最強の挑戦者を「挑戦者」として迎え撃て!2015バルセロナ決勝レビュー
おはようございます。
当ブログでおはようございますという挨拶はいつぶりでしょうか。珍しく朝からの更新です。
今日は寝不足です。少し遠出したいと思いますが、帰ってくる時間は確定しているので確実に決勝は見ることができます。
私の方は楽しみなイベントが待っていて、思わず心がぱーっとぱーっと晴れやかになっています。
昨日時間がなかったのもあり準決勝レビューのコメントでとんでもないこと書いちゃいましたね。
「フェレール戦展望を含め(いやさすがにフェレールでしょう…)更新したいと思います。」
ただ多くの人がフェレールの快勝を予想したのではないでしょうか。
ドロー解説であったように今大会のフェレールは比較的いいドローでした。唯一脅威だったナダルとの対戦も結果的に避けることができ、ランキングだけで言えば錦織の方がタフなマッチアップが続いていました。
ただイメール戦では大きくもたつく場面もあり、振り返ってみれば予兆がなかったことはないなと感じます。そしてコールシュライバー戦も6ゲーム連続ブレークというぐだぐだな試合をやってしまい、なんとかタイトな2セットをものにしたものの、[11]マイヤー、[5]ロペス、[14]フォニーニ、[3]フェレールと4連勝。ロペスはいいとしてもクレーコーターのマイヤー、フォニーニ、フェレールを相手に現在8セット連続セット獲得中。完全に確変モードに入っています。
アンドゥハルの素晴らしいプレーについては後程解説します。ええ第1セット寝るつもりだったのに全部見ましたよとんでもない試合だったので。
4/23 現地11:00~(日本時間18:00~)
ATP500 Barcelona Open Banc Sabadell
3R
[1]Kei Nishikori 6-2 6-1 [15]Santiago Giraldo
4/24 現地12:30~(日本時間19:30~)
ATP500 Barcelona Open Banc Sabadell
QF
[1]Kei Nishikori 6-2 3-6 6-1 [7]Roberto Bautista-Agut
4/25 現地13:30~(日本時間20:30~)
ATP500 Barcelona Open Banc Sabadell
SF
[1]Kei Nishikori 6-1 6-2 [14]Martin Klizan
まずは錦織戦から振り返っていきましょう。
クリザンは危険な相手。こうレビューでは書きました。
ATP500のSFで簡単な相手というのは存在しません。特に調子がいい時の上限が高い選手に分類されるクリザンとの対戦はランキング以上に危険だと感じていました。
毎回当ブログでは結構危険だと煽ることが多いです。このあとアンドゥハルに関しても危険だという説明をします。
あんまりやりすぎるとオオカミ少年のようになっていけないと思うのですが、ランキングが下位=軽視という流れは多くの方が持っているし、私もドライに考えようとしないとついつい甘くなってしまうので、勝って兜の緒を締めよという言葉があるようにランキングが低い選手の時ほどいろいろコメントを書いてしまいます。
何度も言うようにテニスはハンディキャップなしの真剣勝負。スタート地点では0だからこそ何が起こるかわからないのです。
それこそフェレールに負け予想をした人が少なかったが結果が違ったように、錦織余裕でしょという試合から負けることだって普通にあることなのです。
最近はそういう試合は落とさなくなりましたけどね。本当に素晴らしいことです。
話が脱線しましたが、クリザンの危険なポイントは凶悪なフォアです。昨日も何本か見られ一気に崩し切るようなそんなポイントが見られました。
しかしテニスは総合力で勝つ競技。そのフォアハンドは試合を決定づけるには足りず、その他の要素で錦織が上回るので着実に差がついていきました。
第1セットは好調な滑り出し。息を吸うようにブレークに成功し、4-0とリードします。
この日のリターンは好調。ラリーにつなげると最初の数ゲームはクリザンのバックハンドを意識させるフォアクロスのラリー主体、そのあとは自由自在にコースを打ち分け、ウィナーを量産していきます。
サービスゲームの方はキープできるときはさくっとキープできますが、もたつくと結構もつれるゲームが多かったです。
2-0の15-40という場面は一歩間違えると試合をややこしくしかねない場面でしたが、基本的にピンチでサーブでしのいだ回数が多かったのは錦織の方で、これがBPの獲得率に影響を与えました。
第7ゲームももつれました。5-2にしてもいいかもしれませんが、1ブレークダウンにしますし何よりクリザンもプレーを変えようと努力している時間帯で、載せてしまうと厄介な場面でした。
結果苦しんだ末にキープ成功。ブレークチャンスに至ったゲームは実はお互い2つと同じなのですが、勝負どころで地力の差が出た形になりセットを取りました。
第2セットは第1ゲームが実に18分かかる(セット休憩も含んでいるのでプレー時間はもう少し短い)ゲームになりました。
長いデュースを取り切れず、クリザンを落ち着かせる形になりました。
次のゲームで畳み掛けられると一気に流れが戻されかねない場面でしたが、ここをあっさりとキープし、流れを渡しませんでした。
すると次のゲームからは高いコートカバー力に確実性のある展開力。文句ひとつつけさせやしない完璧なテニスで圧倒。結果4ブレークし自らは6度のブレークピンチをすべて凌ぎ切り完勝しました。
課題を挙げるとするとサーブでしょう。もちろん今のキープ力でも十分ですが、やはり1stの確率は上げてほしい。1stサーブからは安定して80%くらいポイントが取れているだけに例えば10%入りが増えればそれだけでかなりキープ率を上げることができます(計算略)。
しかし昨シーズンクレーコートで見せた異次元のテニスが帰ってきました。
正直その可能性は半々だと思っていました。クレーで息を吹き返す可能性はあっても、その裏にあったのはストロークの正確性。失い始めていた今シーズンの序盤戦とはうって変わって本当にクレーが得意なんだなと感じます。
もともと稀代のストローカーである錦織がクレーが苦手になる理由はありませんでした。
しかし2011年にヒューストンで準優勝するまでパッとした成績が出ず、クレーは苦手なのではという意見も出ていましたが、結果がそれを覆しました。
今まで活躍できていなかった理由はクレーでのディフェンス、加えてフィジカルが追いついていなかったことにあります。
今大会も疲れた顔は見せていますが依然MTOなし。いかに体が強くなったかを実感します。
フェレール勝っただろ、寝るといって第1セット2-0、あるいは3-0の地点で見るのをやめた人も多かったかもしれません。少し詳細に振り返っていきましょう。
第1セット序盤はアンドゥハルのストロークにミスが続き、あっさりとフェレールがブレークします。
お互いに打ちあってもなかなかポイントが取れないアンドゥハルはここで攻めに転じます。第4ゲームでした。
このあたりからストレートへの展開が増えていきます。ポイントはとにかく先に仕掛けること。フェレールを走らせて、ラリーに動きをつける形に。
もちろんフェレールは簡単には崩れないのですが、昨日はアンドゥハルの攻めにキレがありました。守備力が高く下がって受けることもあるフェレールから次々のウィナーを取っていきます。
さながら錦織のクレーのプレーが憑依したかのような、そんな印象さえ受けました。
そしてブレークに成功し追いつくと、4-4から0-40に。フェレールにとっては非常に厳しい場面を迎えます。
ここでフェレールは昨日一番のサービスを次々とアンドゥハルに浴びせ、なんとかしのぎます。そして5-4の0-30まで進み、セット獲得まであと2ポイント。一旦行きかけた流れを引き戻し、動揺が隠せないアンドゥハルがミス2本。流れはフェレールでした。
しかしここからアンドゥハルは攻めます。ここで受けに入ってしまうとフェレールの守備力に我慢しきれなくなりミスしてしまうところでしたが、思い切った攻めが結果を生みキープ成功。さらに次のゲームでブレークに成功し、アンドゥハルのSFSになります。
ここからの20分が試合を分ける展開となりました。
第12ゲーム、2度のセットポイントを迎えながらフェレールがパッシングショットを決めるなど頑張り、粘り強いプレーでアンドゥハルのミスを誘ってブレークに成功。その勢いでタイブレークは突き進み、6-2とフェレールが4SPを迎えます。
ここでアンドゥハルはさらに開き直り、いいプレーを続けます。正直ここで下位選手が1stを落とし、気落ちして2セット目は大差で敗れるのがもっともありうる形です。このタイブレークが試合を決める。そういった場面で上位が取り切り勝つことは本当によく見る光景です。
しかしアンドゥハルは自分で活路を見出します。鋭い攻めから次々とポイントを量産し、なんと2-6から8-6。第11ゲームで取り切れなかったミスを取り戻し第1セットを取りました。
これは本当にすごいことです。あのフェレールを相手に攻めが持続し勝ちきる。並大抵の選手ができることではありません。
この第1セットが大きく効いたのはアンドゥハルのほうではありません。フェレールでした。
アンドゥハルは第1セット中盤~終盤のプレーからは徐々に落ち込んできましたが、それ以上にフェレールの落ち込みがひどく、徐々に差がついていきます。
なんでもないボールでミスするなどフェレールらしからぬプレーもあり、チャンスの場面でリターンミスなどアンドゥハルを助ける場面もありました。
SFMでは勝ちびびりが出たのか、少し攻めが弱くなりフェレールが最後のチャンスを迎えます。
しかしここでもネットインやオンラインのボールなど、最後までアンドゥハルの流れは切れずにアンドゥハルは初のバルセロナ決勝進出となりました。
フェレール相手に攻めきって勝つ。最もないと思っていた形が成立しました。驚きであると同時に本当に危険な存在です。
さて決勝はどうすればいいのか?私なりの見解です。
アンドゥハルはとにかくいいプレーをし続けないと錦織には勝てません。バウティスタ=アグト戦の第2セット以外は誰も勝てないだろと思わせるようなテニス。そういった選手に勝つには隙を作っていくしかありません。
アンドゥハルはフェレール戦同様攻撃的に行くしか手段はありません。序盤はかなり攻めてくる展開になると予想されます。
そこで押し切られると錦織も苦しくなります。この猛攻を受けきればおのずとチャンスはやってくると思います。
幸いアンドゥハルは強力なサーブを持っているわけではありません。リターンからラリー勝負に持ち込むことはそう難しくはありません。
結局、錦織としては相手がだれであろうが自分のテニスを貫くことが大事、これができれば今はどんな相手にだって勝てると思います。
今日の決勝の意味合いについて再確認しておきましょう。
まず、ランキングにおいては5位キープが確定しましたが、マドリードの失効も迫っており、上積みしておいて損は一切ありません。
そしてアンドゥハルのランキングです。私はランキングはテニスには関係ないと思っていますが、66位の選手が500の決勝に上がってくるのは異例中の異例です。
その証拠に今年の過去4回のATP500の決勝カードは
ベルディヒ×バブリンカ
フォニーニ×フェレール
錦織×フェレール
です。昨シーズンマイヤーが46位から500のハンブルグで優勝し、この時の優勝記録が2011年ワシントンのステパネク以来史上2番目に低いランキングの500優勝者(英訳のためもしかすると間違っている可能性あり)となっています。
つまりアンドゥハルがここまで来た地点でも相当奇跡、ですがもちろん油断は禁物です。
アンドゥハルなら行ける!と思って負けたことが実は一度あります。2013年のマドリードQFです。
3回戦でフェデラーを初めて破り、クレーテニスが少しずつ出来上がってきていた錦織。正直当時けがから復帰とはいえ100位を割っていたアンドゥハルが相手というのはラッキードローでした。しかしふたを開けるとプレーに精彩を欠き、いわゆる「山王戦後の湘北」現象が発生しあっさりと敗れました。
ちなみにその後2014全米の2回戦では勝っています(アンドゥハルが試合途中棄権)。通算2勝1敗です。
実は今大会錦織にとって初対戦の相手はいませんでした。
2R…ガバシビリ(前回棄権負け)
3R…ヒラルド(昨年の決勝カード)
QF…バウティスタ=アグト(昨年の2R)
SF…クリザン(昨年全仏で敗戦)
2R、SFは錦織にとってのリベンジマッチ、3R、QFは相手からのリベンジマッチを受ける形になりました。
ランキングや額面通りならアンドゥハルが全米でのリベンジを果たす番です。しかしこの最強の挑戦者を相手に錦織は「挑戦者」であるべきです。
もちろん守るべきものはここのタイトルです。しかし去年と今年は全く別物の大会。第4シードから荒れた大会を何とか締めた2014年とは違い、今年はナダルとの決勝を最初から期待されながらの決勝進出。
2つ繰り返すのではなく、もう一度取りに行く。
シンプルに「格上」だからこそ原点に返って勝ちに行ってほしい試合です。
今日は楽しみです。相手にとって不足はないアンドゥハルです。どんなプレーを見せてくれるのか。しかし最後にはあの相撲の賜杯のような優勝カップを再び掲げ、プールに飛び込む錦織の姿が見たいものです。