two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

自信と悔しさを噛みしめて、日本へ(2016全米SF)

9/9 現地18:30~(日本時間翌日7:30~)

Grand Slam 2000 US Open

SF

[6]Kei Nishikori 6-4 5-7 4-6 2-6 [3]Stan Wawrinka

錦織圭の現在地を知るには、実に意味のある試合でした。

私自身も、喪失感より充実感が漂っています。

この試合を「失望」と捉えるか「健闘に対する感動・殊勲」と捉えるかは人によって個人差があると思います。

どちらも大きく間違っていないと思います。どちらも真実であって、どちらもそれだけで説明をするには不十分です。

第1セット、錦織は見事なスタートを切りました。

サービスゲームで安定感を見せ、少しほころびのあったワウリンカから難なくブレークを決め、リードを作りました。

内容で上回っていたので、内容がセット獲得に結び付き、順調でした。

このセットのプレーのキーになっていたのはネットプレーでした。

奇しくも1年半前の全豪で、2セットダウンから付け焼刃で使用したネットプレー。あの時より安定感を増し、マレー撃破へのキーとなったネットプレーはもう当時のそれとは違う領域に達していました。私の目にもついに安定感という印象に変わってきました。

また、ワウリンカは1セット目特にバックハンドが不発。早い段階でエラーを打ち、バックハンド同士のラリーで錦織に分があり、組み立てやすいポイントが続きました。

第2セットも序盤はその流れを引き継ぎました。早々にワウリンカからブレークを奪い、さらにリードを広げました。

ただ、錦織は高いプレーを実践しており、またワウリンカがこのまま終わるわけがない、という気持ちもあったので、どこで起点が来るか、どこでその流れが変わるかというのはずっと気にかけていました。

そしてその起点が来たのが第4ゲームです。

WOWOWで松岡修造さんが指摘していましたが、重要なゲームでした。

この試合初めての錦織サービスゲームでのBPとなったこのゲーム、ワウリンカは逃しませんでした。このセットまでのリードをイーブンに戻しました。

その後、錦織はリターンゲームでBPを迎えますが、本当にもったいないミスが多かった。セカンドサーブでワウリンカがいいサーブを打ちリターンミスしたポイント。なんでもないラリーからネットにかけてのミス。しのぐきっかけを錦織が作ってしまいました。

終盤で2ゲーム連続BPのチャンスを取れないと、最後はワウリンカ。2セット総合的に見て錦織が押していたものの、セットカウントは1-1になります。

ここで再度触れたいのがマレー戦後にも書いた「第2セットの重要性」です。

それまでの内容がいかにどちらかにワンサイドであろうが、セットカウント1-1になった瞬間スコア上は並び、3セットマッチへと早変わりしてしまいます。

しかも押していての1-1です。この地点で錦織はすでに体力切れの傾向が見えており、非常に厳しい現実が待っていました。

3、4セットはブレークバックするなど、正直あのフットワークの落ち方からは想像できないくらい粘っていましたが、このころにはワウリンカはトップギアに入っていました。こうなったワウリンカは状態のいい錦織でもなかなか止められません。そのまま差がつき敗れました。

結果的には第2セットの度重なるBPを取ることができず、一方ワウリンカは1、2セットの少ないBPから1セットオールに持ち込むことができた、この地点で勝負はついていたように思います。

じゃあ2セット目何が悪かったのか?ということですが、BPのプレーだけ巻き戻しで見る環境がないので細かい分析はできませんが、ワウリンカの集中力に加え、錦織が上げきれなかったということです。

なぜ上げきれなかったか?ということですが、私が自分でその解答を出していました。

錦織疲れが見えるな…— twosetdown (@twosetdown) 2016年9月9日

あの手のスライスカットが増えてくるときは疲れてる— twosetdown (@twosetdown) 2016年9月9日

この一連のツイートをした8時42分は、第2セット4-4のデュース合戦の時でした。

この地点で疲れがプレーに見えるということは、もう少し前から疲れを感じていたはずで、つまり錦織はこの地点でBPを迎えてもう一段気合を入れ直し、集中する体力の余力があまり残っていなかったのでは?というのが仮説です。

こういう状況でもワウリンカにUEが出ることもありますし、それが実はカナダ準決勝の時だったと私は思っています。

あの時も復帰戦でテニスの試合を戦い抜く感覚を失っていた錦織に対して、ワウリンカがタイブレ6-5からDF。さらに最後の2本もワウリンカのUEでした。

しかし昨日のあの場面でワウリンカに簡単なUEが出るとは微塵も思いませんでしたし、事実そうなりました。

何度か書いたと思いますが、UEは相手の調子に左右されず、かつそれまでのラリーの内容を無視して失点する方法です。

相手がどうあろうが、自分がUEを連発すれば試合に負けます。

しかしその可能性がない以上錦織は自分で上げるしかなかった。

錦織が「2セット目を取れていても、体力に余裕がなかったので3つ目を取れたかは難しい」と試合後の公式会見で言っているのはそういったところにあると思います。いっぱいいっぱいだったのを自分でも分かっていたのだと思います。

しかし一方で、ワウリンカも当たった時と当たらなかった時の差が大きい選手。カナダでの1セット目と2セット目の落差が大きかったように、2セット目を取れていれば、ワウリンカが上がっていく「流れ」を断ち切り、3セット目はカナダの2セット目と同じようなことになっていたのではないか?とも思います。

こればっかりはもしもの話なのでやってみないとわかりませんでしたが、つくづく惜しかった。

第2セットの重要性を敗戦側の立場から再び学びました。

そして、1セット目厳しい内容でも、我慢して打ち続ければやがて満足なラリーを展開できるようになると踏んで打ち続けたワウリンカの判断にあっぱれです。

ワウリンカはこの傾向があります。引き出しで即座に流れを変えるというよりは、溜めて打つ自分のストロークスタイルがはまるまで我慢する。ただしはまれば誰でも倒す力を発揮する。これが5セットマッチと主導権が行ったり来たりするGSではうまくフィットします。逆にマスターズでは短すぎるので、上げきる前に試合が終わってしまい、スコア上UE量産に終わるだけの試合になることもあります。

捉え方は非常に難しいですが、ワウリンカがGSで力を発揮するタイプの選手なのに対して、錦織は3セットマッチのマスターズのほうが現状結果が出ており、引き出しの多さと短い時間でやってくる試合終盤にゲームを見極めてクラッチできる能力はATPでも屈指です。

あとは5セットマッチの大局観のようなものを学んでいく必要があるのでは、と思いました。

まだまだ錦織はGSにおいては挑戦者。

この男の挑戦は一歩一歩です。2度目の登場となったGSの準決勝でゲームを壊さず、お客さんの心を掴む試合をしただけで今回は100点以上と言っていいでしょう。

最後は現状を振り返りたいと思います。

今回の敗戦の意味合いは非常に大きい。実は私は試合前にブログが書けていたら絶対に書いていたであろう「ある事実」を重く受け止めていました。

それは、錦織がBIG4を倒した次の試合、同一大会に限れば今回の敗戦を含めて0勝6敗+1試合前棄権、つまりBIG4に勝った後トーナメントを勝ち上がることができていないということです。

2011バーゼルSFジョコビッチ→決勝フェデラーに負け

2013マドリード3Rフェデラー→QFアンドゥハルに負け

2014マイアミQFフェデラー→SFジョコビッチに試合前棄権

2014全米SFジョコビッチ→決勝チリッチに負け

2014ツアーファイナルRRマレー→RRフェデラーに負け

2015カナダQFナダル→SFマレーに負け

2016五輪3決ナダル→翌大会の初戦ユージニーに勝利

2016全米QFマレー→SFワウリンカに負け

BIG4からの過去8勝の次戦の結果です。

五輪の場合は次の大会であり相手もユージニーだったのでこれは別で捉えるべきです。

始めてBIG4に勝った時、次戦のフェデラー戦で負けたのがチャンとの出会いだったことを考えると、この指標には意味があります。

BIG4を撃破してなお大会を勝ち進むことは、頂点を掴むための必須条件です。

歴史上、BIG4を倒さずにGS優勝したBIG4以外の選手は、04年全仏のガウディオ以降誰一人いません。

04年当時はフェデラーがやっと王者になり、ナダルジョコビッチマレーが台頭していない時期。

そして、それ以降BIG4以外がGSを優勝した4例を見ると

09全米デルポトロ…SFナダル→Fフェデラー

14全豪ワウリンカ…QFジョコビッチ→Fナダル

14全米チリッチ…SFフェデラー

15全仏ワウリンカ…QFフェデラー→Fジョコビッチ

と、チリッチの1例を除いてQForSFでBIG4と対戦→決勝もBIG4という勝ち上がりで優勝しています。

ツイッター実況でさかんに言っていましたが、私がポイントとしているのはここです。

結局、BIG4がやや弱体化してきているとはいえ、錦織に限らずBIG4以外の選手がGS優勝するときのパターンは、QForSFでBIG4→決勝BIG4と連勝する

という果てしない道のりなのです。

もちろん今回の錦織はかなりタフドローでした。QFでマレーと当たったことによる体力浪費は計り知れませんでした。

しかし、優勝するためには超えないといけない壁です。マレーに勝ってなおメンタルでは落ち着きを見せていて期待が持てましたが、体は正直だったということです。

ここ1~2年、ナダルに勝った選手が次の試合でほぼ必ず負けるということが話題になっていますが、錦織に限らずBIG4相手に勝つということは我々が思っている以上に体力を消費します。体力もそうですが、テニスの頭脳というべきか、頭の体力みたいなものも消費します。

錦織はBIG4としっかり戦う力を身につけてきたと思います。何回に一回は勝てると思います、これからも。

しかしマスターズ以上の大会で頂点を狙うとなると、まだまだ運の要素も必要なのではないでしょうか。

今回はいろんな意味で風が吹いていなかった。実力を証明し、GSのSFに上がったことで錦織を評価する声も増えてきました。

流れは、来ています。あとは次なる爆発を待つのみです。

そこで最後にランキングの話をして終わりにします。

決勝進出者が出揃い、ランキングの見通しがついてきました。

ワウリンカが3位に躍り出ました。

実は楽天/北京の結果は上海のシード付けに影響しないので、実質的には上海のシードがこれで決定した形です。

ジョコビッチ、ワウリンカとも加点してもランキングは変わらず、上位選手の月曜日のランキングは決定です。

錦織は僅差の5位です。これを嘆く気持ちもわかりますが、すでにシーズン序盤の6~7位とは違う次元にいる5位です。気にすることはありません。

私はランキングは平均的な強さの指標としてはほぼ完ぺきな表現の仕方だと思っています。それほど正確なシステムであると理解していますが、短期的に見たり、ポイント獲得内訳を見ないとわからないからくりも多数残っているのが現実です。

これを感じるのがレースランキングです。

ナダルとラオニッチ~錦織の間には約1000p差があります。

ラオニッチはサンクトペテルブルグ優勝、錦織は楽天4強、ツアーファイナルズRR1勝くらいしか目立った成績がないのに対し、ナダルは北京準優勝、上海4強、バーゼル準優勝、パリ8強、ツアーファイナルズRR3勝(600p!)と失効続きです。

当面の年末3位争いはラオニッチ、錦織、ワウリンカに絞られた形です。

ここからのアジアシリーズ・欧州インドアシリーズはジョコビッチが得意にしており、例年であればタイトル独占となり、大量ポイントによる下位選手からの追い越しは難しくなってきます。

すでにラオニッチ、錦織は原理上まだ9位以下があるとはいえ確定的で、99%かそれ以上の確率で通過だと思います。

ワウリンカも間違いないでしょう。今日勝てば、GS優勝特権が付きますのでおそらく3人目の通過のアナウンスが出ると思います。

モンフィス、ティエム、ナダルは9位以下の選手にマスターズ決勝クラスの成績が来ない限りまず大丈夫でしょう。

ナダルはここで稼ぎたいのですが、ここから本人比で苦手なインドアハードシリーズ。なんとか昨年並みの成績を出して一つでも上に食らいつきたいところです。

したがって、錦織としては上海4シードこそ逃したものの、パリ以降の第4シードについては十分に見通しが立ちます。

そして年末順位を4位以内で終え、結果を出し続けている全豪OPで自己最高の第4シードを獲得するのが具体的な目標となると思います(もちろん私が知るわけもないですが、錦織チームもきっとここをターゲットにしているのでは?現実的で無理がなく、チャレンジングな目標です)。

やはりタフドローを避けるためには4シードに入り続け、その時を待つのがビッグタイトル獲得を近づける条件の一つ。

BIG4がこけることがあれば、今回のワウリンカのように決勝までBIG4と対戦なしというパターンも出てきます。

今回の敗戦を経てなお以前より錦織は頂点に近づきました。

夏をけがなく20試合近くの激闘続きで乗り越えることを誰が想像したか。

着実に一歩一歩、足を進めています。そんな錦織の次の舞台は大阪、東京。

あとは…もうやることは決まっています。最大限の賛辞で迎えるばかりです。

私も大阪には足を運ぶ予定です。

次はみなさんとブログではなく、同じコートで会える来週を楽しみにしています。