two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

ビッグサーバーを倒すということ(2016インディアンウェルズ4R)

3/16 現地18:00~(日本時間翌日8:00~)

Masters1000 Indian Wells BNP Paribas Open

4R

[5]Kei Nishikori 1-6 7-6(2) 7-6(5) [9]John Isner

勝った、勝ったんだ。

こういう試合を待っていた、そんな感覚の人が多いのではないでしょうか。

ジョン・イズナーとIWの関係性はすでに試合前から多くの人が知っていたでしょうが再確認したいと思います。

イズナーの成績を並べてみました。

08 ダビデンコ(2回戦)

09 デルポトロ(4回戦)

10 ナダル(4回戦)

11 ロディック(3回戦)

12 フェデラー(決勝)

13 ヒューイット(2回戦)

14 ジョコビッチ(準決勝)

15 ジョコビッチ(4回戦)

16 4回戦進出中

ご覧いただけたでしょうか。唯一ヒューイットへの負けが気になるところですがヒューイットも元世界1位。負けた相手選手の羅列を眺めるだけでもイズナーがIWで圧倒的に強くなる、その理由は見えてくるでしょう。

テニス的なところではやはりIW特有のキックサーブの跳ね方が挙げられるでしょう。

錦織戦でも火を噴きましたが、高い打点でのリターンを強いられ、やっと返球しても3球目を決められる。サービスゲームでノーチャンスです。

また跳ねるサーフェスストロークでも効果が出るものと思われます。

高くバウンドするコートではイズナーの高い身長が生きます。

普段だと低い打点で打つボールが大勢に無理なく打てる打ち頃のボールになり、ストロークでも優位に立てます。

その証拠に(多いので掲載を避けますが)通常ブレーク率が1割を切ってくるイズナーがタイブレークにもつれずに制する試合がほかに比べて多数あります。

本人も試合前インタビューで語っているように、彼にとってベストサーフェスであるということは間違いないでしょう。

一方の錦織はこの跳ねるサーフェスに苦しんでいます。

おそらくですが思ったよりも反射角度がきつくあまりボールが伸びてこないということがミスショットの原因になっているのだと思います。

少し別所で議論がありましたが、感覚的に跳ねる、高いボールを打っているというのはおそらくほとんどのテニス選手が最高打点で打っていないので、上がり際のボールを打とうと思えば跳ね方が効いて高打点になるところが原因なのではと思います。

さて、試合前私は勝率を2割としていました。

これについては低すぎるという意見が多かったです。かなりセンセーショナルな意見だったと思うので予想はしていました。

というのも、もちろん2回戦3回戦とストレート勝ちで勝っているとはいえフレームショット、UE自体はいつも通り多いという感覚はありました。

イズナー戦を経てもなお、錦織圭はIWが苦手だという確信を私は持っています。

その理由はこのあとどうしてイズナーに勝てたかで説明していこうと思います。

そしてイズナーとの前回の対戦、これは7月のワシントン

http://www.plus-blog.sportsnavi.com/twosetdown/article/165

でしたが、あの試合はイズナーがすでに体に不安を覚え、サービスの球速を落としていたということを指摘しています。

ですから私は試合前から本質的にイズナーのサーブを攻略していたとは一つも思っていませんでした。

ましてやこのIW。惨敗の予感が漂っていましたし、海外テニスファン・評論家の中でも意見は分かれていました。

そして第1セットは私の予想通りの展開になりました。

イズナーはサーブを確実に沈め、一方の錦織はIWのサーフェスの影響かミスを連発し、勝負にならない1セット目となりました。

簡単に書けばこれだけですが、いくつか原因があると思っています。

まず錦織はビッグサーバー相手には最初の数ゲーム簡単にリターンミスで落としてしまうことがほとんどです。

例外はベルディヒくらいでしょうか(ベルディヒをビッグサーバーと呼ぶかは議論が起きますが少なくともいいサーブは持っているでしょう)。

なので最初の数ゲームを落としてしまうことは織り込み済みで、その代わり対価として終盤のリターン精度の向上につながっています。

この辺は正しいトレードオフなので、私は割り切っています。これはNO.1になったりGSを取ったりするうえで不要なことではありません。ポジティブな個性だととらえています。

ただその代わり錦織に必要なことは最初数ゲームの確実なキープ力です。

このゲームでしっかり合わせきれないと1stセットを落としてしまいます。

事実ワシントンではチリッチ、イズナーと逆転勝ちで勝っており、ビッグサーバーから1stセットを取る確率は統計取っていませんが、実力から想定される確率の平均よりたぶん低いと感じます。

そしてではストローク戦で錦織は何をしてしまったのか?というと一言で言えば「攻めすぎ」です。

この時どういうプレー感覚でやっていたのかはわかりかねますが、立ち上がり数ゲームのイズナーのストロークを見ると、惨敗したマイアミのようなどうしようもなさはなく、たまに決まるけどミスが多い、いつものイズナーという感じでした。

正直に言えば、イズナーに上位選手のストローク力があれば余裕でトップ10です。

しかし現実には大型選手の弱点であるストローク力不足、特にバックハンドの不安定性の影響で大体10位台に落ち着きます。

歴史をさかのぼればビッグサーバー王者もたくさんいますが、現代のテニスにおいてはストローク力がなければトップ8、王者になることは極めて難しいと思います。

さてそんなイズナーに対して錦織はどうだったか。焦ってしまった。特にラリーの早い打数で決めようという意志が感じられました。

もちろんとっととサービスキープし、相対的にイズナーのサービスゲームの時間を長くすることは有効でしょうが、鬼門IWでストロークがジャストフィットしてない状態でその選択が正しかったかは甚だ疑問です。

イズナーはフットワークが特別いいわけではなく、止まってしっかり打点に入って打たせなければ怖いことはありません。

一球で決める必要ないのです。錦織の通常状態のラリーだけで必ず主導権が取れるはずなのです。

ですが自分からミスをしてしまえば、イズナーは何もせずに労せずブレークしてしまいます。

それが起きたのが第1セットでした。これ以上の説明は不要でしょう。

リターンのアジャストもできず、ストロークでもポイントを取れない。妥当なスコアです。

そしてどこかの試合の時に指摘した「1-6にすると早く終わってしまい勢いで押し切られて反撃できない」というパターンに入り、最初数ゲームキープできなければ終わってしまう。そんな感覚でした。

第2セットに入り、錦織はプレーを改めました。

やっと現状のイズナーに対して正しいリスクの取り方を実践しました。

ストロークのキレは決してよくはなかったと思います。しかしそれで大丈夫です。

これをストローカー相手にやってしまえばミスしてくれないし先にミスすることになりますが、イズナーに対してはこれでOK。不要なミスこそが最も避けるべき結果。UEを減らし、丁寧なテニスを心掛けていました。

その中で気になったポイントが2点。回転とサーブです。

回転はストロークの回転です。

IWに関する様々なコメントで耳にするのが「ハードヒットするとボールが飛んで行ってしまう」というものです。

この理由はIW大会に採用されているpennというボールで、やや選手からは評価が低いボールになっています。

そもそもATPツアーではサーフェスだけでなく大会側に使用球を決める権利もあります。

このpennボールはIW他結構主要大会で使われています。

錦織にとって、身長の問題で高い打点から打ち下ろすことが他の選手に比べ難しい状態でpennボールをハードヒットするとコントロールを失うのでは?というのが私の仮説です。

そこでイズナー戦ではどうしたか。かなり回転偏重なストロークを打ち、安全にプレーしていたように思います。

ただこれがうまくはまりました。スピードを落とす分イズナーに取られるボール自体は増えましたがそれ以上にミスが減ったので相対的に取れるポイントの確率は高くなりました。

まさにリスクの取り方が最もいい状態で押し引きしていたのではと思います。

そしてサーブ。1stサーブの確率が異常に高かったのを覚えているでしょうか。なんと第2セット76%、第3セット67%です。

これにも意図があります。要するにエースを取らなくていいということです。球速、コースで無理にサービスポイントを取りに行く必要はなく、イズナーはリターンミスもしてくれるのでこれでいいのです。むしろ恐れるべきはセカンドになって叩かれることです。これはイズナーにとって甘いスピンサーブが打ち頃の球になるからで、1stサーブ確率を上げ、その代わりコースや球速は抑えたという選択もポイントを取れる最大値に向かったことからサービスキープが安定します。

実は結局錦織のこの戦術判断が大局的な勝因のすべてだと考えています。第3セットもほぼ同じです。

サービスキープが安定し、あとはイズナーのサーブを攻略するだけ、でした。

しかし錦織が様々な手を講じるもののなかなか崩れず、2セットともタイブレークまで来ました。

通常ゲームについてはオールキープだったうえに特筆すべき事項はなかったので、タイブレークの1ポイント1ポイントの要素分解だけします。

タイブレークまで来てしまえばまあ試合全体として悪くはないかなと。ブレークされずに踏ん張ったけどタイブレークでどうしようもないなんてことはよくあります。マイアミではそれができなかったので辛い記事、評価になりましたが内容はよかったのでもうこの地点で納得していました。

第2セットのタイブレークは最初のポイントで錦織がセカンドサーブに。しかし絶妙なプレースメントでイズナーのリターンミスを誘って1ポイント目。

続くポイントはイズナーがセカンドサーブになりラリーに。耐え切れずイズナーがフォア逆クロスを打ってネット。

これで先行されたイズナーは続くサーブもセカンドになりDF。「させられた」DFです。

この3ポイントで主導権を握った錦織はサーブポイントも織り交ぜながらしっかりプレーして、ミニブレークなしの7-2でセットを取ります。

ファイナルセットのタイブレークは4-3から1stサーブのリターンをブロックリターンでなんとか返し、サーブ&ボレーに出たイズナーがボレーミス。5-3とします。

しかし5-4からバックハンドでフレーム気味のボールを打ってしまいアウト。5-5のふりだし、2本先取に変わります。

ここまでで錦織はタイブレーク初のサーブポイントのミス。通常時のポイント確率から言っても1失点してしまうことは仕方ないです。むしろそれ以外ノーミスというのは素晴らしいです。

最初は錦織のサーブ。素晴らしいラリーでした。このポイントは深いボールをしっかり隅に決めイズナーがミスします。

一応MP。しかしイズナーのサーブ。ここでです。もう一度1stサーブをしっかりリターンしました。

ラリー戦も丁寧でした。決してコースを突くことなくイズナーが動けば錦織が動くような体制でじっくり構えました。そしてイズナーのフォアがアウト。勝負は決しました。

タイブレーク時に気になったこと

実は錦織もサービスポイントが多かったということです。

どうしても肩を張って応援すると1本1本イズナーのサーブに対し変なプレッシャーを背負ってしまいますが、実は

錦織のサーブポイント 3/11

イズナーのサーブポイント 6/10(ただしDF1のため1引きたいのが本音)

でした。これは単純にエースorリターンミスに限定しましたが、甘いリターンからのシンプルな3球目ウィナーを入れると錦織が1本増えます。

こうなったのも錦織が1stサーブを増やしたからで、取り立てて速いサービスがなくてもサービスポイントを取り、タイブレークを確実にマネージメントできた証拠なのです。

・イズナーのサーブ

結局試合前から思っていた通りイズナーのサーブを完璧に攻略できるわけではありませんでした。

BP0/0という面白いスタッツで勝ちました。それがすべてでしょう。

1stサーブに関しては物理的に届かないサーブもありましたが、それ以上に厄介だったのはセカンドサーブです。

結果的には、コートの中で反応時間勝負でリターンするのが正解になりそうです。

この試合中は下がったリターンも試していましたが、1本もポイントにつながっていないのではなかったでしょうか。

下がったリターンによってイズナーのサーブ&ボレーを助長し、さらに距離が長くなるのでリターン返球からボレータッチに至るまでの時間も長くなったので準備ができてイズナーがミスしてくれませんでした。

もう少し下がったリターンの中でも前で取りたいところですが、ベースライン後ろ数mあたりは軌道が高すぎて返球不可能な状況でコートの一番後ろまで下がらないと返球できませんでした。跳ねないコート以外ではあれは使わない方がよさそうですね。

よく前でとらえるセカンドリターンを批判する声が出ますが、この日に限っては正解だったと思います。

長々と書いてきましたが結局この試合は、イズナーに対して勝つ方法をしっかりと実践し、タイブレークでそれをより高いクオリティで実践できた、これにつきます。

第1セットさえなければ、典型的な好調ビッグサーバーを片付ける試合でした。

ただそれをIWサーフェスで適切な押し引きの基準を決め、しっかりゲーム内で修正して勝ったのは見事です。大きな勝利といっていいでしょう。

イズナーとしてもなぜ負けたんだという試合でしょう。もしこれが錦織なら大批判間違いなしの試合ではなかったでしょうか。

それほど最後2セットはわずかの差でした。総ポイントでもイズナーが8上回っています。

この勝利自体は大きいですが、それをさらに大きくするには次戦ナダル戦に勝つことが条件でしょう。

14マイアミではフェレール相手に複数のマッチポイントをしのいでからのあのフェデラー戦です。

絶体絶命のMPからの生還、ぜひ生かしてほしい。

試合のカギとしては今大会ベルダスコ、ズベレフにベーグル(6-0のこと)を達成している好調ナダルにどう対抗していくかということでしょう。

特にフォアハンドの逆クロスがかなりいいです。全盛期を彷彿とさせます。

さらにIW特有の跳ねるサーフェスナダルに有利。持ち味のエッグボール(他選手より数段回転量の多いストローク)がさらにキレ味を増します。

錦織としては勝ったカナダでの試合、そしてマドリードでの圧倒劇を繰り返したいところ。

そのためにはナダルの読みを外すようなフラット系の強打が必要になってきます。

だからこそ心配です。フラット系の強打は序盤に指摘したようにミスの温床です。

このあたりをどうマネージメントするか。さらなるゲームメイク能力が錦織には問われると思います。

しかし越えられない相手ではないと信じています。

もう一度、挑戦者の気持ちで、幸いにもナダルのほうがランキング・シードともに上です。

やってくれることを期待しましょう。