two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

錦織、不振の原因を考える(2019年4月)

ここ2ヶ月間のスランプぶりには衝撃を覚えている方も多いと思います。
ではその原因は何なのか?ということですが、その前に、ここ最近の負け方を振り返ってみましょう。


錦織は安定感のある選手と言われています。これは空想ではなく、2014年上海のソック戦から2017年ブエノスアイレスのドルゴポロフ戦まで、28ヶ月間トップ50以下の選手に負けていなかったことから明らかです。
その後ベルッチにも連敗した後は、あの不振だった2017年ですら、けがをするまでトップ50以下には負けなし。

そんな錦織がフルカシュに連敗。トップ30以下の選手にわずか3ヶ月で5敗。
最近のATPは戦国時代なので、もちろんランキングは以前よりあてにならなくなってきていますが、それにしても納得できる数字ではありません。

そして負け方をもう少し詳しく見ていきます。
フルカシュの連敗はともにフルセット負け。接戦を落としています。
エルベール戦もストレート負けですが、次の記事でまとめるように内容自体は競っていましたが、敗戦。
とにかく最近の負けは、競った場面で力を出し切れずに敗れていることが特徴だと思っています。
そして競った場面で勝っていく、それはトップ10の資質です。
今の錦織には、それがありません。

 


なぜ錦織はトップ10なのか?という質問をよくされます。状況によっていろいろ答えは変わってきますが、その中の一つに「接戦をものにできる力がトップ10、いやそれ以上」と答える時があります。

では接戦をものにできる力とは?となります。
競った場面ではどちらも勝利へのポイント数、距離が同じ。本来であれば勝率は5割に近くなってくるはずです。

しかし実際の数字を見ると、錦織のディサイディングセットの勝率は言うまでもないですし、もっと極端に競った場面(ファイナルタイブレとか)の勝率も皆さんの知っている通りです。
そしてこれは、BIG4なんかにも言えることです。強い選手は軒並みこの傾向があります。

何が他の人と違うのか?こういった場面ではよくメンタルが語られます。
メンタルも一因でしょう。大舞台で、普段通りのプレーをすることは大事です。
しかしそれだけではないと思っています。私の考えは、プレー選択です。

 

試合の終盤戦は試合を戦ってきてのサーブ、ラリーの傾向が出揃ってきている状態です。要するにデータがたまった状態。
データ云々を試合前から語り、対策することもできますが、コートに立てばもう誰の助力も得られない。その状況で信じられるのは自分が試合で受けてきた相手のボールです。その時に適切な選択ができるか。

例えばこんな事例を知っています。去年の全米QFのチリッチ戦、MPでの完璧なリターン。それに対して錦織は「あそこに来ると思った」とコメントしています。
山を張っていたわけではないと思います。錦織は、理由不明ですがワイドサーブを読み、完璧にリターンをした。これはメンタルではなく、れっきとしたプレー選択です。

これはビッグマッチでの例えですが、相手のランキングに関わらず錦織はこれを出しているのだと思います。
ただ、そういったプレーは我々には認識しづらい。なんかよく分からないけど接戦を勝った。そう片付けられてしまうのです。ファンはこれを「劇場」と呼んだりしますが、劇場が起きすぎなんです。普通は同じだけ負ける。そうならない理由がどこかにある。
私はブログ活動で、できる限りポイントプレーを解説するようにしてきました。これは私の信条である「原因は、プレーに還元されるべき」というものに基づいています。
今回のエルベール戦でも0-40でそれが出ました。まずかったプレーについて次の記事で解説する予定です。

そして五輪のモンフィス戦では、なぜモンフィスがDFし、錦織が逆転できたのかを解説しました。全ての試合でできているわけではありませんが、このように勝つ理由/負ける理由がどこかに隠れているはずなのです。あとは観戦者がそれを発見できるかどうか。

残念なことに、日本のテニスファンにはその力がまだ足りていないと思います。スポーツを本気で解析し、考えていくということをアマチュアのファンからやっていかなければいけない。そうでないと、メディアが作り上げた競技と関係のない部分での人気取り。一過性のブームを超えてスポーツ観戦の成熟した文化が定着していくことはないと思います(この辺は話の脱線です)

さて長々と語ってきましたが、要するに今の錦織の不調原因はここです。
適切なプレー選択ができない状況にある。その結果、いつもなら取れている接戦のゲームを簡単に落とす。
これを不調という2文字で片付けることは簡単ですが、もう少し踏み込んでみたいことがあります。

 

似たような不調で片付けられつつあった時期がありました。それが2017年2月です。
南米クレー遠征、結果は失敗に終わり、荒れたコートに対応できず150Pしか加算できずにシリーズを終えました。これが2014年以降けがで離脱するまで唯一トップ50に負けた時期でした(ドルゴポロフはランキングに見合ってなかったとはいえ)。

この時錦織としては珍しいことが起きていました。それが「wooden spoon」です。
wooden spoonとは「決勝で負けた選手に、準決勝で負けた選手に、準々決勝で負けた選手に…」という風に、トーナメントの負けた方を追っていったときに最後にたどり着く選手(チーム)のことです。

2017年リオの錦織は、これに当てはまっていました。
元来錦織はこの「wooden spoon」になりにくい性質を持っています。
なりにくい性質ってどんなんやねんというツッコミが来そうですが、2つ理由があります。

まず最初に、錦織の初戦負けが少ないということです。これはご存知の通り、先ほどまで示してきた「安定感の錦織」にあります。初戦で当たる相手はランキングが低いため、負けることがほとんどありません。

さらに二つ目として、その「安定感の錦織」に勝てる選手は、軒並み調子がいいことが多いです。錦織に勝った選手(特に若手)がその後ブレイクしたりしばらく活躍するというのもよく知られていますが、これはこのためです。錦織を倒すには、それ相応の力がないといけないのです。
逆に言えば、初戦で錦織に勝った選手が次戦負けて、その次の選手も…となるということは、相手ではなく、その基準となる錦織を疑うべきなのです。

要するに、錦織のプレーレベルが著しく下がっているために、なんということはない相手になんということはなく負けてしまい、なのでその選手が次を勝ち上がれない、ということが起きているのです。
普段であればなんとなく劇場で終わっていた試合が、そうならない。だから並の相手に立て続けに負ける。

分かっていると思いますが、私は対戦相手をリスペクトしています。ただあくまでこれまで戦ってきた相手と比較して「並の相手」という言葉を使っています。それぞれの相手を軽視しているわけではありません。よく相手をリスペクトしている言葉として「相手がうまかった」「相手の日だった」と評することがありますが、さすがにそれの連発では済まされないほど負けています。なので、そこは正直に書きました。

そしてマイアミ。ラジョビッチに力なく負けた錦織。その結果、リオの時以来2年ぶりに「wooden spoon」になってしまったのです。(この辺はモンテカルロの中盤で書いたので、ラジョビッチが決勝に行ってあまり説得力がなくなってしまった…)
あの時と同じだ。そう思いました。これはまずい。


ここまでの長い説明を要約したのが、モンテカルロドロー発表後の私のこのツイートでした。

 

さすがに今回のブログは解説が長すぎですが、端的にまとめる時はこういう前提があったことを省略していることがあります。
まずは自分次第。自分のプレーが上がらないと話にならない。私は大会前からそう思っていました。そして、モンテカルロ、悪い予感が的中しました。

 


そして、あの時と同じだと思った理由がもう一つあります。それが手首の違和感です。

今年の手首の問題はドバイから目に見えるようになってきました。試合前に突然テーピングを治すためにトレーナーを呼びました。

2017年は正確にいつから問題が起きたかはわかりませんが、少なくともマイアミでは違和感を出していました。
この原因が南米クレーまでさかのぼるかは微妙なので、ここからは私の推測が入りますが、南米クレーのバウンドが不規則だったために、対応するプレーを強いられた結果手首に負担がかかり、その後悪化していったのでは?という仮説を立てています。

ハイバウンドのサーフェスがあまり向いていないことはこれまでも指摘されていますが、アカプルコ、IWと続くハイバウンドスローハードのサーフェスが手首の面で大幅にマイナスである可能性があるのに加え、南米クレーの選択で一気に悪くしてしまったのではと思っています。

そして今回も手首の問題は続いています。確かに今日練習を再開したとはいえ、モンテカルロに入って練習をあまりしていなかったなど、手首の問題を軸に考えると納得のいく点が多くあります。


さらに私はこんな仮説を立てています。
現在の錦織は、手首の負担により集中を欠き、本来全く別次元の問題であるフットワーク、判断能力などに影響が出て、重要な場面で本来のプレーができていない、それが現在の不調の原因である

普段から勝負強い錦織がwooden spoonになり、明らかに調子を落としている。これに理由がないわけがない。手持ちの情報とこれまでの結果とを照らし合わせていった結果、こんな仮説を立てました。

だからこそ、これまでと同じようなテーピングだったとはいえ私はいきなりツイートをしました。

手首の問題が根本的に解決しない限り、すっきりした勝利は来ない。
こう思っていた私に、この事実は重かった。そして結果はその通りになりました。

 

 

じゃあ今後錦織陣営はどうすればいいのか?という話ですが、はっきり言うとかなり先は暗いです。
というのも、本質的に手首の問題が解決しないと、この悪循環は脱出できないと思っているからです。

正直手首の問題とフットワークが落ちることは何の因果関係もないですし、判断が鈍ることも本来関係ないはずです。

しかし、ストレスなくテニスをすること、というのが実は錦織圭が勝つために最も必要なことなのではないか?というのが最近の私の持論です。
そして、それができない。手首の問題が残り続ければ気になってしまいます。

2度の大けがをして復帰してきている錦織にとって、そして30歳手前のキャリアを考えると最大の敵が長期離脱であることは言うまでもないですし、それを無視してプレーをしてほしいと願うことは無理な願いです。大けがをすることがどれだけ恐怖なことかは本人にしかわかりません。ですから、そこまで求めることはできません。
だからこそ、この悪循環を抜けるためには手首の改善、これしかないと思っています。

とはいえそんな簡単に手首が治るわけではありません。むしろ長く付き合わなければいけないのが手首のけがです。デルポトロの例を見ても分かると思います。
だからこそ正直に言いますが、先が見えないし、とても暗い気持ちなのです。

 

 

ものすごく正直に書きました。が、これまでの結果から分かることで私は意見をまとめたつもりなので意見や批判は受け入れます。ただ本当に、今は先が見えません。2015年後半のような、いつかトンネルを抜けるだろうということも宣言できません。
バルセロナはすぐやってきます。生実況で、ブログで、引き続き今の問題点を解説していきたいと思っています。よろしくお願いいたします。