two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

目にしたその光景は、あまりにも受け入れがたいほどの圧倒だった(2015カナダQF)

8/14 現地22:00~(日本時間翌日11:00~)

Masters1000 Canada(Montreal) Rogers Cup

QF

[4]Kei Nishikori 6-2 6-4 [7]Rafael Nadal(Former World No.1)

今でもこのスコアが信じられません。

私はひそかにナダルに期待していました。

カナダマスターズ展望でのナダルに対するコメントを再掲します。

ハンブルグで優勝、復活の気配がある[7]ナダルですが、私はまだ完全復活の判は押したくありません。

厳しい見方かもしれませんがこれまで10年連続トップ5を維持し、その原動力がクレーだったナダルにとって第2シードが21位のロブレドという穴場のクレー500を取ったことはもはや当然に近い結果でしかありません。

だからこそハンブルグで優勝して得た自信を還元するこの夏のハードシーズンで同じように結果が出てこその完全復活だと思うのです。

そう言った意味でも錦織と対戦するQF、さらにはその先に上がれるかというのはナダルにとって最大の試金石です。」

この状況です。ブログのコメントにもありましたがハンブルグ出場は今のツアー制度になってハンブルグがマスターズから降格して以降むしろ裏街道としての役割を担っています。それだけハードへの適応を遅らせることになりますから。

しかし今年のナダルには意味がありました。自信を取り戻すことです。

確かにナダルのまずいポイントはたくさんあります。この試合でも出ました。それはあとで解説します。

しかしそれらは半年の離脱から復帰して以降失っている自信、メンタルに起因すると考えています。

私はメンタルと言う抽象論に持ち込みたくないためにほとんどの場面でとにかくショットの一つ一つに原因を還元させていたと思います。

その私がメンタルという言葉をナダルに使うほど今のナダルには大きな問題だと考えています。

得意のクレーで穴場大会。ここでしっかりと結果を出して後半戦のスタートを切る。ナダル陣営はそういった意味で完璧な選択をし、見事優勝してカナダに乗り込んできました。

私は先ほどのカナダ展望でナダル復活に懐疑的という言葉を示しました。

ハンブルグに出ることはリスクもあります。ハードへの適応です。

しかしそのリスクを負ってまでナダルは自信を取り戻したかった。ファンも含め、強いナダルが帰ってくることをテニス界全体が望んでいたと思います。私もその一人でした。

昨日のゴフィン戦を見て、一気にプレーレベルが落ちない限りこの錦織に勝てるならナダル完全復活を宣言しようと思っていましたし、そういう意味でどっちに転んでも幸せだったので私は心穏やかに試合を迎えていました。

しかし今日の結果は、確かに錦織にとって栄誉ある勝利でしたが、一方ナダルは今後本当に心配なくらいの内容でした。試合を振り返っていきましょう。

第1ゲームはナダルのサーブから。

なんとエース2本、DF1本という独り相撲のまま錦織がまだ上げきれずにナダルキープ。

1ゲーム目からナダルDF。試合プレビューで書いたDFです。このDF、やはり試合の大事な場面でこの後出てきます。

第2ゲームはナダルがよかった。最初のナダルが取った2ポイントはどちらもスーパープレー。ただこのゲーム、BPでの錦織の1stサーブがよかった。これで落ち着きを取り戻し、デュースからは目の覚めるようなウィナーが出て1-1となります。

ただこのゲーム、ナダルは不調に入ってから多いリターンミスをやってしまいました。これがこのゲームあと1本でも少なくてラリーに持ち込めていたら結果は違ったのではないでしょうか。

また錦織が序盤からウィナー量産の理由もナダルの浅いボールにあります。錦織はマドリード同様ナダルの浅く高いボールを叩きつけるように強打し、これが下がっているナダルの守備範囲より遠い位置に突き刺さっていきます。

第3ゲーム、ブレークできたポイントはただ1点、すべてのサーブをリターンし、ある程度深い位置に返せたことです。

割と錦織は当たるといいリターンだけどフレームショットにしたり、そこまで無理しなくても…というリターンをよく見るのですが、このゲームはふわっとしたボールでも深いところに返っているので、3球目で決められるようなボールを与えていませんでした。

普段のナダルだとそこからフォアでどちらのコースにも打てますが、浅いので取られてしまいます。

この錦織の攻めが具体的に分かる表がこのタイミングで出ました。こちらです。(スポンサーを隠すために一部錦織のバック側を切り取っています。すいません。)

ご覧ください。錦織が前、ナダルが後ろ。完全にこの構図が出来上がっています。

錦織は特にフォアハンドで前に出て打っているのが分かります(赤丸参照)。ブレークしたポイントもそうですがここから強打のストレートをよく決めていました。

反対にナダルは特にフォア側で下げられています(赤丸参照)。前述のフォアストレートによって後ろで取るボールや、今日非常によかった錦織のバックハンドにも下げられる形になっています。

プレビューで予想した錦織と前での打ち合いという線が消えてしまったのです。

第4ゲームも0-30と危険な場面でしたが、いいサーブを固めて打つことができナダルに一切チャンスを与えずキープします。

ナダル相手にこういうキープができるのは2015年錦織圭らしいです。去年でも怪しい時期がありましたし。

実は3-1のこの場面、私は音声だけライブで聞いていたときまだそこまで差はついていない印象でした。

0-1のBPの件もそうですし、2-1の0-30もあり、まだまだ試合は動きそうな予感がしていたからです。

ところが一気に試合の流れを傾かせてしまったのがプレビューで指摘したDFです。第5ゲーム、30-0と先行しまだまだこれからと行きたかったはずのナダルが連続DF。次のサーブも2ndになり錦織に叩かれて失点。

プロの試合だと1ゲームに1DFで危険サイン、2DFだとブレークどうぞという風に言われます。ラリーで五分なのは普通なので、だいたいサービスポイントを2ポイントくらい作ってあとは互角のラリーをしていればキープできるという論法です(ビッグサーバーはこうではありません)。

そんなきわどい世界でみすみす相手に1ポイント与えることは自殺行為です。アマチュアレベルでもDFをなくせと言われますが、プロレベルではもっと高い次元でDFを減らす必要があります。

そのDFがプロツアーでも屈指の少なさを誇っているのがナダルです。

若いころは210km/hのサーブを打っている時代もありましたが、やがて確率重視の1stサーブに絶対にDFしないセカンドサーブ。これを武器にナダルサービスゲームは構成されています。70%を超える1stも結構ある選手ですし、試合通してDF0もよくスタッツで見ました。昔は。

私はフォアハンドもそうですがこのサービスゲームの安定感の欠如がテニスの技術レベルでの最大の問題だと思っています。BIG4でサービス球速は一番遅いながらも彼らと張り合ってさらにNO.1になる理由は1stサーブが多いから、無駄な失点がないからです。

第5ゲームは昔のナダルなら絶対に落としていないゲームでした。これでゲームの流れは一変します。錦織の圧倒が始まります。

第6ゲームもしっかりキープし、第7ゲームは開き直ったナダルがいいショットを決めてキープするも、第8ゲームはエース2連発で錦織がきっちりサービスキープ。1stセットをあのマドリードと同じ6-2で取りました。

そうです、あのマドリードです。本当に不思議な巡り合わせです。私たちはこうして1年前と同じ光景を見てしまっているのです。

第2セットに入ってもナダルの歯車は元には戻りません。

第1ゲームは0-30。ここからはナダルが攻撃的なショットを決めて何とかキープ。次のゲームも攻めたてますが錦織は落ち着いていました。サーブを中心にしっかりとゲームメイクをしてキープ。迎えた第3ゲーム。30-30からわずかに浮いたチャンボールを強力なバックハンドクロスでナダルからウィナーを取ります。

私がこの試合で最も驚愕し、言葉も出なかったのがこのショットです。

コース、軌道もさることながら驚いたのはここです。ナダルにフォア側のコート外に走らせることは本来むしろ自殺行為です。切り返しのバギーホイップショット、ポール回し。こういった名前のついているナダル特有の曲がりながらコートに吸い込まれるフォアハンドの餌食になってしまうからです。

ところが、です。何の迷いもなく打ち込まれた錦織のバックハンドは強力。ナダルは触れることさえできないのです。

おそらくライブで映像を確認しながら見ていたら、ここで私は勝利を確信したであろうというほどにキーとなるショットでした。

続くポイント、ナダルはプレッシャーを感じたのかDF。またです。この大事な場面でのDF。これで第2セット仕切り直せたはずの場面でもリードを許してしまいます。

第4ゲームは圧巻。私は見たことがなかった錦織の3連続エースです。キャリア初?そんな気がしてなりません。

第5ゲームで映像を見ていた私は言葉を失いました。

2014年、何度となく見れた錦織の神がかったプレー。今年はまだ一度も出ていなかったように思います。それがこの場面で出ました。すべての強打が有効打になり、ナダルは拾うしかない。リターンエースも決まる。

私はゾーンは信じない人間だと何度も言っていますが、形容するならゾーン以外の言葉が思いつきませんでした。

第6ゲームは純粋にナダルがよかったです。フォアを軸に強いストロークを浴びせ、いい攻撃ができました。と同時にここから錦織は1stサーブが入らなくなります。

本来ナダルはやはりこの攻撃がないと守備に対する対価が得られないと感じる場面でした。防戦のまま防戦しても今日の錦織には勝てないのは明らかでした。

このブレークバックで4-2。不思議なものです。このスコアもマドリードの途中と同じ。そうです、まだ勝ちは遥か遠くにあるのです。

奇しくもマドリードと同様潮目が変わり始めた時間帯でした。次のゲームのナダルのバックハンドの逆クロス(!!)、あれで一気に空気感が張りつめてきました。

ナダルはついに攻撃的になりました。もう守るものはありません。攻めるしか勝つ方法はないのです。打ち込み、自分を鼓舞し、会場を盛り上げ、新しい空気感を作っていく。あのマドリードと同じ。ナダル最後の反撃に出ました。

ただ、あの時と全く違う条件が一つありました。

錦織の体です。

2014年の錦織なら、ワシントンを優勝し、ここにたどり着いた地点でもうけがを抱えていたでしょう。ここからマドリードと同じ結末になったとしてもなんらおかしくはありません。

連戦にも耐えれる鋼の体を手に入れた錦織は、1stサーブの入りこそ落ちるもののプレーレベルをワーストにすることはなく、この難しい場面でもナダルとしっかり戦うことができました。

特に第8ゲーム15-30、30-30での2つのラリー戦。これは平常心でないとできないほどキレのあるプレーでした。

ナダル相手に勝ちびびりすることなく淡々と自分のできるプレーをしているのです。

最終ゲームにもDFをやってしまったものの、しかも40-30からセカンドとかいう劇場っぷりだったけど、サービスポイントを重ね最後は試合を象徴するフォアの強打。8度目にしてついにナダルを撃破し、BIG4全員から勝利を挙げることに成功しました!!!

BIG4から通算で全勝自体は上位選手では難しくはないことですが、錦織はついにBIG4より下の世代ではデルポトロに続く史上二人目(TSD調べ)のBIG4全員からの勝利となりました。

そしてデルポトロは残念ながら復帰途中。つまり、彼らの世代の下で今最も可能性があるのは今のところ錦織圭、これはナダルからの勝利をもってさらに決定づけられたと言っても過言ではないのです。

一応ナダルが勝つ方法を考えてみましたが、今日の手持ちのカードではどうやっても無理だったように思います。

第1セットからあの攻撃性があればというのはたらればですが、そもそもそんな攻撃性は持続しません。もし持続するならナダルはとっくに復活してます。今のサービスゲームでは必ず錦織がリターンからチャンスを掴み、試合結果は変わらなかったでしょう。

ちなみに最終スタッツを見ると驚愕の事実が分かります。

@keinishikori defeats @RafaelNadal in just 83 minutes to make the #CoupeRogers semi-final pic.twitter.com/5qZ0Pwr3DJ— TennisTV (@TennisTV) 2015, 8月 15

どうでしょう。なんとこの試合で大きく差がついているのはショートポイントの数なのです。錦織が13ポイントも差をつけています。ナダルのサーブを攻略してラリーにつなげ5割を取り、そして自らが安定したサービスポイントを量産した証拠なのです。

正直今日の試合を見て思い出したのが全豪フェレール戦、マドリード2015のフェレール戦でした。

あのような守備的選手は錦織がそこそこのレベルのストロークをしっかり持続的に展開すると守備ではどうにもならないという結論に達したこれらの試合ですが、ナダルフェレールの守備は少し意味合いが違うにしても、大局的には同じことが起きてしまったのだというのが私のこの試合の結論です。

ただ、それがBIG4であるナダルに対して6-2、6-4で実現されるとは聞いていません。未だにこのスコアが信じられません。新規ファンの方は強いナダルを見ていないので分からないと思いますが、少なくとも2014年マドリードより前に入ったテニスファンはもれなく衝撃を受けたのではないでしょうか。

ナダルももう少しなんとかできたかもしれませんが、錦織は自分のテニスでしっかりナダルを打ち破った。このことが衝撃でなりません。

さて気持ちを切り替えるのが難しいですが次はマレーとの対戦が早くも朝九時に待っています。きっと今回は順延はないと信じてます。

マレーはツォンガに勝っています。内容についてはランキング試算の方でやるとして、やはり今回のマレーは強い。というかワシントンがおかしかっただけだと思いました。

錦織はとにかくマレーにセカンドを叩かれないようにすること。マドリードの敗戦原因はサーブとリターンです。あの時もストロークはなんとか五分に持っていった印象です。

あとはマレーの巧みな技術に要注意。ツォンガ戦でもロブを決めており、具体的には無意味なドロップショット、無意味な展開はすべてマレーがものにしてしまう、こう考える必要があります。ドロップ返しや前におびき出しておいてのボレー&ストロークはマレーの右に出る選手はそういません。

リターンの方では向上しているマレーのサーブに要注意。勝ったツアーファイナルズではマレーの130km/hくらいしか出ていないセカンドを叩きこんだところが勝因でしたが、これを今のマレーに対してできるか。高い技術が必要です。

正直この快勝の後に何を言っていると言われそうですが、これだけあっても錦織の明日の勝率は40%かそれ以下だと思っています。

マレーとのテニスはBIG4の中で最も噛みあっていないですし、最初はファイナルで勝った時に攻略したかと思いましたが、2015マレーを見る限りこれからも厳しい相手になりそうだと考えを改めました。

逆に言えば、このマレーに勝てれば本物どころか大騒ぎです。本気で全米の優勝を考えてもいいくらいの勝利になると思っています。

ただ錦織ならやってくれると私たちは信じるしかありません。少し年初の頃のフィーバーが冷めてきたこのタイミングでの活躍。やっぱりやってくれる男です。必ず爆発してくれる。この期待に応え今シーズン2度目のマスターズ4強。もうこの地点で大快挙すぎますし、ランキングなど様々な面で他選手と大きくリードを取れる勝利になっています。

しかしその勝利に対しても喜びを示しながらも錦織は淡々としていました。もうフェデラーに勝ってアンドゥハルに負けるような「山王戦後の湘北」現象は錦織にはありません。2つ目、そしてさらにその先の見えない頂へ。全力応援です。