two-set-down新章

two-set-down新章

スポーツナビブログ「とらきちの悠々自適生活」 「two-set-down」に続く3代目のブログ。two-set-downのブログの記事の置き場も兼ねる。

ナンバー1からの宿題は持越し、待ってろ全仏!(2015ローマQF)

5/15 現地16:00~(日本時間23:00~)

Masters1000 Roma Internazionali BNL d’Italia

QF

[5]Kei Nishikori 3-6 6-3 1-6 [1]Novak Djokovic

奇しくも最後の対戦はちょうど半年前の11月15日。この時以来の世界NO.1の挑戦は予期しない試合になりました。

まずは最初に当時のレビューです。

この試合、私の評価は第3セットの第1ゲーム、あの場面にありました。ジョコビッチは精彩を欠いていた。その中で錦織は攻める選択を間違えてしまった。

さてこの試合、第3セットを迎えた時にファイナルのこの場面を思い出した人はどれくらいいたでしょうか。私も思い浮かべたうちの一人です。

あの場面、どうして思い返してしまったのだろうと振り返るとある一つのポイントが出てきます。それがナンバー1ジョコビッチが錦織に与えた「宿題」でした。

あのBPでは錦織は攻めすぎました。適切なプレーができなかった。

第3セット、錦織はどんな選択をし、どんなプレーで今回ジョコビッチの「宿題」に答えようとしたか。

その答えはのちに書くとして、少しずつ試合を振り返っていきましょう。

ジョコビッチ、驚きの戦略で開幕

序盤私は目を疑いました。ジョコビッチが果敢にネットプレーを多用した点です。

試合プレビューでジョコビッチの取る戦略、錦織対策法に注目とした私でしたが、まったくこの作戦は頭から抜け落ちていました。

それほどに意表をつかれた戦略。ジョコビッチは比較的ネットプレーはそこまでうまくないという印象があるだけに、ラリーで主導権を取ったらすぐ前に出るようなプレーというのは考えにくかったですが、これが錦織には効いていました。

私はジョコビッチのうまさをこの後の結論でも表現しますが、対応力とプレーオプションの選択にあると思います。

このあとジョコビッチは前に出てくることはありません。最初の3ゲームくらいの話でしたが、この3ゲームで3-0とし、嫌な空気を作り切りました。

錦織のストロークミスに関しては疲労の側面も多かったのですが、このネットプレー選択が簡単なボールを送ってはならないという錦織のメンタル的な部分にダメージを与え、ミスを連発させる結果につながっています。

マレーはマドリードで自分に合った錦織対策を愚直にやり遂げ完勝しました。

一方ジョコビッチは「わざわざネットプレーしなくても…」というところでネットプレーをして、その上で錦織を苦しめています。

この違いです。ジョコビッチにはおそらくまだ数通りの錦織対策があって、それらはまだ日の目を見ていないのです。

このネットプレーを見た時に今日は厳しいと思いました。ところが思わぬ展開になりました。

ジョコビッチ、まさかのミス連発へ

錦織はとにかく先に仕掛けようと攻めました。ミスが多かったもののこのジョコビッチ相手に序盤から攻めていこうという姿勢が見えたのは高く評価できます。

ただこの辺は難しいところで第1セットはウィナー3本に対してUE14本。このあたりの数字がもう少し良ければ第1セットは取れていた可能性すらあるセットでした。

というのもジョコビッチも第1セット、そして第2セットの中盤くらいまではジョコビッチはフィーリングが合っていませんでした。

最初の数ゲームはジョコビッチ有利に進んでいたように思いますが、ジョコビッチのサービスポイントによるものがほとんどで、実際はラリーで錦織が先にミスするからジョコビッチにポイントが行くだけで、少しずつ錦織が取り戻していく過程で試合の流れはわからなくなりました。

第7、第9ゲームに関しては結果的にこの試合を決める場面になりました。チャンスを作りながら簡単なボールで錦織がミス。こういったチャンスを逃したまま1stセットを落としたことで暗雲が立ち込めます。

2ndセットに入り、錦織のサーブが安定していきます。キープに余裕が生まれ、相変わらず調子の上がらないジョコビッチに対して少しずつ試合の主導権を握りつつありました。そして起点となったのは第5ゲームでした。サービスをラブゲームキープ。内容もよく、そろそろ来る、という流れがぷんぷんしていました。

この場面でブレークに成功。神がかり的なショットが入り、動きも俊敏。何を打っても入ってくれるような感覚で次々とジョコビッチの守備を突破。やっと今シーズンに入って初めてとでも言えるほどの何かが乗り移ったかのようなプレーでブレークに成功しました。

ジョコビッチも黙ってはいません。ここで錦織につられてプレーレベルが上がってきます。ここからは最高の試合でした。両者ともミスが減り、厳しいコースへの打ち合い。一球一球に重みがあり見応えがありました。全仏の準決勝と思われても不思議ではないほどの素晴らしいテニスでした。

しかし1stサーブも安定感があり、ストロークでもジョコビッチを打ち破れる錦織が結局オールキープし、第2セットを取ります。

ただ私はこの地点で警戒していました。ジョコビッチのプレーはこの段階ですでに第2セット前半までのジョコビッチとは別人でした。

セットブレークが入ったこの場面でジョコビッチはさらに切り替えてくる。一方の錦織はいい状態に入っている分落ちた後の反動が大きくなる可能性がある。

半年前、行ける!と思ったファイナル第2セット、この時ジョコビッチはまだ眠った状態でした。

第3セット第1ゲームも錦織が攻めたて、BPに。

その後の結果はご存じの通り。そのピンチをしのいだジョコビッチはプレーレベルを戻し、錦織は耐え切れなくなり1ゲームも取れず敗戦しました。

第3セット第1ゲーム、少しずつ上がってきていたジョコビッチに対し、「ここがブレークできなければ試合に負ける」と私は思っていました。相手のSFSやSFMでもないのにです。

そしてその予想は当たりました。第1ゲーム、ややチャンスも作りながらも再びミスが出始めた錦織に対し、そのあとはジョコビッチが畳み掛けました。

ブレークされた後の第5ゲーム、ジョコビッチセカンドサーブのリターンを構えている錦織の表情がアップで映りました。その瞬間に私は負けを悟りました。

この時の錦織の表情は第2セットとは別人。覇気はなくなっていました。

こうなってしまってはどうしようもない。精も根も尽き果てた状態であとは力なく敗戦しました。

結局第3セットにジョコビッチが適切なプレーを心掛けたことが勝因です。

錦織はもっと何かできたかもしれませんが、私はそれを明確に説明できません。じゃあこうすればよかったという戦術は簡単には思いつきません。

むしろこの場面、ジョコビッチにとってみれば第2セットで錦織が神がかったプレーをした。内容でも圧倒された、こういった場面で自分のプレーレベルを上げ、錦織のいいプレーを逆手に取る形で自らを修正し、律していった。

これは技術やメンタルがあってもできないことです。ジョコビッチの修羅場をくぐってきた回数がこのリカバリーを呼び込んだのだと思います。

テニスは経験といいますが、ジョコビッチと錦織に今決定的に違うものがあるとすればここだと思います。

万年3位と揶揄され、それこそフェデラーナダル相手に今日の錦織のような負けを何度も繰り返してきたジョコビッチだからこそ分かるものがあり、具体的にどうというのは分析できませんが自然とこの状況にあった適切なプレーができるのです。

よくこのような戦術を将棋に例えることがあるのですが、押し引きのうまさ。攻めるタイミングと凌ぐタイミングの緩急。こういったあたりがジョコビッチのうまさです。

ただウィナーを量産すればいい、ただ粘って拾っていればいいわけではないのがテニスの難しさ。

第2セットはまさに凌ぐ時間帯だったのに対して自らの現状をしっかりと見据え、第3セットで錦織が落ちてきたのを見逃さず仕留める。

文章にすると簡単ですが、トップ選手同士の試合でこれが冷静に判断でき、プレーに実現できる選手はそういません。

もういいと思うのですが、今日の結論はジョコビッチを褒めるしかないということです。

多くのブロガーさんの見解を見ると「勝てる試合だった」とあります。確かに一つの見方はそうだと思います。現に第2セットはジョコビッチを圧倒していました。

ですがだからといって勝てたのか?というのは微妙なところです。

むしろ体の状況を気にせず強引に突っ込み、試合に入り切れたからこそのあの神がかり的プレーだと思うのです。

他の試合でもそうですが、ここのところ体をかばってか、恐る恐るなのかプレーもつられて散漫になりがちです。

慢性的疲労がたまっていないわけがないのです。MTOなしで今年38試合目。未知の領域に突入しているのです。

そういった中で試合に入り込み、けがの心配さえなければジョコビッチにも勝って行けるということが証明できたのは大きな収穫でした。

結果的には高い集中を持続できず、ジョコビッチの宿題に答えることはできませんでしたが、今シーズンの敗戦で最も前を向いていける敗戦だったと思います。

2大会連続8強以上、個人的に思っていたミッション(ただしマドリード優勝ならローマは問わないつもりでした)を達成し、「save 1500」プロジェクト達成、マドリードの600pもこの2大会で540pとほぼ取り返しここからはボーナスステージ。

苦しいその先に何かが待っている気がしてなりません。

今日の試合をもって「守るべき時間」は終わりました。適切なタイミングであのすべてから解放されたスーパープレーができれば全仏もかなり高いところまで行けると思います。

まずはゆっくりと体を休め、気持ちを切り替えてパリに臨んでほしいですね。

ナダル?試合見てないので分かりませんが非常に残念です…

いろいろありましたがジョコビッチ戦を見るのがやっとの状況なのでこのへんで。