two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

BIG4に肉薄できるからこそ見えた「明確な差」(2016WTFRR2戦目~SF)

こんばんは。

2016年も年の瀬になってしまいました。

私の方はと言えばほとんど毎日年の瀬状態で、ついにATP公式を1週間以上見ないことも普通になってしまいました(WTF期間中も、です)。

ゴールはまだ遠いですが、少しずつ見えてきています。

一刻も早く自分のことを片付けて、また元の状態に戻したいです。

楽しみにされている方にはたくさんご迷惑をおかけしていますが、あと少しの辛抱です。

さて私もびっくりしているのですが記事がWTFワウリンカ戦で止まっているので、それ以降3試合の錦織を先に振り返ってから、年間振り返りに移っていきます。

まずマレー戦。見事でした。今シーズンのベストマッチの一つと言っていいでしょう。

試合展開としては初戦で勢いを出した錦織と年間1位を狙うマレーのがっぷり四つの攻防でした。

第1セットは錦織がラリーの主導権を握り、チャンスも来ます。

しかしBPでのレベルの高いラリーにこの脱帽です。

BPのボールはGAORA解説にあったように上下スピンコース全部変えながらミスを引き出してるんだが届かないなんというレベルの高さ— twosetdown (@twosetdown) 2016年11月16日

当たり前ですが同じような球種ばかりで打っていたらプロですから返せてしまいます。

どうやってミスを引き出すか?といえば、深いコースに打って跳ね上がりを打たせて返しにくくするか、球種を変えて対応するためのスイングを変えさせることでミスを誘います。

これをBPで難なく彼らはやってのけます。この試合を象徴するにふさわしい一本でした。

タイブレークでは錦織が先行し、6-3とします。

しかし6-5としてからの最後のプレーです。チャンスボールをバッククロスで前で叩き込んだ錦織でしたが、横に大きく切れていくボールに対してマレーがなぜか追い付き(!)そして最も適切なコート奥に返球します。

この最後のボール、もう少し待って走り出しを見てから打ったほうがよかったんでしょうが…文句は言えないでしょう。

マレーの予想、返球力、すべてが噛み合ってのポイントでした。

このあとは両者セットポイントを入れ替えながらのデュース合戦。8-9からのスマッシュは心臓が止まりかけました。

前に落ちたチャンスボールを叩いた錦織でしたが、叩きすぎて大きくワンバウンドした後マレーに拾われ、下がりながらのジャンピングスマッシュ。インドアの暗いコートにデ杯のミスを思い出した人も多かったのではないでしょうか。

結局最後はマレーのミスで錦織がタイブレーク11-9でセットを先取。準決勝進出に向けて大きな1セット獲得です。

ただ驚くべきはこの後でした。ほんのわずか、それを致命傷と呼ぶにはあまりにもわずかな錦織の落ち込みに乗じてマレーが1ゲーム目をブレークします。

驚きました。普通ならばタイトな1セット目を落としこの高いプレー内容。逆転は難しいかに見えますがマレーはいとも簡単にブレークしました。

その後はお互いキープが続きますが、やや疲れが見えてきます。

無理もないです。普通なら2セット終わってもおかしくない1時間20分の第1セットのあとに同じプレーを求めるのは難しい。

しかしここでマレーがとんでもない作戦を出してきました。

途中までじり貧のラリー、ミスもお互い増えてきていたにもかかわらず突然マレーが攻め始めました。

これが体力フレッシュな全豪ならわかるよ、わかるでもこの人、北京から7週で20試合目で無敗なんだよ…— twosetdown (@twosetdown) 2016年11月16日

開いた口が塞がらないとはこのことでした。

何か見てはいけないものを見ているようなそんな感覚でした。

最もこの地点のATPツアーで体力的に厳しいはずの男が、ここで攻める選択をして完璧に実行してくる。

しかし、これが私たちが長年見てきたBIG4そのものでもあります。

2012年、全豪OPQFに進出し、当時QF進出者ではデルポトロと並んで若手の部類にいた錦織。

ツォンガを撃破し、飛ぶ鳥を落とす勢いだった錦織をあっさりと3セットで片づけたのがマレーでした。

それだけではありません、BIG4はこの時ベルディヒフェレール、デルポトロ、錦織という4人に対し失セット1、セット12-1でSFに勝ち上がりました。

そしてそのマレーが当時「BIG4最弱」(この当時のマレーはGS優勝なし、最高2位の時代)という共通認識で、実際この後の準決勝では、ジョコビッチ×マレー、フェデラー×ナダルがそれぞれ4時間50分、3時間40分の熱戦。決勝では歴史に語り継がれる5時間50分の死闘を制してジョコビッチが優勝。

そうです、BIG4はレベルの高いプレーを、2試合続けられる。しかもそのレベルは誰にも到達できないもので、さらにフィジカルも異次元。

そんなテニス史に残る伝説の選手が4人揃っているのが今の時代です。

一方錦織に隙があったとすれば、ドロップショットの多用でした。

アクセントとしてドロップショットを使うことに何ら問題はないですが、精度を欠き、ドロップを打ったポイントではほとんどポイントを獲得することができず、マレーを走らせる以外に効果がありませんでした。

しかもこのドロップショット、有利な場面でコースを散らすために打つのではなく、ラリーの組み立ての途中で苦し紛れに打っているボールが多く、いわゆる「逃げ」の姿勢が垣間見えました。

このドロップミスがブレークされたゲームで出てしまいました。

マレーは徐々にペースアップを図っていましたが、錦織はしっかり食らいついていたと思います。

だからこそドロップショットが目立ってしまいました。

難しいゲームでした。勝てたゲームだったのかもわかりません。

レベルが高いからこそ、なんとでも言えてしまう試合が存在するということはこれまでも言ってきましたが、今回もそんな試合でした。

ペースアップしたマレーから土壇場で1つブレークを返すなど、トップ選手としての錦織のプレーに疑いはありません。

しかし結果は負け。多くを持ち帰ったゲームだと思います。

時間も経って安易な分析になっていますが、おそらくかなりマレーとの試合でやるべきことは陣営も分かってきていると感じました。

15年ごろは「マレー苦手なのでは?」という私の意見でしたが、マレーがやってくる錦織対策を対策し返すことで、錦織がしっかり地力を上げて、最近ではゲームが壊れることがほとんどなくなりました(五輪SFはさすがに疲労を考慮に入れないといけない)。

ただこの試合以上に錦織の現状について考えることになる試合が2つ続きました。

チリッチ戦は1セット目を取ってから大崩れ。この試合は残念ながら私はまだハイライトしか見れていません。映像も持ってないので、確認は不可の状態です。

そしてジョコビッチ戦。この試合は世界の多くの見方が「ジョコビッチのベストゲーム」という解釈でしたが、私は違います。

確かに目の覚めるようなボールをジョコビッチはたくさん打っていました。コースを読まれて叩かれました。

しかし一方で、そんなボールをジョコビッチは簡単にミスしているように見えました。なんでもないボールをネットにかけました。マレーと違い、そこそこの休息もあったはずなのに、です。

事実このスタッツが証明しています。

It took just 66 minutes for @DjokerNole to finish off Nishikori. Will his freshness be a factor when he faces #Murray on Sunday? #ATPFinals pic.twitter.com/BNzSXnqSNz— Tennis TV (@TennisTV) 2016年11月19日

ジョコビッチストローク戦ではほぼウィナーと同数のUEを打っています。14ゲームとゲーム数も少なく、あれだけ試合が淡白だったことを考えるとそこそこ多い数字です。

もちろんレベルの高い試合でできていたことを次の試合もやることが簡単でないのは明らかで、錦織に求めすぎなのかもしれませんが、少なくとも前半戦のジョコビッチと比較すると見劣りする要素もたくさんあったのに、どうしてあそこまでゲームが壊れてしまったのかという気持ちが消えません。

事実これだけの短い試合でありながら錦織がUE23本(DFを抜いた本数)も打っているのがすべてで、この時錦織は攻め全振りの状態にして、リスク度外視でボールを打っているように感じました。

それをジョコビッチはコースを読み切って、カウンターの要領で返し続けることでポイントロスを防ぎ、攻めれる時だけ攻める。やることがはっきりしていました。

なぜコースを読まれたのかはわかりませんが、攻めを全振りにすると悪い癖とかが出て読まれるのかなーなどと思ったのですが、かなり推測の域を抜けません。

とにかくリスクを取らされているのは常に錦織で、サービスポイントを取れなければポイントを取る形が作れない状況、一発に頼るしかない。

さながら年明けの全豪OPを見ているようでした。悪い意味で、逆戻りしました。

ただ今回はこうなってしまったのが疲労の影響なのは否めませんが、今回のジョコビッチであれば意外とじり貧ラリー戦に持ち込んでもそこそこ粘れた(少なくとも今回の結果よりは)ので、結局最後までそれを試すことがほとんどなかったのがとても残念でした。

年末のインタビューでも錦織はジョコビッチが一段飛び抜けている、と一貫して発言していますが、テニスツアーを見ているとそんなことはないと私ははっきり言えます。

今のジョコビッチは残念ながら(原因はいろいろあるでしょうが)、前半戦の誰も手が付けられない状況からは数段落ちているというのが現状です。上海SFアグー戦、パリQFチリッチ戦でもそうでしたが、簡単に後サーブのキープを失敗してセットを落とし、なんでもないラリーからミスします。

こういう抽象論はよくないのですが、王者のオーラ、覇気のようなものが消えてしまっているように思います。

そのジョコビッチに対して、疲労がたまっている錦織がどんな風に攻略していくのか?ジョコビッチのプレーに疑問符が生じ始めた後半戦に入ってから初めての対戦。私はかなり楽しみにしていましたし、事実やり方をうまく考えればチャンスもあったと思っているだけに試合を終えてかなりがっかりしています。

奇しくも全米マレー戦勝利→ワウリンカ戦、そして今回のWTFマレー戦→チリッチ戦と、錦織は1試合フル+1セットまでは頂点に立つことができるいいプレーを続けられても、そのあとガクッと落ち込んでいます。

先ほどBIG4はBIG4同士で2試合高いレベルのプレーを続けられると書きました。

今シーズンを終えて、なおのこと錦織圭のテニスに疑いがなくなった、本当に強くなったと感じる一方で、ここから頂点に立つには、やはり心技体の「体」なのかな、と感じました。

このわずか0.5~1試合の燃料タンクの差が、大きな差です。

では具体的にどうすれば?というと、私はフィジカルとかスポーツ医学に詳しくないのでわかりません。

勝ち上がりの運に恵まれるか、疲労をためないで終盤戦に入れるようにプレーを改造するか。

とにかく、このギャップを埋めないといけません。

デ杯マレー戦から、私は次のようなことを言っています。

2014年に皆さんが描いていた「GSを取る錦織圭」、そのあまりにも高い要求だったものがいよいよ皆さんの前に姿を現したと言っていいでしょう。

チャンスは、必ず来ます。ピーキングを今回のようにしっかり合わせ、割けるところにリソースを割き、そしてGS本番と同じように中1日で試合すれば、フルスロットルでGS取れるプレーが5時間持つということが証明されました。

マスターズはわかりませんが、GSではこれをQFでギア入れ始め~SFトップギア~決勝惰性で行けば取れます。取れるイメージが私は湧きました。

そうです、トップ選手でも信じられないプレーのピークは、たった2~3試合程度しか続かない。

その2試合をどこで使うか。あとはそれだけです。