two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

一つの頂に立った日(プロライターになって思うこと)

Numberは、私の憧れの雑誌だった。

幼少期、いつ最初にそれを読んだのかは忘れた。
ただ何となく記憶に残っているのは、本屋さんに売られていたことと、私の通っていた散髪屋に置いてあったことだ。
それが、私とスポーツ雑誌の最初の出会いだった。

 
今でこそテニスに詳しい人という認知を得ている私だが、5年前までは、いまテニスに対して持っている知識の7割くらいを10個以上のスポーツで持っている、いわゆる雑食系のスポーツ観戦者だった。要するに、地上波テレビで放送されるスポーツはあらゆる競技を見ていたし、必要であればそれ以外の結果も調べていた。

そんな私にとって、例えば「週刊ベースボール」や、「サッカーキング」、「スマッシュ」など、各競技1本に絞った専門誌はもちろん素晴らしい存在であったが、1冊買うだけで世界のスポーツのすべての潮流が分かる「Number」は別格だった。
そしてその筆致。各競技に精通した知識・文章力ともにスペシャリストの人のみが寄稿しているレベルの高さ。読むたびに頷きながら読んだことを覚えている。


こう書くと私のブログ活動はこの結果の足掛かりと思われそうだが、決してそんなことはなかった。
以前の記事にも書いたように、私はスポーツナビブログを始めよう!という文章に惹かれて始めただけで、そんな目標は一切なかった。

 

 


生きているからには大なり小なり夢や目標というものがある。
私はそれを条件から4つのグループに分けている。

①偶発的に起きて、完全に運のみが左右するようなもの
②自分自身が努力すればある程度の努力で叶うもの
③複数人を巻き込んである程度努力すれば叶うもの
④自分自身が努力して到底届くかわからない壮大なもの

①は簡単で、例えば宝くじが当たる、抽選でサイン入りの何かが当たるといったものだ。
あと本当に偶発的にテニス選手に会うとかも含まれるだろう。

②は自分自身の努力で何とかなるので、例えばおもしろ動画を作るとか、作曲するとか、個人でスキルを磨けばなんとかなるが、そこそこ時間と労力が必要なもの。
以前私が目標に書いた形成判断のシステム作成などがここに入る。まああれは結構難しいと思ってるので④かもしれないが。他にはWUG4th全通とかがここに入ってくる(達成済み)。

③は他人を巻き込まないと成立しないもので、例えば動画を作るにしても合作とか、チームでやるものとか、バンド組むとか、その辺が該当する(やりたいんだけどこれは非常に難しい)。

そして④はある意味では「人生の宿願」に該当するもので、ここに「Numberに関わる仕事をする」があった。他にもいろいろあるが、正直これらは全部墓場に持っていくつもりだった。

 

前回のブログの続きの話をしよう。
こういう夢に対する線引きをしている私にとって、物書きの世界に飛び込むことは選択肢の一つだった。自分から進んでNumberなりいろいろな雑誌に売り込みに行く。ブログを始めた当初はそんなことまったく思っていなかったが、年月を経て2016年地点の私の実績なら、それはできたかもしれない。
中途半端にバラ色の景色が見えたからこそ、私は迷った。

でも、やめることにした。そして、普通の道を選ぶことにした。

この時私は自分の夢に関してむしろ足で砂をかけるように、逃げながら今の仕事を選んだ。
私にとって夢を語る場所は終わったのだと。私はいろんな有名人とは違う。一般人だ。自分が一番悔しいことをわかっていながら、私はその可能性を自分自身の手で終わらせた。
誰もがシンデレラストーリーを描けるわけじゃない。それこそ、推したちのように。

 

よく「なぜ推しを推してるのですか」という質問を受けることがある。
色々理由があるのだが私は「好きなことを仕事にできてるから」と答えることが時々ある。
私には、やりたかったけどできなかったことを彼女たちはやっている。それは憎しみでも悔しさでもなく、素直に尊敬の対象なのだ。

 

 

そんな私に奇跡のようなチャンスが回ってきたのがスポナビブログ終了直後だった。

「ここが私の墓場」は、プロライターを諦めるまでの私の負の感情を書き残しておくための記事になるはずだった。しかし、その1を上げてしばらくしたあとに今回の話をもらった。
その2がしばらく上がらなかったのは忙しさもあったが、記事のオチをつけられない状態になったからだった。
その日から、情報かん口令を敷き、近親者にも年明けまで発表せず、秘密裏にこのプロジェクトは進行した。そして、1月15日、プロライター「今田望未」がデビューする運びになった。

 

デビューまでにプロライターの現状と仕事のこれから、公人としての色々を編集の方に教えていただいた。結論としては、やはり今のスタイルのまま行くのがよさそうだということ。ライターは主業にできない。

そして、私の民間人としての立場を守っていただくことになった。

プロフィールから私の個人情報は全く取得できないようになっている。
編集さんからは「個人が分かりにくいと親しみにくくなる、思っている以上に『○○さんの記事だから読む/読まない』はある」と意見もいただいたが、一度身バレしかけた過去もあって最終的に私の意見を尊重していただくことになった。

 

プロライターになっても、私のスタンスは変わっていない。
変わったのは肩書と少々責任が重くなったことくらいだ。

「これからNumberで書く記事はNumberの看板を背負ってますからね、半端なことは書けないですよ」

身震いがした。
しかし気持ちいい響きだった。

 

今まで私は、テニス関連の活動で一切のお金を得てこなかった(ラジオ出演も含む)。

それは私が「公人ではなく、一般人です」「文責は私にありますが、民間人のブログなのでほどほどに」と、最悪趣味だから逃げられる言い訳の材料になっていた。

 

しかしもう逃げられない。Numberと今田望未という屋号を背負った。この仕事を引き受けた地点で正々堂々、これからはテニスと執筆活動に立ち向かっていく覚悟を決めてきた。

その代わり、私は決してたどり着くことができないはずだった「趣味を仕事にする」「好きなことを仕事にする」といいう場所にたどり着いた。

1月15日、私は一つの頂点を迎えた。

だが、ある意味では新しい頂点を目指す旅が始まった日でもある。

twosetdownという名前が消え「今田望未」が日本中の「テニスファンではない読者」に浸透するまでの、長い、長い新章が始まった。

 

 

 

 

最初の一文には仕込みが隠されている。

"Numberは、私の憧れの雑誌「だった」"

憧れの雑誌だったのはこないだまで。
今は、憧れでもなんでもない。
れっきとした「仕事場」になったのだから。