two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

6年ぶりの開門~ナダル敗戦、それ以上の衝撃とは~

6/3 現地15:30~(日本時間22:30~)

Grand slam French Open

QF

[1]Novak Djokovic 7-5 6-3 6-1 [5]Rafael Nadal(9-time champion)

私がテニスを本格的に見始めたのは2012年全豪です。

あの時決勝を生で見なかったことを一生これから後悔していくと思っているのですが、歴史に残る試合、歴史に残る大会でした。

当時頂点を争っていたのがジョコビッチとそしてナダルです。

それからプロツアーを追うようになってからナダルは一度も全仏で負けることはありませんでした。

年々少しずつ衰えていくナダル、クレーでも負けが増えだしてもなぜかここ全仏ではまるで神の力でも働いているかのように勝ち続け、気が付けば2015年になっていました。

2011年にジョコビッチが全仏まで無敗で来てからジョコビッチは全仏で優勝候補に常に挙げられ続けてきました。

そして2012年、決勝で初めて対戦するも敗戦。2013年には準決勝史上最長の試合で惜敗。2014年は決勝でコンディションを整えられず敗戦。ジョコビッチは3年間ずっとナダルに勝てるか?と思われながら苦杯を舐めてきました。

もしナダルに全仏で勝つなら…というのはクレーで圧倒的な成績を挙げ続けて以降ずっとテニスファンの中で考えられてきた問いです。

どうやってこのナダルに勝つのか。答えは見つからないようにさえ思えました。もし何かあったとしてもそれはナダルの絶不調かけがでもないと不可能。そんな時期が続きました。

しかし10年もたつとテニスも進化します。ついにナダルに対して一定の「解法」を見出すに至ったのです。

昨日のジョコビッチはどうやってナダルを倒すかという答えを存分に見せつけました。ナダルは致命的に悪かったわけではなかったのですが、ジョコビッチは最高のプレーをしました。完勝と言っていいでしょう。

ジョコビッチが試合の中で一貫していたのは「決して下がらない」ということです。

全仏公式のこのハイライト動画がとてもわかりやすいです。

2分間の動画でジョコビッチがベースラインのすぐ後ろより下がることはほとんどありません。

対してナダルは平均してベースラインから約3m後ろでプレーしています。

最近錦織テニスを発端に前で攻めることがテニス界全体として多くなっていますが、これはそもそも革新的であり難しいことだとここで再確認しておきましょう。

クレーでは下がって打った方がこれまでは本来得でした。バウンド後の減速が最も強いクレーでは下がって取れば返球率が上がります。例えばハードコートなら確実に決まるクロスコートへのウィナーもバウンド後の減速とスライディングでのディフェンスによって返すことができます。

この「返球」を最大限まで極めたのがナダルのテニスです。ナダルのプレーはクレーコートのためにあると言っても過言ではないのです。強靭な足腰ですべてのボールを拾い、後述する「エッグボール」によってその次の攻めを許さない。

結果相手はウィナーを取るためにより厳しいコースに決めようとするばかりにミスをしたり、ナダルに根負けする形でミスを連発、崩れていく。何度もこれまで見てきた光景です。

そうなるとじゃあナダルと同様に守ればいいじゃないかと考えるでしょう。ところがそうなった瞬間ナダルは攻めに転じます。代名詞の回り込みフォアをさく裂させ、どちらのコースにも決めることができます。

攻めてもだめ、守ってもだめ…一見するとナダルに勝つ方法はないように見えます。そしてこれこそが10年間続いてきたナダルのクレーキングたるゆえんです。

ところが、です。守ってもだめな以上攻めるしかない対ナダル攻略法。答えは意外にもその攻めにありました。

ナダルに拾われる理由は自分も後ろに下がって打ち合いをしているからで、その間合いを詰めればナダルに取るための時間を与えないということになります。

加えて後ろに下がってしまうとナダルのエッグボールにはまってしまいます。

エッグボールとは回転量の強いトップスピンのボールで、軌道が卵のふちを描くようになることからそう言われています。バウンド前に急速に落ちるのが特徴です。

ナダルの回転量はすごい時では毎分4000回転。意味が分かりません。通常のトップ選手(フェデラーアガシらが1800~2700回転)よりもはるかに回転量が多いことからこの軌道が得られます。

そうするとどうなるか、バウンドした後のボールは急速に跳ね、肩口の高いところでの返球を強いられます。

このエッグボールが深いところに落ちることでちょうどベースラインから3m位下がった選手にはもっとも返しにくいボールになります。

もっと下がって返すこともできるでしょうがそうすればどんどんコートから遠ざかり、ラリーの主導権が握れなくなります。

フェデラーがこのエッグボールに泣いた代表選手でしょう。片手バックにとって高いコースは泣き所。ナダルの強烈なフォアとフェデラーの片手バックのクロスラリーではどうしてもナダルの方が上回ります。唯一の弱点と言われたフェデラーのバックハンドを突きナダルは06年から毎年全仏決勝でフェデラーを倒してきました。

本来フェデラーの攻撃力があればナダルの守備を突破できます。他のサーフェスではフェデラーが圧倒していたように通じていないわけではないのですが、クレーに入るとなかなか結果が出ません。

そこで新しくナダル対策として、加えて錦織がクレーで躍進するために考えられたのが前陣速攻のテニスです。

こうすればナダルに時間を与えず、高い打点でボールを打つ必要もなくなります。

10年間もこの答えが出なかったのかと思われるでしょうが、これを実現するためには高い技術が必要です。

まずは跳ねてくるボールを処理する技術。普通のライジングショットでも難しいのにナダルのボールをイレギュラーもあるクレーで跳ね際でとらえるのはとても難しいです。

さらに前に出るということは返球する時間が自分も短くなるのでコートカバー能力が必要です。打球予測、走力、持久力…これらのすべてがコンスタントに持続しないと勝てません。

また跳ね際のボールはコントロールが難しくふかしがちで、チャンスボールを相手に供給する確率も上がります。

こういった側面から長くクレーではそれでも下がってテニスをすることがよしとされてきましたが、マドリードでのあの錦織の圧倒を皮切りにクレーテニスのトレンドはむしろ前に出る方向に変わってきました。

しかし、です。決して錦織がすごいということを言いたいのではありません。この世界のトレンドを受け入れ、自分のものにしたうえでとんでもないプレーレベルでナダルに勝ったジョコビッチがとんでもなかったというのが昨日の試合の感想です。

あれだけ前に出れば普通はミスが増えるものなのですがほとんどミスがなく、攻めの過程で厳しいコースを突いたミスがほとんどでナダルに攻め込まれたことによって苦しい形でミスするポイントはほとんどありませんでした。

さらにドロップ、ロブの使い方。前に出ている分いつもならナダルが取れるドロップが面白いように決まります。またドロップを返球しても苦しい態勢なのでナダルはそのあとのロブに対応できません。

このあたりはモンテカルロでも見せていたプレーですがナダルは対応できませんでした。というよりもジョコビッチが分かっていても真っ向勝負で臨んできたというのが正しいでしょうか。

第1セット0-4からナダルが挽回し4-4にした時間帯以外は終始ジョコビッチが押していました。

正直こんな光景見たくありませんでした。

別にジョコビッチが嫌いなわけではありません。ただ全仏のナダルがここまでやられる姿は…第3セットは画面を見ていられないくらいでした。

ナダルが全仏で負けるとしても5時間近い死闘で惜しくも負けて戦っていた二人ともその場に倒れ込むような、そんな試合を想像していたのに観戦し始めてから全仏で初めて見た「その時」はあまりにもあっけないものでした。

最後もナダルが1試合に1本するかどうかというDFで終わったのも印象的でした。もうナダルの全仏王朝は終わった。それを示すには十分すぎるジョコビッチの完勝でした。

もちろんナダルのキャリアが終わったわけでもありませんし、本人もインタビューでそう言っていますが、しかし全仏でついた2度目の土はあまりにも大きく、これからのキャリアの転換点になる試合だと思います。

錦織フィーバーで大会全体が取り上げられないことが多いですが、世界のテニスファンがショックを受けたことは間違いない試合だったと思います。

ナダルのフォアハンドに勢いがなかったのも印象的でした。エッグボールが浅く入るのでジョコビッチの侵入を許す形になりました。フィジカルなどが特にどうかなったわけではないと思います。前から言われていますがちょっとしたメンタルの変化なのだと思います。自信があふれているときは今年に入ってもいつもいいプレーをしていましたし。

この全仏での敗北がさらにナダルを追い込まないか。テニスファンとして心配です。

というわけでランキング試算です。

試算が途中できなくてすいません。忙しかったのでそれは全部私の責任です。

ジョコビッチ、マレーはいかなる成績でも1位、3位です。

バブリンカは準優勝でもベルディヒには届きません。優勝すれば錦織を抜き4位です。

ツォンガは準優勝で10位復帰でこの時ナダルがトップ10陥落になります。優勝で9位です。

下位者の勝ち残りがなければナダルトップ10残留は確定だっただけに、やはりあらゆる状況を考えないといけないですね。

ツォンガがバブリンカに勝つ可能性も十分にあるだけに明日のSFは注目です。

SF以降の大会展望は明日に。それでは。

19:50追記

無理でした。まだ帰れてません。毎度毎度私の力の及ばない範囲で時間が取れないので本当に申し訳ありません。