12度目、明確に見えた力の差で「save 1500」プロジェクト達成!(2015マドリードQF)
5/8 現地22:00~(日本時間翌日5:00~)
Masters1000 Madrid Mutua Madrid Open
QF
[4]Kei Nishikori 6-4 6-2 [7]David Ferrer
第1ゲーム、立ち上がりが今大会で最もよくない滑り出しとなりました。平凡なリターンミス、簡単なボールをミス。動きも悪く、GAORAさんの解説でもあったようにエネルギーが感じられない、試合に入り切れていない印象を受けました。ケガなのか?別の理由なのか?不安な気持ちになります。
その流れは断ち切れず、自らのサービスゲームでもフレームショットを含みミス連発。0-2となり、正直負けを覚悟しました。
驚くべきことに全く勝ちのビジョンが見えません。第3ゲームに入っても3度目のフレームショットで30-30。厳しいかと思いました。
ところがこの試合を最初に助けたのはフェレールでした。結果第3ゲームの1ポイント目と30-30からの5ポイント目をDF。
実は最初の2ゲーム、フェレールは何もしてませんでした。錦織の自滅によって落としていただけで、特にフェレールがいいプレーをしていたわけではなく、この場面でフェレール側があまりよくないという部分も見えてきました。
フェレールが2-0としたゲームでDF2本。DF2本もすればブレークされるのは当然で錦織がブレークバックし2-1となります。
錦織に何か変化があったというわけではなく最悪から悪いに変わったあたりでブレーク数で並べたのは大きかったです。結果的にここが一つ目の勝負の分かれ目だったと思います。
正直ここが3ー0なら結果は大きく違ったでしょう。
なぜフェレールはこの有利なカウントで2つもDFしてしまったのか?その理由を知ったのは試合が終わってからでした。
第4ゲームもあまりよくはなかったですが要所でサーブポイント。今日はこのサーブポイントでの獲得がこの後も錦織を助けました。
第5、第6ゲームはお互いにいいところが出てキープ。少しずつレベルが上がってきました。
そして第7ゲーム、錦織の振り回すテニスがはまりました。ロングラリーを取り切ると、BPではフェレールが攻め(ここ重要)、コート外に追い出されたところから錦織が強烈なスライスカット。次のボールを決めようと前に出たフェレールは対応に困りミス。ブレークに成功して初めて錦織が試合をリードします。
大きなポイントでした。錦織の高い守備力が光ったポイントでした。
第8ゲームは40-0からフェレールに攻めたてられます。40-30と嫌なカウントでしたがここで錦織の攻めが勝りキープ成功。5-3となります。
ここで興味深いデータが出ました。こんな図です。
Great graphic! Check out David #Ferrer's ball toss at the moment - all over the place. #MMOPEN15 pic.twitter.com/m2nW3zucd8— TennisTV (@TennisTV) 2015, 5月 8
フェレールのサーブの打点の位置です。すごいですね。同じ高さで打ってるんですね、と言いたくなるのですがこれはそういうデータではありません。フェレールが不調であることを意味しているデータです。
これは知っていないとわからないと思うのですが、フェレールは調子が悪かったり疲れてくるとトスが乱れる=サーブの打点が変わるという傾向があります。
ここまでずれるものかと驚きました。もちろん常に同じ位置からサーブを打っているわけではないのですが、このデータは明確に調子の悪さを表しています。
ちなみにDF4本ですし確率もよくなかったしエースも最終ゲームまでなかったので本当にサーブがよくなかったのだと思います。
第10ゲームはヒヤッとしました。オープニングのチャンスボールミスでブレークされるのを確信したくらいです。こういった場面でもフェレールは元気ですから。
しかし15-40からピンチを救ったのはサーブでした。実質サーブポイント2本で切り抜けるとそのまま素晴らしい攻めを見せて4連続ポイント。辛い内容とはいえもつれずに1stセットをものにしました。
この地点でかなり落ち着けました。ファイナルセットでの対フェレール全勝はいうまでもなく、内容としても少し抜け出しつつある中で取り切れたこと。大きなゲームでした。
第1セットのスタッツを見ると厳しい戦いだったことが分かります。
Set one #MMOPEN15 stats: Kei #Nishikori v David #Ferrer. Watch the second live: http://t.co/kRsZ9udpkC pic.twitter.com/EmWonbsS1V— TennisTV (@TennisTV) 2015, 5月 8
いつもの通り錦織がフェレールを走らせたので走行距離が100mも違っています。
ラリーでも最初の部分を除けば十分に主導権をつかんでいます。
ポイントなのはウィナーとUEのバランスです。
マドリードのスコアラーは全体的にUEを少なく取る傾向があることがここ数日の試合観戦でわかっています。その中でこの比率というのは相当ミスが多かったという証拠です。
錦織はしかしフェレールのウィナー3に対しUE14とストローク戦で(若干自滅はありながらも)ミスを誘い、自らはウィナー9本取って自分のテニスを見せつけました。
第2セットは流れの中で錦織が先行し、15-40とします。ここで早朝の日本テニスファンの目を覚めさせるような強烈なリターンエース!!これで1-0とし、実質勝負ありとなりました。
ところが第2ゲーム、第10ゲームと同じような流れでずるずると行ってしまい落としてしまいます。最後のポイントは錦織も悪くはなかったのですがフェレールのランニングパッシングショットが見事でした。
ただフェレールはこういったポイントがこの場面くらいでしか見られなかったですね。こういしぶとさが持続するのがフェレールの強さであり賞賛されるべきプレーなだけに今日は残念でした。
第3、第4ゲームではお互いにまたミスが続き錦織がブレーク、しかしその直後0-30、セカンドサーブとなります。
ただここでフェレールのリターンがミス。ここから錦織がいいプレーを取り戻してキープ成功。ここで勝負は決まりました。
ここからは錦織劇場でした。いい方の意味です。あとはフェレールをやりたい放題に振り回しリターンエースやウィナーを連発。SFMのために流した第7ゲーム以外は圧倒。見事な勝利で自身5度目のマスターズ4強です。
最終スタッツです。
#MMOPEN15 match stats: Kei #Nishikori v David #Ferrer. http://t.co/HNDINmxRpO #tennis pic.twitter.com/4mAdxKo7GN— TennisTV (@TennisTV) 2015, 5月 8
第2セット専用のスタッツはありませんが、第1セットのスタッツから引き算することで少なくともウィナーとUEのバランスはわかります。錦織がウィナー13UE9、フェレールがウィナー3UE9でした。完全に差をつけました。
最初はフェレールの不調と思って見てました。
今日は他の人のコメントを遮断して見ていたので一回フェレールが不調だと思うとそのバイアスから抜け切れなかったのでもう一度見ながらいろいろ考えました。
確かにフェレールが精彩を欠いていたのは間違いないと思うのですが、他の方のコメントを見たりいろいろ考えていく中で一つの結論に到着しました。
実はこの試合のポイントは今年の全豪にありました。当時のレビューはこちらです。そしてアカプルコのレビューはこちらです。
全豪が終わった後「錦織とフェレールの対等な関係はもう終わった」という声がちらほら聞こえてきました。しかし私はアカプルコの結果を見てもまだまだ対等と思っていました。
しかしこの3試合を総合的に判断すると、錦織とフェレールの力関係は全豪で明確についてしまったのかなあと思います。
(アカプルコ決勝レビューより)
そして興味深かったのはフェレールの戦術です。ミスが少ないのはもちろんですがしっかり攻撃に行く場面もありました。
特にブレークを許してしまった後のリターンゲームのポイントでのオフェンスは驚くべきものでした。
テニスはブレークしたばかりは試合が動いている状況。なんでもそうですがゲームが動いた後というのは比較的動き続けるものです。
今日は試合の終盤がブレーク合戦になっていましたが、お互いにリターナー側がしっかり切り替えてやるべきプレーをやっていた印象があります。
あとはサーブでボディを狙ってくる場面が増えたということです。今日は特に第1セットでフェレールのサーブのコースの打ち分けがはまってブレークポイントを止めることができました。
この当時の私の分析、つまりフェレールは錦織対策がぴたっとはまり、加えて自らの好調もあって勝った試合でした。
錦織の方はインフルエンザもありミス連発。さらにポイントなのはフェレールが攻撃的だったということです。
フェレールはGSを取るために攻撃的な戦術も30歳に入ったあたりから取り入れてきました。
このオフェンスがうまくはまったのがアカプルコです。そして今回。フェレールはセカンドサーブでリターンを強打したりと同じようなことをしてきました。しかしアカプルコ当時よりも調子が悪かったこともありミスに。ストロークも球速、パワー重視のボールが多かったです。実際浅くなると錦織が叩いてくるので仕方ないのですが。
つまりフェレールはゲームプランに攻撃というリスクを取る戦法を強いられているのです。そうでないと錦織に勝てない。守備的に行ってしまえば速いサーフェスもあったとはいえ全豪の時のように一方的にやられる。
アカプルコでフェレールが挑戦者だという趣旨の発言をしたように明確に実力差が出始めているということを感じました。
今日はフェレールが上げきれず、錦織は特に序盤ではひどい内容だったとはいえ結果は6-4、6-2。フェレール得意のクレーでのこの成績がすべてを表しています。錦織圭はフェレールというベンチマークから見てもとんでもない位置に来てしまったということです。
この勝利は簡単なようでした。実際一部を除いて圧倒していました。
しかし内容としては、意味合いとしては大きすぎる勝利です。GSとマスターズでの今季初の4強進出。失効地獄解消プロジェクト「save 1500」プロジェクト達成、レースランキング暫定4位浮上、6位転落のピンチを救う大きな勝利です。
繰り返しますが錦織のベスト8進出はいまだGS3回、マスターズ7回目です。ベスト4はGS1回、マスターズ5回目です。
簡単なことではありません。第4シードとはいえここまでナダルと並んで最高の勝ち上がりです。優勝候補の名に恥じない、そして新クレーキングへの道のりの序章として最高の結果です。
さて次の準決勝はマレーです。今シーズン初めてのBIG4との対戦です。わくわくしないわけがありません。
マレーはグラノジェルス戦、ラオニッチ戦ではそこまでエネルギーを使っていないので疲労は期待できません。純粋にテニスで勝つことが必要です。
マレーのテニスは守備的ですが、うまさがあります。フェレールが「守備的な守備的選手」とするならばマレーは「守備的な攻撃的選手」だと思います。コートの位置取り、カウンターショット、緩急の付け方、どれをとってもラリーの組み立てが一級品の選手です。
ミュンヘンではトリプルヘッダーにも負けずクレー初タイトル。クレーに弱いマレーという表現は一旦取り下げたいと思います。
今大会は疲労の溜まったコールシュライバー、グラノジェルス、けがのあったラオニッチとはいえ自らも疲労がたまる中ゲームメイクのうまさで勝っています。思い切って6割程度の勝率はあると思いますが、もちろん油断は禁物です。
マレーとの前回の対戦は昨年ツアーファイナルズ。その時のレビューですが、錦織がゲームメイクで上回った試合と評しました。
大きな差はありませんでしたし、お互い精彩を欠くプレーがありました。
前回と条件が違うのは
・サーフェスがクレー
・マレーのサーブが速くなっている
ということです。前者はいいとして後者は注目すべきポイントです。
後者は明らかに数字になっています。200km/hを超えるサーブはファイナルの頃はなく、やっとこの錦織戦で復活してきたという状況だったのですが、今は全盛期の210km/hのサーブが打てます。
実は錦織はバルセロナ→マドリードの8試合でサーブ主体の選手に当たっていません。マレーのサーブがここ1か月の実戦では一番速いサーブになる可能性があり、ここは心配な要素です。
ポイントになるのはここでしょう。フェレール戦で見せた高い展開力があればマレーの守備をかいくぐっていくことは可能ですが、そのチャンスを作れなければ意味がありません。相変わらずセカンドサーブはそこまでなので、1stのリターンでもポイントを取る→プレッシャーをかけ2ndへ持ち込むという形が作れば最高でしょう。
フェレール戦同様マレーもリターンのいい選手。1ブレークされても2ブレークされる試合展開を期待したいところです。
もう一つの準決勝のベルディヒ×ナダルは…まあナダルでしょう。クレーだし、全豪よりはよくなってますし。
錦織戦は3時開始予定です。女子の決勝が異様に長くなれば押しますがほぼ予定通り開始と思われます。
1年ぶりのマスターズ決勝進出、現実的なミッションです、こうなったらやってもらいましょう!!