2019 デビスカップファイナル 感想
本日はデ杯ファイナルの感想です。遅くなって申し訳ありません。
まず日本チームは大善戦と言っていいでしょう。特に優勝候補フランスを追い詰めた死闘は興奮しました。
第1ラバーの内山×ツォンガ戦は力の差が出たゲームになりました。ちょっとどうにかなるような内容ではなかったです。
第2ラバーの西岡×モンフィス戦で事件は起きました。
まず西岡が立ち上がりの悪かったモンフィスからブレーク成功。その後戻されたゲームはもったいなかったですが、1セット目も終始西岡のペースで進んでいたように思います。
モンフィスは試合に入り切れてなかったのか、攻めるとすぐミス、守っていてもたまにミスという形で、ポイントを取る形が作れませんでした。
対して西岡は持ち前のテニスを存分に披露。攻めと守りのメリハリをきっちりつけて、決してつないでいるだけではなく攻めてポイントが取れることも示し、モンフィスに攻めないと勝てないような印象を植え付けることに成功しました。
こうなると西岡です。上位選手でも捕まると自滅していってしまいます。まさに西岡が上位選手に勝つときのお手本のようなゲーム展開でした。
最後はモンフィスも半ば強引に決めに行って試合は一気にワンサイドに傾きました。ストレート勝ちで今年2度目の対トップ10勝利をこの大一番で決めました。
そしてダブルスでは、内山/マクラクランが、たった2日前にNAF優勝を決めたばかりのエルベール/マウーと対戦。絶望的に見えたこのカードでしたが、1セット目のタイブレークを取り、あと一歩まで追い詰めます。
内容はややエルベール/マウーが押しながらも、粘り込んでどちらのセットも可能性がある試合展開でした。
しかしあと1セットが届かず。大金星を逃す形になりました。
次の試合でもそうだったのですが、マクラクランがきつそうでした。ベストなプレーから遠い内容。もともとダブルスのスキルの中ではサーブが一番長所でしたが、それも鳴りを潜めつつあり、ストロークではシングルスもできるフランスペア/セルビアペアに押し負けてしまうため、いいところが出ませんでした。
内山は好調で、ビッグプレーも飛び出していましたが、中国戦に続いて連係ミスが出るなど、紙一重の勝負では痛いミスが日本ペアに出てしまった結果かなと思います。
セルビア戦は3連敗。翌日にツォンガに勝利するクライノビッチがオンファイアー。内山に代わって出た杉田も悪くなかったですが、この日はちょっと手が付けられませんでした。
西岡もジョコビッチ相手に食らいつきましたが、大会初戦だったジョコビッチにペースを掴まれてからは順調に運ばれてしまいました。
惜しかったのはダブルスです。引退試合になる可能性もあったティプサレビッチと盟友トロイツキが奮起。タイの勝敗が決まっていながらも一切手を抜いてくれませんでした。
この日は前日から3試合目の内山、負傷のマクラクランがともに前日からパフォーマンスを落としました。試合順が逆だったら…と思えてなりません。
結果強制降格ルールはなかったので影響はなかったのですが*1決勝トーナメント進出を逃しただけでなく残留争いで後れを取ったショックが隠しきれませんでした…
その他のチームの話題です。
セルビアとフランスのグループA1位決定戦は、セルビアの勝利。日本戦で見せた試合の内容の差がそのまま出たようなタイでした。
モンフィスが不調と判断しペールを投入したフランスでしたが結果を出せませんでした。前年準優勝チームが予選リーグ敗退となりました。
死の組となったグループBはスペインとロシアが勝ち抜け。星を潰しあってグループから1チームしか勝ち上がれないのではと懸念されましたが、クロアチアが戦前の予想通りチリッチを欠いてはきつかった。チョリッチも他のグループなら2勝できたんでしょうが、ハチャノフナダルは相手としてやってないですね…前年覇者がまさかの6ラバー全敗での敗退となりました*2
グループCはチリが思ったより波乱を巻き起こせなかったなという印象です。シュトルフにファイナルセットタイブレークでなんとか勝った以外はすべてストレート負け。
これでラッキーだったのはアルゼンチン。ドイツに0-3ながらもチリにすべてストレート勝ちしたことが効いてタイ1-1、ラバー3-3の国が5つ(!)並んだ中でセット率1位。QFにコマを進めました。
ズベレフ出ないしドイツ厳しいかなと思ったんですが、今期大不振のコールシュライバーが2勝で貢献しました*3
グループDはオーストラリアが力を見せました。デミノー、キリオスが勝利。ダブルスでは棄権負けがあったものの(ベルギーが目無しになってから棄権した?)順当でした。ベルギーはデ杯に強いチームでしたが、ゴファンのシングルス連勝記録が12で止まりました。(この前に負けたのは、あのマレーとの2015決勝の試合までさかのぼる)
コロンビアは力が足りなかったかなと。
グループEは混戦予想でしたが、イギリスが総合力で押し切りました。
初戦のオランダ戦、Griekspoorがいいプレーを見せました。マレーから1stセットタイブレークを取ると、持ち前のビッグサーブを武器に強いテニスを見せます。
正直かなりマレー危ないと思うほど追い込んでいましたが、最後はマレーが底力を見せます。2時間半を超える激闘を制してイギリスに大きな1勝をもたらします。この結果が違えば、初戦を落としていたイギリスは一気にグループ最下位もあったかもしれません。それほど厳しい戦いでした。
グループFは前の記事にもまとめていますが、今大会を象徴するようなグループになりました。カナダが実質2人体制で2連勝しグループ首位で通過を決めました。が、連闘策で台所事情が厳しくなった結果、アメリカ戦の第3ラバーを「unavoidable hindrance」(やむを得ない障害)により途中棄権。さらにアメリカ×イタリアは決勝トーナメント進出の目がなくなったにもかかわらず、目の前のタイ勝利のために試合を行い、深夜4時決着。なんとも後味の悪い結果となりました。
QFからは一戦必勝となり負けられない戦いが続きました。
オーストラリア×カナダはキリオスの代打として今大会初登場となったミルマンが勝利を飾れず。デミノーがシャポバロフに勝ちダブルス決着へ。どちらもダブルスに強い2チームでしたが3タイ連続の連闘策となったポスピシル/シャポバロフに軍配。カナダがベスト4とシード権を獲得しました。
イギリス×ドイツはオランダ戦の代償で温存となってしまったマレーの分、シングルス2名が引っ張ります。ストレート勝ちで準決勝に進み、シード権確保。
ロシア×セルビアはロシアが大接戦を制しました。セルビアはジョコビッチが連闘策でダブルスに出たものの、ファイナルセットタイブレーク8-10で敗れます。
この試合でセルビアの次の試合がなくなったため、ティプサレビッチが現役引退。チーム全員で臨んだ記者会見が実質的な引退会見となりました。
Grab the tissues, this is an emotional one to watch 😢
— Davis Cup by Rakuten Madrid Finals (@DavisCupFinals) November 22, 2019
Hear from @nenadzim after Serbia's loss, describing his team as "The Golden Generation"
Thank you, Team Serbia 🇷🇸#DavisCupMadridFinals pic.twitter.com/jlHhxqTFht
ジモニッチ、ジョコビッチらが言葉に詰まりながらティプサレビッチについて語る引退会見は、今までの引退の仕方とは違った形になり、感動を与えました。
今後もシーズン最後の大会がデ杯ファイナルになる場合、ここを引退試合にする選手は出そうです。
スペイン×アルゼンチンは、ナダルが連闘でスペインの勝利。母国開催となったスペインがホームでの連勝を伸ばします。
準決勝はBIG4を抱えるチーム同士、Nextgenを中心とした若手のチーム同士の対戦となりました。
ロシア×カナダは好調ポスピシルをルブレフが止めましたが、シャポバロフがハチャノフとのエース対決を制してダブルスへ。前日のセルビア戦に続くファイナルセットタイブレークとなりましたが、この日制したのはカナダ。1913年以来106年ぶり(!)のデ杯決勝へコマを進めました。
スペイン×イギリスは協会がマドリードにいる英国人に無料でチケットを配布するという異例の措置がなされました。
🇬🇧 @jamie_murray has got a special message for you following the amazing response to our @DavisCupFinals ticket offer 👏#BackTheBrits 🇬🇧 pic.twitter.com/EauEyq909Z
— LTA (@the_LTA) November 23, 2019
スペインホームの大声援に対抗する形でしたが、やはりアウェーのような空気になりました。
試合はカレノ=ブスタの負傷によりロペスがシングルスに緊急登板。敗れてしまいナダル連闘。しかしそこを勝ち切るのがナダルです。7試合目となったダブルスでも活躍し連勝で決勝へ。
五輪の時もそうでしたが、国がかかった時のナダルは強い。単複同時進行でこなしても一切乱れが出ません。
決勝はスペインとナダル。
この日スペインにはあの男が帰ってきました、バウティスタ=アグーです。
父親の葬儀から明け、再びチームに合流したアグー。この大一番でシングルスに抜擢されました。
一方のカナダも負傷のためここまで1試合も使えていなかったアリアシムを投入。まさに最後の切り札です。
頂上決戦にふさわしい好カードはアグーの勝利。実質的にこれがスペインの優勝を決定づけたと言っていいでしょう。もちろん次の試合ではナダルがシャポバロフを完封。新デ杯の初代王者はスペインに決まりました。
I M P R E S I O N A N T E .
— Roberto BautistaAgut (@BautistaAgut) November 24, 2019
¡¡Vamos Españaaaaa!! 👊🏼🎾🇪🇸 pic.twitter.com/vprqUEgZ4G
今までの形式だと試合が完結するまで3日しかないため、何らかの理由で離脱した後また戻ってくるというケースはありませんでした。この点は新デ杯のいいところなのかもしれません。
ナダル「僕は(今大会)8試合勝ったけれど、このデ杯で決定的な存在だったのはロベルトだと心底思う。彼がやったことは人間離れしている、何と言ったらいいか、彼は僕の今後の人生における模範だ」 https://t.co/vHrcX4FlQM
— 井蛙堂 (@seiadoumogera) November 25, 2019
まさに獅子奮迅の活躍だったナダルは最高の形でシーズンを終えました。
33歳にして世界1位、GS優勝2つ、新デ杯初代王者。
これだけの偉業を成し遂げても、苦境からカムバックしたアグーを模範だと言い切りました。なんという王者のふるまいでしょうか。
ちなみにアグーは翌週、当初の予定通り結婚式を挙げました。おめでとうございます!
Roberto❤️Ana pic.twitter.com/mU8HqajNvc
— Roberto BautistaAgut (@BautistaAgut) November 30, 2019
色々と話題の絶えなかったデ杯ファイナルでしたが、やはりやってみたらやってみたでちゃんと物語がついてきたという印象でした。それでよかったのかどうかは分かりませんが。
前の記事でもまとめましたが、問題点は絶えません。抜本的な改革を再度行わない限り、このデビスカップは破綻するとみています。
皮肉なことに、ATPカップのルールはデビスカップと同じようなものになっています。1月にATPカップが終わった時に、チーム対抗戦全般に関してどんな論調になっているのか。デ杯の未来は明るくないという予想を今の時点で残しておきます。