東京五輪テニスの出場条件について① 錦織はこの状態で大丈夫なのか?
こんにちは。
全豪終了の頃に1日ずつ更新していこうとしっかり温めていた記事だったのですが、緊急性を要したため、今日先にこの記事を上げることになりました。
理由は錦織のニューヨーク欠場です。
ニューヨーク欠場が2週目に入る前=大会2週間前で発表されるということは、デルレイビーチも厳しいでしょう。そうなると復帰はデ杯予選ラウンドか、IW以降にずれ込みます。
デ杯ファイナル行きをかけての予選ラウンドにぶっつけで出ていいのかという問題もあります。今はエクアドル相手に錦織抜きでも勝てる公算が高いチーム、変にややこしくするのを避けるべきという意見も出ると思います。
しかしそうなると気になるのが五輪出場です。エクアドル戦に出るのは前提だったのでは?誰もがそう思っていると思います。
そこで、複数記事にまたがってゆっくり説明していこうと思っていた五輪テニスに関するあれこれの記事を、五輪出場要件の部分だけ先出しすることとなりました。
この記事が多くの方にとって有益であることを願っております。
さて、気になる五輪出場要件をしっかり確認していきます。
昨年秋のデ杯で、昔のルールブックを読んでしまったためにルール変更に気付けず、誤解を招いてしまったことを反省して、今回はルールブックの出典を明らかにしたうえで話を進めます。
まず、参加資格を見ていきます。これがないと絶対に出れないという最低条件です。
これを定義しているのは、ITFリリースのこちらの通知になります。
「Eligibility Rules - Olympic Tennis Event 2020 (January 2019) (PDF) 」
https://event.itftennis.com/media/267450/267450.pdf
※ITF公式HP→五輪のページに飛ぶと、「Fact Sheet & Regulations」というページのところに各種ルールがまとまっています
「東京五輪のテニス競技の出場資格」と題されたこちらのページでは、5つの条件をすべて満たす必要があると書いています。
一部意訳を含みますが、おおむね次のことが書いています。
i)オリンピック憲章41の規定を遵守すること
ii)国内協会およびITFと良好な関係にあること
iii)適格な国を代表する資格があること
iv)男性14歳、女性15歳以上であること
v)デ杯/フェド杯参加回数義務
i)~iii)は、要は普通にしてたら大丈夫です。iv)は浅田真央の五輪出場の時に問題になった年齢制限です。昨日一躍話題となった女子のガウフも15歳になっているので、今回テニスでこのルールで弾かれる選手はいないはずです。
さて、問題のv)デ杯/フェド杯参加回数義務についてです。
こちらについては抜け道も含めて細かい規定があります。
次のいずれかを満たせばいいという条件です。
a)オリンピックサイクルのうちに、デ杯/フェド杯のチームに3回ノミネートされる、そのうち1回は2019年か2020年
b)オリンピックサイクルのうちに、デ杯/フェド杯のチームに2回ノミネートされる、そのうち1回は2019年か2020年
次のカテゴリーに該当する場合にb)が適用される
(I)デ杯/フェド杯に20週の参加がある場合、なおラウンドロビンイベント形式は別々にカウントしてよい
(II)ゾーングループのラウンドロビンイベントで4年または3年戦っている国の場合
まず、a)が基本となる3回出場ルールです。多くの選手がこれを満たすべき条件になります。
「オリンピックサイクル」とは、2016年8月15日~2020年6月8日と定義されています。リオ五輪テニス競技終了翌日~エントリー締切日のようです。
ではb)の2回出場ルールが適用されるのはどんな選手なのか?具体例を見ていきましょう。
(I)はベテラン選手に対する配慮です。20週もデ杯に参加しているような選手は、どれだけ早くても30歳くらいの選手です。(1/27変更追記)参加が条件なので、チームメンバーに選ばれていればOK。試合に出場していなくてもカウントされます。またデ杯ファイナルとゾーン3以下の試合は1週間で複数タイ行われますが、1週間通して同じエントリーということで1回とカウントします。*1
(II)はテニス小国に対する配慮です。
デ杯は旧ルールだとWGならば年間最大4タイ出場することができました。極端な話、1年間全てのタイに出れば(それが五輪前年であれば)一発でクリアできました。
しかしゾーンが低くなると、そもそもラウンドロビンフォーマットなので、年間1回の参加しかできないケースが多いです。そうなると毎年出ないとクリアしにくいため、テニス強国との参加不公平が生じます。そのため、例えばチチパス、アルボットなどのような選手は、出場回数1回免除が適用されます。
v)の条件を満たせなかった選手はどうなるのか?というと、i)~iv)の条件を満たしている場合、救済措置として、2)関連意思決定者「パネル」が裁量権を行使できる とあります。要するにこのパネルのジャッジによって救済できるというがばがばなルールです…
英文原文では「(中略)when taking into consideration special circumstances including, but not limited to, the following:」とあり、これをそのまま訳すと「次に示すような特別な状況の場合、なお次に示す場合だけに限定されないが、(パネルジャッジによる参加決定判断を)考慮される」とあります。
特別な状況の例として考慮されているのは
a)けが/病気 けが/病気の期間を医療機関によって承認、明確に特定される必要がある
b)ニューカマー 途中でランキングを上げてデ杯/フェド杯に出れるようになった選手
c)テニス強国への配慮 同じ国に強い選手がたくさんいて、ランキングの状況からデ杯/フェド杯に呼ばれなかった場合への配慮
d)過去の五輪やデ杯/フェド杯への参加
といったものです。
結局、もしデ杯/フェド杯3回(2回)出場が厳密に守られるなら、様々な選手が様々な理由で五輪出場の機会を失います。こういう自分の都合ではどうにもならないような事情に対して、パネルという判断機関を通すことで、そういった状況をクリアにしてしまおうというルールです。
がばがばなルールなのかなと思ったのですが、調べてみると、wikipedia英語版「2016年リオ五輪テニスの出場枠について」というマニアックなページに行きつきました。ここを見る限り、結構パネルは真剣にジャッジしているように見えます。*2例えばアンダーソンはデ杯出場が0回なので弾いています(そもそもアンダーソンが申請を出したかどうかは不明)
ということで、「錦織は(および他の選手に対しても)けがをしていても2回出場していなければ即出場権をはく奪される」といった言説は根拠がなく、私がルールブックを読んだ限りにおいては、そのような記述は見受けられませんでした。
したがって、3月のデ杯参加は、五輪出場の絶対条件ではありませんが、ITFにいい顔をしていた方がいいのは間違いないので、錦織のスケジュールからもデ杯に出る確率は高いと見ています。
エクアドル戦に出れば、2016入れ替え戦+2020予選ラウンドで2回出場(うち1回五輪当年)となり、2019ファイナルに出るはずだったのにけがしちゃったんですよーその1回分です、ということでパネルへの説明がしやすくなると思います。
おそらくここにさえ出ていれば、ITF/パネルも問題なく通してくれると思います。パネルも鬼ではないし、開催国のスター錦織に出てほしいというある種の便宜は図られると思います。所詮お金儲けだし
後で解説しますが、錦織に対する最大の問題はデ杯回数ではなく、ランキングになるかもしれません。びっくりする数字が出てきます。*3
改めてまとめとして、出場のプロセスとしては
①i)~v)をすべて満たす場合、OK
②i)~iv)を満たせない場合、NG
③i)~iv)を満たし、v)のみ満たせない→パネルがジャッジ、割ときっちりしている
という流れが正しいです。
1/25追記
錦織の状況から、エクアドル戦欠場の可能性があります。
その場合、19年ファイナル+20年エクアドル戦の両方を公傷扱いにすればOKとなります。
1/25現在、2回公傷扱いで過去に五輪に出たケースを確認できていません。
パネルが厳しい目なら、1718年に出れたのに出てないのが悪いんだという論調で許可を下ろさない事も考えられますが、フェデラーがデ杯に1回も出場していないにもかかわらず、早々にd)の貢献枠で出れそうな方向で進んでいるところを見ると、スター選手にはそれ相応の配慮がなされると思います。
ITFもATPとそりが合わないですが、結局スター選手には頭が上がらないのではないかなと思っています。お金儲けのために(しつこい)
なので私としては錦織も大丈夫だと思うという玉虫色の回答しかできないのですが、今の段階ではそれしか言えないですね。