どうすればペールのテニスをかいくぐれたか(2015全米1R続き)
こんばんは。
というわけでまさかの1戦についてのレビュー記事で2本目です。
実を言うと今回はWOWOWの中継のため映像を録画していないので見返すことができません。
大事なゲームの場合は見返してから書くことも多いのですがそう言った部分で粗いです。
あと後半は応援に集中していたのであまり考えていません。ファイナルセットのバックに集めすぎたというコメントは錦織の口から聞いて初めて気づいたくらいです。
とりあえず、まず試合全体としてポイントだったのは最初の4ゲームでした。
もちろんテニスには力関係はあるにしても、立ち上がりは同じ状態からスタートします。勝つためには同じだけのポイント数が必要な状態ですから。
第1ゲーム、錦織が難なくキープすると第2ゲーム、さっそくBPのチャンスがやってきます。
ところがここでペールは思い切りました。持ち味のドロップショットをBPで決めてきました。しかも軌道も完璧。まだフットワークも全開でなかった(そもそも上げれなかった可能性はありますが)錦織は見送るしかなく、結局ペールがキープします。
すると第3ゲーム、錦織は平易なミスを続けブレークされ、いきなり嫌な立ち上がりになります。
メンタル的な流れを見るとBPを落としてしまい気落ちしてミスが出てブレークされるというパターンです。他選手にもよく見ます。
相手側からしてもBPを止めたのでその張りつめた状況の中集中して入ることが多いので、こういうことはよく起きます。
本来はこういうゲームも避けるべきなのでしょうが、この地点でもペールのストロークが安定しているとは言い難く、ブレークバックは時間の問題かと思いました。
そして実際その通りになりました。リターンをきっちり返してラリー戦に持ち込むとペールがミスを続け、0-40とします。なんだ、やっぱりそうか。と私は思っていました。
以前から「5割を超えるか超えないか、それが問題だ」と私はテニスの勝ち方について語っています。
ペールがミスをしてくれる以上、仮にペールにいい時間帯が存在してもペールの悪い時間帯が存在すればいいのです。そしてその悪い時間帯で叩いて1ブレークさえしてしまえば勝てる。非常に簡単な方法です。
ずっと5割で安定される方が(これでも数字上はブレークチャンスはやってきますが)厄介なくらいです。
この場面、なんら錦織は戦術を変える必要性はない、3ポイントもあればラリーでポイントが1つくらいは取れるし普通にブレークできるはずでした。
しかりここで錦織のプレーには嫌な焦りが見えました。リターンでも無理な強打を試みるなど4位の選手としては不思議なくらい落ち着きのない感じでプレーが進行していきます。
結果ペールにキープされ、試合は一気に悪い展開になっていきます。
ペールはサーブがよかったというコメントをよく目にします。確かにペールはビッグサーバーとは呼べない選手です。いつもよりはいいサーブが入っていたような気がします。
この太字表現がミソです。私たち人間は最終的に入ったポイント、結果からそのまま安易な結論に物事を決めつけがちです。
「サーブがいいんだからポイントが取れないのは当たり前」それは確かにそうです。
ただそれは「ペールがサービスゲームでしっかりポイントを取ってキープしていた」ことの説明としては不十分なのです。
サービスゲームでポイントを取る方法は何もサーブだけではないはずです。そのあとのストロークが神だったらきっとリターナーは全部リターンしたのに1ポイントも取れないなんてこともあるでしょう。そんな試合に対して「サーブがよかったから試合に勝てた」という講評にはならないと思います。
この試合のペールのサーブスタッツを見ると意外な事実が分かってきます。
1stサーブ64%はまあ普通の数字です。至って平均の数字です。
ペールの1stサーブは確かによかったのかもしれません。実際1stサーブのポイント獲得率は77%でした。
しかしです、この試合の大きなポイントとなったのはペールの2ndサーブポイント獲得率が58%だったことです。
ちなみに錦織は今シーズンここまで(全米は入ってませんが)54%の2ndサーブリターン(執筆当時抜け落ち)ポイント獲得率を叩き出しています。
これは比較的いい数字です。しかしこの日の錦織は58%の逆、42%しかポイントが取れていませんでした。
私個人の見解ですが、最近のテニスは攻守ともに2ndサーブがカギになってきていると考えています。
マレーの2ndサーブ強襲、そしてフェデラーが見せたあの「神風リターン」(海外でそういう名前が上がっています)、一方でジョコビッチ、フェデラーなどは崩れない2ndサーブを持っています。
2ndサーブが安定することでBPや大事なポイントでの2ndサーブになることへの不安がなくなるので、結果的に1stの確率が上がるのです。そして結果的に2ndも安定し、1stが入りやすくなるから勝手にポイント獲得率は2重の意味で上がってくるのです。
さて2ndサーブの重要度が分かったところで42%しか取れなかった原因です。なぜ普段から比較して12%も取れていないのか?
先ほどから言っているようにペールはストロークウィナーを決める代わりにミスも多く、実はラリーでは五分程度だったのではないかという認識です。
これは奇妙なことです。ペールは押していたように感じました。しかしそれはまやかしだったのです。実は半分以上取れている可能性があった。
ただこれが数字の恐ろしいところです。実際ポイントを決定する要因はペールにあったようなゲーム展開でしたし、それはウィナーとUEの数を足し算すれば分かることです。ウィナーにしてもUEにしてもそのポイントを自分が決めた要因になりますから。
そうすると錦織はW34+UE36の70。対してペールはW64+UE67の131となり、実に65%のポイント決定要因がペールにあることになります(厳密にはこれにFE(フォースドエラー)が加わるので違いますが、あくまで感覚的に捉えましょう)。
ここにポイントがあります。錦織は普段一昨日のペールが錦織に対してやったようにW+UEの合計が相手より多くなる傾向にあります。
そうするとです。仮に両者のウィナーとUEを生産する確率が同じであったと仮定した場合
①錦織が全ポイント決定権の65%を持っていた場合
錦織がウィナーで終わる確率→32.5%
相手のミスで終わる確率→17.5%
錦織のミスで終わる確率→32.5%
相手のウィナーで終わる確率→17.5%
②錦織が全ポイント決定権の35%を持っていた場合(一昨日の試合)
錦織がウィナーで終わる確率→17.5%
相手のミスで終わる確率→32.5%
錦織のミスで終わる確率→17.5%
相手のウィナーで終わる確率→32.5%
となります。
実は総ポイントを考えるとどっちも50%なんですがどうでしょうか、人間は太字に着目してしまいがちなのでどうしても②のほうが①よりも押されている感じがしませんか?
実は錦織テニスのいいところがここに見えていると私は思っています。自分で決めるので決めようがミスしようがストレスがないのです。
錦織はかねてからビッグサーバーを「嫌い」と表現します(苦手と言わないのがミソです)
その心には「自分に決定権が回ってこないことが嫌」という思考があるのではと考えています。
この試合の何がポイントだったかというとここです。ペールがポイントを決めていき、錦織は一見何もできないようになります。
ところがです。もちろんこの状況を続けるわけには行けないと思ってしまうの錦織は変化をつけようとします。そしてこういう時の錦織の選択はほとんど「急ぐ」ことになります。
急ぐと表現しているのはツォンガ戦の本人のコメントを借りています。「決めようと急いでしまった」と語っていましたが、リスクを取って無理に攻撃的なプレーを心掛け主導権を取りに行こうとします。
ところがこのケース、大概ミスが増えます。そのプレー選択はポイント獲得率を最大にする方法にはなりません。
調子のいい時だったらウィナー量産に早変わりしますが、だいたいこういう時はベストプレーでない時が多いのでミスの方が増えます。
そうすると今まで実は50-50で来ていたものが一気に崩れ去ります。そして一気にゲームをだめにしてしまうのです。
少し話が本題からそれかかっていますがさて2ndサーブのリターン、この時錦織は何を考えていたのでしょうか?
決めようと急ぐプレーの結果が攻める2ndのリターンです。ところがこのリターン、明らかに対価に見合わないほどポイントが取れていませんでした。
第3セット付近ではいいリターンが見られ、結果それを起点にブレークに成功することができましたが、他の時間帯では全く効果的なリターンを打つことができず、しかもラリーに持ち込む前にリターンミスになってしまうことが多かったです。
私はペールのミスもあったので別に効果的なリターンを無理に打たなくてもラリーにさえ持ち込めばいつかはチャンスが来ると思っていました。
ところがリターンミスをしてしまえば相手は関係ありません。相手がミスするかどうかではなくポイントが終わってしまい、相手のポイントになります。
私はこの試合、錦織が自らチャンスを何度も潰してしまったと考えています。もっと楽にブレークチャンスやブレークに結び付けられるリターンゲームはたくさんあったと思います。
ここで面白いデータを持ってきました。0-30というカウントです。
あの試合、錦織サーブでもペールサーブでも0-30というカウントは多かったように感じていました。
サーバー側は普通60%かそれ以上ポイントを取ってきますが、以前の思考実験からわかるように、0-30になる確率というのは仮にややサーバー側不安定のサービスポイント獲得率60%でも16%しかありません。
ところがこの試合ペールのサービスポイント獲得率は70%、理論上0-30になる確率は9%ですが、総リターンゲーム数25のうち錦織が0-30に持ち込んだゲームは4回。明らかに多い数字です。しかしそのうちブレークできたのはわずか1ゲームです。
また15-30などいいカウントになる数字も多かったにもかかわらず、BP獲得率、BPに持ち込む確率はそこまで高くなかったのです(計算複雑のため省略)。
つまりいいカウントで錦織はペールがミスによって配球してくれたチャンスだったにもかかわらず、より攻めて早くポイントが欲しかったためにミスが増え、結果的に遠回りすることが増えたのです。
これは悪い時の錦織に共通して起きがちなことです。ある意味2015年の課題だと思います。
そしてそれがリターンゲームで出るならいいのですが、サービスゲームの大事なポイントでもそれが出てしまった場合、一気に致命傷の1ブレークになってしまいます。
そして一昨日のゲームで最たるものだったのはMPのタイブレーク6-4でのあのミスです。
私は先制ミニブレークに成功し3-0となったその地点でも一切勝利を確信していませんでした。
いつもの錦織だとサーブ安定なのでもういいかとなるのですが確実に1ミニブレークされる予感がありました。なので次のペールのサーブで4-1にして2ミニブレークアップで次に入りたかったのですが、ペールがここからいいサーブを入れ、セカンドサーブでも錦織がリターンミスするので結局オールミニキープで試合が進み6-4となりました。
もちろん決めていれば済んだ話なのですが、あのパターンのウィナーを狙ってのミス、ブリスベンのラオニッチ戦のタイブレークと同じような形のミスだったのでまずいと思いました。
そしてその予想は当たってしまいました。この頃にはもうペールは生き返ってしまい止められなくなり、疲労の溜まった錦織ではどうすることもできませんでした。
一応ファイナルセットについてはペールのいいプレーもそうですし錦織がバックに集めすぎたと語っているのもそうなんですが、もう体力切れの方が大きいと思っているのでそれはあまり言及しません。やはり4セットで決めたかった試合でしょう。
さてここまで試合を振り返るとこの試合には様々な敗戦につながった理由がありました。この記事で上げた順番ではなく「意図的な」順番でもう一度振り返ります。
・タイブレークの重要なポイントでの自分から決めに行った形のミス
・セカンドサーブでの無理なリターンからのラリー戦に持ち込む確率の減少
・自分で決めに行こうとした結果ミスを増やしてしまう
・体力切れ、勤続疲労によるガス欠
実はこれらの項目、最初から順に私がブリスベンラオニッチ戦、マイアミイズナー戦、全仏ツォンガ戦、カナダマレー戦の敗因の一つだと思っていることです。
私はこの試合を全米という大会から「試練の場所」と前記事で表現しました。
この試合、錦織圭がさらに強くなるためのヒントがたくさん詰まっていると私は考えています。今年見つかっている様々な課題、敗因、それらが一気に噴出し、さらにペールの良さも噛みあっての敗戦だったと思います。
チーム錦織がどう分析し、どう修正していくか。幸運なことに時間はたっぷりできました。インドアシリーズで修正してくることを期待しています。
ちなみに最後ですが私はそういう意味でも我慢していればブレークチャンスはもっと来たと思っています。
2ndのリターンの件もそうですが錦織は4位なのでもっと落ち着いていけばよかったのではないでしょうか。ペールにも勝ちびびりがなかったわけではないでしょう。今まで一度も勝っていないのですから。
ところがあの試合ペールは勝ちびびりを一切していませんでした。なぜでしょうか?
WOWOW解説にあったようにペールはメンタルが弱い選手です。もちろん2年前に戦った頃よりも強くなっていますし、かなり改善してきているとは思いますが、通常の錦織であればそれでもやはり大差がついていたのは間違いなかったと思います。このような結果になっても解説を支持します。
ただファイナルセット先にブレークした地点でペールはいい状態でした。ただいい状態というのは好事魔多しな時で、たった一つのワンミスから流れが一変するタイミングでもあります。例えばシンシナティのゴフィンがDFから2ブレークのリードを吐き出してしまったのと同じことです。
ただその空気を錦織が作れなかった。その原因が1st、2ndとも攻撃できる手段がなかったからです。ペールはサーブを入れ、自分のプレーをしていれば勝てると思わせてしまった。そこにあると思います。
最終ゲームも0-15で心理的プレッシャーがペールに強くかかっていれば1st、2ndの力の入れ具合もまた変わってきていたでしょう。
というわけで私は我慢してほしかった、その我慢こそが相手に見えないプレッシャーをかける場面だったと私は考えています。自分のプレーを変えてしまったのが敗因の一つでもあります。
そういえば自分のプレーを変えてネットプレーに走ってしまった全豪QFにも重なりますね。