヒの圧勝となりました。
そしてジョコビッチ×ナダル、昨年全仏決勝以来のカードが実現しました。
もちろんジョコビッチ有利なのは変わりませんが、モンテカルロはナダルが2005~12年まで8連覇した場所。何があってもおかしくない。序盤はその予想を象徴するようにナダルのブレークスタートで始まりました。
ジョコビッチにもミスが出ました。QFまでの完璧なジョコビッチではなくミスも出るジョコビッチ。これならついにジョコビッチに勝てるのか。そう思いましたがそんなに簡単にはいきません。
お互いにデュースになる死闘。おそらく何かが違えば試合の結果は大幅に変わっていたかもしれません。冷静なパッシング。目の覚めるようなナダルの回り込みフォア。ジョコビッチの人間を逸脱したかのようなディフェンス。
今シーズンドバイの決勝と並んで最高レベルの試合だったことは間違いありません。ドバイは高速ハードなので目にもとまらぬラリーでしたが、モンテカルロは低速のクレー。じり貧のラリーのように見えてお互いが回転、速度、そしてプレースメントを変えながら崩していくさまはまさにクレーコートの頂上決戦。
クレーコートのテニスの面白さはどうやって相手を崩すか。単なるバカ打ちはサーフェスの影響でリスクに対して拾われる確率が上がるので得られるものが少なすぎます。
一つ一つのストロークを丁寧に積み上げていって、行けると思ったタイミングで一気に仕掛ける。しかしそれが拾われることもあるので二重三重に波状攻撃を仕掛ける。慣れてくると長いラリーも退屈じゃなくなってきます。
結果的にはジョコビッチがその後も終始安定していて、終わってみれば6-3、6-3でしたが、スコア以上に接戦だったと思います。ナダルファンのみなさんは一切悲観しなくてもいいと思います。それほどにナダルの復調が感じられてテニスファンとして嬉しい限りでした。
ただ課題を挙げるならポイントになった両セットの第7ゲーム。ナダルは第1セットでブレークチャンス。第2セットでブレークピンチを迎えましたがどちらもそのゲームを取れず。このゲームが試合を決めたように思います。
ナダルは何が問題で、何が復調したのか?難しいところですが、IW→マイアミ→モンテカルロとすべての試合をチェックした私はこう見ました。
よくなってきている点
・スピンのかかり方
いい時のナダルは卓球のボールでも扱っているのかというくらい落ちます。準決勝はいいかかり方をしていたように見えました。
・ボールが深い
浅い時間帯もありましたが、特に序盤にジョコビッチがミスを連発した理由はQFのチリッチがフラット系のボールを打っていたのに対してナダルがごりごりスピンをかけて深いボールを送っていたからスピンボールのライジングの対応に苦しんだのだと思われます。そのあと対応してミスを減らしたジョコビッチはさすがですが、序盤のブレークにはこういった背景もあると思われます。
・意味不明なディフェンス
意味不明は褒め言葉です。人間やめてるなーというような守備範囲が帰ってきました。クレーでの戦い方にしっかりアジャストできているのは今後に向けて好材料でしょう。
・意味不明なカウンター
これもナダルの持ち味。代名詞の回り込みフォアや相手の打球を生かした切り返しのボールがよく決まっていました。
・ネットプレー
リオデジャネイロの頃だと結構ミスってる印象があったのですが、ドロップボレーとかものすごいうまく決まっていました。
まだまずい点
・フォアランニングDTLの巻き込みバナナボール
何言ってるのと言われそうですがこんな感じです。
右利き選手がバックハンドクロス(もしくは左利き選手がフォア順クロス)に打ちこみます。ナダルは回り込みフォアを打つのが多いため、比較的回り込めるようにバック側にいることが多く、ナダルのフォア側はオープンコートになるので自然な流れで打ちこみます。
それに対しナダルはフットワークで追いつき、回転をかけて(時には走り込みながら)外から巻いてくるようなボールを打てます。
特に走りながらでもあの場所にピンポイントで打てるので意味わかりません。ウィナーがウィナーで返されます。
これが結構サイドアウトする場面がありました。回転がかかっていないからかボールとの間合いをうまく詰められていないからなのですが、今回ナダルはモンテカルロで新ラケットを試したようなのでその影響もあるかもしれません。
・平易なフレームショット
大事なカウントでこういうミスが出ました。ナダルはフレームショットは少ない選手なので異様に感じました。
IWのラオニッチ戦でのタイブレークセカンドサーブリターンのネットに象徴されるように、当たりの悪いミスが結構出ているのが印象的です。
・反応の鈍さ
微妙なんですが、時々遅れる時がありました。ネットにかかりそうなボールの時に顕著でした。
ただ一昨日のナダルのプレーさえできればトップ10以下にはクレーでは確実に負けない、そんな印象すらあるほどプレーレベルは高かったです。負けの理由を探るとすればまず第一に相手がジョコビッチという不運だったことかもしれません。
ジョコビッチは本当にうまかった。まず攻撃的なプレーでナダルを封じにかかりました。ジョコビッチはディフェンスのうまさが光りますが、しかし攻撃もできる選手です。勝つためにしっかりラリーを続けることからディフェンシブな選手と思われがちでしたが、強い当たりをナダルに浴びせていた姿はさながら攻撃的なプレーヤーでした。
さらに要所で出た2本のドロップ→ほぼオンラインのロブの流れ。クレーコートはいかに相手を崩すか。ボレーのうまいナダルに対してドロップで前におびき出すのは自殺行為のように思えますが、しっかりとジョコビッチの頭の中でその先までデザインされたプレーだったということです。
ジョコビッチ強すぎじゃないか?これ本当に誰が止めるんだ?そんな印象がありました。
ナダルが悪くなかっただけに、そのナダルですらだめだった。じゃあ決勝は…ベルディヒ…あっ…もう見るのやめようかな。実は本当に最初は見てなかったんです。ところが思わぬ事態が起きてあわててテレビをつけました。
ベルディヒが第1セット2-0といきなりブレークスタート。そこには躍動するベルディヒと苦しむジョコビッチ。信じられない戦いが始まっていました。
決勝のブックメーカーがジョコビッチに1.1倍以下をつける(勝率90%以上)のも納得というほどにこの試合のベルディヒに対する期待値は薄かったように思います。日本/海外ともに「決勝はもう終わった」という意見も出るほどの空気っぷり。
安定して勝ち上がってきているベルディヒですが、なんとこの試合を前にレース2位。本来レース1位とレース2位という頂上決戦は額面通りこの決勝のはずでした。
ベルディヒに最初期待できなかったのは本人の下位選手に対してのみの内弁慶っぷりです。下位には必ず勝つが、上位には面白いほど勝てない。ジョコビッチ相手にも2勝18敗、ナダルにも17連敗していた数字が物語っています。
ところが昨日のベルディヒは違いました。ジョコビッチ相手に攻撃的な自分の持ち味をしっかりと発揮。ジョコビッチはミスが多かったもののそれはベルディヒが攻撃的だったのと、フラット系のボールが多かったからです。前日のスピン系のナダルのボールから変わったことでまたアジャストするのに時間がかかった形です。
特にバックハンドの安定感は素晴らしかったです。DTLをジョコビッチに対して決めることができる選手はそういません。オープニングのブレークは圧巻でした。
残念だったのはベルディヒのサービスゲームで、とにかく1stサーブの確率が上がってこない。サービスポイントは取れていただけに、これが各ゲーム1ポイントずつ増えていれば普通にベルディヒが勝っていたように思います。
ベルディヒはもともと1stの確率が低い選手なのですが、ラオニッチ同様この理由は謎です。なんで長身選手でサーブ速いのに確率悪いのか…
1stセットは1-3から5-3と逆転されベルディヒ万事休す。ここで決まったかに見えましたがなんと起死回生のブレークバック。5-5にします。
ジョコビッチも1stの入りが悪く、加えてストロークは絶不調。時折見せるベルディヒの攻撃的なストロークにも手を焼き、ついに連戦の疲れが見えたか守備範囲も落ち込んできます。ここから逆転があるのか。しかしジョコビッチが何とか振り切って7-5で1stセットを取ります。
第2セットも互角の戦いが続きますが、ベルディヒが0-40と3BPのチャンスを迎えます。しかしここを取り切れず何と雨天中断。これは不運でした。雨天中断によって影響を受けるのは両者ですが、完全にプレーを見失っていたジョコビッチに考える時間と休息を与えることになり、加えて雨によって重たくなったサーフェスが守備のいいジョコビッチに有利に働くと思ったからです。
ところが展開は大きく変わります。この休憩でいい作戦を練ってきたのはベルディヒの方でした。
ベルディヒはジョコビッチのバックハンドに集める展開から左右に振り回し、特にフォアハンドを意識させる展開を作りました。と同時にオープニングの目の覚めるような強打が戻り、なんとブレークに成功。その後も再三のチャンス、ピンチを迎えながらもなんとか6-4で第2セットを取りました。
驚きでした。ベルディヒに足りないのはメンタルと言われるほど総合力がありながらあと一歩で泣いてきた選手。特に切り替えがうまくいかずにずるずると行ってしまう負け方が多い(今年の全豪マレー戦などはその典型)だけにこの切り替えのうまさには目を見張るものがありました。
しかし切り替えのうまさではジョコビッチも負けていません。完全に試合の流れを持って行ったベルディヒに対して、第3セット冒頭、試合の流れを左右しかねない大事な数ゲームで自分を取り戻します。
このゲームでジョコビッチが取った戦法は驚きです。あえてベルディヒに打たせるという展開です。
ジョコビッチは直接ハードに打ち合ってもだめだと判断し、時折スピン系のボールを混ぜたりゆったりとしたボールを送るようになりました。
雨によってさらに減速するサーフェスになっていたこの時間帯、ベルディヒはしっかり打点に入って打ち込むボールが増え、これがジョコビッチの脅威になっていました。その状況であえてベルディヒに打たせる。その起点を作ったのは第2ゲームの40-15からの一球でした。なんでもないボールを珍しくネットへ。ここからベルディヒに緩いボールを送ったジョコビッチに対しベルディヒはフォアハンドを次々とミス。なんとブレークされてしまいます。
一見驚きですが、ベルディヒの心理面を突いたジョコビッチのうまさが光ります。フォアハンドのわずかな狂いに対しどうぞフォア打ってくださいというボール。誰でも打ち込んでしまうものです。ところがミスが続くことで疑心暗鬼に。そして最後のフォアハンドの大きなオーバーミスへとつながってしまいます。
ベルディヒはそこからも粘りますが、2ブレークされたのが致命傷で届かず。ジョコビッチがモンテカルロ2勝目、マスターズ通算23勝、そしてパリMSから主要大会6連勝、加えて史上初のIW→マイアミ→モンテカルロ3連勝を達成しました。
ジョコビッチの強さはさすがでした。ベルディヒ、あそこまでいいプレーをしていたので勝ってほしかったのですが、ここを勝ちきれないのはいつものベルディヒなのかしょうがなかったのか…いつもよりは粘れていたとは思うのですが。
そしてこの試合から少しジョコビッチ対策のヒントが出てきました。
・ジョコビッチ相手には攻めるしかない!!
ベルディヒの攻めは有効でした。早仕掛けからどんどんとパワーで押し込んでいきました。一見すると流されそうですが、トップ10のベルディヒの攻撃力はジョコビッチとはいえなかなか流せません。
この攻めが有効であるというのは大きな収穫です。
・セカンドサーブリターン対策
面白いデータがナダル戦の時に発表されました。
Key stat: #Nadal’s second serve v #Djokovic Wins 50% or more: 21-4 (W/L) Wins less than 50%: 2-15 (W/L) #MonteCarloRolexMasters— TennisTV (@TennisTV) 2015, 4月 18
ナダル戦の勝敗をほぼ決めるキーがジョコビッチのセカンドサーブリターンでのポイント獲得率にあるというものです。
ナダル視点でのツイートですのでそっちに合わせると
ナダルが2ndサーブで50%以上ポイント獲得した試合→21勝4敗
ナダルが2ndサーブで50%以下しか獲得できなかった試合→2勝15敗
という数字です。これはナダルの出来にもよりますがひとえにジョコビッチのリターン力によるものです。それだけジョコビッチがリターンからポイントを取れれば試合に勝てる。そういうデータだということです。
実際SFではナダルは48%しかポイントを獲得できず、試合に敗れています。
さらに言うと昨日のベルディヒ戦、
ベルディヒが2ndサーブで50%以上ポイント獲得したセット→第2セット
ベルディヒが2ndサーブで50%以下しか獲得できなかったセット→第1セット、第3セット
なのです。まさに取ったセット/失ったセットと一致。データが少なすぎるので若干恣意的ですが、それほどにジョコビッチのリターンとは脅威なのです。
ジョコビッチの最近の試合に多い圧倒。サービスキープはもちろんですがこれにはもちろん相手サーブを無効化するリターンがあってこそ成り立つものです。
ジョコビッチのリターンをどう封じるか。なかなか具体的な面までは指摘できませんが、今後も必ずポイントになってくるはずです。
だからベルディヒがもう少し1st入れてれば本当にわからなかったんですよね…
・メンタル面を突く
世界NO.1のメンタルと言うと全く崩れないように感じますが、ジョコビッチは崩れることはままあります。そして結構その時間帯はプレーも散漫になります。
昨日の試合はそもそも結構試合に入り切れていなくて信じられないミスも結構していました。
ジョコビッチは切り替えのうまい選手ですので、自分のほうがメンタル的に優位な時間帯をどれだけ長く作れるかというのはポイントになりそうです。
言うは易しですが実現するのは難しそうですね。攻撃するということはリスクを伴います。それだけの攻撃力がある選手は限られますし、ジョコビッチにプレッシャーをかけるほどに追い込むためには結構リードするかお客さんを味方につけないとだめなので、それも簡単ではないです。
今日からバルセロナ/ブカレストが開幕です。錦織の相手を決めるガバシビリ×カレノ=ブスタ戦は今日行われるので、他の状況などを勘案すると初戦が明日になる可能性が濃厚です。
大会はGAORAとテレビ朝日系列(BSメイン?)で放送されます。そんな時代が来たか…モンテカルロの時もだいぶ思いましたが、時代は変わりつつあります。