two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

ここは栄光の場所じゃない、試練の場所だ(2015全米1R)

8/31 現地11:00~(日本時間翌日24:00~)

Grand Slam 2000 US Open

1R

[4]Kei Nishikori 4-6 6-3 6-4 6(6)-7 4-6 Benoit Paire

さて、何から語ればいいのでしょうか。まずはデータからです。

・錦織がマッチポイントを握ってから敗戦したのは2012年クアラルンプールSFのモナコ戦が最後

・錦織が初戦敗退するのは2014上海ソック戦

・錦織が1セット以上を取って初戦敗退するのは2013ハレのユージニー戦以来

・同年代かそれ以下の選手に負けたのはわずか3人目(他はラオニッチ、クズネツォフ(リタイア負け))

いかに起こりにくい敗戦が起きたかということを表しています。すべてが覆ったゲームでした。

逆に言えば、それだけ確率の薄いことが起きてしまったということです。

ただ確率が薄いからといって事故の敗戦を捉えることは絶対にしてはいけませんし、たぶん多くの方が何かに原因を見つけながらこの敗戦を捉えているとは思います。

しかし私は今回少し違った見方からいくつか敗戦を捉えていきたいと思います。

・本当に錦織の体は万全だったのか?

ほとんどの方がこの試合をペールの変則的でかつ攻撃的なテニスを敗因に挙げます。

間違いないでしょう。それを否定するわけではありません。

ただペールはその変則的なプレーのあまりミスが多すぎました。

試合スタッツを見ればわかりますがウィナーとほぼ同数ミスが出ています。厳密に言えばウィナー64UE67。しかし5セットとはいえここまでペール主体でスタッツが推移していたことに驚きしかありません。

ウィナーが多くミスが多いテニス。現状の2015年錦織を的確に表したテニスです。

まずこのプレーをペールにやられてしまったことも残念ですが、それはおいておくとして、ゲーム主導権を握っているということは自分で一気にゲームを悪くしてしまうことがあるということです。実際ペールは幾度となく錦織にチャンスを配給し、BP獲得ではなくBPに至れそうなゲームがたくさんありました。

ただBPには意外と結び付けられていない。その点については戦術面についての2本目の記事に詳しく書いていこうと思います。

とりあえず更新を待たれている方も多いので大局的なことを先に書いています。

そしてもう一つ、ウィナー64という数字です。

ウィナーにはエース本数も加わっているので一概には言えませんが、単なる1stサーブのリターンにも精彩がなかったですし、何より追わないボールがたくさんありました。

実はこれは次の見方にもかかわってくるのですが、錦織はこの試合あえて全力投球を避けているように見えました。

別に無気力試合なのではありません。その先の大会のことを考えてです。いわゆるペース配分です。

ただこれがペース配分だったのかあるいは本当に満足に動けなかったのか。ちょっと個人的に見解が出せないくらい錦織に元気がありませんでした。

私は錦織の試合前入場時にいつも表情を見ます。

表情でだいたいその日の状態というのは予想がつきますし、大きく外したことはありません。

ルイ・アームストロングスタジアムに入った昨日の錦織を見て一抹の不安を感じていました。

まずは低い目線です。こういう時はどこかしらに不安か心配かがある時が多いです。

さらに異様に日焼けしたか顔面が紅潮していました。

これが私がこの試合を見るうえで最初から「危険だ」と思ったファクターです。

カナダでの激戦を超えシンシナティは欠場。ちなみにワシントンは昼当番が続いていましたがカナダはナダル戦もマレー戦も夜でした。

もちろん昼に練習はしているでしょうがカナダ以降欠場で本番に入っていることを考えると明らかにおかしい日焼けでした。

そして本人は「大会前もきっちりトレーニングしてきた」というコメントを大会前からしています。普通に考えると少し奇妙な話です。本番の2週間前の土曜日の試合であそこまで体がきつい状態で試合をしていた状態から、翌週の大会を飛ばして本番に臨んでいるのに「きっちりトレーニングできた」というのは不可解です。

何が言いたいのか。答えは簡単です、全米にたどり着く前に錦織は相当なトレーニングをしていたということです。そしてある程度疲れは貯めた状態で全米に入ったということです。

今シーズン、マイケル・チャンはその姿をあまり表に見せません。優勝した3大会ともすべてダンテコーチしか顔を出していません。それどころか今シーズンほとんどの大会でダンテコーチしか姿を見ませんでした。

正直契約がどうなっているかわからないので何とも言えませんが、今シーズンのチャンは完全にトレーニングのために時間を割いているように思えます。

別に今の体制を批判しているわけではありません。将来的なことを考えるとこれで全然いいと思っています。

そしてそれを認めたうえで私は年初からの成績を振り返っていく過程で、なんどもこのような体力関係が試合に影響する試合になっていることを肯定し続けています。

最たるものはマレー戦です。当時の記事で私はこうコメントを残しています。

プロは結果がすべて、その通りだと思います。一方でその結果が求められるからこその回り道が必要、これもその通りです。目先の1勝でのちの3勝を落とすのか。これを考えてみましょう。答えは単純ではないはずです。

私は今日の敗戦を見て、今年このタイプの敗戦があと1~2回あることを受け入れました。それは織り込まないといけない。すでに錦織は7か月半で55試合をこなしています。2014年とは全く別の地点にいることを受け入れましょう。話はそれからです。

私たちは普通の感覚だと「試合なんだからその前はしっかり休んで臨むべき」という感覚を持っていると思います。

確かに月に1大会程度の大会に出ている人というのは前日は休んで体力満タンにして臨む、なんら間違ってない選択だと思います。

しかしプロのテニス選手は違います。すぐに大会はやってきます。選手たちが大会を間引いているのはもちろん疲れからの回復もありますが何より毎週日曜くらいまで戦って、そのあと場所を変えて火曜か水曜に試合をするという生活を続けることが厳しいからです。

詳しくテニスを追っている方は分かると思いますが、選手たちは試合後にクールダウンと称してジムでバイクを漕いだり他にもたくさんのことをやっています。大会の試合が火曜だからといっても前乗りして厳しい練習をすることもあります。

そうしないと試合以外で練習することはできないのです。

錦織も例にもれず疲労から回復した瞬間に結構厳しい追い込みをしてきたと私は考えています。決して後半戦に入って疲弊しているからといって試合以外ではすべての時間で充電しているわけではないのです。目の前の試合に勝ちながら、錦織だけでなくすべてのテニス選手はさらなる高みへ登ろうとしているのです。

スポーツの中でも有数の体力が問われるスポーツでありながら、精進のために他の練習などにもリソースを割かないといけない。改めて厳しい競技だと実感しました。

・ゲームプランとGS上位シードの重み

錦織圭がGS上位シードになったと言えるのはいつでしょうか?正解は2015全豪からだと思います。

2014全米の地点では錦織は第10シードでした。相当いい位置ですがそれでも4Rからはランキングが上の相手です。

2014全米はチリッチが一発当てたことは認めるにしても、4Rからラオニッチ→ワウリンカ→ジョコビッチと14セットを約11時間かけて戦ったことが影響しているというのが言われています。

あの全米での錦織圭はかなり運がよかったのです。

1Rのオデスニクはテニスとして勝負にならないほどの選手だったのに加え、2Rのアンドゥハルアンドゥハルが第2セット途中で棄権。3Rのマイヤーはテニスの相性がよく一切心理的プレッシャーも来ないまま勝利。確か記憶では3Rまでの試合消費時間は全選手最短かそれに近かったはずです。

ただその状態で4Rから厳しい試合を重ね決勝でベストパフォーマンスから遠ざかった。チーム錦織と本人は次のGSでのロングランに向けて、単純な体力強化(前の項で説明済み)ともう一つ、どういう状況でも3Rまでは素早く勝つ、この2面から取り組んでいるものと思われます。

私はペール戦の第1セット、無理にウィナーを追わない錦織を見てむしろよさを感じていたほどでした。GSでは初戦から全力を出す必要はどこにもありません。

いつも私は言っていますがテニスはあらゆる側面で6-4をずっと続ければ負けることはないスポーツだと言っています。

その初戦の相手に対して6-4をすればいい。それが錦織にとって4であっても相手にとって6と感じられるのであればそれでいいのです、それで1時間半で片づければ何の問題もないのです。

そう言った意味でスロースタートだったのを批判することはありません。ただし今回スロースタートだったのは本当に体力に不安があってローコストで勝てる方法を模索していたのかもしれません。私にはそんな風に見えました。

そこで誤算だったのが最初の2ゲームでした。なまじペールの悪い時間帯からのスタートだったことでそこに合わせてしまった結果ずるずると試合を進めてしまってほころんだ1ブレークから1stセットを落としたのが始まりでした。そして最後のチャンスだったMPを取れなくなったその頃にはもう体力もきつく、しかもペールの状態がよくなっていたので届かなくなってしまったのです。

あそこで2-0ならこんな試合にはならず、ペールはあっさりミスを連発してストレート負けしていたと思います。

これはIWのロペス戦に酷似します。あの時のロペスも最初の確か0-30のピンチでキープした後に満面の笑みを浮かべました。あそこでロペスを生かしてしまったのです。

ローコストで戦うことを悪いと言っているわけではありませんが、テニスがつかみづらいペールに対して最後まであまり上げきれずに淡々とやってしまったことは大きな課題だと感じています。

そこでMPまで持って行ったのはさすがですが、昨日のペールにはまだそれでは足りなかったということです。もっと早く仕留めたかった。もし2-0にできないとしても早めの数的優位は作りたかったところです。

なお今日のペールのテニスを見て「嫌なテニスだ、好きではない」という意見をたくさん見ました。非常に残念です。

私はペールのこのテニススタイルは面白いと感じています。うまくはまればこうして世界4位を撃破できるだけでなく、すべてのテニス選手にうまい心理的プレッシャーをかけるテニスだということです。

そして何よりペールは決して精彩を欠く錦織のミス待ちをしたのではなく、リスクを取りながらミスを連発する中で3時間以上ボールを決めることだけを考え打ち続けた。これを賞賛しないことは絶対にありえないでしょう。そうでなければ昨日の錦織だとしても4セット、ないし3セットで勝っています。

確かに全体を見ると微妙な時間帯も多く「なんでこんな選手に負けないといけないのか」というのはよくわかります。その通りだと思います。

しかしこれがテニスです。最後に勝つために何をするか、その方法がそういうプレーだっただけです。彼は何も悪くないどころか素晴らしかったのです。

ペールはやるべきことをやっていました。むしろ錦織は審判に確認を取るなど、もう少し余裕を持ったふるまいでペールに牽制をかけるなどテニス以外でももっとやれることがあったはずです。逆にこういう余裕がないあたりに昨日の錦織には終始一抹の不安を感じていました(2014年は結構審判に確認しに行ったり文句も言っています)。

・何となく感じていた初戦の安心感からのショック

ちょっと錦織の成績だと思って聞いてみてください。

(9/2追記・表現にミスリードが考えられるため書き換え)

もしこんな風にテニスのニュースが流れたら皆さんどう思いますか?

①マスターズの2回戦(初戦)、クレーコート、久しぶりにいいシードをもらったのに20歳の若者に7-6、6-7、6-7で何度もMPがあったのに敗戦

ATP500の2回戦(初戦)、第1シードで迎えるハードコートの大会でSFMを落とし53位の選手にファイナルタイブレークで敗戦

③シーズン開幕戦ATP250のQF、ビッグサーバーに当たってずっと試合中に集中しきれずにペースを掴めずに7-6、6-7、4-6でフルセットで敗戦

④シーズン開幕戦ATP250の1回戦、100位以下で30歳を超えた相手に6-1と第1セットを軽く取ってから3-6、4-6で敗戦

いやー太字で囲ったあたりがひどい試合ですね。でも実はこれ今年のとあるテニスの試合の結果で、①はマドリードフェデラー、②はワシントンのマレー、③はドーハのジョコビッチ、④はドーハのナダルです。BIG4ですらこういう負け方は年に1回はしています。しかも早いラウンドでです。(以下9/2追記)③は一応QFなんですがジョコビッチには今期早期敗退と言える大会がこれくらいしかなかったので一応取り上げてみました(何せ他はすべて決勝進出なので…)

今シーズンの錦織は初戦敗退が1回もありませんでした。これは奇妙すぎる数字でした。それどころかウィンブルドンまで2回戦負けすら一度もなく、出た大会では必ず2勝以上していました。

怖すぎです。普通はどんな選手でも1回くらいこういう負けがあります。それを避けれたのは全盛期フェデラーとかそれくらいのレベルの話です。

メディアには「まさかの敗戦」はもちろんのこと、こういった面も伝えてほしいと思います。

もし友人に昨日の敗戦を聞かれたら「テニス選手だったら年に1回くらいこういうのはあるよ」とこのブログを呼んだ人は伝えてほしいところです。

(9/2コメントを反映し追記)

コメント上でのご意見により以下のことを追記しておきます。

BIG4はほとんどのGSで一切早期敗退せず、取りこぼしなく確実にQF以上の成績を残しています。

それこそがBIG4たるゆえんであり、他の選手とは一線を画しているBIG4の強さの一つの指標だと思います。大舞台で仮に強い相手に当たっても間違いがない。これはBIG4に限りなく近いところまで行ったソダーリンやデルポトロなどもできなかった芸当です。

上のBIG4の例はすべてマスターズ以下のいわば「小さな大会」です。

私が上の文書で伝えたかったことは「すべての大会で一切初戦敗退などのファンにとって厳しい結果がないわけではない」ということです。

ただ若干のミスリードが想定されたため補足として追記します。

・全米は思っている以上に「試練の場所」だ

私は「錦織は全米が最も得意なGS」というのに異議を唱えています。私は全豪が一番錦織に合っている大会だと思っています。

2008 フェレールに勝ってベスト16

2009 けがの影響で出れていない

2010 2Rでチリッチに5時間近い試合で勝利するも、3Rでモンタネスに棄権負け

2011 1Rで108位のチポッラにリタイア負け

2012 チリッチのセカンドサーブを攻略できず、悔しい3R負け

2013 トップ10挑戦に失敗、燃え尽き状態で100位以下のエバンズに力なくストレート負け

2014 決勝に進出、しかしチリッチに再び負ける

2015 ペールに1回戦負け

この大会のどこが得意な大会なのでしょうか。私は4年連続16強以上、8強も2回で、シードになってからはすべてシードキープしている全豪の方が得意な大会な気がしてなりません。

個々で振り返っても08はデルポトロに苦杯を舐めています。それ以降も勝てていません。10、11年は棄権負けで当時の錦織の課題を浮き彫りにしています。

12年はチリッチに勝てるという空気があったものの(一応チリッチの方がランク上)、チリッチに勝てずチリッチはそのまま8強に行きました。13年はいわずもがな苦しい結果でした。

夏シーズンのプレビューでも言ったように錦織にとっては耐久性が問われるのがこの全米です。

暑さ、そして早いコートでのつばぜり合い。非常に難しい条件で戦っています。

今回も試練の場所として立ちはだかった全米、来年は今年、そしてあと一歩で勝てなかった去年の分も借りを返す場所になりそうです。

まあ必要以上のがっくりはしない方がいいと思います。せっかくの最後のGSですし楽しめなくなっちゃいますよ。

ただもちろん勝ってほしい試合だったとは思います。今晩か明日にはこの試合を戦術面から振り返っていこうと思います。