two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

2015年総括①錦織、停滞という名の前進、大きな助走

こんにちは。

2記事に分けてテニスシーズンの総括です。

まずは錦織圭の話題についてです。

記事を書くにあたって事前にツイッターでアンケートを取りました。

母数は300程度であまり信憑性は高くありません。特に私のツイッターをフォローしている人は一定のバイアスがかかっている条件で、すべてのテニスファンの平均とは言い難いからです。

そのことは前提に入れたうえで、今シーズンの錦織に対する評価は次の通りでした。

質問・正直、今年の錦織圭

選択肢と割合

最高だった! 20%

ふつー    31%

物足りない  39%

残念だった  10%

あいまいな質問にしました。人によって「最高」などの感覚は違うからです。

ただはっきりと言えることは最高だったという唯一プラス向きの選択肢に対して20%。ふつーと物足りないと残念というそれぞれややニュアンスがかぶった意味合いの方が圧倒的に多い結果となりました。

そしてこの質問を今年のATPツアーに変えた質問を同時に行い、ほぼ同数の回答が得られました。

その結果は

最高だった! 25%

ふつー    38%

物足りない  32%

残念だった   5%

明らかに全体的に上向きにシフトしているのが分かります。

TSDアンケート#13 (前回のは12でしたすいません) 正直、今年の錦織圭は— twosetdown (@twosetdown) 2015, 12月 12

TSDアンケート#14 正直、今年のATPツアーは— twosetdown (@twosetdown) 2015, 12月 12

これを見ても、やはり今シーズンの錦織圭は「何か物足りない」と考える人が多いということが分かります。

さて、ここで2015年の錦織圭を試合統計で考えます。

サーブスタッツ

        2014   2015   キャリア

エース     286    306    1173

DF      186    168     976

1st確率   60%    60%     61%

1stwon   73%    75%     71%

2ndwon   54%    55%     52%

BPfaced   371    320    2081

BPsaved   64%    64%     60%

キープ率    84%    86%     80%

ポイント獲得率 66%    67%     64%

リターンスタッツ

        2014   2015   キャリア

1stwon   30%    30%     30%

2ndwon   53%    54%     53%

BPchance   554    540    2758

BPconverted  42%    40%     40%

ブレーク率   28%    27%     27%

ポイント獲得率 39%    39%     40%

驚かれた方も多かったのではないでしょうか。実は2015年のスタッツで2014年に劣っているスタッツは1%の表記で確認できるものとしてはBPconvertedとブレーク率のみで、それ以外は同じか上がっています。

ではなぜこんなに微妙な気持ちでシーズンを終えた人が多いのか?それは次のデータでわかります。

試合勝敗スタッツ

         2014   2015   キャリア

勝敗       54-14  54-16  243-121

GS       13-4    8-3    45-24

MS       13-4   15-7    54-34

タイブレーク   18-10  13-13   73-53

対トップ10   11-7    6-10   26-40

deciding set   21-3   18-6    85-23

1stセット獲得 45-3   41-3   187-18

1stセット献上  9-10  13-13   56-103

一つ一つのスタッツで見ると一切見えなかった違いがここに見えます。

錦織はGSで勝てていないだけでなく、タイブレーク、対トップ10、deciding setで大きく2014年から数字を落としている結果となっています。

私は数の少ないデータは考えても意味がないとよく言っていますが、20回程度の試行回数があるこのデータには意味が出てきます。

さらに面白い数字を出したいと思います。3月にやった「TSDレーティング」です。概念や実際の格付けなどはこちらへ。

今回は選手比較ではなく、対戦した選手のランキングを見てみます。

名前    勝敗    対トップ10 対非トップ10(ランク帯11~30 31~50 51~100 101~)

14錦織圭 54-14  11-7  43-7(9-6-20-8)

15錦織圭 54-16  6-10  48-6(11-16-15-6)

14年錦織の負けた相手のランキング

1、1、1、1、2、4、9、12、14、16、59、60、60、65

15年錦織の負けた相手のランキング

1、1、3、3、3、4、8、9、9、10、12、15、24、32、41、45

これを見て意外だと思った方が多いのではないでしょうか。

まず一つ目に、14年錦織と15年錦織の「格下負け」を比較すると、実はトップ10以下の敗戦では2014年の方が多いのです。

おかしい、そんなはずはないと思った方が多いと思いますがこれには一つまやかしがあります。

特にトップ50以下の敗戦の4試合のうち、3試合はケガまたはそれに準ずる負け(デルレイガバシビリ、全仏クリザン、上海ソック)であるということです。純粋にテニスで負けたのはヒューイットのみです。

ところがこうして統計として並べると、実はトップ50以下で一度の金星献上も許していない2015年と比較すると、2014年は同格かそれ以上に負けている印象を受けます。

いかにケガでの欠場・棄権負けがもったいないかということです。

一方そう考えると、トップ20以下に一度しか実質負けていない2014年と比較して、普通にテニスで負けたイズナー、ペール2回という結果がある2015年が物足りなく感じるのは当たり前とも言えるのです。

しかし、です。ペール(32位、41位)2敗がショックとはいえそれを除けば実はテニスで負けたのは24位のイズナーが最低ランクです(45位への敗戦はセッピで、棄権負けなのでノーカウント)。

つまり本質的に錦織圭が負けた相手はペールが印象的すぎただけで、去年と今年でなんら変わりないという結論に至ります。

では今年なぜ不満が多いのかという疑問が再燃してきます。ここまでくれば答えはすぐに出ます。

上位に勝てたか、大事な試合に勝てたか

私たちの多くがここにだけ焦点を集める結果、まるで去年より致命的に悪化したかのような「錯覚」に陥るのです。

実際対トップ10に勝てていない、1000以上のグレードの決勝なし、これがすべてを表しており、これらは統計がたまったことで決して印象論ではなく、数字として主張を持てる存在となりました。事実です。

特に昨年より3敗負け数が増え、さらに去年は50位以下の3試合の負けを実質無視、さらに2014ワシントンでのガスケに対する負けを直後ののう胞手術のために無視しているため、ほとんど格下に負けた印象がない2014年と比較し、確実にテニスで負けた試合がある2015年が悪く見えるのは当たり前のことです。

試合勝敗統計を見ても、2015年のスタッツ悪化は単に2014年が神がかりすぎただけで、別にdeciding setで75%も勝てていたら問題ないし、ようやく上り調子だった期待値が正しい位置に収束したと思っています。

今私たちは「急な上り坂を登ったあと平坦な道を進むと下っているように見える錯覚」の中にいるのだと思います。

気づいたでしょうか。この記事の文章には「下降」というニュアンスの文字を一言も書いていません。

楽天敗戦後に書いたこの言葉、今この当時の不調を脱したからこそ大きくのしかかってきます。

上も下も見たおかげでやっと、ランキングと期待すべき場所がファンの多くで一致したように思います。

さて、2015年の「見せかけの下降」についてはこれで幻想だったことが分かりました。次は前進についてです。

さっきのTSDレーティングを見て気づくことはありませんか?

名前    勝敗    対トップ10 対非トップ10(ランク帯11~30 31~50 51~100 101~)

14錦織圭 54-14  11-7  43-7(9-6-20-8)

15錦織圭 54-16  6-10  48-6(11-16-15-6)

そうです、11~50位に対する勝ち星の数が、15→27と約2倍近くになっているのです。

これを地力がついたと言わずしてどう説明するでしょうか。

まあトップ10に11勝できるほうがいいのですが、特に50位以下との対戦が多かった(47%!!)2014年と比較すると、2015年は減りました(30%)。

これはおそらくですが、マスターズで初戦負けが今年一度もなく、56ドローで実質50位以上しか出れないマスターズでコンスタントに勝てるようになったことが要因と考えています。

この中堅どころにかなり勝てるようになったことは相当ポジティブです。

私はGS制覇のポイントを3回戦、4回戦に挙げます。

必要条件ではありませんが、この辺りのラウンド(錦織のシード帯だと3Rが25~32位、4Rが9~12位)をスムーズに勝てるようになるとQF以降に力を注げます。番狂わせが起きるのもこの辺りからです。

2015年は統計には出にくい潜在的な強さが向上した、というのが私の全体評価です。

リターンスタッツがあれだけ壊滅的と言われながら昨年同等にして、すべてのサーブスタッツで向上した2015年は錦織圭の地力アップを如実に表していると思います。

IPTLで目の前で見せてくれたプレーや、ツアーファイナルズでのトップ選手と互角に戦えるプレー。これができる選手です。

厳しい状況の中1年戦ったことで一回り大きくなりました。ドサ周り、体力をつけるための試練の1年と称しましたが大きく下降することなく乗り越えました。準備は整いました。頂点へのアタックは、いよいよ始まります。