two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

意味のあった「2つの第1セット」(2015全仏1R・2R)

5/26 現地15:00~(日本時間22:00~)

Grand slam French Open

1R

[5]Kei Nishikori 6-3 7-5 6-1 [WC]Paul-Henri Mathieu

5/27 現地13:00~(日本時間20:00~)

Grand slam French Open

2R

[5]Kei Nishikori 7-5 6-4 6-4 Thomaz Bellucci

2年前、赤土、挑戦者。

ナダルの対戦相手として臨んだフィリップ・シャトリエ(センターコート)での試合。

ナダルに勝てる、行けるかも、トップ10も見えている…

そこからの結末はもう説明しません。この試合でナダルは本調子を取り戻しそのまま優勝。一方錦織は力の差を見せつけられ、この試合が影響したかはわかりませんがあと少しでトップ10を逃し、時は流れます。

2年ぶりのシャトリエでの2回戦。もちろん対戦相手のベルッチが勢いがあるということがその理由の一つでしょうが、今度はシード選手として絶対に勝ちに行く立場として戻ってきました。強くなりました。もうチャレンジャーの挑戦を受ける立場です。

そしてその期待通りベルッチの猛攻を受けきっての勝利。見事でした。

注文はたくさんつく試合だったと思います。しかしベルッチは今大会のノーシード選手の中では5本の指に入る強敵。ストレートでの勝利は最高の形だと思います。

私はこの試合のポイントを第1セットに挙げます。表現は嫌いですが格下のいなし方というのがポイントでした。

少しベルッチの、いやもっと一般的に下位選手の気持ちになって考えましょう。

相手は上位シードの○○、しかしもう勝つしかない、失うものはない、攻めていかないといけない。

こんな時GSの5セットマッチは遠いです。勝つためには3つセットを取らないといけません。3セットマッチなら勢いで2セット取ることはままありますし、それこそが逆にMSを難しくしている理由ですが、一方GSでは3つ必要。勢いだけでは取れない。

こんな時1stセットを落としてしまえば下位選手の気持ちとしては「もう諦めたい」となります。

ところが1stセットを取ってしまうと「あれ、1セット取れた。相手だって3つ取らないといけないんだからもう少し頑張ろう、勝てるかも」となります。

下位選手、勢いのある相手、私の中では1stセットさえ取れればアーリーラウンドでは負けない、そんな気持ちがありました。ベルッチ、そして1回戦のマシュー相手でもです。

その1stセットはベルッチの猛攻を受けます。予想された通りベルッチの強力なフォアハンドに手を焼きます。

一方ベルッチはバックハンドではややミスが多く、バックハンドに積極的に振ればもっと早く崩れるのではと思っていたのですが、錦織はほぼ左右均等に振りました。

ベルッチは走らされる展開、加えてコースが読みにくい状況になりました。一見するとよくわからない戦術に見えましたが錦織は勝負所でバックに集め、バックハンドを意識させるラリーを作り、大事な場面に取りやすいポイントの形を温存していたように感じました。

この余裕です。第11ゲームのBPでのプレーがまさにそれでした。バックハンドに釘づけにして最後はベルッチのフォア方向にフォアストレートを打って決める形。これがもし試合前半から出ていれば対応できたかもしれませんが、ベルッチはいきなり出てきたこの形に対応できずウィナーを許します。

そして試合前半は本当に互角の勝負でした。正直1stセットは落としてもおかしくないセットでしたが、BP1本にとどめ、気が付けばセット終盤でしっかり地力の差を見せて取り切ったこと。ただの80位くらいの普通の選手であればありうることですが、ベルッチ相手にこれができるというのは本当に強いです。

第2セットはベルッチがまさに指摘したような気落ち状態になり、加えて連戦の疲れもたまってパフォーマンスが落ちます。

錦織もややペースを落とし、落としすぎた結果が第8ゲームのブレークバックです。これは次回以降反省して臨んでほしいですね。

第3セットは少し驚く場面がありました。今シーズン初のMTOです。

こう書くと不安になりますが指のまめかささくれがささったか、そんな感じだと思います。

本当は第7ゲームのチェンジコートの時に治療したかったのでしょうが、時間がなく(コートチェンジの時間は決まっている)、第9ゲームのコートチェンジでトレーナーを呼んだという感じでした。

これで錦織フィジカル強くなった論の最も強い根拠だった「今シーズンMTOなし」という表現は使えなくなってしまいましたが、致命的なMTOではないので今のところ一切問題ありません。

この場面でも少し集中を欠いてブレークバックを許した後だっただけに、うまく集中し直す機会としてMTOを使っていました。

別に悪い意味ではなく、戦略的なMTOの使い方だったと思います。最終ゲームのプレーを見れば問題ないことも分かります。

さてこの試合はブレークバックや1stサーブの入り、意外と多かったミスなど目立つ不安要素ばかりが多く指摘されていますが、私はむしろこの試合今大会の錦織に強い信頼を感じたゲームでした。

この数字を出すと驚く方も多いと思いますが、昨日の錦織はウィナー39、UE30、一方のベルッチはウィナー24、UE43です。数字で錦織圭はベルッチを完璧に封じ込めました。ベルッチの攻撃的なフォアハンドに対する対価が得られていないスタッツ、錦織の守備力がベルッチのウィナーを簡単に生み出さなかったためにこういうスタッツになっています。

5セットマッチ、最低でも2時間、長い時は4時間5時間かかるテニスでは局所的に見れば、あるいはデータを恣意的に解釈すれば勝った選手の問題点は簡単に指摘できます。3セットマッチで6-3、6-1とかならまだしも、ストレート勝ちのこの内容で局所的に問題点が発見されるのはむしろ当たり前のことです。

いろいろ改善点もあるでしょうしもちろんそれらは間違っていないと思いますが、それこそ2時間以上ハイレベルなパフォーマンスを2回戦からやっていたら準決勝の頃にはガス欠です。

テニスにおいて大事な6-4ペースを続ける、総合力では確実に上回り続ける、これを難敵ベルッチ相手にやってのけたのでいい勝利だと思います。

マシュー戦も1stセット、2ndセットは悪い内容でした。しかしマシューのフォアハンドの攻撃に対して部分的にやられる場面はあれどやはり総合力では上回っていました。

全米1Rのオデスニクのように、地元で恒例のWC選手ということでもう少し大差で勝てるという予想もしていたのですが、マシューはこの試合に賭けていました。気落ちして崩れた第3セット冒頭まではトップ50かそれ以上のプレーだったと思います。

逆に言えばこういったタイトな試合でも結局錦織がセットを取るので下位選手は気落ちします。典型的な「上位の下位選手に対するいなし方」を見せてくれた勝利だったと思います。

さてベルディヒ山にいるからか、妙に錦織の割には周りのシードダウンが目立ちます。

いやほんと、いつもみんな勝ち残るんですよ。またデータで示せたらと思いますが。

次戦の相手はベッカーです。2戦連続フルセットですがベッカーも失うものはないので全力でかかってきます。油断は禁物。

しかし1stセットを取れれば問題ないはず。体力差もある状況で1stセットを失えば、1R2Rよりも気落ちする度合いが増える予想です。

はっきりと今回の全仏、期待していいのではと思います。油断は禁物ですが。