two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

忘れかけていた「勝利の味」を思い出す勝利(2015ファイナルRR1戦目、2戦目)

11/15 現地14:00~(日本時間23:00~)

Barclays ATP World Tour Finals

Round Robin Group Stan Smith Game1

[8]Kei Nishikori 1-6 1-6 [1]Novak Djokovic

11/17 現地14:00~(日本時間23:00~)

Barclays ATP World Tour Finals

Round Robin Group Stan Smith Game3

[8]Kei Nishikori 7-5 3-6 6-3 [6]Tomas Berdych

錦織が普通にやれば勝てるだろう…

実は0-3予想をしていた大会前から私はそう思っていました。

ベルディヒのテニスは単調で、錦織はペースを崩されないので噛み合うというのは前から感じていました。

事実その通りになったわけですが、しかし私はある理由から0-3予想をしました。ベルディヒにまつわるとんでもない法則があったからです。

6年連続ファイナル出場のベルディヒ、その実力は本物です。

しかしツアーファイナルズに限って言えば驚きのデータがありました。

・0-5

・5-0

・1-4

・0-1

この数字はなんでしょうか?

実はこの数字、上から順に、ラウンドロビン初戦、2戦目、3戦目、準決勝の通算勝敗なのです。

極端だと思いませんか?すべての選手がトップ8以上、そんな舞台でここまで日によって勝率が違うことがあるのか?

ところが、です。ツアーファイナルズのシステムではこれはベルディヒという選手の特質からするとむしろ当然起こりうる結果なのです。

なぜなのか?ベルディヒは上位には弱く、下位には強い選手の典型例です。

安定してGS8強やそれに準ずる成績を上げながらいまだGS決勝が1度のみ。マスターズも二十歳で取った10年前のパリのみ。

このようなベルディヒの成績だとツアーファイナルズでは必ずこの成績になるのです。

ツアーファイナルズでは初戦にビッグマッチを組まない傾向があります。

当たり前ですが2戦目は1勝0敗同士のカード。黙っていても好カードは組むことができます。

あと長くてめんどうなので説明を省きますが、3戦目にSF進出の可能性がいろんなパターンになるためにはどうやらその組み合わせにしておくと都合がいいようです。

そんなわけでランク5~8位に位置してファイナルに出てたベルディヒは初戦1~4位、そうBIG4と当たることが多かったのです。

そして2戦目では0勝1敗同士の選手との対戦となるのですが、初戦で負けるような調子の悪い選手相手にはベルディヒはコンスタントに勝てるのです。トップ8の最下層というわけではないのでこういうことが毎年起こってきました。

さらに3戦目ではもう一人のBIG4と当たるので、×○×という成績がコンスタントに現れます。

2011年だけマレーがけがで途中離脱し、ジョコビッチが負けてグループ全体が荒れたことでベルディヒは3戦目がフェレール戦になり勝つことができましたが、ベルディヒの5年間は同じ運命をたどっていたのです。(ちなみに、BIG4+ワウリンカとのファイナル対戦成績は0-9、その他の選手との対戦は6-1です。そんなことあるのか…)

さてここでです。気になるのは2戦目です。

2戦目を私は「調子が悪いトップ10選手にはベルディヒは簡単に勝つことができる」と評しました。

去年の錦織なら正直ベルディヒ戦は気にも留めなかったでしょう。こういう性質がありますし相性もいいので第何戦だろうが黙っていても勝ってくれる。しかし今の錦織に同じことは求められません。

ロディック、ツォンガ、フェレールなどがベルディヒに対してはまってしまったのと全く同じことが起こるのではないのか、錦織は調子の悪いトップ10選手であって、2戦目の法則が作動するのではないか、そういう風に思えたからです。

しかし彼は打ち破りました。

ファイナルでベルディヒに勝ったことがあるのは、BIG4全員と、ワウリンカ、そして2011年にSFで勝ったスーパーツォンガだけです。

お分かりでしょうか。錦織圭の今の立ち位置が。ベルディヒがやや調子が悪かったとはいえこの相手に勝ったことは、改めて錦織がただのトップ10選手ではなく、定着するトップ10選手であることの証明に他なりません。

試合を振り返っていきましょう。

予想はしていましたが錦織のテニスとベルディヒのテニスはトップ10(厳密には「strong 9」)の中ではフェレールに次いで噛み合っていると感じました。

ベルディヒのテニスはとにかくサーブとストロークで押していくこと。愚直勝つ単調です。

こういう選手を乗せると危険ですが、爆発力はツォンガなどに比べると劣る代わりに安定感が高い、そんな選手です。

第1セットの第1ゲーム、サーブで押し込まれ40-0となりました。

ここまでは織り込み済みでした。

しかしここからが普段と違ったのです。

40-0からの3本はすべてきれいにリターンを決めラリーから得点したのです。

錦織はビッグサーバーと当たると最初の数ゲーム、よほど相手がDF連発でもしない限りほとんど競らずに落とします。

この間の錦織はリターンがあっていないためラリーにもなりません。ところがセット中盤から終盤にかけてリズムを掴みだしブレークしてしまう。

それに対してパワーサーブのベルディヒ相手に1ゲーム目からリターンを合わせ、この後原則としてクリーンヒットのリターンを打ち続けました。

軽視されがちなのですが、リターンをコートに返せばいい、それは一つの真理です。

ですが錦織の場合そのリターンでしっかりと踏み込めているのかというのが調子のバロメーターです。

この試合、仮にリターンミスをしてもクリーンヒットして速い打球がネットにかかったりオーバーしたりしていました。ビッグサーバー相手の試合の時によくある、当てるだけでフレームショットとなりあさっての方向に打ってしまうようなボールはほとんどありませんでした。

こういったところがベルディヒに対して「テニスが噛み合っている」と言える何よりの証拠だと思います。

錦織は自分で悪くする場面はあれど、それは自分でミスしてしまったのであって、マレーと戦った時のように戦術にはまってしまったりとかフェデラーのように普通に攻撃で上回られたりとか、そういうのが一切なかったのです。

1stセット、BPは来るもやや強引な攻めを見せてしまいミスにつながるなど相変わらず自分で悪くするプレーを続け、11ゲーム目までやってきました。

この手前で錦織のほうがSPを背負いそうな場面をしのぎ、全体的に押しているのもあって、流れが来そうな予感はありました。

ここで錦織はリターンからうまい攻撃を仕掛け15-40に。

しかしセカンドのリターンをミスすると、次は1stサーブで押し切られデュースに。

ここを落としてタイブレークに行くと危険だ、その空気はありました。

しかしここでベルディヒが痛恨のDF。幸運にも与えられたチャンスを錦織は一発で決めました。1stサーブを軽快にリターンし、最後はベルディヒが強引に決めに行ったフォアクロスをネットにかけます。

12ゲーム目は不安でしたがしっかりキープ。最後の外から打ったフォアDTLは最近の錦織になかっただけに勝利を確信できるポイントでした。一応。

第2セット、ベルディヒに異変が起きます。

ベルディヒはトップ選手相手に先行されてから巻き返すことがほとんどない選手です。

全仏ツォンガ戦では「死んだ魚の目」と評したように勝つエネルギーが失われ追いつかれた第4セットで信じられないミスを連発します。

第2セットのベルディヒもまさにそんな感じでした。いきなり軽率なミスを続けあっさり錦織がブレークします。

このままベルディヒが眠ってしまえばフェデラー戦同様6-2くらいで錦織がセットを取って終わっていた…そんな気がします。

しかし第3ゲーム、個人的には第4ゲームではなく第3ゲームを挙げたいのですが、競った展開でベルディヒにキープを許しました。

この時ややベルディヒの表情がよくなりました。長い第2セットになる、そう感じました。

ここでベルディヒストロークに安定感が戻り、一方ミスのお付き合いになってしまった錦織はポイントの取り方を見失い、5ゲーム連取されます。

不安だったのがこの時錦織の足が止まり、動きが悪くなったことです。

ケガに近い疲労か?不安な空気が漂います。

ただここでベルディヒももったいないことをします。ブレークできそうだった第8ゲームを錦織にキープさせ、次のサーブでSFSを取って6-3で第2セットを取ったことです。

あそこで錦織にポイントを取る感触を思い出させてしまったこと。それが第3セットに入るにあたって錦織のメンタル面をやや助けてしまったような印象があります。

そして第1ゲーム、錦織は苦しみながらもキープ。こうしてファイナルセットの幕が開けました。

このキープによってふたたび試合は5分の平行線に戻り、両者のキープが続いていきます。

ベルディヒはミスはやや減ったもののそれでも耐え切れずミスしたりフラット系の打球の選手特有なネットのかけ方(説明しにくい)をしていたのでチャンスはありました。

一方錦織はこの場面に入って1stの入りが悪くなりました。

1stセットは快調に飛ばしていただけに苦しくなってきます。

そして問題の第7ゲームです。

このゲーム、かなり錦織に厳しいゲームでした。

判定のオーバーコール、ベルディヒが前に出たのに決めきれず錦織がパッシングで決める、30-30からのネットイン。BPでのベルディヒの思い切った攻撃…

この場面で救ったのは錦織のスライスでのディフェンスでした。

O2アリーナのコートはかなり特殊なようで、普通にラリーでもスライスを使う場面が全選手見られます。

よほど跳ねないみたいで、確か第1セットの最初のBPもベルディヒがスライスを打った後の何でもないボールをミスしていました。

こういうことが起きていたこのコート、錦織のプレーを見ていて思ったのはまるでクレーコートなのではないかというようなプレーでした。

浅いボールへの踏み出し方、怒涛のクロス攻撃、ネットプレーやドロップの使用…

これらはクレーコートでよく見るプレーで、特に錦織は追い込まれた場面でのスライスを相手コートの奥深くに返し、その次のボールまでに体勢を立て直すことに成功するディフェンスが何度もありました。

この試合を評するうえであまり指摘されていないがかなり大きかったと思っているファクターはここです。

実はジョコビッチ戦の地点で私は気づいていました。

錦織がスライスでイーブンのラリーに戻していたのは何もベルディヒ戦が最初ではありません。

パリでは見えなかった(ほとんど見れてないが)O2アリーナに対応したテニスが機能したのです。

BPをしのぐと、判定などで苛立っていたベルディヒは何を思ったのかミス2本で錦織にキープを許し、そこから勝負は一気に決しました。

錦織が1本平易なミスをした以外はすべて錦織のポイント。勝負はあっけなく終わりました。

ベルディヒの自滅…と言えばそれまでかもしれません。

第8ゲームの最初のポイント、珍しく流すだけのフォア逆クロスをネットにかけたところで歯車が狂いだした感じでした。

そこからはメンタル的に追い込まれたのか、無理な攻めや意図の見えないプレーが出てしまい、第2セットののびのびしたプレーは完全に消え去ってしまいました。

一応厳しい言葉もつけておくと、2セットで勝ってほしかったです。

第2セットですが、あそこはベルディヒにパッシングフォアクロスを決めさせてしまったラリーが痛すぎました。

ボレー、アプローチが甘すぎでした。O2アリーナは減速しやすいサーフェスなので、叩き付けるなら思いっきり打たないと返されてしまいます。

あれで錦織のほうが歯車がおかしくなった感じでした。でも2ブレーク目は絶対に許してはいけなかったし、そもそも第2ゲームの地点で試合は終わっていたに等しかったのにもったいないことをしました。ストレートで勝てていれば、SF通過条件もだいぶ違っていました。

しかし勝ったことが大事なのです。

今の錦織圭にとっては、どんなに相手が不調でもトップ選手相手に勝てるという事実を作ることが急務でした。

相性のいいベルディヒに勝てたこと。内容は決していいものではありませんが、2016年シーズンを後から語るときにこの勝利がターニングポイントになる可能性は大いにあり得ます。

第2セットのようなプレーはやめてほしいですが、あの試合中はまだトンネルの出口が見えていなかった頃。むしろ先に先行して崩れて負けるパターンから脱却できたことは、1セットを失った代わりに普通では得られないいい成功の経験ができたわけです。

さてコメント欄にも書きましたが、一応錦織圭にはベスト4進出の可能性が残されています。

しかしそのためにはジョコビッチにも勝ってしまったフェデラーに勝つだけでなく、ジョコビッチベルディヒが勝つ必要があります。

今の錦織に勝てなかったベルディヒ…パリとはなんだったのかという感じです。

250を2つ取ったんで復調としましたが、昨日の内容はかなり悪く今後が心配です。

そんなわけで明日は結果は気にせず、初戦で守備的に錦織を完封したジョコビッチ、では攻撃の殴り合いでフェデラーが錦織をどう抑え込むのか?そんな楽しみを持って観戦したいと思っています。

まあ十中八九錦織は負けます。逆に今のフェデラーに勝ったら空も飛べるはず。負けて当然なのはジョコビッチ戦と同じです。

なのでテニスの試合として楽しむことを前提に行きたいと思います。

忘れられがちですが私は錦織の成績0-3予想でした。1-2でも大喝采、2-1なら空も飛べるはず、3-0なら宇宙にダイブしてました。

そんなわけでもうこの後のファイナルはどうでもいい(少々乱暴)のです。

0-3ではなく2年連続1勝以上、これはトップ8の最下層であれば絶対にできない芸当です。

何度も言いますがベルディヒに勝つことは簡単なことではありません。

勝ったんだ。その重みをもしかすると錦織本人より感じている私かもしれません。

こっから口語表現です。

いやーしかし叫んだ叫んだ。久しぶりにこうたまってた何かを吐き出せた感じ。

ファイナルセットのじりじり感とかも忘れてましたよ。こういう試合されるとファンやめれないんだよな~