two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

ネットプレーの多用で惜しい試合を落とす(2019ロッテルダムSF)


2019 ABN AMRO WORLD TENNIS TOUNAMENT

SF
[1]Kei Nishikori  2-6 6-4 4-6  Stan Wawrinka

 

 

評価に難しい試合だったというのが率直な感想です。

まず、私は試合後にみなさんの感想を見て、ネットプレーについてどうだったのかという意見がほとんどを占めていたので、ネットプレーに着目してみてみることにしました。
と同時に、以下の本人コメントを別所から得ていました。

錦織圭「相手がうまかった」接戦の末に今季2敗目(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース

錦織は準決勝敗退「ミス多すぎた」、ワウリンカに敗れる ABNアムロ(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

文脈がないので言葉をつぎはぎされている可能性もありますが、ネットプレーのことに対して錦織は「相手がうまかった」と称え、一方で「第1セットのスタンのプレーは良かったが、素晴らしいというほどではなかった」「自分がミスをしすぎたし、アンフォーストエラーがあまりにも多かった。もっといいプレーができたと思う。とにかくミスが多すぎた」と、自分のミスの多さを棚に上げました。

いったいこの試合の敗因はどこにあるのか?本当にネットプレーなのか?これを検証するうえで裏付けとなったのが、前戦のフチョビッチ戦でした。
この試合、錦織のネットポイントwonは12/14と、一見するといい数字のように見えます。
しかし、具体的にどんなポイントだったか見てみるとこういう結果になりました。

0-0 15-15 ボレー成功
0-0 30-30 フォアドロップボレー成功
0-0 40-30 クロスパスで失点
1-0* 30-0 実質抜かれてるがアウト
1-1  30-0 スライスで抜かれようとしたがアウト
3-3 30-30 サーブアンドボレー、返球苦しくネット

0-1 40-40 Deuce2 ネット取ってスマッシュも反撃、その後ラリーでポイント
0-1 40-Ad ネット取るもセカンドボレーまで返されてハイボレーミス
1-2 15-15 バックボレー綺麗に落とす
1-2 40-15 ドロップが浅くなりおびき出され、色々あって失点←おそらくこれ含まれていない
3-2 15-0 浅くなったリターンをドロップ
3-2 40-15 ネットインで浅くなったボールを打ってネットへ、パスミス
4-2 0-0 打ち合いからストレートに打ってネット取る、相手ネット超えず
4-2 30-0 上と同じパターン
5-2 15-0 ワイドサーブ良くてサーブアンドボレー成功
5-2 30-0 テレビ素材エアケイ
5-2 40-0 形作ってドロップボレー

赤太字が失点、そして黒太字はあわや失点というポイントです。実は強引にネットに詰めて、相手のミスを誘うような形で、あわや失点していてもおかしくないポイントがいくつかありました。
実際に試合映像を見てみると分かります。

 

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この連続写真(画質が荒くてすいません)なんかが分かる通り、十分にネットに詰められていません。右側へのケアが十分とは言えません。このポイントは最後の写真の通り、オープンスペースに打たれています。ボールがもう少し軌道が低ければ、ベースラインに落ちて相手のポイントでした。

で、これを先に見た私は「どうせワウリンカ戦でも無理なネットダッシュを試みてパッシングの餌食にあったんだろう」と思って試合を見始めました。上位相手なら(実力、実績がという意味。まだランキングではフチョビッチの方が上)、こんな甘いネットの出方は見逃してくれない。そう思って見た私は驚愕しました。
ワウリンカ戦の錦織のnet points wonは9/25とひどいものでしたが、この25ポイントのうちちゃんとネットに詰められなかったとTSDが判断したポイントはほとんどありませんでした。

 

はい、ここまで見て結論が分かったと思いますが、この試合の錦織のネットポイントの悪さは錦織の悪さというよりワウリンカをまず褒めるべきというものです。
錦織としては、ネットに詰めてやるべきことはやっていたが、それ以上にパッシングが強ければ失点してしまう。そういった心情の表れが「相手がうまかった」と称え、実際考えにくいほどのスタッツの悪さをそこに集約させたということだったのではと思います。
ではネットプレーに利がないとするのならば、どうしてストローク勝負に挑めなかったのか?ということですが、これは試合展開を振り返りながら見ていきましょう。

 

試合開始直後、錦織はいきなり2ブレークを許しますが、この内容はストローク戦での完敗。これまで封じ込めていたワウリンカのバックハンドにやられ、コースの読みあいでも後手を踏みます。

ここで錦織はネットを多用します。しかし、このネットプレーもポイントに結び付けることができません。

結果としては、一度ブレークバックした後さらにブレークされ、1セット目を2-6で落とします。

切り替えた2セット目はわずかにワウリンカが落ちたこともあり、展開が激変。錦織が6-4で取りますが、この頃にはワウリンカの状態はかなり落ちてきました。もう打ち合いに持ち込んでいても勝てたのではないかと思います。

しかし、ファイナルセットでもネットプレーを多用した錦織。一方のワウリンカはサーブでしのぎます。1stサーブの確率を落とさず、錦織にチャンスを与えません。

マッチポイントについては、あのシチュエーションになればワウリンカは十中八九打ってきます。あの場面を作り出してしまったそれまでの100ポイントの方が問題だっただけです。

ファイナルセットを見ているとどっちに転んでもおかしくなかっただけに、そんなに悪くない試合でしたが、勝つには今日は十分ではなかった、といったところでしょうか。

ネットプレーが試合をややこしくしてしまったように思います。もう少し打ち合いを選択していれば結果は違ったのではないでしょうか。

それでもネットプレーを選択した理由は、ネットへの詰め方は間違っていなかったため失点しても変える必要がなかった、ということと、ストローク戦の形成判断を誤ってしまったからではないかと思います。 


ただ、ネットプレーをはなからやめるという考えには反対です。
これはフチョビッチ戦やこれまでの結果が示す通りで、MSの初戦~次戦、GSであれば1週目に対戦するようなレベルの相手には、しっかり高い確率で通用することが分かっているからです。そして、そのような試合には勝つだけでなく時間短縮で勝つという命題もあります。その目標に対してネットプレーを使うことはむしろやってほしいくらいです。

 

この試合、大会から得られたこととしては
・ワウリンカがラリーで支配的になった場合、普通に負ける可能性が高い(上限の高い選手なので仕方ないと言えば仕方ない)
・ワウリンカにはネットプレーは多用しない方がいい、ただしオプションとして持っておく必要がある
・下位選手に対しては試合時間短縮の目的でネットに出るのはあり、ただし見切られた場合はやめた方がいい

こんなところでしょうか。

 

前の記事にも書きましたが、そりゃあ誰だって優勝がいいし、このあたりのラウンドで負けると1勝の重みが大きいので悔しいです。
ただやるべきことはできていたと思います。ワウリンカとGS2回戦までに当たる可能性が減ったんだから(ポイントを得てワウリンカがトップ30に近づくため)ラッキーくらいに思って次の大会に切り替えましょう。

 

上位が楽に勝てていません。おそらくですが2月シリーズの優勝者、まだ一人も当たっていない人いるんじゃないでしょうか。それほど過酷で、戦国時代です。
ドバイ、IWと続いていきます。立ち止まっている場合ではない。重要な試合が続いていきます。