two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

首都制圧、リベンジ成功でついに節目の10勝目(2015ワシントン決勝)

8/9 現地15:00~(日本時間翌日4:00~)

ATP500 Washington Citi Open

Championship

[2]Kei Nishikori 4-6 6-4 6-4 [8]John Isner

正直ワシントン取れなくていいと思ってた、本気で反省してます。

開幕前の条件は相当きつかった。ドローで危険な選手は避けたとはいえ、本命マレーにガスケ、イズナーがいる決勝が本当に勝てるのか?それは未知数でしたしSFもそんなに簡単ではないという印象でした。

本人の足のけがもありますし何より3週連続。正直戦略的撤退では?という意見も出てきているマレーのように流してもいいのではと思っていました。

決勝を見終わって思いましたが、やっぱり優勝は格別だと思いました。東京、クアラルンプールに続いて3か国目の首都制圧です。

実はこの試合、ある面に気づいているかで試合の見方が大きく変わっていたのではと思います。

それはイズナーのサービスの球速です。もし今後試合映像を見返す方がいましたら、電光掲示板にうっすら出るイズナーのサーブ速度を気にしながら見てみてください。

ウィンブルドンでチリッチと5セットのフルセットを戦い、正直ペース配分もしながら打ち込んでいたイズナーの1stサーブの平均速度は126マイル(202km/h)でした。半数以上が200km/hのサーブとかもはやいじめですね(笑)

イズナーの場合今日の試合を見たらわかると思いますがやや球速を落としてワイドにサービスラインの超手前に落とし込むサーブをもっているので、サービスラインぎりぎりに入ったサーブだけを抜き出すともう数km/h平均は速くなるのではないでしょうか。

ところが、です。あいさつ代わりに難なくサービスキープをしていた第1ゲーム、映像をもう一度見返すと球速は

1ポイント目…125マイル(センターにフォルト)

2ポイント目…120マイル

3ポイント目…119マイル(ワイド深めにエース)

4ポイント目…11?マイル(計測ミス?ボディにフォルト)

となっており、決して速くないことが分かります。

イズナーの戦略なのかな?と思ったのですが、このあと試合を通じてある場面を除いては基本120マイル平均か、それ以下という印象で(平均125マイルにしようと思うと、半分くらいは125マイルを超える必要がありますね?)、実際3セットでエース18本。これは1ゲーム平均1.5近く取ってくるイズナーからすると結構少ない数字であることが分かります。ちなみに錦織はリーチが短いので他の選手よりも被ノータッチエースが増える傾向にあるのでは?ということが言われています。ラオニッチ戦で3セット30本以上食らったことなどがその具体例です。

つまりイズナーのサーブが本調子でないことに私はこの時気づきました。そしてそれは試合途中の肩の治療で確信に変わりました。イズナーは自分の状況を分かって抑えていると。

そんなことに第1セット冒頭から気づいていたので私は今回のイズナーには何とかして勝ってほしいという思いがありました。

錦織は着実にリターンを合わせ、第5ゲームで早くもブレークチャンスを迎えます。

しかしここでイズナーが踏ん張ります。苦しい場面でサービスの球速平均を130マイルに上げたのです。

こういった場面でのイズナーの集中力は素晴らしく、結果錦織は全体的に押し込みながらもなかなかブレークできません。

そしてやってきました。10ゲーム目です。

15-0からと15-15の展開の仕方ははっきり言って軽率です。他のシチュエーションならそこまでなんですが、あのカウントだとイズナーをギャンブルプレーに向かわせるには十分なほどの形成変化でした。

またこの場面で固まって1stサーブが入らない現象が出てしまいました。

結果最後はリターンエース2本。ビッグサーバー側の思惑がぴったりとはまってしまった1stセットでした。

ただここからの錦織がすごかった。この勢いでしかも先サーブで飛ばしていきたい勢いのイズナーから第1ゲーム出鼻をくじかせるブレークを決めました。

このゲームはよい集中が保てていました。イズナーもちょっと雑になってしまった面もあってリターンを返してはラリー戦でポイントを取る錦織にとって理想の展開が作れました。

ちなみにこのゲームの後半も130マイルを超えるサーブを多数打っていました。何せイズナーはタイブレ2本を落とさない限りオールキープで試合に勝てるのですから。彼にとっての狙いはわかりやすいです。

ここを超えて錦織キープの3-0のあとのコートチェンジ、ここです。

イズナーは足ではなく肩の治療を受けました。本当にそうかはわかりませんが、第2ゲームで少しギアを上げたことが原因なのではと思っています。そして最初の予想が確信に変わった瞬間でした。

この後はお互いにサービスキープが続きますが、錦織はラリーでしっかりとポイントを取っていきます。

時々イズナーのギャンブルショットやネットプレーが決まることはありますが、固まったミスをなくしたのがうまくいった理由だと思います。

何事もなく第2セットを取ったものの、イズナーは確実にここで切り替えてくるだろうと思っていました。まだセットオール。また第1セット第10ゲームのようなゲームを1つ作れば勝てるわけですから。

そしてそれがあのファイナルセット第2ゲームでした。

イズナーは仕掛けました。そしてそれはうまくはまり15-30。会場の後押しもあり一気に不穏な空気が流れます。

しかしここから錦織は3本ラリーでポイントを取りました。ミスの許されない場面で確実なストロークを披露しピンチを切り抜けます。試合の中で絶対にやってはいけないポイント。これを与えずに第4ゲームに入ります。

こういう場面は一気に流れが逆に向かうことが多いです。メンタル的な部分もありますが、私はリターナー側がいつもよりギアを上げたので、体力を使った結果そのままもっとも体力を使うサーブを打つサービスゲームに維持するのが難しいからではと考えています。

最初のポイント。スーパーショットが飛び出したことで流れは一気に傾き、イズナーに心理的プレッシャーがかかります。

1stサーブの入りは落ち、錦織にリターンをされてラリーをする展開。イズナーは最後の力を振りしぼっていいサーブを打っていました、そして15-40からのセカンドサーブは200km/h、ダブル1stに近いサーブを入れました。

ところが錦織は臆せずライジングでリターン、フレームショットに近かったもののそのボールは入り、続くイズナーのスマッシュを返し(ここ地味にすごいもっと評価されていいところ)焦ったイズナーは一か八か打ったもののそのボールは無情にもネットに。耐え切れなくなったイズナーからついに虎の子の1ブレークをものにしました。

そしてその流れを渡さず、このあとわずか1ポイントしか落とさない盤石のサービスゲームを披露した錦織がワシントン戴冠。ツアー10勝目を手にしました。

イズナーの調子がもう少し良ければあの第1セット第10ゲームが致命傷のまま試合は終わっていたかもしれませんが、徐々に厳しくなり、有利なカウントにならないと攻められないほど足の状態も悪くなってしまったイズナーに対して、昨日のMTOはなんだったのかという錦織の軽快なプレー。第2セット以降は結局BPを与えず、教科書通りのビッグサーバー退治を披露した形になりました。

本当は第1セットのあれがそういう意味では余計ではあるんですよね…ブレークできなかったのは仕方ないとしてもタイブレークには持ち込ませたかったところです。

さてどうでもいいところで試合前から錦織が勝つだろうというデータを2つご紹介します。

0/3そして0/4。

これはイズナーのATP500の決勝の成績です。

イズナーはメンフィスで1回、ワシントンでは今回で3回目の決勝ですが一度も500のタイトルを取っていません。なお250で10勝、マスターズで2回決勝に行っている選手がです。

これは相当奇妙なデータです。他に10勝している選手は大概500を1つ取っています(なおチリッチ…)。

そしてもっとすごいデータがあります。14大会連続。

これは昨年ハンブルグでマイヤーが優勝して以降ATP500の優勝者はすべて「strong 9」なのです。

ワシントン…ラオニッチ

東京…錦織

北京…ジョコビッチ

バーゼルフェデラー

バレンシア…マレー

ロッテルダム…ワウリンカ

リオ…フェレール

アカプルコフェレール

ドバイ…フェデラー

バルセロナ…錦織

ハレ…フェデラー

クイーンズ…マレー

ハンブルグナダル

ワシントン…錦織

マスターズでトロントのツォンガ、GSで全米のチリッチが取った以外はすべて500以上の大会ではstrong 9しか優勝していないのです。

もちろんこれらはデータです。勝てるポジティブなデータがいくらあっても結果はプレーで示さないといけない。真剣勝負で勝つから意味が出てくるものですがこういったデータからもある意味負けてはいけない試合だったと思います。

ただ、この苦境を超えました。首都決戦を制したことは大きいです。ワウリンカとも差をつけての4位浮上。シンシナティ第4シード確定、全米第4シード視界良好、初の6000p到達!!!

この優勝はただのATP500の優勝ではありません。今後に向けて大きなくさびを打つ大きな勝利だったと思います。