two-set-down新章

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スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

新デ杯、大量に発生した新たな問題点

こんばんは。

今日は新ルールになって起きた新たな問題点を振り返りながら、改善方法を検討していきたいと思います。

 

・6ラバー決着は少なすぎでは?

 

今回のデ杯ファイナルから、シングルス2ダブルス1の3本2先取ルールに変わりました。
デビスカップは少しずつ時間短縮の方向にルール改正が進んでいましたが、それでもシングルス4ダブルス1の5本3先取ルールだけはずっと変わらないルールでした。

5本3先取のリバースシングルスは、初日の結果が3日目に影響します。特に自国2番手が相手国1番手を削るという要素があったため、勝負に行くなら勝負、相手関係では適度に捨てシングルスも存在しつつ、5試合秩序だって行われているという点がとてもよく機能していました。


ところが今大会は、3ヶ国の予選リーグで各組1位+各組2位のうちよかった2チームがベスト8に進出というルールに変わり、タイの勝敗が決まった後のダブルス、いわゆるデッドラバーが事実上デッドラバーではなくなりました

以前デ杯ファイナルについて解説した記事でも書きましたが、ラバー勝率が最終順位に大きく影響するため、1ラバーすらも落とせない状況なのに、予選リーグでは2つのタイしか試合がないため、全6試合(ラバー)しかないのです。

実際、各組2位のチームの比較を見ると

      ラバー  セット 総合順位
A フラン 3-3   6-7  12
B ロシア 4-2   8-6  7
C アルゼ 3-3   8-6  8
D ベルギ 3-3   7-7  9
E カザフ 3-3   7-7  10
F アメリ 3-3   7-8  11
※ベルギーとカザフスタンはゲーム率で決定

と、たった1ラバー、それどころか1セットが勝敗を分けたことがよくわかると思います。
これはいわゆる「目無し問題」に対応したためで、それ自体はよく理解できるのですが、本当にぎりぎりまでほとんどのチームが「目あり」になってしまったため、一切手が抜けなくなり、2勝してタイを取ったチームですらダブルスで手が抜けないという事情が発生しました。

それを含めても、たった6試合で決まってしまうのはあっという間すぎるし、初戦を落としたチームが挽回することが非常に困難でした。イタリア、クロアチアがこれにあたります。
1試合捨てても確実に3-1で勝つみたいなゲ-ムプランが組めなくなりました。

 


・負担減はどこへ 度重なる連闘策とけが

 

新デ杯ルールの最大のメリットは「1年間に集まる回数と、試合時間が減る」ことによる選手側への負担減と見られていました。以前にルール記事でも解説したように、デ杯で優勝するために必要な拘束日数は4週間から2週間に減り、予選ラウンドに出なくていい年(前年ベスト4orWC)だと1年に1回、1週間だけです。

しかし、その1週間に大きな負担がのしかかる結果となりました。
まず開催時期が問題。例年パリが終われば選手はオフシーズンに入り、NAFとデ杯決勝出場選手という限られた人以外は休暇を取ることができました。10ヶ月間働きっぱなしのテニス選手にとってはつかの間のオフです。1ヶ月バカンス、1ヶ月トレーニング。これでも足りないかもしれません。
それが多くのトップ選手に、11月4週までスケジュールを拘束させる結果となりました。
パリの頃のATPツアーはみんな疲れ切っています。フレッシュな選手はどこにもいません。ある意味けがと隣り合わせになっているこの時期に、さらに1ヶ月シーズンが伸びたことは致命傷で、実際けがが相次ぎました。

分かりやすかったのはカナダです。出場メンバー4人で構成されていたのが、まずラオニッチがけがで欠場。さらにアリアシムがパリで負傷し、メンバーに帯同するも終盤まで使うことができませんでした。
ラオニッチの代わり呼んだシュナーも負傷で結局登場せず、ポスピシルとシャポバロフがひたすら出続けるという深刻な事態に。アメリカ戦でwalkoverを選択することとなり波紋を呼びました。


スペインも優勝したものの、かなりの自転車操業でした。
アグーが父親の葬儀のため緊急離脱することになり、4人に。シングルスをナダルとカレノ=ブスタで回していましたが、カレノ=ブスタが負傷。ロペスがシングルスに出てくる緊急事態。
さらにナダルがダブルスに連闘し、5つのタイでのべ8試合を戦い全て勝利という獅子奮迅の活躍でしたが、これはナダルだからできる芸当で、普通はけがします。並の人間が真似してはいけないやり方です

今回決勝に進んだ2チームがこの状況で、ベスト4のロシアもハチャノフとルブレフの二人でずっと回していましたから、根本的に破綻していると言わざるを得ません。

現実的には、連闘に対して出場制限をかけるようなルール改正をしないと選手が壊れます。これは長続きしないなという感想です。

 

 

・一都市集中開催の弊害、7時間問題

 

これはツイキャスで放送していた初日から私が指摘していた問題なのですが、午前セッションから午後セッションまでの時間が7時間しかないという問題です。

具体的には、午前に行われるセッションが11時開始、午後に行われるセッションが18時開始になっています。
先述の通り目無し問題を解消するために必ず3試合が消化されるルールになっています。そしてダブルスはノーアドではなく、デュースあり、3セット目もマッチタイブレークではなく普通にやるルールです。

ここでテニスを普段から見られているみなさんならもう結論が分かると思います。はい。7時間で3試合が確実に終わるわけがありません。ましてやポイント間が長くなりがちなデ杯でです。

もっと言うと、ダブルスにシングルス2の選手が連闘する場合、適切な休憩時間が設けられたり、第1試合と第2試合の間のお客さんの入れ替え時間/室内清掃時間もこの7時間の中に含まれます。

その結果がイタリア×アメリカの4時決着をもたらしました。

この日の午前セッションではアルゼンチン×ドイツの試合が行われ、ダブルスの試合では3セットともタイブレーク、さらにファイナルセットのタイブレークスコアは20-18という大熱戦に。当然7時間で終わるわけもなく、イタリア×アメリカの試合は遅れて開始します。この試合はタイスコア0勝1敗同士。そしてシングルスを分け合った段階で、実は決勝トーナメントへ向けては目無しになりました。しかし、デ杯チームポイントやタイ勝敗の記録に残るため、ダブルスでは本気でぶつかり合い、そして4時決着となりました。

仮に8時間ずつの16時間かかったとしても午前3時決着になりますから、いかに無謀な時間設定か分かると思います。

一都市で集中的に開催し、試合を詰め込んだ結果選手たちはかなりつらい日程で戦っています。本末転倒と言わざるを得ません。

  

ホーム&アウェーの消失、消えた観客

 

スペイン戦ではない試合では毎試合空席。これが全てです。
ちょうどラグビーワールドカップを観戦した私が感じたこととしては、ラグビーワールドカップを日本に見に来た外国人ファンは、そのまま1ヶ月間滞在し、ひいきのチームの試合を中心に何でも見ながらついでに日本を観光して帰るというスタイルを取っている人が多かったです。
事実、私が見に行った準決勝は各国のファンごとに固まっていて、白(赤)いチームと黒いチームの対戦だったのに、黄色とか緑とかのジャージーを着た人がたくさんいました*1彼らは自国の選手の応援ではなく、ラグビー自体を楽しみに来ているのです

 

デ杯運営側も、そんな風にテニスファンが1週間ずっと滞在して、各国の試合を見るような形に変えていきたいんだろうなあという意図は伝わりました。が、旧デ杯で100年やってきた立場からすると、中立地で他の国の試合をわざわざ見たいか?と言うと、正直うーーーーーーーーーーーーーーーーーんです。(長棒の長さから汲み取ってください)

エルベールが記者会見でコメントしていますが、国歌斉唱で選手の声が聞こえるなんてこれまでは絶対にありえなかったことです

フランス応援団は今回の改革を機に遠征をボイコットしています。また遠隔地の応援団では人が集まらなかったという台所事情も聞いています。
テニス・ナショナリズムとでもいうべき特別な空気感が支配していたこれまでのデ杯会場。それはなくなったという事実が突きつけられた今年のファイナルでした。

 


こういった諸問題が新たに発生し、一方でプラスになった面はほとんどなかったように思います。というか負担減が目的だったはずなのに負担が増えているのだからそれは当然。

マレーは記者会見で「最初から批判するのは間違っている。チャンスをあげるべきでは」というコメントをしています。これ自体は確かに正論なのですが、残念なことに今のままでは来年以降もこの諸問題は解決できないのではと思います

1日に2セッションをやる限りは7時間問題は解消されませんし、このグループ方式を変更する場合、またWG入れ替え戦付近での大きな組織変更が行われ、最後のタイの結果と関係ないランキング順で再度グループを組みなおすような操作が行われます*2結局、抜本的にもう一度見直さない限り厳しいと思います。

 


すでに立ち上がったばかりのATPカップとの統合案や、ファイナルを9月に移設するという案も出てきています。デビスカップ、ATPカップ、レーバーカップが乱立している2019年。いずれは統合の方向に向かうことになるとは思うのですが、ITFとATPが仲悪かったりポイントの配分だったり色々と解決しなければいけない問題が山積していて、10年単位の時間がかかるのかなあと思っています。

 

2週間かけて全米後の9月にファイナルをやるのが現実的なのかなあと。できたばかりですがATPカップとレーバーカップを廃止して、予選ラウンドを1日1セッションにすれば比較的負担も楽。早期敗退ならアジアまで軽く休める。これが私の今のところの考えなのですが、越えなければいけない壁が多すぎる…

 

何よりプレイヤーファーストであってほしいのですが、果たしてうまくいくのか。必要であればファンからも声を上げていく必要があるのではないでしょうか。

*1:余談ですが、そんな人たちがコンビニの前で群がってほとんどの人がビールを飲みながら歌っている様は、多分もう一生見れないんだろうなと思うほど異様な光景でした

*2:実際、2018→2019では新ルールに対応するため、結構がばがばなグループ組み分けが行われています