two-set-down新章

two-set-down新章

スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

チャンスは逃したが、立派な準優勝(2016バーゼル)

デルポトロ戦はいい内容でした。トップ10同士のぶつかり合いというテニスでした。

現在のところ、復帰以前の全盛期よりもウィークポイントとなっているバックハンドを主体にラリーを組み立てる、というのが対デルポトロ戦の基本戦略になると言っていいでしょう。

デルポ戦のポイント・バックハンドへの配球・サーブを読む基本的には全豪ツォンガ戦と同じ戦略でいいと思うなおフォアが比ではない速さ・重さなので要注意— twosetdown (@twosetdown) 2016年10月28日

バックハンドへの配球は、スローサーフェスなのを無視してスライス多様で低弾道から浮いたバックの返球を叩いて仕掛けるあるいは単にアングルを突きたい最後にはオープンスペースのフォアサイドに打ち込むのだが、厄介なのは中途半端なボールを送るとカウンターのランニングフォアで一撃される— twosetdown (@twosetdown) 2016年10月28日

これは試合前の私の率直な展望ですが、錦織はこういったバック攻めが得意です。その具体例が今年の全豪のツォンガ戦であったり、さらにスピンでフォア逆クロスを打ちまくったクレーでのガスケ戦だったりします。

これをデルポトロ相手にやる。ただし高い精度が必要です。

そんなことはデルポトロも理解しているわけで、必ず回り込みのフォアハンドを打ってきます。

ですからたまにはフォア側に走らせることも必要。しかしこれも甘いとランニングフォアを打たれ、決められます。

簡単に書いてますがランニングフォアは精度が悪くなり、球足も遅くなるのが普通ですがデルポトロはそうならない。

この一撃必殺のフォアハンドをどんなラリー展開からでも打つことができ、大柄なのにフットワークもよく、かつサーブも速い。

どこから手をつけていいかわからない総合力の高さ+一撃必殺のパワーショットを持っているところがデルポトロの魅力であり、だからこそ全盛期BIG4と幾多の好勝負を繰り広げてきたゆえんでもあります。

このデルポトロに対し私が先述した作戦を忠実に実行したというのがこの日の錦織。

バックハンドクロスで角度をつけ外に追い出し、返ってきたクロスのボールを特に回り込みのフォアDTLで崩すパターン。ランニングフォアを打てないほど厳しいコースを突くことでデルポトロの攻めを封じ込めました。

タイトだった1セット目を何とかもぎ取ると、第2セットはデルポトロに疲れが見えます。

フォアハンドに精度がなくなり、苦しみます。

一方錦織にもUEがやや目立ち、お互いにBPを迎える展開となりますが、錦織がBPでいいプレーを見せ踏ん張ります。

そのままサービスブレークされることなく勝利。高いレベルでの試合をきっちり勝ちきり、4強に進出しました。

これをやってほしいというプレーをそのまま実現していました。

そうすれば勝利の可能性は高いと見ていましたが、プレーレベルを落とさずにそれを最後までやり切りました。

これで今シーズンはガスケに続いて、長らく未勝利だった選手からの初勝利を達成。

現トップ50では、未対戦の選手とソウザ以外からはすべて勝利を挙げたことになりました。

未対戦選手の中に実力者シモンがいることがちょっと驚きですが。そろそろ当たってほしいです。来年のデ杯であるといいんですが。

準決勝のミュラー戦は苦しみました。

ミュラーはベテランですが、左のビッグサーバーとサーブ&ボレーヤーという、現在では希少価値の高いプレースタイルでツアーを戦っています。

私はこの試合、2つの試合が脳裏によみがえりました。

1つは15IWのロペス戦、そしてもう1つは13ウィンブルドンのセッピ戦です。

この試合の2つに共通する負けた原因は何か?それはずばりスライスショットです。

ロペスは現在の上位選手の中では最もミュラーにタイプが近い選手であり、

・左利き

・サーブよい

・ネットプレーができる

・バックハンドでスライスを多用する

といった感じで、主要なプレーにだぶるところが多い。

錦織が難なく切り抜ける可能性もありましたが捕まってしまいました。

そしてもう一つ。実は決勝でのゲーム内容について考えるにあたって重要なのが13ウィンブルドンセッピ戦です。

この試合、そしてミュラー戦ともに錦織はスライスを多く拾いました。

セッピ戦は錦織のキャリア史上いまだ2度しかないセットカウント2-1から逆転負けした試合です。

なぜ敗れたのか?そのキーとなるのがスライスショットです。

スライスショットはバウンド後の跳ね返りが低く、滑るボールです。

そのため足腰をぐっと落として拾う必要があり、特に芝コートでは滑りやすいサーフェスとの相性に加え、フットワークも難しく、足腰に負担がかかりやすいのです。

錦織はのちにペールにあの全米に敗れるまで、先に2セット取れば必ず5セットマッチで勝っていました。その唯一の取りこぼしとなったこの試合、終盤の錦織は踏ん張りが利かずミスを連発しました。

ミュラー戦ではミュラーの疲れや守備範囲の減少などもあって、タイブレークを取ってから流れを変えることができましたが、決勝ではそうはならなかったということです。

ミュラー戦について少し振り返っておくと、MPでのロブが印象的ですがやはりサーブです。要所の苦しい場面でサーブが来たことでフリーポイントを稼ぐことができました。

これはその前のデルポトロ戦やチリッチ戦の多くの場面に対しても言えることで、今大会サービスブレーク4回で済み、この間のブレークポイントセーブ率は22/26=85%。まるで1stサーブのポイント獲得率みたいです。

しかもこのセーブ内容がエースやサービスポイントによるものが多いこともポイント。

以前ブレークポイントは非対称という話をしたときに、アドサイドの重要性について述べました。

私の印象論ですが(たぶんあってるはず)、このBPでのセーブに大きく貢献したのがアドサイドでのワイドへのフラットサーブです。これが隅にぴたっと決まったことが大きかったです。

決勝のチリッチ戦ですがまずはチリッチを讃えたい。

あれだけのハイレベルなプレーをされてしまえばお手上げです。見事でした。

500の決勝にここまで集中してくるのかというくらい声も出していましたし、勢いを感じました。

対する錦織は2セット目でBPのSPを取りきれないなど、クラッチできませんでした。

終盤さすがにチリッチも落ちてきていたのですが、このパターンで逆転に成功した15ワシントン、15東京の再現とは行きませんでした。

私の勝手な推測ですが、チリッチは対錦織戦の時、序盤から飛ばすタイプのように思います。

特に最初から押し切って勝った14全米決勝をチリッチはいいイメージとして持っていて、それをやってきているように感じます。

実はその対戦以降、すべての対戦でチリッチは1セット目を取っています。5試合連続です(棄権勝ちしたウィンブルドンも一応含む)。

その前は錦織に1セット目を取られることが3試合続き、すべて敗れています。

事実この5試合を振り返ると、評価不能のウィンブルドンを除けば、4試合ともチリッチの1セット目の内容は非常によかった。基本的には1セット目から惰性でプレーして、落ちどころを錦織が仕留めたのが15ワシントン、東京の2試合でした。

15ワシントンSFレビュー

15東京QFレビュー(感想のみ)

その落ちどころがきたのが2セット目5-4のSPでしたが、これは錦織が仕留め損ねました。

すべて錦織の平易なUEで終わってしまいました。組み立てるでもなく、なんということはないラリーのボールでのミスです。

この地点でチリッチは一定確率でミスをする状態でさらにセカンドサーブを連発。BPの3本もすべてラリーになりましたが取れませんでした。

これと似た構造を感じたのが全米ワウリンカ戦。BPのチャンスが来ていることはわかっているけど得点できない。

あの時も疲労でした。だからこそ今回は疲労の影響を考えてみたかったのです。

MPのDFについては直前のタイムバイオレーションを気にしているという意見もありましたが、私は全く気にしていませんでした。むしろ試合後そんな論調が多くてびっくりしています。

私は単純にタイブレークの地点でチリッチが2本セカンドを叩いていずれも決まっていたので、回避するためにいいセカンドを打とうとしてDFしてしまったという風に感じました。

この日の錦織のセカンドサーブは数年前に叩かれていたころのセカンドサーブでした。非常に浅く、甘く入ったボールは逆にチリッチの高い打点の打ち所に行きました。体重を乗せて簡単に強打されました。

今シーズン幾多のピンチを救ってきた深いセカンドサーブが出ず、

・BPでクラッチできない

・平易なストロークでネット(調子悪いとこのパターンが多いように感じます、去年終盤とか)

セカンドサーブが浅く叩かれる

とまるで少し前の錦織を見ているようでした。

何か試合後は錦織の限界論など、500の決勝でGS覇者に負けたというありふれた事実とはかけ離れた議論も出ていますが私は全く心配していません。

いろいろあってのトーナメントです。すべて優勝できるわけではないですし復帰戦ですから上出来です。

大会序盤危ない場面も多数ありながら、年末4位挑戦権を十分に得た状態でパリに入っていますから問題なしです。

私もQFを一つの山としました。今大会の目標はテニスの感覚を取り戻しデルポトロにあわよくば勝利することでした。高いハードルはデルポトロに勝ったからこそ出始めた話。一つ山を越えたからといって勝てるわけではない、そんなにテニスは甘くないです。

パリではラオニッチより1勝多く勝つことがツアーファイナルズ4シード獲得の条件になります。

最もわかりやすい例としては、今回久しぶりに錦織とラオニッチは同じ山にいるので、QFでの直接対決で勝つことです。

ただ錦織の疲労と今のラオニッチの状態では、直接対決が起こる確率はかなり低そう。決着はもう少し前と見ています。

ラオニッチは現在好調のカレノ=ブスタが上がってきた場合(執筆地点では未定でしたが更新現在彼らの試合が始まります)初戦、錦織は体力次第ですがウィーン決勝進出のツォンガと当たる3回戦が山になります。

ポイント差以上にラオニッチ有利です。錦織はこの疲労を抱えた状態で初戦のトロイツキorマナリノ(トロイツキに決まりました)に勝つことは最低条件。さらにいくつかの勝利が必要です。

ただこれもデルポトロに敗れていれば4強が必須条件でした。特にミュラーに勝ったゲームは大きく、疲労はためたとはいえまだチャンスがあります。

パリは面白い大会になりそうです。

・マレーの1位獲得はあるか?

ジョコビッチがインドアで復活できるか?

・レギュラーシーズン4位争い、ラオニッチと錦織の争い

・残り2枠をめぐるファイナル争い

フェデラーが全豪17シードに落ちるかどうか?(現在16番手相当、基本他選手の結果次第)

などです。

例年以上に重たい大会になりそうです。

モンフィスのスキップは残念ですしファイナルが心配されますが、それを補ってなお余りあるほど話題に事欠かない大会です。

水曜に上記の見所についてもう少し触れられたらと思います(願望)。