two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

【緊急投稿】ケガと錦織圭と芝と

6/20 現地16:00~(日本時間23:00~)

ATP500 Halle Gerry Weber Open

SF

[2]Kei Nishikori ret.(1-4) Andreas Seppi

1年ぶりに見た棄権負け。

書かねば。そんな気がして今日だけ筆を執ります。

言いたいことはいつもと変わりません。

・基本的には選手の判断を信じる

・QFまで勝ったことが無に帰されるわけではない

今回はこの2点でしょうか。順に追っていきましょう。

・基本的には選手の判断を信じる

忘れられがちですがQFヤノヴィッツ戦、2時間30分かかっていました。

クレーで3セット2時間半はある意味普通の試合時間ですが、芝においてはかかりすぎです。かなり展開の速い5セットマッチのフルセットと同じくらい試合時間がかかっています。

芝コートでのテニスを見るのは初めてという方も多いと思いますが、クレーとはまるで違うテニスなのがもうすでに体感されたと思います。

カルロビッチ、イズナー、ロペス、アンダーソン…こういったサーブ主体の選手がエースを量産して勝っている姿を見たことと思いますが、これが滑り、減速しない芝サーフェスのテニスがもたらす結果です。いちいち閑話休題シリーズで説明したりもしましたが言うよりも見るほうが早いです。これが事実です。

こういったサーブ中心に速い展開で決まるテニスの結果、試合時間も最も短くなります。3セットマッチであれば1時間を切るゲームがあることも少なくありません。

ところが錦織戦、2時間30分かかりました。1セット平均50分、ラリーもハードヒットの応酬となりフットワークも使いました。ドロップショットを使う選手でもあったので前後のゆさぶりも受けました。

セッピ戦はかなり警戒していました。こういう状態で第3セット取って先行したのにセッピに足腰を使わされるテニスを強いられて体力負けに近い形でプレーレベルを落として逆転負けを喫したのが2013ウィンブルドンでした。

まさにその当時と同じ状態。セッピはフレッシュな体で錦織はかなり疲労がたまっている。仮にもう少し錦織の状態がよかったとしても結構普通に負けるイメージもありました。

さてセッピ戦の錦織のプレーの判断に関しては賛否あると思いますが、そんなときに私が昔の事例として出すのが2014マイアミです。

あの当時私は選手を信じるという判断をしました。

当時の文章です。

そしてジョコビッチ戦の重要さを知っているのは何より錦織自身です。しかしその錦織が棄権を選択したということは(トレーナーの助言かもしれませんが)、おそらくしっかりとした体との対話をしたうえでの断腸の思いでの決断だったと思います。痛みはフェレール戦からあったということで、そこからあの連勝なわけですから力はありますし、試合中のアドレナリンとかで乗り切れてしまうのだと思います。だからこそ今回は明らかにこれまでの2試合とは違ったのでしょう。大きなケガを未然に防ぐためのやむを得ない棄権。逆に無理をしなかったその姿勢を賞賛すべきだと私は思います。

この時はベルディヒも胃腸炎で棄権し、マスターズのSFが2試合とも行われなかったということで世界中のテニスファンから非難の声を浴びました。

当時私のブログにも「最初からあきらめるのはよくない、スポンサーや大会のことも考えて試合に出るべき」というコメントが来ました。

当時の錦織はまだケガがちのイメージを払しょくできていない頃で、特に錦織のマネージメントに関する非難はたくさんありました。

何せあの時はフェデラー戦で最高のテニスをしていて、体も普通に動いていただけに衝撃の発表でした。

振り返って昨日のハレ。もし錦織が当時と同様に突如棄権を発表していたら?また同じ反応が来ていたのは間違いないでしょう。

しかし、です。今日のあのプレーを見て「もっとやれただろう」と思った人はだれ一人いないでしょう。みな早く棄権してくれ、なぜ試合に出たのかという気持ちになったはずです。

しかしそれは「錦織があのような足の状況だから」というのをプレーで見て確認したから、こう言えるのです。

もし錦織が昨日試合前棄権していたら「なんでヤノヴィッツ戦でおかしい兆候もなくMTOもなかったのに突然棄権するのか」という意見しか出なかったのではないでしょうか。

つまり結果論なのです。結果そうだったから逆側の意見を持っている人が批判する。こういう構造を持っているのです。

プロなんだから相手や大会、スポンサーのことを思って最後まで試合するべきという意見も間違っていませんし逆に自分の今後を考えてさらなるケガを防ぐために休むべきという意見も間違っていません。

つまりこういう問題は答えがなく、お互いに正論同士をぶつけ合うためにいつまでも議論が終わらないのです。

お互いに持論が間違ってないから議論は平行線になり、大きく荒れてしまうのです。

今回も「それでも休むべきだった」という意見は出るでしょうが、私はセッピを思って試合をしたのだと考えています。

セッピは前の試合モンフィスに30分で棄権勝ちしました。試合序盤でモンフィスの挙動がおかしくなり、ほとんど試合になっていなかったと聞きます。

そんなセッピが戦わずして決勝に進めばセッピも腑に落ちません。ボールを打ち合わずしていきなり決勝に行くのはばつが悪いです。

試合前棄権をしてしまった場合、セッピとしても嫌だと思います。錦織は試合に出ることで「私は今日は厳しい」ということをお客様とセッピに示すことで、もちろん本人はそれがすごく悔しいことはわかっていても全体のことを考えてこの判断を下したのかなあと思います。世界5位として、ツアーを引っ張って行く選手として「今日は戦えない」ということを示すという断腸の思いでの決断だったと思います。

・QFまで勝ったことが無に帰されるわけではない

ティエム、ブラウン、ヤノヴィッツ。上限の高い3選手にしっかり勝てたことは価値があります。

特に高速サーブのヤノヴィッツに対してリターンの練習ができたことは前哨戦として大きな意味があります。

ヤノヴィッツはかなりいいプレーをしていました。このヤノヴィッツに勝ちきれたことは大きな自信になるはずですし、テニスの内容も昨年とは比べ物にならないくらい良くなっていると感じました。

まずは1stサーブ。効果的なポイントもたくさん取れていました。芝テニスの必須項目キープの安定感。これが出てきました。

そしてフットワークがかなりよくなっています。芝は本当に足取りに苦しみます。普段なら取れるボールがウィナーになってしまいますがディフェンスがよくなっているので返球率が上がっています。

私が最もいいと感じたのはスライスです。バックハンドのスライスでアプローチに出る、芝テニスで必要な展開をたくさん取り入れ、これが高い確率で決まっていました。

錦織のディフェンスでのスライスはクレーコートでたくさん見せてくれました。あれだけのいいディフェンスができていれば最高ですが、それだけでなくアプローチに出るためやドロップを打つと見せかけて欺く「攻めるスライス」、これがはまっていました。この「攻めるスライス」がたくさん見れただけでも私はかなりこの芝シーズンの錦織にポジティブさを感じています。

前哨戦としてはいい結果だったと感じています。もちろんウィンブルドンでアウトプットできてより意味が出るわけですが。

巷でよく言われるウィンブルドン第4シードですが、私はそこまでこの第4シードに強いメリットを感じていません。

duffieeさんもおっしゃていましたが、今回9~12シードと13~16シードには大きな差がありません。むしろ9~12シードの方がいいくらいに思えます。

私はもともとウィンブルドンは期待してなかったのでベスト8でもOKくらいに思っていたので、実は4でも5でもどっちでもいいよ、ただランキングポイント的には稼いどいて損はないからハレでも頑張って、こんな心構えでした。

一応計算チャートは作っていたので(!?)、1~32シードを載せておきます。

さて、TENNIS LOVERSさんのほうでシードポイントの議論をしていましたが、これに加えてツアー予選のポイント、チャレンジャーのポイントを含むかはグレーの状態です。一応ルールの原文にはツアー本戦のみとは書いてないのですべての芝ポイントを計算に入れました(MTFの議論スレッドではそのようになってました)。

黄色で囲ったのが該当箇所です。また赤で囲ったのは52週ずつで区切る場合カウントされないポイントです。

ただ組み分けに直接影響するシード帯の変更に影響が出るのはゴフィンのツアー予選6pによって16~17シードの入れ替わりが起こる1例のみでした。オレンジで囲った部分です。

さて、こうして並べてみると、アンダーソン優勝時に12シード、セッピ優勝時に18シードがある以外はこれ以上変化はありません。

錦織の4回戦に影響するシード帯は

9~12:チリッチ・ナダル・ディミトロフ・シモン

13~16:ツォンガ・アンダーソン・ロペス・ゴフィン(イズナー)

となっており、チリッチ、ナダル、ディミトロフは不調気味で早期敗退の可能性あり、シモンは芝ではそこまでの成績なのに対して

ツォンガ…昨日の今日でもう嫌だ

アンダーソン…ビッグサーバー嫌だ、しかも調子よさそう

ロペス…敗戦経験もあり、何より芝巧者のサーブ&ボレーヤー

ゴフィン…オアシス

イズナー…もう嫌だ(説明略)

となっており、実は第5シードの方がもはやいいのではくらいに思えます。

もちろんQFでジョコビッチフェデラー、マレーを引く可能性があり、ワウリンカも勝ち上がってくれば嫌です。第5シードは8強になる確率が上がる代わりに4強になる確率はぐっと落ちます。

どっちがいいかという話ですが、いずれにしても第4シードに固執する理由はあまりなかったりします。

こんだけ計算してシード間違ってたら嫌ですね…一周チェックはしましたが。

まあいろいろ書きましたが今週ほぼ間違いなくフェレールに抜かれるとはいえレース6位、獲得ポイントも自己最高更新、レースポイントで見ても自己最高ペース、一切気にすることはないと思います。ウィンブルドンに出れるか活躍できるかは確率として低くなりましたが確率が低くなったにすぎません。ちょっと筋肉が腫れたくらいなら1週間でまた普通に戻れるかもしれないですし、今杞憂に思うことこそもったいないと思います(単に私が個人の事情でポジティブシンキングにしているからかもしれませんが)。

ケガの後に錦織は爆発してきましたから。そのうち機が熟するのを私たちは待つのみです。

次はウィンブルドンのドロー解説で。病状については前の記事のコメントに少し書きましたのでご意見のある方はそちらへ。