two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

難敵ツォンガを最高のテニスで撃破(2016全豪4R)

1/24 現地11:00~(日本時間9:00~)

Grand Slam 2000 Australian Open

4R

[7]Kei Nishikori 6-4 6-2 6-4 [9]Jo-Wilfried Tsonga

4年前のあの時は今でも覚えています。

自分の用事が終わった後、テレビに映っている画面を食い入るように見つめていました。

そしてマッチポイント。

ツォンガの動きを見て逆を突いたバックハンドが決まり、そのままラケットを落とした錦織圭

あの日が、私にとってのすべての始まりでした。

それから4年後。

私にとっての錦織圭も、周りも、何もかもが変わりました。

そして錦織圭自身がとんでもなく先に進んで迎えた昨日。答えを出してくれました。

快勝だったと思います。もちろんツォンガは万全ではなかったでしょう。しかし、昨日のテニスができていれば、決してツォンガには負けることはなかったでしょう。

第1セットから錦織は縦横無尽に動きます。

キレのある動きが戻ってきました。一つ一つのショットに伸びと精度がありました。そしてツォンガのバックハンドをしっかりと攻撃し続けました。

錦織は、私が(そして多くのテニス評論家が)望んでいたツォンガのバックハンド攻めを完璧に遂行しました。

もちろん2015年後半の「消極的なバック配球」とは違い、深いボールを確実に送り、ツォンガに満足なストロークを打たせませんでした。

勝因をあえて語るなら「戦略勝ち」だったと思います。

このバック攻めが効いたことでツォンガはリズムを乱します。そして最後までほとんど戻ることはありませんでした。

ここのところ「錦織はフェレールベルディヒのようにQF止まりが続くのか、厳しい一年」と評していた海外ファンですら「今日は錦織の日、ツォンガはノーチャンスだった」「2014年のプレーが戻ってきた」と大絶賛。

この勝利が与えたインパクトは絶大です。今日ワウリンカに勝ったラオニッチと並んで名前を挙げられ、再び中堅世代の台頭を期待する声が出てきました。

第1ゲームはツォンガのサービスに合わせるだけ。しかしラリーに入ればキレのあるショットを次々と打っていきました。

バック攻めが光るとコメントしましたが、それを引き立てたのがフォア側への効果的なショットの配球にあることも忘れてはいけません。

バックハンドで苦しいラリーを強いても、フォアに送って仕掛けたボールが甘ければツォンガがフォアを決めてしまいます。

バック攻めでバック側に固定しつつ、フォアクロス、バックDTLのツォンガフォア側へ送るボールの精度が素晴らしかったことでツォンガはどちらに張っていいかわからなくなります。

第2ゲームのサービスキープが完了すると、ここからは錦織劇場でした。

さらなるストロークの波状攻撃がツォンガを襲います。

特に何度も対戦しているツォンガのサーブ攻略は早く、通常セットの半分くらいはかかる錦織のリターン調整とでも言うべき時間が短く、早くからラリー戦に持ち込めました。

この時間帯のツォンガはミスが早く、集中を欠いているように思いました。

しかしこういうツォンガはツォンガの中の一つの「時間帯」であって、突然いい時間帯がやってくることもあるので気を付けなければいけない、5-1となった地点でやっと私は安心したくらいでした。

というのも錦織とツォンガの過去の対戦成績は4勝2敗で錦織がリードしているものの、その6回の対戦のうち4回が6-2か6-1でセットが始まっていたからです。

これは二人とも割とはっきりといい状態もしくは悪い状態からスタートすることが多いため、大差がつくことが多いからです。

しかもこの二人の凄いのは、これでいてストレート勝ちが1試合しかなく、それは第1セット7-6とツォンガが取ったところで体がぎりぎりの状態で戦っていた錦織の集中が切れてしまった試合(2013上海)のみで、なんと6-2、6-1で始まった4試合はすべてフルセットになっています。

第8ゲーム、私はかなり不安になっていました。

40-0からツォンガのいいポイントが続いて、最後はネットも絡み不運なブレークバックを許しました。

このプレーでツォンガは少し自分を取り戻し、錦織はストロークで押せずミスが目立つようになってきました。

第9ゲーム、ツォンガは加速しラブゲームキープ。前のゲームから9連続失点でした。

この「リードした状態からブレークされ、次のゲームをラブゲームされる」という事象は結構強烈です。

上に示した通り実は結構なポイントを連続で失っており、得点できるイメージを失ってしまいます。

5-3とリードしていたものの、錦織の状態がよかったから押せていただけで、すでに展開はツォンガに向かいつつあると感じていました。

この時間の錦織はうまくストロークが打て過ぎるためにむしろ狙いすぎるという、調子のいい時の悪循環に陥っていた感じがしました。

5-1とリードし、先に1セット取っておけば次の30分くらいは耐え時で落としても1-1で行けると思っていただけに、相当危機感がありました。

しかし芽を摘み取った錦織。もう一度序盤にできていたバック攻め、必要なときにフォアハンドに展開するといったシンプルなプレーができ、ラブゲームキープで難局を乗り越え1stセットを6-4で取ります。

ここで私は落ち着きました。このプレーができるなら大丈夫だ。このプレーさえ続いていれば負けることはない。

大事な試合と散々煽りました。私自身も気合いが入っていました。

だけどなぜでしょう、ものすごく冷静に見ている自分がいました。

あまりこういうことは今までありませんでした。全米の時は気が気でない感じで見ていました。パリのフェレール戦ではおそらく胃に穴をあけたのではというくらいの横腹の激痛、こないだのフェデラー戦では燃えるような何かを感じながら応援していました。なのに、この時は不思議とブログに書くことを考える程度の余裕を持ちながら、ポイントごとに叫ぶこともせず、ただ淡々と錦織がポイントを取っていくのを見ていました。

ちょうど、4年前に訳も分からずとんでもないことが起きていることを見ていたのとは対照的に、私はただ静かに見ていました。

私はその地点で悟ってしまったのかもしれません。これが調子のいいトップ選手が調子の悪いトップ選手をあっさりと倒してしまう試合だということを。

第2セット、ツォンガはプレーを上げます。1stサーブを決め、苦しいBPを乗り切る。ストロークでも苦しい態勢からいいボールを送ることができ、錦織の一方的な攻め、という展開を変えてきました。

この時間帯は両者レベルの高いラリーが繰り広げられました。

第1ゲームでのBPのピンチをしのぐとツォンガはみるみる勢いをつけ、第3ゲームも40-15とします。

しかしここで1本のDFが流れを作ります。第1セットでは連続DFから錦織がブレーク。予感はありました。

次のツォンガの200km/hを超えるワイドの1stサーブを返すとポイントに。そのまま4連続ポイントで錦織がブレークします。

驚くべきは、このゲームツォンガは上げていきました。1stも入っていました。ところがです、そのゲームを取ったのは錦織だったのです。

ちょっと目を疑っていました。いやおかしなことが起きすぎて私は冷静になっていたのかもしれません。

何かの間違いなのかもしれない。1セット1ブレークアップの状態でなお「まだ負ける可能性がある」と意味の分からないことを考えるようになりました。こんなにいい時間帯が続いていいのか。

ここでツォンガに厳しい時間が来ます。第4ゲーム、ポイント間で背中を触ります。

リードされたこともあったでしょう、そして前のゲームで集中を上げていいサーブを打ったことが原因かもしれませんが、プレーを失ったツォンガはあっさりブレークを許し2ブレークダウンでMTOを取ります。

再開後、錦織は難なくサーブをキープし、ツォンガはさらに精彩を欠きます。

第7ゲームでツォンガが治療後初のサービスゲームで、従来より20km/hくらい平均の1st球速が落ちていたことを確認した時に確信しました。万全でプレーするにはあと30分は待たないといけないということです。

30分。よく分からない数字かもしれませんがこれは即効性の痛み止めが効く時間です。

錦織のけがと長くファンとして向き合ってきた私は、不幸にもこの手のケースの時に選手がどうなるかというのに詳しくなりました。

ツォンガはこのあとベストなプレーからは遠い状態でプレーを続け、6-2で2セットアップ。さらに冒頭でブレークを許し2セットダウン1ブレークダウンとなります。

ただツォンガも粘ります。終盤には痛み止めが効いたか、あるいは集中を取り戻したか再び210km/hのサーブを打ち始め、錦織にプレッシャーをかけます。ギャンブルプレーも仕掛けてきました。

最高5位まで行ったツォンガ、この場面で自分を取り戻し、最善のプレーを続けます。

返すだけのディフェンシブなテニスになったツォンガに錦織もお付き合いしてしまい、ミスを量産するなど少し嫌なムードが漂い始めた最後数ゲームでしたが、最終ゲームでは貫録のエーススタート。力を見せつけての勝利。わずか2時間2分の出来事でした。

細かく言うならちょっと攻めっ気が強くなった時間帯にミスが続きましたね。1stセット3SP以降のポイントと、第3セット中盤付近です。これがなくなるといよいよBIG4と肩を並べると言っても過言ではありません。それほどのテニスでした。脱帽です。

私はめったにBIG4と比較しません。この言葉は重いです。

絶対に勝利が欲しい大事なゲームだということをチームと本人が理解し、最高のプレーで答えた。そう言っていいでしょう。

これがあと3試合続けば、今大会の優勝は夢ではありません。

ただし3試合続けるにはフィジカル、集中力、様々なものが必要です。ゲームメイクする力も必要です。

それが起きる確率は、この試合を経てもなお数%です。

ジョコビッチがいきなりあんなミスの多い試合をしてしまうように、明日のテニスは明日にならないとわかりません。

相手が変われば内容が変わることもあります。2週目の強敵は4人います。それもどんどん指数関数的に強くなっていきます。それだけ勝っているのですから。

まだたったの一人です。そして明日迎える相手は、あのUE100の試合をした後でもなお断言できる、世界NO.1ジョコビッチとの激突です。

大山場と言っていいでしょう。そして今回、タフドローであることはむしろ錦織にとって追い風だと考えるようになりました。

大事なポイントでの声出し。勝負所でのプレー。主導権を完全に相手に渡さない力。

上位選手であることを存分に見せつけながらかつ強い。これまでの錦織のGSの勝ち上がり方でも最もいい大会かもしれません。

それはなぜなのか?一つには上記のようなプレー・行動が出せる高い集中力と持続性。これだと思います。

試合後の錦織のガッツポーズを見たでしょうか?最後まで気を抜いていなかった何よりの証拠だと思います。そして勝って兜の緒を締めている、そんな様子にも見えました。

頼もしいです。番狂わせを起こす風は吹いています。

女子は大荒れのこの全豪、「strong 9」ばかりが勝ち上がって男子はモンフィス以外はいつもの顔ぶれという今大会、ラオニッチと錦織、新世代が奇跡を起こすシナリオ、私には見えてきました。