two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

近くて遠いBIG4の壁、悔しい完敗(2015マドリードSF)

ジョコビッチ「我々BIG4と若手にはまだ差がある」

以前こんな言葉がニュースになりました。反響も大きくインターネットでは様々なコメントが飛び交っていました。

ちょうどこの言葉が発せられたのが全豪の直後。その後若手世代「Young Guns」は小さな嵐は巻き起こせても主要大会の決勝に顔を出せない時間帯が続いています。

今日もそんなBIG4と若手世代の違いを感じさせられる試合でした。

錦織のテニスは日々向上しています。もうトップ選手であることを疑う人はいなくなったと思います。

しかしNO.1になるためにはまだまだ足りないことがたくさんあると思います。これを疑う人もいないでしょう。

今日の試合はまるでBIG4以外のトップ選手が簡単に敗れてしまったような、そんなかつての光景の焼き直しを見ているような試合でした。試合を通じて勝てるイメージが一切持てませんでした。悔しいですが完敗です。

第1ゲームからすぐにその予兆は出ました。0-15からのマレーのリターン。完璧でした。典型的なセカンドサーブの叩き込み。マレーが得意とするショットです。

錦織のセカンドサーブウィークポイントという話は以前からありました。というよりも最大の課題でした。

2012年ごろはこのセカンドサーブを叩かれて負けることが多かったです。たくさんブレークもするけど、たくさんブレークされる。もどかしい試合が続きました。

サーブ改造によって錦織のサービスゲームは以前に比べて飛躍的に安定しています。それこそ今シーズンのキープ率はマレーより上の88%。ツアーでも屈指の高いキープ率はセカンドを叩かれなくなったことも一因です。たいていの選手には、です。

錦織の強さの理由は安定した勝ちが得られるようになったことです。2012~13年にも局所的な大きな勝利はたくさんありました。

しかしそれは局所的な勝利にすぎませんでした。その分どこかの大会でも初戦負けも等価に扱われるからこそ、10~20位付近の順位に甘んじることになりました。

サービス向上によって錦織はしょうもない試合の落とし方が激減しました。下位への取りこぼし減少は大きな強みです。

これによって成績が安定し、加えて爆発力もあるのでトップ10、トップ5に来るのは自然な結果です。

ただトップ5までは来れてもその先、ここから先の景色はまた別世界なのです。

この試合を通して、トップではなくNO.1になることとはなんなのか、確かにマレーは1位にはなっていませんがGS2勝マスターズ9勝、時代が違えば間違いなくNO.1になっていた選手であり、だからこそBIG4にくくられるわけであってこのマレーにさまざまな事を教えられた試合でした。

そしてプレビューで指摘していたマレーの高速1stサーブにも手を焼きます。セカンドサーブのリターンがどうしてもマレーと対照的だったので言われていますが、私はこの試合を決定づけたのは1stサーブのリターンの差の方だと思います。

錦織がキープに苦しみ、マレーはたやすくキープ。こんな展開が続く中大きな場面がやってきました。

第6ゲーム。マレーが厳しい場面を迎えます。錦織の幸運なネットインに加えリタ-ンエース級のショットもあり30-40に。

私はここでのマレーのプレーが本当にうまかったと思いました。基本的にマレーのプレーは拾うことを優先した、その上で緩急をつけながら深いボールを送っていくプレーでしたが、この場面で自分で仕掛け、バックのDTLでポイントを奪っていきました。

まだ戦略があったのかという驚きと攻めようと思ったら攻めれるという驚き。底の見えないマレーのプレーにこちら側も圧倒され、プレッシャーを感じたポイントでした。

そしてこのゲームをブレークできないと次のゲームでは予想通りピンチがやってきます。なぜかブレークチャンスが絡むと次のゲームもブレークポイントが絡むことが多いのがテニス。この場面、錦織はセカンドサーブを叩かれてブレークされます。

第6・第7ゲームが本当に対照的でした。土壇場で踏ん張れない。これを10位以下の選手には錦織は容易に勝者側の立場としてやってのけますがマレーには通用しない。差を感じました。

そして地味に痛かったのが第9ゲーム。前記事でコメントが返せていなかったのですがテニスは基本的にサービスは交代で行っていきます。これはセットが変わっても原則持続します。

このゲーム、錦織がキープしていれば次マレーがキープして6-4でセットを取り、第2セットは錦織からサーブを始めることができました。

ここでブレークされてしまったことでマレーが先にサーブを始めてしまい最終ゲームのQMKパターンを生みましたね。地味ですが痛い落とし方でした。

第2セット第3ゲーム。1つのDFで流れが変わりました。ここでマレーも少しプレッシャーを感じミスも出ます。

そして今日の一つのポイントであったバックDTL。ここで決めたのは錦織の方でここからドロップ2本など錦織テニスのいいプレーが出ました。今日一番いい時間帯だったと思います。

ここでブレークに成功しますが、次のゲーム…

30-15から愚直すぎるクロスラリーからドロップショットを決められ、痛恨のDF。この2本でBPを迎えてしまい、一旦はしのぐもののリターンエースを連続で決められてブレークバック。2-2でしたがもうこれで勝ちはなくなったと思いました。

そして4-5からいつもの自滅でQMKパターン。最近よく見る形の負け方で大事な試合を落としました。

なぜ負けてしまったのか?おそらく様々な理由があると思います。

こういう時は私はスタッツに頼っちゃうのでスタッツを見ましょう。最終スタッツです。

#MMOPEN15 match stats: Andy #Murray v Kei #Nishikori. http://t.co/HNDINmxRpO #tennis pic.twitter.com/kmzeb6SE8z— TennisTV (@TennisTV) 2015, 5月 9

これを見るとわかりますが錦織はロングラリーに持ち込むとマレーよりポイントが取れています。

加えてセカンドサーブのリターン。セカンドサーブのリターンはミスも多かったもののそこまで大きな差は出ていません。むしろ致命的なのは1stサーブでした。20%も差がついていて、錦織は20%しかポイントが取れませんでした。

BIG4のリターン力は群を抜いています。テニスは総合力。錦織のストローク力がマレーに負けていなかったことはロングラリーが取れていることからわかりますがそのストロークに持ち込む機会の数が少ないのですからそれは勝てません。

ショートポイントで20ポイント以上差をつけられています。サービスポイントの数でマレーが勝っていたのに加えリターンからの強襲の数も多かった、この二つが大差を生んだ理由です。これがなかったらもっといい試合になっていたということでもありますね。

テニスは総合力。今回は錦織の穴をしっかりと突いたマレーが錦織にいいテニスをさせなかった。そういった試合でした。

正直な感想をまとめとして書きたいと思います。

まず何度も言うように、このマレーに対して大きくはゲームを壊してはいません。こういったところからも錦織がトップ10プレイヤーであることに何の疑いもありません。変わることもありませんし素晴らしい選手であることも変わりありません。

むしろ今日のゲームはマレーがそれを認めたうえで錦織のやりたいことを少しずつ封じていった、錦織が強いことは明らかで、勝つためには自分のテニスを淡々とやるだけではなく錦織を眠らせておくことが最善だということ。

当たり前ですね。やや調子が悪かったとはいえファイナルで負けてる相手ですから当たり前のことなのですが、これは驚くべきことです。相手が弱ければ、自分のテニスをしているだけで自然と差はついていくはずですから。

世界全体の見解として、錦織に勝つにはストローク戦をさせない工夫が必要だという認識が強まっていますし、私も錦織対策を考えるならそうします。展開力、守備力、攻撃力、どこをとっても錦織と「同質の球種で」まともに打ち合って5割以上で勝って行ける選手というのは存在しないと思います。

ただ逆に言えばそれさえ封じ込めば簡単に眠ってくれるということでもあると思います。ことBIG4について言えば、ジョコビッチはメンタルから追い込み、フェデラーはあえて高速ラリーで力で押し切る選択をして、マレーはリターンの強襲でチャンスを与えなかった。まだこの錦織テニスを封じる解法をBIG4はそれぞれ持っていて、様々なアプローチから封じ込むことができると言っているのだと思います。

錦織の最近の負け試合を振り返ると

リターンからゲームを作れない→ストロークが不調になる→なぜかサービスに影響し、確率と3球目攻撃を主体とした攻撃性を失う→4-6や3-6でブレークできず1ブレークダウンでセットを落とす→チャンスをつかんでも自分のミスで落とし、さらにフラストレーションがたまる→ストロークの不調が治らない→一度も浮上のきっかけをつかめず負ける

こういったパターンが多いのが気になります。まあきっかけをつかんで競った試合になるとファイナルセット全部勝つ選手なので選択的にそういう負けが増えてしまうのはあると思うのですが、打開できず負けるパターンの負け方(しかも対策出来た可能性がある)というのは味気がないですね。

マレーに対してバックハンドはクロスを打ち込みまくっていて、DTL展開できたのはブレークした第2セット第3ゲームのみでした。

もう少しリスクを取って攻めてほしかったですね。マレーはとにかくつなげて錦織に打ってくださいと言わんばかりのプレーでした。

普段なら攻撃力がある錦織が打ち切ってしまうのかもしれませんが、フラストレーションがたまった状態でミスも出ていく中、マレーの相手の出方をうかがう「沼」にはまってしまった形でした。

カウンターが怖いのはわかりますが、全部決められてたわけではなかったのでもう少し走らせる展開にトライしてほしかったですね。マレーも疲れてなかったわけではないでしょうし。

あと一度フラストレーションをためた後抜け出す方法もそろそろ身につけてほしいです。今シーズンの負けの大半がこれです。今後も多くの選手がこのパターンを狙ってくるでしょう。

一応念のため。ここにきている人は大丈夫だと思いますがベスト4でもものすごいことです。フェレールを含めた3連勝が無に帰されたわけではありません。より高いレベルでの課題をたくさんもらっただけで、大会としてはいい大会でした。お疲れ様でした。

「我々BIG4と若手にはまだ差がある」

最後にもう一度この言葉を。今こそこの言葉の重みが分かります。

しかし追いつけない差ではないと信じています。もう一度スタートラインを切ってほしい、そんな敗戦でした。