two-set-downの、その向こうへ(2016デ杯1R rubber4)
3/6 現地14:00~(日本時間22:00~)
Davis Cup by BNP Paribas
1R Japan vs Great Britain(Home,[1])
Rubber 4
Kei Nishikori 5-7 6(6)-7 6-3 6-4 3-6 Andy Murray
なんで、テニス見てるんだろう。
去年こんなことを思っているときがありました。
去年のツアーに関して私はあまり面白くなかった、と公言しています。
@twosetdown 去年のように錦織ラオニッチディミトロフガルビスと次々GS4強以上が出たのに対し今年はほとんどが30歳付近かそれ以上の選手ばかりが4強以上を占める異常事態。正直ツアー回顧のベストマッチ選定とかを見ても納得がいかないほどこれといった名勝負が少なかった印象。— twosetdown (@twosetdown) 2015年12月14日
最近SFとかがつまらなくなってるのが2015年を面白くない年とした理由なので、今年も凡戦が続くのは勘弁— twosetdown (@twosetdown) 2016年1月28日
見え透いた結果、上位が下位を圧倒し続け、秋口には「見なくとも結果はある程度分かる」というような状態でした。
これといった上位同士の大きな熱戦も少なく、観戦していて自分であまり盛り上がることがありませんでした。
しかし去年の最終戦、忘れかけていたものが蘇ってきました。あの錦織×フェデラー戦です。
このようなことから考えても、残念ながら私のスポーツ観戦は「接戦を見る」ありきなのかもしれません。
名勝負は両者が高め合うから面白い。だからこそ面白いのだと。
もちろんそんな名勝負はしょっちゅう起きません。起きないからこそ起きる時が特別なのです。
そしてそういう試合はルールを知らなくても見ればわかる面白さ、高い技術、そういったものがたくさん詰まっています。
感覚的には1年に1回程度しか起きないです。年によってもちろんばらつきがありますが、本当にいいという試合はそう巡り合えるものではありません。
私はツアーレベルでの観戦が2012年から、ウィンブルドンに限定すれば10年以上前からの観戦ですが、私が見た中では昨日の試合は正直両手に数えられるほどの神試合でした。最高でした。
まずは最高の名勝負を繰り広げたマレーと錦織に敬意を払って始めたいと思います。
もう一度、試合前の状況を振り返りましょう。
・マレーはダニエルを圧倒、ストロークミスは目立ったものの、終始ゲームをコントロールしまとめ上げた
・錦織はエバンズにストレート勝ち、しかし3セット目でブレーク合戦になるなど戦えるのか不安な状況
・マレーはダブルスに出場、錦織はお休み
・マレーは錦織に相性がいいと、思われる(TSD推測)
・会場はイギリスのホーム、デ杯地元の声援が後押し
・マレーはデ杯13連勝中(うちシングルス9勝)、錦織はデ杯12連勝中(うちシングルス11勝)
これだけの情報で、この試合展開を予想できた人はどれくらいいたでしょうか。
開幕前、ファンの間でも相当悲観的な見方が多く、その上で初日の試合内容を見て勝てる可能性はほとんどないというような論調がありました。
私も半分はそう、半分はそうでないと思っていました。
みなさんが思っていたネガティブな物的証拠は事実ですし、何ら異論はなく、そこから勝てる可能性は皆無だと導きだすのは納得できます。
しかし一方でここはデ杯だということは常に念頭にありました。
ちなみに、錦織はデビュー戦のボパンナ戦と大当たりの大先生以外全勝してる隠れデ杯男です(シングルス17-2、ダブルス2-0)— twosetdown (@twosetdown) 2016年3月6日
このツイートを私がした22時54分は、第1セットの4-4の場面、錦織がブレークバックした後しっかりとキープし、試合が五分の展開になった地点です。
もつれる可能性はゼロではないと思っていました。ただ前提にマレーの不調などが挙げられ、このような濃密な展開の中で4-4になるとは想定していませんでした。
この辺りから、この試合がとんでもないものになるかもしれない…という感覚がありました。
第1セットはお互いにチャンスを掴みます。
第1ゲームでいきなり錦織が先行すると、第4ゲームは錦織のスマッシュミスを見逃さずマレーがブレークします。
特にマレーはセカンドアタックが光りました。
結局、カナダ戦地点での私の仮説であった「マレーはセカンドサーブのリターンを練習しており、GS3勝目のキーにしている」というものは正解だったようです。
錦織戦だけ見ると錦織のウィークポイントのように見えるセカンドサーブですが、他の試合でもどんどん前でリターンするマレーを見るとマレーのストロングポイントであるというのが正しい見方のようです。
この日のマレーも錦織のセカンドがそこまで悪くなかったにもかかわらず、マレーは次々と攻撃を決めます。
ただ、これは私の感覚的なものですが、次のように思っていました。
確かにセカンドアタックは決まっていました。決まっているポイント「も」ありました。
しかしです、どうも私はマレーが2択でしっかり打って行ったコースに対し取れるコースに対しては正しく反応し、スライスカットのショットが多かったとはいえイーブンのラリーに戻す場面を多く見た気がします。
ここが個人的にはマドリードやカナダと決定的に違うポイントだと思っています。
理由はいろいろあると思います。前回は2週連続の9試合目でした。そして最後にはけがに近い状態で力なく負けました。
また今回はストロークの感覚がよかったので返球率も高かったと思います。
ただ単純にラケットに触れる確率が高い、というのは、反応時間とフットワーク以外に決める要素がないので。
つまり反応時間、いわゆるコースの「読み」がよくなったということなのではというのが私の考えです。
特に思うのがマレーのセカンド強襲は実は錦織のバック側への配球が相当多いのではということです。
意図としてはいろいろ考えられますが、マレーがそのまま決めたポイントを考察すると、(特にバックハンドで)錦織のバック側へリターンし角度をつけて外へ追い出す→空いたフォア側へ4球目攻撃
というものです。
このパターンはマレーが得点したパターンでもありますが、錦織がその分反応できたのかなと思います。
実は私はそれを暗に意図したことを当時実況で言っています。
そっちかー— twosetdown (@twosetdown) 2016年3月6日
これはファイナルセット2-3の場面でBPのセカンドを叩いてブレークしたマレーのリターンを見てのコメントです。
この時マレーは重要なポイントでほとんど見せていなかった錦織のフォア側へのリターンを決めました。
実は静かに私は「勝負かけて叩いてくるからバック側ケアして」と思っていました。
そこへまっすぐフォア側へのリターン、そして「そっちかー」です。
完全に逆を突かれました。錦織がどう思っていたかはわかりませんが、スローで見ると若干タイミングを外された感じがします。
第1セットは終盤に入りマレーのプレーがよくなりました。
そして12ゲームで痛恨のDF2本。しかしマレーのリターンエースも決まっていた中、仕方のない部分もあります。マレーの戦略勝ちです。
ただこの第1セットはわずかな差でした。大丈夫だ、戦えてる。少なくとも14ファイナルのマレーより格段にいい状態なのに互角に戦えていることが分かり、少なくとも全豪のようなことにはならない、安心しました。
そして第2セット、少しプレーレベルを落としてしまったマレーに対し颯爽とブレーク。
大丈夫だ、切れてない。
錦織の姿は頼もしさすらありました。
ただ誤算だったのはマレーのとんでもないプレーでどうしようもなくブレークされた第4ゲーム。
これに関してはマレーを褒めるしかなく、勢いを完全に止められました。
錦織側に責任はなかったと思います。マレーの執念で五分に戻った第2セットはその後も一進一退。
とにかく錦織はフォアクロス、フォアDTL、バッククロス、バックDTL、どこからでも仕掛けられる展開でした。
それに対しマレーは真っ向勝負でした。マレーのラリースピードは遅いと言ってきました。そんな選手とは思えないほどのハイスピードなラリー、異次元の運動量。
マレーはすでに自分のテニスは捨てているように感じました。ちょうどカナダでのマレーのプレーとは対照的です。
事実マレーはストローク戦でもしっかりポイントを取っていました。マドリードとは違う引いたテニスで、です。
これがとんでもないところです。一見するとナダルがやられてしまったように引くことは自殺行為ですが、錦織の攻撃に対してしっかりディフェンスし、つなぐだけでなくイーブンなラリーを維持することで錦織の攻撃的なショットの試行回数を増やし、アウトプットを錦織の「ミス」にさせてしまったのです。
このイーブンなラリーというのがポイントです。イーブンだからこそ相手はより攻撃的にリスクを取ろうとします。特に錦織はその傾向があります。
そうすれば逆にマレーの思うつぼで錦織はサーブ以外での得点源を失います。
錦織はウィナーも量産していましたが第1セット序盤からUEも結構多かったですよね?ナダル戦から比較すると信じられないほどに。それは錦織が悪かったというよりはマレーが見えないところでそうさせているのです。
この見えないところでそうさせているというのも厄介で、すごく注意深く見ていないと気付かないために「錦織調子悪いのかな?」と思ってしまうところですし、少なからず本人も思っていたのではないでしょうか。
これが当時の私の論評です。
下がったマレーが錦織の翼をもいだ。しかしです、ではなぜそれをこの日しなかったのか?
おそらくマレーは、それをやっていたらカナダのナダル同様何もできずにウィナーを打たれ負ける、そんな感覚があったのだと思います。
事実1stセットマレーのストロークウィナーは0本でした。いつも通り知略的にラリーをすればいい、と考えていたのか、そこまでオフェンシブではなかったように思います。
そこでマレーは作戦を変えてきたのかもしれません。
1stセットマレー取ったんだからいいんじゃないかと言われそうですが、ブレークできた要因は錦織がスマッシュミスしたこととDF2本を固めてしまったこと。もう一度このようなことが起きるとは思いにくいと感じていたのかもしれません。
それにマレーですから。あのマレーですから、勝っていても気を緩めず次の手を打つというのはあまりにももっともな考えかなと思います。
激しい打ち合いの中勝負はタイブレークに行きます。
終盤はマレーが押す展開でなんとかBPを止めながら来ただけに流れが来ないかなと思っていましたが、マレーのものすごいショットなどもあり0-4となりました。
しかしここから、です。とんでもないことが起こります。なんと5ポイント連取、うち3ミニブレークで5-4とします。
ここで一気にサーブ2ポイントで決めれるとよかったのですが1ポイント目を失い5-5、次のポイント取れないとマレーサーブでSP。一気に苦しくなったこの場面で錦織は正しいプレーをしました。
5-5でのラリー、錦織がフォアクロスで外に出してからフォアDTLで前に出ました。マレーは完全に崩されて走っていました。
が、錦織は足を止めました、そしてコート中央でカウンターショットを食らっても大丈夫なようにネットに出るのをやめたのです。
ハイライト集に残っているポイントでもあるので、映像のある方は見てもらうといいのですが錦織がフォアDTLを打った時、少しだけ内側に食い込むような甘いDTLを打ってしまっています。
そして前に出ようとするもののマレーが追いつきそうなのを確認するとそこでクロスに来ることを想定し切り替えます。
そのためマレーのバッククロスに足が届き、ショートクロスを打ちこれが効果的でマレーがミスします。
このラリー、前に出ていれば失点していた可能性が高いと見ています。
一瞬の判断、それをこの難しいカウントでやってのけました。
錦織はこのネットに出るという判断で結構損していると思うことがこれまでは多かったのですが、ネットに出る/出ないの判断がかなり的確だったように思いました。要するに冷静だったのです。
これでもらったという感覚がありました。あとはいつものリターンからなんとかポイントを取ってセットオール、なんだパリのフェレール戦と同じか、若干安堵していました。
ところがです、マレーはここでワイドのサービスエースを打ちます。
絶句しました。普通はこの1stはフォルトします。
なぜかとかではなく、それが普通のテニスなんです。
流れであり、プレッシャーを感じる場面、ここでマレーは何事もなくエースを打った。
ちなみにこの時錦織はリターンでやや下がっていました。
なんとしても返してポイントにつなげる。意図はあり、それは一つの正しい選択でした。私でもそうしてたと思います。
それをあざ笑うかのようなエース。
震えました。BIG4との頂上決戦なのだ。
それをひしひしと感じるエース。
結局このエースに加えて次はサーブ&ボレー。完璧なマレーに対し錦織は耐え切れずミス。第2セットを惜しくも落とします。
これだけ読んでも、なぜ0-2なのかよく分かりません。
それほど紙一重でした。
第4セットを除き、実は残りの2セットもマレーが、錦織が取れた可能性があるセットでした。
結論から言えば、この試合は結果的にこうなったけど、どこかが違えば決定的にスコアが違っていただろうということです。
話は前後しますが試合後の皆さんの多くが
「スマッシュミスが尾を引いた」
というコメントを残しています。
それは半分はそうだと思います。事実ですから。スマッシュミスしたゲームがブレークにつながった。
しかしです、スマッシュミスだけならブレークはされていないわけで、あと3ポイント最低でもそのゲームで失点しているわけです。
つまりそれはただの一つのミス。ただその「UE」が結果を左右したということであり、これはその程度のわずかな差しか試合に影響しないほどにタイトだったということを表しています。
実は私たちが「熱戦だった、1年に1回あるかないか」と評する試合に限って、大概こういうミス/とんでもないウィナーがクローズアップされます。
300ポイント近くになるような5セットマッチの試合で、たった1ポイント。1%にも満たないこんなポイントが試合を象徴する。
しかしです、実は探せばロングラリーや前後を使った展開、目の覚めるようなカウンターなどがあって、そっちの方が多いはずです。
事実みなさんが言葉を失うようなラリーがたくさんあったはずです。それに比べると平易なミスの方が少ないはずなのに…
錦織だから、というわけではなくて、どんな名勝負にもあのポイントが…というものが必ずあります。
名勝負とは、えてしてそういうものだと思います。
2セットを終わって錦織は戦えていました。0-2なのが不思議なくらいに。
ここで思い出されるのが14全豪のナダル戦。ここまでの2セットは、まさにナダル戦と同じ展開でした。
ただこれは意味のあることだと思っていました。そもそも状態のいいBIG4に対し錦織が試合をして互角の勝負をしていること自体が14マイアミフェデラー戦か、このナダル戦までさかのぼると思っています。
14全米のジョコビッチ戦は意見が割れるところでしょう。しかし第4セットのジョコビッチは結構ひどかったですし、全員が全員そうだと言い張れるものではないと思います。
去年のWTFのフェデラー戦は?と聞かれそうですが、あの時はフェデラーのストロークミスが目立っていましたし、何より1stの入りが悪かったのが大きかったので。
(ここまで書いて、去年のローマのジョコビッチ戦はどうだろうという考えが出てきました。これについては微妙ですね。結構多くの方がそうだと言うかもしれない…)
なんとしても1セットを…そんなことを考えていました。
このまま終わったら、もちろん大健闘だし絶賛して記事を書く準備はしていました。
何よりBIG4と互角の勝負をすることが重要と年初から言ってきました。
経験を積めばチャンスはやってくるし、その過程で運よく勝つこともあるでしょう。
そうしていくうちに真の修羅場をくぐる力を身につけ、やがてGSで勝つのです。
それを考えれば及第点どころか満点です。
なのにどうでしょう、もうこの地点で私は「勝ち」を意識していました。
勝ちたい。
勝てるはずだ。
だめかもしれないという恐怖とやってくれるかもしれないという震え これが真剣勝負のテニスだよな— twosetdown (@twosetdown) 2016年3月6日
真剣勝負のテニスを私は楽しんでいました。
錦織圭のテニスがあり、アンディー・マレーのテニスがある。
そしてこのクオリティのテニスであれば、何が起きてもおかしくない。
3rdセットの序盤2-1とキープが続いた地点で、気落ちせず、そしてフルスロットルで行ったはずの2セットを超えてなお落ちないプレーレベル。
もう、やれるところまでやってもらおう。私も腹が据わった瞬間でした。
オールキープで進んだ3セット目は第8ゲーム、チャンスが来ました。疲れの見えてきたマレーに対しカウント先行。30-40とします。
次のポイント。驚きました。
200km/h近く出ていたマレーのワイドへのサーブを相手にマレーのいるところにとはいえ完璧に合わせクリーンなリターン。ラリーでポイントを取りブレークしました。
マレーの遅いセカンドを叩いたファイナルとは違います。平然と1stをリターンし、そしてラリーの中でミスせず相手にミスをさせポイントを取る。
まさにマレーをはじめとして、BIG4が要所でブレークするときのスタイルなのです。
そしてSFSとなった第9ゲーム。マレーの猛追で30-30となった嫌なカウント。ここでもです。
1本目。センターにエース。
2本目。マレーがセカンドを叩いてくるも、バック側に集めたのか錦織がしっかりと読み切り、体勢が悪い中パッシングショット。
1本目はフェデラー、2本目はジョコビッチが乗り移ったかのようなポイントでした。
当たり前ですね。BIG4と互角の勝負をし、その中でワンチャンスをものにして取ったセット。そんな内容のいい時はこういう理由があるのは当たり前なのです。
もはやその試合はデ杯ではなく、さながらGSの準決勝、決勝を見ているようでした。
この瞬間に確信しました。とんでもないことが起こる。この男なら、ブログタイトルを、この場面で、やってしまう。
ゾクゾクしました。まだあと2セットあります。そんなことをマレー相手に願うことはあまりにも夢を見すぎです、本来。
しかしその時はそれが夢ではなかった、日本中の誰もが、この奇跡ではない何かを願っていたと思います。
そして第4セット、目覚めた錦織はさらにプレーレベルを上げ、マレーにつけ入る隙を序盤与えず5-2とします。
さあ、ここからは意見の割れるところですが、この試合の敗因を私は次の第8ゲームだとしました。
これは難しいです。そうでないという意見があって当然ですし、真実はわかりません。
ただ少しだけ、錦織のプレーが落ちました。それをマレーは見逃さず、ミスも多かったギャンブルリターンを成功させブレークしました。
何度もBPを迎えていたので、いつかは決まると思っていたので、これはマレーのリターンうんぬんではなく錦織がBPを背負ってしまったことに原因があります。
ただここでマレーは息を吹き返しました。実に第2セット第4ゲーム、信じられないプレーでブレークに成功したあのゲーム以来のブレークです。
そうなんです、あれだけのリターン巧者であるマレーから錦織は実に2セット以上ブレークされなかったのです。
ゲームを見ていた観客以上にマレーはこれを重く受け止めていたのだと思っています。
自分がブレークされたら負けだ。
ビッグサーバーでもないのに、この日の錦織からプレッシャーを感じ、さらに連戦の疲労も感じていたでしょう。
ところがブレークできてしまった、このあと2度目のSFSでもマレーは攻めてきましたし、このセットで決めるという意思が感じられました。と同時に、復調のきっかけを探しているようにも見えました。
これによって、ファイナルセットに入るころにはマレーのプレーは元に戻り、錦織もいい状態でファイナルセットに入りました。
ファイナルセット、息を吹き返したマレーは素晴らしかった。
守備範囲が狭くはなったものの超攻撃的な錦織の攻撃をかわし続け、特にリターンがよかった。
じゃあ錦織がひどかったのかというと決してそんなことはなく、実はファイナルセットの1stサーブは64%入っていました。
これは錦織の平均の60%よりも高い数字です。
なのにです、驚くべきことにこのファイナルセットの錦織の1stサーブpointswonはわずか48%。私が今日一番伝えたい「衝撃」でした。
確かに浮上のきっかけは与えてしまったかもしれない、しかしです、あれだけの熱戦で、この地点で4時間たっていて、まだそんな力を隠し持っていたのか。
事実ファイナルセット、錦織は全くサービスポイントがなかったのではないでしょうか。
確率だけでなくいいサーブも行ってたと思います。ファイナルセットに入っても錦織の集中、プレーは落ちることがなかったのにです、いったん落ちたはずのマレーが軽々とそれを飛び越えていきました。
テニスの常識が、そこにはありませんでした。
そしてそのマレーに対して何度もブレークバックする錦織。毎ゲームリターンからチャンスを作り出しました。もちろんマレーの1stもそこそこ入っているのに(56%)、です。
意味が分かりません。錦織圭を「すごい」と思うことがあっても「怖い」と思うことはそうありません。
これはマレーにも言えます。
もうまとめると、私はこの試合を傍観することしかできなくなりました。
いや、このマッチレポートを書くこと自体がおこがましい、そんな気持ちです。
最後まで試合はわからなかったと思います。
特に2-5で15-40からの2MPを止めた場面。しびれました。必ず自信になります。
あのBPを超えたことで、本当にここから逆転勝ちするのでは、そう思って見ていました。
これほどまでに「惜敗」という言葉が似合う試合はそうありません。
両者がすべてを出しつくし、勝ったはずのマレーが試合後呆然とベンチに座る姿を見てそう思いました。
今日はマレーが勝った試合でした。明日はわかりません…
ここで表題です。two-set-downからのその向こう、14全豪を繰り返しませんでした。
一歩前に進みました。これは一歩ではないかもしれないですね。大きな前進です。と同時に、改めて2セットダウンからの逆転勝ちは難しいことを再認識し、もしそうしなければいけないなら一瞬たりとも隙を与えないことが重要だと肌で学びました。
間違いなく、錦織のキャリアにとって最も重要で、かつ濃密な5時間でした。
なぜ負けてしまったのか、というのは皆さんも思うところがあるでしょうし、たぶんどれも真実です。
勝てる要素も負ける要素もあってその最終結果が惜敗です。
1%総ポイントが入れ替わったらテニスの勝敗は変わるという話を以前しました。まさにそういう試合です。
これがATPポイント0であることだけが残念です。唯一残念かもしれません。あとラインジャッジ…
2014年に皆さんが描いていた「GSを取る錦織圭」、そのあまりにも高い要求だったものがいよいよ皆さんの前に姿を現したと言っていいでしょう。
チャンスは、必ず来ます。ピーキングを今回のようにしっかり合わせ、割けるところにリソースを割き、そしてGS本番と同じように中1日で試合すれば、フルスロットルでGS取れるプレーが5時間持つということが証明されました。
マスターズはわかりませんが、GSではこれをQFでギア入れ始め~SFトップギア~決勝惰性で行けば取れます。取れるイメージが私は湧きました。
依然マレーやジョコビッチ次第であることは否めませんが、まずはIWかマイアミで頂点の近くまで行ってほしいです。
今年の個人的目標はBIG4対戦12回、5回好勝負を繰り広げる、です。
すでに対戦2回、1回の好勝負です。
特にランキング1位を望む方は少し焦りから開放されたのではないでしょうか。あるいはこれくらいで当然でしょうか。
しかしいずれにしても見えてきました。本当に日本人がGSを取る、ということを、これだけ現実味を帯びて語れるようになるとは。
いよいよ長い長い道のりの折り返しに立ったのかもしれません。
ですが、まだ道は半ばです。